象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

「ミスター•ヴァーティゴ」に見る、ポール•オールターの人生訓とは〜全てを失ってから人生が始まる〜

2019年12月01日 05時45分16秒 | 読書

 オースターの作品は大半は読んでる様なつもりでいたが、この作品は最初だけ読んでやめた様な気がする。多分、”アメリカンファンタジー”という紹介フレーズに拘りすぎたのかも知れない。
 ブログでも、「幻影の書」「ムーンパレス」を紹介したが、オースターにしては異様に感じた。
 彼の作品で毎回強く思うのは、文学作品としての重厚さよりも、物語の濃密さが圧倒してるという事。物語の幾何学と言ったら難しい表現だが、物語に幾重もの特殊な時空が混在する。


 ”空を飛ぶ少年”が空を飛べなくなった時、少年は悪ガキのまま死に絶えるのだろうか?それとも、”空を飛べなくなった”現実を受け止め、したたかに生きていく事を選択するのだろうか?

 ヴァーティゴは何もかもを失い、独りぼっちになるが、人生を悲観する事なく、達観する事なく、過去と現在をありのままを見つめ、生きていく。
 師匠が少年に与えたのは、人として生きていく濁りのない純粋な力であった。

 一人の浮浪児が一人の男に助けられ、限りない努力を通じて幸福を知る。しかし、血の滲む様な努力の末に獲得した幸福は長くは続かず、あっさりとその幸福は逃げていく。

 ”死ぬまで生きた物語”と一言で言えばそれまでだが、受け入れたい様で受け入れたくない様なエンディング。軽くも読めるし、重くも読める。


 タイトルからすると、おとぎ話の様なイメージだが、フィクションとノンフィクションを行ったり来たり、深刻なようで暖かく、重たいようで軽い。
 ほんの少し幸せになりたいだけなのに、様々な不幸を背負う。気がついたら不思議な不幸の連続。笑えそうで笑えない奇妙な人生。

 ”凶悪なまでの幻想性”とまではいかないが、人生の混沌と人間の醜悪を帯びた軽快なファンタジーと言える作品でもある。



4 コメント

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Mr.孤独 (paulkuroneko)
2019-12-03 01:42:59
Mr,ヴァーティゴ。
読んだ事はないのですが、アメリカンファンタジーというよりずっとシリアスな物語みたいですね。
オースターの作品は人生密度の濃いものが多いですが、これも結構考えさせる作品みたいですかね。
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paulさんへ (象が転んだ)
2019-12-03 06:56:22
私の少ししか読んだ事はないのですが。
アメリカンファンタジーとして捉えるとまず裏切られますね。
でも孤独な人生物語としてみれば、しんみり来ますかね。
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文学と孤独 (HooRoo)
2019-12-06 02:58:08
転んだサンのブログはオースターっぽい所があると思ってたからやはり思い込みは半端ないね。

オースターは詩人としても有名でフランス化けしてるから、合理主義のアメリカではいまいち人気が薄いかもしれないのかな👋👋
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文学は孤独 (象が転んだ)
2019-12-06 04:20:51
ユダヤ系のオースターには、ある種の異邦人みたいな所があります。アメリカ人でありながら、アメリカ人ではない。いや、アメリカ人になりたくないという感じですか。
でもそのナイーブな所が日本人に人気があるんですかね。
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