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仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

その窓辺にたたずめば5

2010年07月28日 17時27分56秒 | Weblog
 ミサキは瞼にたった涙が時々頬をつたわり落ちるのを何度もぬぐった。農場で取れた野菜や大きな冷凍庫の中から出てきた肉や、まだ、ピクピクしている魚、二人を歓迎してか、いろんな食材が並んでいた。マーもサンちゃんもキーちゃんも手伝った。ミサキの残したレシピを見ながら、ぺティナイフやシースナイフ、フォールディングナイフ、牛刀、それぞれが愛用のナイフがあるらしくそれらをたくみに操り、とまでいかないが、手分けをして下準備をした。
 前菜、サラダ、スープは、マーが中心になってつくった。ミサキは大きなフライパンの上で肉を焼いた。トマトをぶつし、ソースを作った。食卓に並べるといくぶん豪華な晩餐になった。アキコもマサミも、マリコもそこが共同体であるかことを実感させる動きでテーブルセッティングや飾り付けをした。
 
 準備は整った。

ヒデオの車の音がした。メンバーがそろった。

 キヨミが二階から降りてきて、ヒカルが寝ていることをヒデオに告げた。皆が見える位置に、ルームの前に簡易ベッドが作られた。眠っている新しい仁をキヨミが抱いて、ヒカルをヒデオや仁、マー、マサルで担ぎ上げるようしながら、そのベッドの上まで運んだ。最期に新しい仁をヒカルの上にのせた。皆がテーブルに着いた。
「うまそうだな。」
ヒデオが言った。
「皆、ゴメンね。この前、お別れを言ったばかりなのにまた戻ってきてしまって。」
ミサキがいった。
「何いってるのよ。いつ戻ってきてもいいのよ。」
涙目のミサキにアキコが言った。
「まあまあ、カンパイするか。あっ、カンパイじゃないか。」
「なに言ってるのよ。ヒデオ。」
「いいよ。カンパイで。」
「じゃあ、カンパイだ。」
皆で飲んだ。皆で食べた。マーがぽつりと言った。
「お通夜みたいだな。」
マサルがマーを殴った。
「いいのよ。」
ミサキがいった。
「なんかね、どうしようもなくて、どうしていいわからなくて、ここに「ベース」にきたの。」
「そうね。難しいと思うわ。一人で解決するのは。」
「ヒカル、どうなっちゃたの。」
「事故の後遺症で、心がね。」
「マサルは平気なの。」
ハルがきいた。
「はは、俺は鈍感だからな。」
「違うかも、マサルは何度も死ぬ目を見てるから」
キヨミが言い出した。
「マサルは小さいとき喘息で、何度も救急病院にいったわ。もう少しであっちにいきそうなった。だから、意外と冷静でいられるのかも。」
「結局、鈍感ってことだね。」
ハルがいった。皆が笑った。
「ヒカル起きないのかなあ。」
「睡眠導入剤は飲んでないんでしょ。」
「うん、クスリは今日は飲まなかった。」
「しゅわくす。」
仁が呻いた。
「何だよ。仁。」
久々に仁がニッと笑った。