ミサキがインターフォンを鳴らした。小西さんは十時くらいに来ると言っていた。ミサキは七時になる前にインターフォンのボタンをを押した。返事がなかった。ミサキは鍵を開けた。物音を立てないようにベッドルームに向かった。ベッドルームのドアは開いていた。中を覗き込んだ。その覗き込む顔を覗き込むようなヒカルの視線があった。
「ヒカル、起きてるの。」
「ミサキ、怖いよ。」
「何。」
「怖いよ。」
ミサキはヒカルに駆け寄った。
「どうしたの。」
「怖いよ。」
「何が怖いの。」
「ミサキ、抱いて。」
「ヒカル。」
ミサキは、ベッドにもぐりこみ、ヒカルの後ろから重なるようにヒカルを抱いた。かすかに震えていた。
「何があったの。」
「夢を見たんだ。」
「何の。」
「見ていたんだよ。死んじゃった人の顔。」
「えっ。だって、覚えてないって。事故のことも。はっきりとは。」」
「うん。でも・・・・・。」
ヒカルがミサキのほうに振り向いた。おびえる子供のような顔がミサキを見た。
「ミサキ。」
ヒカルはしがみ付くようにミサキに抱きつき、その胸に顔を埋めた。
「怖いよ。死んじゃうの怖いよ。怖いよ。・・・・・。」
「ヒカル、ヒカル、しっかりして。大丈夫、大丈夫だから、生きてるから・・・。」
ミサキは状況、ヒカルの状況がわからなかった。それでも、何とかしなくてはと思った。ヒカルの顔を離した。疲れきって憔悴した顔があった。
「十時に小西さんが来るって、言ってたけど、止めようか。今日は休んだほうがいいね。」
「怖いよ。怖いよ・・・・。」
涙目のヒカルはつぶやくように繰り返していた。返事はなかった。
「ヒカルー。」
ミサキはヒカルの頭を抱きしめた。
「ヒカル。」
背中を擦りながら、頭をなでながら、なだめるようにヒカルを抱いた。カーテンの端から朝の光が差し込んでいた。眠れぬ夜の反動で、ヒカルは寝息を立てた。
今まで見たことのないヒカルだった。
子供のようで、闇に怯える子供のようだった。
あの団体から、ミサキを助け出してくれた時のヒカルではなかった。
ヒロムをことを許してくれたヒカルではなかった。
ヒデオの仕事について、頑張ってくれたヒカルでもなかった。
ビーエスエイトのベースを弾くヒカルでもなかった。
弱々しく、壊れそうなヒカル。
わからなかった。ミサキには今のヒカルがわからなかった。が、ミサキの腕の中で寝息を立てるヒカル。ヒカルはヒカルだった。
私のヒカル。今度も無理ばっかり、言っちゃったかな。
私のために。私のために。
いつも私を、私の味方のヒカル。
ほんとに無事でよかった。
事故なんて、信じられなかった。
ヒカル、ヒカル。
今度は私が・・・
時間が過ぎていた。
小西さんは一度出社してから、こちらに来ると言っていた。
電話しなきゃ
電話のあるリビングに行こうとした。ヒカルの手がミサキをつかまえた。
「いかないで。」
「小西さんに電話をしてくるから・・・。」
「いかないで、怖い。怖いよ。」
「どこにもいかないわ。リビングで電話をしてくるだけよ。」
ヒカルは手を離さなかった。
「じゃあ、一緒に行こう。今日は無理でしょう。」
「うん。」
そういって、ベッドを出て、手を差し伸べ、ヒカルを起そうとした。ヒカルの両足が床に着き、立ち上がった瞬間、よろめいた。ミサキは両手でヒカルを抱き締め、支えようとした。が、一緒によろめいた。また、ベッドの上に重なった。ヒカルの息が荒かった。
「ね。直ぐ戻るから、ほんとに直ぐ戻るから。ね。」
「うん。」
ヒカルは両手で、顔を隠して、力なく、返事をした。
「ヒカル、起きてるの。」
「ミサキ、怖いよ。」
「何。」
「怖いよ。」
ミサキはヒカルに駆け寄った。
「どうしたの。」
「怖いよ。」
「何が怖いの。」
「ミサキ、抱いて。」
「ヒカル。」
ミサキは、ベッドにもぐりこみ、ヒカルの後ろから重なるようにヒカルを抱いた。かすかに震えていた。
「何があったの。」
「夢を見たんだ。」
「何の。」
「見ていたんだよ。死んじゃった人の顔。」
「えっ。だって、覚えてないって。事故のことも。はっきりとは。」」
「うん。でも・・・・・。」
ヒカルがミサキのほうに振り向いた。おびえる子供のような顔がミサキを見た。
「ミサキ。」
ヒカルはしがみ付くようにミサキに抱きつき、その胸に顔を埋めた。
「怖いよ。死んじゃうの怖いよ。怖いよ。・・・・・。」
「ヒカル、ヒカル、しっかりして。大丈夫、大丈夫だから、生きてるから・・・。」
ミサキは状況、ヒカルの状況がわからなかった。それでも、何とかしなくてはと思った。ヒカルの顔を離した。疲れきって憔悴した顔があった。
「十時に小西さんが来るって、言ってたけど、止めようか。今日は休んだほうがいいね。」
「怖いよ。怖いよ・・・・。」
涙目のヒカルはつぶやくように繰り返していた。返事はなかった。
「ヒカルー。」
ミサキはヒカルの頭を抱きしめた。
「ヒカル。」
背中を擦りながら、頭をなでながら、なだめるようにヒカルを抱いた。カーテンの端から朝の光が差し込んでいた。眠れぬ夜の反動で、ヒカルは寝息を立てた。
今まで見たことのないヒカルだった。
子供のようで、闇に怯える子供のようだった。
あの団体から、ミサキを助け出してくれた時のヒカルではなかった。
ヒロムをことを許してくれたヒカルではなかった。
ヒデオの仕事について、頑張ってくれたヒカルでもなかった。
ビーエスエイトのベースを弾くヒカルでもなかった。
弱々しく、壊れそうなヒカル。
わからなかった。ミサキには今のヒカルがわからなかった。が、ミサキの腕の中で寝息を立てるヒカル。ヒカルはヒカルだった。
私のヒカル。今度も無理ばっかり、言っちゃったかな。
私のために。私のために。
いつも私を、私の味方のヒカル。
ほんとに無事でよかった。
事故なんて、信じられなかった。
ヒカル、ヒカル。
今度は私が・・・
時間が過ぎていた。
小西さんは一度出社してから、こちらに来ると言っていた。
電話しなきゃ
電話のあるリビングに行こうとした。ヒカルの手がミサキをつかまえた。
「いかないで。」
「小西さんに電話をしてくるから・・・。」
「いかないで、怖い。怖いよ。」
「どこにもいかないわ。リビングで電話をしてくるだけよ。」
ヒカルは手を離さなかった。
「じゃあ、一緒に行こう。今日は無理でしょう。」
「うん。」
そういって、ベッドを出て、手を差し伸べ、ヒカルを起そうとした。ヒカルの両足が床に着き、立ち上がった瞬間、よろめいた。ミサキは両手でヒカルを抱き締め、支えようとした。が、一緒によろめいた。また、ベッドの上に重なった。ヒカルの息が荒かった。
「ね。直ぐ戻るから、ほんとに直ぐ戻るから。ね。」
「うん。」
ヒカルは両手で、顔を隠して、力なく、返事をした。