ミサキは母親に電話をした。ヒカルの状態を話し、今日は帰れないといった。まだ、式もあげてないのに、といくぶん攻めるような口調だった。誰に見られるわけでもないのだが、当時はそんなことも気にする時代だった。小西さんにも電話をした。小西さんは、直ぐに心療内科の予約を取った。
その日は一日中、部屋にいた。
そして、眠れぬ夜を送りながら、二人は朝を待った。
次の日。
医師は、じっくりと診察した。問診から始まり、市立病院とおなじような検査をヒカルは受けた。といっても、意識の無い状態での検査と、意識がある状態での検査では違った結果が出てもおかしくない。医師は「心的外傷後ストレス障害」から来るうつ状態と診断した。抗うつ薬とビタミン剤と睡眠導入薬と安定剤といろんな薬が処方された。付き添った小西さんは時計をチラチラ見ていた。
「小西さん、あとは、私がいるから。」
「すみません。じゃあ、お先に。」
二人が心療内科のある雑居ビルを出ようとすると、歩道に変わった服装の団体がいた。それを裂けるようにして車道にでた。タクシーを拾おうとすると、目の前にタクシーが止まり、中なら奈美江が出てきた。
ミサキと目が合った。二人は何かを感じたのか、その視線をしばらくはなさなかった。初対面だった。ミサキが言った。
「降りられます。」
「ええ。」
「すみません。」
ミサキの視線が動くのを見て、立ち止まっていたことに奈美江は気付き、軽く会釈をして歩道に上がった。
「こんなところ何をしているの。上の事務所に入りなさい。」
「飯島様をお迎えしますので。」
「飯島。だれ。」
「はい、名古屋を視察に。」
「東川ではなかったの。」
「東川様は、退会されたそうです。」
「なに。執行部は何をしたいの。」
それには誰も答えなかった。
その会話を背中で聞いていたミサキは、ヒカルをタクシーに乗せてから、振り向いた。雑居ビルの横に連なる看板が目に入った。ヒカルが診察を受けた心療内科の看板の下の「流魂」の文字が瞳の奥に、記憶の中にはっきりと焼きついた。
その日は一日中、部屋にいた。
そして、眠れぬ夜を送りながら、二人は朝を待った。
次の日。
医師は、じっくりと診察した。問診から始まり、市立病院とおなじような検査をヒカルは受けた。といっても、意識の無い状態での検査と、意識がある状態での検査では違った結果が出てもおかしくない。医師は「心的外傷後ストレス障害」から来るうつ状態と診断した。抗うつ薬とビタミン剤と睡眠導入薬と安定剤といろんな薬が処方された。付き添った小西さんは時計をチラチラ見ていた。
「小西さん、あとは、私がいるから。」
「すみません。じゃあ、お先に。」
二人が心療内科のある雑居ビルを出ようとすると、歩道に変わった服装の団体がいた。それを裂けるようにして車道にでた。タクシーを拾おうとすると、目の前にタクシーが止まり、中なら奈美江が出てきた。
ミサキと目が合った。二人は何かを感じたのか、その視線をしばらくはなさなかった。初対面だった。ミサキが言った。
「降りられます。」
「ええ。」
「すみません。」
ミサキの視線が動くのを見て、立ち止まっていたことに奈美江は気付き、軽く会釈をして歩道に上がった。
「こんなところ何をしているの。上の事務所に入りなさい。」
「飯島様をお迎えしますので。」
「飯島。だれ。」
「はい、名古屋を視察に。」
「東川ではなかったの。」
「東川様は、退会されたそうです。」
「なに。執行部は何をしたいの。」
それには誰も答えなかった。
その会話を背中で聞いていたミサキは、ヒカルをタクシーに乗せてから、振り向いた。雑居ビルの横に連なる看板が目に入った。ヒカルが診察を受けた心療内科の看板の下の「流魂」の文字が瞳の奥に、記憶の中にはっきりと焼きついた。