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読書感想「闘う白鳥」

2006-07-01 12:43:11 | 読書感想
バレエ通なら誰でも知ってる、ロシアの大プリマ、マイヤ・プリセツカヤが96年に出した自伝。

プリセツカヤの名前を知ったのは小学生のころ。
ようやく我が家に来たビデオデッキで母親が録画していたのが、彼女のドキュメンタリーだった。インタビューに加えて、「瀕死の白鳥」、「子犬を連れた貴婦人」(ビデオでのタイトルは『子犬を連れた奥さん』)の舞台映像が入った、今考えてみると結構見ごたえのある番組だったような気がする。あのビデオはどこに行ったのだろう?

その時点でプリセツカヤはすでに60過ぎだったが、子供心に凄い人だな、と思った記憶がある。長袖ドレス風の衣装で踊る「子犬」の映像が印象的で理由もわからずドキドキした。

年を経て、なお美しく。同年代のバレリーナ、ダンサーがほとんど引退している中で今でも踊りを続ける姿は凛として美しい。彼女を見ていると自然に背筋が伸びてくる。

でも彼女の半生は、想像するだけで背中を丸めてうずくまってしまいたくなるほど重い。簡潔な文章でつづられたこの自伝、はそれを淡々と書き出している。

ソビエト社会主義共和国連邦という、現実が理論とは全くかけ離れたものだということを見事に証明してしまった国家体制に生まれ、あらゆる規則と搾取、不当な扱いを受けながら、あきらめないで渡り合う日々。
ソ連の中でバレエダンサーという職業は、一応国家補償があったというのは知られているけれど、反面、いかに政府(特に共産党)がダンサー達に暗い影を落としていたのか、よく分かる。
名声を勝ち得ながら、その言動、親戚がアメリカにいるから、等、理不尽な理由で海外公演に行かせてもらえない焦燥感。創作の上演が禁止される不条理などなど。

そんな闘いの日々の一方で、夫シチェドリンとの絆、ようやく赴いた海外公演先での交友の楽しさ。ロバート・ケネディと同じ誕生日だというのも始めて知った。


面白くてあっという間に読んでしまった。
今は2006年。プリセツカヤを苦しめたソ連が崩壊して久しい。
それでもまだ彼女の人生、そして舞踊への闘いの日々は終わらない。
読み終えた後、いつも丸めてしまう背筋を伸ばして外へ飛び出したくなった。
そんな力を与えてくれる本です。

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