とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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「多様体」超入門:現代幾何学が解き明かす「曲がった空間」(朝日カルチャーセンター)

2015年10月11日 16時33分16秒 | 物理学、数学

連休初日の土曜日は朝日カルチャーセンターで数学の講座を受講した。

「多様体」超入門:現代幾何学が解き明かす「曲がった空間」
土曜 15:30-17:30 10/10 1回:(講座詳細

講師について:
松本幸夫(まつもとゆきお)
1944年、埼玉県生まれ。東京大学理学部数学科卒業(1967)、学習院大学教授、東京大学名誉教授。日本数学会弥永賞受賞。
ホームページ: 
http://www.math.gakushuin.ac.jp/Staff/matsumoto_pr.html
インタビューのページ:
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/top/kagakusanpo/matsumoto/matsumoto.html
松本幸夫先生「最終講義」「ご退職記念の会」:
http://www.math.gakushuin.ac.jp/~nobuhiro/mat-finlec/


松本先生の著書はこれまで何冊か読んで紹介させていただいていた。また先月から先生の「トポロジー入門」を読んで今月始めに紹介記事を書かせていただいたばかりでもある。

メールの記録を見ると僕が今回の講座に気が付いたのは9月25日だ。たまたま気が付くことができたわけで、僕がすぐさま申し込みをしたのはごく自然なことだった。

講座が開始する2時間前には新宿に着き、コクーンタワーにある大型書店で理数系書籍探索をして楽しんだ後、カルチャーセンターのある新宿住友ビルへ。コクーンタワーの書店は理数系書籍がとても充実しているから、ふだんアマゾンで気が付かない本が見つかることが多い。


講座は77番教室。顔なじみになっているスタッフの方とエレベーター前でお会いしたのでご挨拶。

「数学の講座なので今日は人数少ないのかもしれませんね。」と僕が言うと、「いえ、そうじゃないのです。この講座には30名ほどの方が申し込んでいらっしゃいますよ。」というご返事だった。

それはすごい。さすが松本先生だ。

先生が朝日カルチャーセンターで講座をされるのは初めてだそうだ。前から2番目の席についてしばらくするうちに、教室はいっぱいになった。これまで受講してきた物理学の講座のときより「強者(つわもの)」が多い感じ。何をもって強者かと聞かれると困ってしまうわけだが、シニアの方の中には定年退職した元大学教授もいらっしゃるかもしれないし、趣味であっても生涯を数学の勉強に捧げてきた方もいらっしゃるかもしれない。年齢層も物理学講座より少し高めで白髪の方が目立つ。女性の受講者は3~4名いた。あと、どうしたわけか小学3年生くらいの男の子がひとり。(後日追記:Twitter友達の@HorizonEternityさんからヒントをいただいて気がついたのだが、この男の子は小2で数検準1級に合格した高橋洋翔君だと確信するようになった。)


スタッフの方による先生の紹介の後、講義が始まった。飄々とした感じで先生がお話を始めると、僕は数学者の森毅先生のことを思い出した。(ちょっと似てるかなと思った。)

講義はWord文書にテキスト入力したものを配布した教材と、教室横のホワイトボード。そして教室前方のスクリーンには数学者の肖像画を映す形で進められた。

大まかな流れを箇条書きすると次のとおり。

- はじめに
現代数学において多様体が重要(中心概念)であること。今回の講座について。ニュートリノは新聞によく登場するが、多様体はほとんど登場しないことなど。

- ユークリッド幾何学(BC 300年、「原論」、第5公準のこと)

- デカルトの幾何学(「方法序説」)

- 微積分の発展(ニュートン、ライプニッツ、ベルヌーイ兄弟、オイラー)

- 非ユークリッド幾何学(ロバチェフスキー、ヤノス・ボーヤイ、ガウス、ポアンカレ)

- ガウスの曲面論(第1基本形式、内在幾何と外在幾何)

- 多様体の概念の誕生(リーマン幾何学:一般次元多様体の概念)

- 多様体の現代的定義(局所座標系、座標変換、多様体の例、ポアンカレ予想、一般相対性理論)

- 20世紀における高次元多様体論の進展(ミルナーによるエキゾチックな球面、スメールにより5次元以上の多様体について「一般化されたポアンカレ予想」が解決されたこと)

- 低次元多様体論へのシフト(サーストンの幾何化予想、幾何化予想の解決、ペレルマンによるポアンカレ予想の解決、4次元多様体論へのゲージ理論の導入(ドナルドソン)など)


「超入門」というわりには現代の多様体論の成果など、数学科の学部生でも理解できない内容が盛り込まれていて刺激的な講義だった。もちろん多様体の概念がどのように出来上がっていったかという点については、初めて「多様体」という用語を聞く人でもわかるように解説されていたのがよかったと思う。先生の著書は読者を常に意識した親切な本であることを知っていた僕は、先生のお話の展開のされ方に納得させられたわけである。


以下、講義の中で印象的だった話題を僕がメモ書きとして残したものを紹介しておこう。

- ユークリッド幾何学が成立した頃、日本は弥生時代だったということ。(これはすごい。)

- ユークリッド幾何学の成立は論証的数学の成立を意味し、数学が「外界」を必要としなくなったこと、数学の定理は永遠の真理であることを意味するようになったこと。

- デカルトの方法序説はユークリッド幾何学に基づき、本当の真理をどのようにして見つけるかについての方法を提示したものであること。

- デカルトが発明した「座標系」は私たちが使うX軸、Y軸のような直交座標系ではなかったこと。

- リーマン幾何学の構想は一般相対論より50年以上前のこと、その構想が実に雄大であったこと。

- リーマンの肖像画(写真?)はおそらく30代の頃である。それにしては貫禄あり過ぎ。

- ペレルマンがフィールズ賞を辞退し、数学もやめてしまったことに対し、松本先生が「もらえるものはもらっておけばよいのに。」と俗っぽい感想をおっしゃっていたこと。

- 7次元のエキゾチック球面と4次元のエキゾチック球面は理論の考え方、出所が異なっていること。

- 各次元によって空間の個性が違うこと、5次元以上はわかりやすく、4次元や3次元の空間が特に難しいこと。でもそれがどうしてだかはわかっていない。

- 多様体は英語でManifold(s)だが、いつ誰が「多様体」という訳語を割り当てたのかはわかっていない。

- 松本先生の著書「多様体の基礎」は松島与三先生がお書きになった教科書「多様体入門」で学ぼうと思っている学生のためにと思って書いた入門書であるということ。


受講者からの質問も活発だった。僕は「学問領域としての微分幾何学、微分位相幾何学、多様体の区別はどのようなものですか?」と質問させていただいたところ、先生からは「多様体論では大きく分けて微分幾何学派と微分位相幾何学派の2つの流儀があります。」というご返事をいただいた。


講義は2時間なのであっという間に終わってしまった。今後、多様体の本は何冊か読むつもりでいるが、今回の講座のことを思い出すだけでモチベーションが維持できそうである。

松本先生、楽しくてわかりやすい講義をありがとうございました!


今回の講座にはいつも物理学講座でご一緒している「朝日カルチャー仲間」はひとりもいなかったので講座の後のオフ会をすることもなく、新宿駅近くの店で夕食をとってから帰宅した。


お知らせ:

松本先生は、今月23日から金曜夕方(2時間を3回)の講座を予定されている。都内近郊にお住まいの方はぜひ受講していただきたい。

現代幾何学入門:多様体とトポロジー
金曜 18:30-20:30 10/23~11/13 3回:(講座詳細)(学生会員はこちら
なおこちらの講座の参考書は「トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫著」だそうである。


関連記事:

トポロジーへの誘い―多様体と次元をめぐって:松本幸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fc45854ef67aafbff51ce9432bd6184c

多様体の基礎: 松本幸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a372a9ed92d55474cdbbb707922dc353

増補新版 4次元のトポロジー:松本幸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/286e47e23e3dc4d1c6596d19c78720e5

トポロジー入門: 松本幸夫
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/bce517a89b400cb9c52f459f41ff195d

現代数学への招待:多様体とは何か:志賀浩二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7aade4e043ef0b93de491bf674c734f3

幾何学〈1〉多様体入門:坪井俊
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3e1ce8cb8a308649bdf0db23a75e29b

曲線と曲面の微分幾何(増補版): 小林昭七著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e741d67cb5480cbddc816c1cb17c1d18

ストッキングを使った極小曲面、最小面積曲面の実験
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3f12c54ce6f853263433c39c8ed7a2b0

幾何学の基礎をなす仮説について:ベルンハルト・リーマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/22be602fe4cee385a9939c0869c511eb

エキゾチックな球面: 野口廣
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b3f1abb0ae2b139d53580261b22b9c87

トポロジカル宇宙(完全版):根上生也著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/246a5c64c600c9c12c303231173ee9e2


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8 コメント

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Unknown (マリを)
2015-10-12 00:58:07
入室して小学生がいることに気づいた時に、自分の目が丸くなるのがわかりました(笑)
未来の数学者ですかね。
強者(うまい表現ですね!)の多さにも驚きましたが。

記事にないもので僕の印象に残ったのは、
非ユークリッド幾何学とくにポアンカレのモデルです。
こうも自分の図形的な感覚を裏切ってくれるものが存在するんだなぁと、衝撃を受けました。

あとは松本先生が「多様体で妻子を養ってきた」というのには笑いました。
返信する
燃え尽きた (アルキメデス)
2015-10-12 09:47:43
とねさん おはようございます

藤原正彦さんは

ワイルズも ペレイマンも燃え尽きたんだ
とエッセイに書いてますね

ところでペレイマンのポアンカレ予想解決に

物理が使われたと書いてあったの見たのですが

?です
返信する
マリをさん、アルキメデス (とね)
2015-10-12 15:02:52
マリをさん
こんにちは。
そうそう、ポアンカレモデルはすごいと思いましたね。ああいう図形を思いつくということに「非凡さ」を思いました。

アルキメデスさん
ペレルマンは燃え尽きちゃったのでしょうねぇ。。。
あと「物理が使われた」というのはNHKの番組の中で説明されていました。「数学の概念だけでなく、物理現象を表す法則の中で使われる概念や用語がポアンカレ予想の証明の中で使われている。」ということだそうです。
返信する
マリをさんへ (とね)
2015-10-12 18:44:09
マリをさん
教室にいた小学生はおそらく小2で数検準1級に合格した高橋洋翔君ですね。
返信する
小2で数検準1級 (マリを)
2015-10-12 22:23:52
あー彼ですね。いやー驚きました。
返信する
なるほど (アルキメデス)
2015-10-13 21:37:29
つまり物理で使われる
または物理で発展した数学ということですね

ありがとうございます
返信する
準備中 (平成の新聞少年)
2015-12-18 14:50:17
高橋君は、現在1級を目指して準備中だそうですが、何十年か後には、カルチャーセンターで講義していそうな気がしますね。
返信する
Re: 準備中 (とね)
2015-12-18 14:55:08
平成の新聞少年さんへ
同感です。高橋洋翔君このままいけば優秀な数学者になり、定年退職後にはきっと市民向けの講座もしていることでしょう。
返信する

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