とね日記

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発売情報:感染症の数理モデル(増補版):稲葉寿

2021年01月17日 15時00分00秒 | 物理学、数学
感染症の数理モデル(増補版):稲葉寿

内容紹介:
本書は、感染症疫学における数理モデルの先駆的研究を行ってきた執筆者陣により、斯学の基本的な考え方から最近の発展までを具体的な事例を取り上げながら丁寧に解説・紹介した本邦初の成書であり、感染症の理論・予防・治療における数理モデルの利用に関心をもつ学生・研究者にとって必携の書である。なお、増補にあたっては、COVID‐19に関する一章を新たに設け、各章には最近の進展・動向を補足している。

2020年12月15日刊行、342ページ。

著者について:
稲葉寿[イナバヒサシ]: HP: https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~inaba/index.html
1957年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。1982年京都大学理学部数学系卒。1982~96年厚生省人口問題研究所勤務。1989年オランダ国立ライデン大学Ph.D.現在、東京大学大学院数理科学研究科教授。


新型コロナウィルスの感染拡大は、今後どのように推移していくのだろうか?誰もが気にしている関心ごとだ。政府の対策が遅すぎる、第1波のときと比べて緊急事態宣言による規制が不十分だ、コロナに慣れてしまって国民の気持ちも緩み切っている。思いは人それぞれだろう。何も手を打たなければ、感染は大ざっぱには指数関数的(ネズミ算式)に増えていくのだが、採用する対策によって感染の拡大や収束のカーブは違ってくる。だから、より正確に計算して予測を立てる必要があるのだ。

第3波を迎えている今、取りうる対策によって今後の東京都の日毎の感染者数はこのように推移すると予想されている。



政府の解除目安では「50日で元通り」 西浦教授、東京都基準で試算
https://mainichi.jp/articles/20210113/k00/00m/040/330000c




このシミュレーションを行ったのがこの分野の第一人者である西浦博(北大教授)である。「8割おじさん」というニックネームがつけられ、新型コロナが国内で発生して以来、誰もが知っている有名人になった。数学的裏付けがある感染シミュレーションが今後の感染推移を予測するうえで重要なことは言うまでもない。

本書は、西浦教授がこのシミュレーションを行うためによりどころとしている計算モデル(シーケンシャルSEIRモデル)、計算方法を解説した数学書の中でいちばんお勧めする本である。本書で解説されている計算モデル(感染シミュレーションのための微分方程式)を解くのに「富岳」などのスパコンは不要で、事務用パソコンがあればじゅうぶんだ。旧版は新型コロナ拡大によって人気があがり絶版となったが、先月新型コロナに関する記述を追記する形で増補版として刊行された。コロナ禍において、本書のように重要な本は絶版にしてはならない。

Amazonからも発売されたが今日現在は在庫切れとなり、高値で取引されている。入手したい方は書店もしくは、次のネット書店で購入されるとよいだろう。それぞれ本書のページが開くようにリンクを貼っておいた。

KINOKUNIYA Web Store: リンクを開く
Yahoo!ショッピング: リンクを開く
Rakutenブックス: リンクを開く
honto: リンクを開く
e-hon: リンクを開く

章立ては次のとおりである。

1 基本再生産数R0と閾値原理
2 感染症数理モデルのデータサイエンス
3 常微分方程式と体内感染ダイナミクス
4 時間遅れのあるモデル
5 感染症の空間的な伝播を記述する数理モデル
6 感染症の確率モデルと複雑ネットワーク
7 エイズと性感染症の数理モデル
8 季節変動と感染症動態
9 病原体の進化と疫学動態
10 COVID‐19の数理モデル解析

また、著者の稲葉教授は次の寄稿をされている。

【論説空間】コロナ禍で理解は進むか 感染症数理モデルの活用(稲葉寿教授による寄稿)
https://www.todaishimbun.org/sequentialseirmodel20200629/

微分方程式と感染症数理疫学(稲葉 寿)
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~inaba/inaba_science_2008.pdf

感染症の数理
東京大学大学院数理科学研究科 稲葉 寿
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~inaba/inaba2009_actuary_manuscript.pdf


一般の人が読めるものとしては、現在この本が注目されている。2019年の暮れから1年間の西浦先生の奮闘が時系列で書かれている。

理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!」(Kindle版)(紹介記事


【特別寄稿】「8割おじさん」の数理モデルとその根拠---西浦博・北大教授
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39.php

次のサイトからリンクしているページでは、西浦教授による解説を読めるほか、感染シミュレーションを行うことができる。

感染症数理モデル;Sequential SEIR model
https://biostat-hokudai.jp/seirmodel/

SEIR モデル シミュレータ
https://covid19-seir-model.netlify.app/

新型コロナウイルス各国施策分析レポート4:SEIRモデルによる各国施策の分析
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20200424.html

Shiny で SEIR モデルを表示する
https://qiita.com/ekzemplaro/items/51b96c09c9374f69c2b7

感染症流行を予測する数理モデル SIR|微分方程式によるシミュレーション
(SIRモデルはシーケンシャルSEIRモデルよりも初歩的、単純なモデルで1927年、生化学者ケルマック(1898-1970)と軍医・疫学者マッケンドリック(1876-1943)によって発表された。)
https://club.informatix.co.jp/?p=140


感染症の数理モデルに関しては、次の本も先月発売され、手ごろな価格なのでお勧めだ。第1波のパンデミック・シミュレーションをして解説している。

新型コロナウイルス感染症第一波のパンデミック・シミュレーション~数理モデルからの振り返り:栗田順子」(Kindle版


内容:
2009年、新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)のパンデミックが発生した。前作『パンデミック・シミュレーション』では、すでに遠い過去となった新型インフルエンザ発生前の議論を記録し、危機管理というものを考えてみた。あれから約10年。新型コロナウイルスという新たなパンデミックが発生し、世界中が大混乱に陥っている。今回は、日本の第一波までの状況をふまえ、数理モデルでパンデミックを振り返ってみた。私たちは、過去の経験から何かを学んでいたのだろうか?前回のパンデミックで得た苦い経験を活かすことはできたのだろうか?危機管理というものを今一度考えてみたい方々に、ぜひお読みいただきたい。(目次と詳細、著者情報


新型コロナウィルス、感染シミュレーションという枠にこだわらず、もう少し基礎のレベルで微分方程式による数学モデルを学びたい方には、次の本をお勧めしたい。大学の学部生レベルが読むための教科書だ。第7章の4つめの項で伝染病の数理モデルとしてSIRモデルが解説されている。

微分方程式で数学モデルを作ろう:デヴィッド・バージェス モラグ・ボリー」(専門家による書評みんなの感想


第1章 序論
数学モデルのつくりかた / 人口問題 / モデル化のための枠組み
微分方程式:基礎概念とアイデア、など

第2章 成長と減衰
薬の吸収 / 放射性炭素 / 水の加熱と冷却 / アルコールの吸収と事故危険率
人工腎臓器の数学モデル、など

第3章 変数分離形微分方程式
刺激に対する反応 / ロケットの飛行 / トリチェリの法則 /
抑制された成長モデル / 技術革新の普及、など

第4章 線型1階微分方程式
広告に対する売り上げ反応 / 美術品の贋作 / 新古典派の経済成長
電気回路 / 五大湖の汚染、など

第5章 線型2階微分方程式
力学的振動 / 個人の消費行動 / 糖尿病の検査 / 電気回路網、など

第6章 非線型2階微分方程式
惑星の運動 / 化学反応速度論、など

第7章 微分方程式系
種の相互作用 / 競争種:生存闘争 / 伝染病 / 軍備競争の力学
ばね質点系、など


感染シミュレーションに使われる数学モデルに、微分方程式の理解は必須である。微分積分から微分方程式まで速習したい方には、大村平先生による次の本をお勧めする。特に緑色の2冊は素晴らしい入門書である。

改訂版 微積分のはなし(上):大村平」(紹介記事
改訂版 微積分のはなし(下):大村平」(紹介記事
今日から使える微積分 普及版(ブルーバックス):大村平」(Kindle版)(詳細
  


関連動画:

北大・西浦教授「8割接触削減」評価の根拠について説明(2020年4月24日)
YouTubeで再生


緊急勉強会 北大の西浦教授に実効再生産数(Rt)を使ったコロナ対策について聞く(2020年5月12日)
YouTubeで再生



関連記事:

理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b26b3446c29528287d494b5ddd9e9c4d


メルマガを書いています。(目次一覧


 

 


感染症の数理モデル(増補版):稲葉寿


1 基本再生産数R0と閾値原理
2 感染症数理モデルのデータサイエンス
3 常微分方程式と体内感染ダイナミクス
4 時間遅れのあるモデル
5 感染症の空間的な伝播を記述する数理モデル
6 感染症の確率モデルと複雑ネットワーク
7 エイズと性感染症の数理モデル
8 季節変動と感染症動態
9 病原体の進化と疫学動態
10 COVID‐19の数理モデル解析

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2 コメント

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fx-CG50 でSIRモデルをグラフ化 (やす(Krtyski))
2021-02-08 22:16:26
とねさん

昨年の5月、感染拡大予防策の1つとして、人と人の接触を80%抑制しましょう、という話をする時、1人の外出を80%抑制すれば良いというマスコミの話に、"それは嘘やろ"と思ったものです。1人の行動を55%抑制すれば、2人が出会う確率は、0.45 x 0.45 = 0.2 になり、結果駅に80%抑制となるという単純な話な筈だ、などと思ったものです。

実は、私の本来の専門の一部として勉強したことのある分子反応論の分子の運動は、感染を広げる人の動きに置き換えられると思って、定式化を試みたのが最初で、その後SIRモデルというものがあることを知りました。

分子反応論による定式化の結果が、SIRモデルと同じ結果になることを確認して、チョット嬉しい気分になったものです。

で、SIRモデルのグラフを fx-CG50 で描いてみたくなったので、Casio Basic プログラムを作って紹介した記事があるので、紹介させてください。

"グラフ関数電卓で観る感染症数理モデル"
https://egadget.blog.fc2.com/blog-entry-721.html

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Re: fx-CG50 でSIRモデルをグラフ化 (とね)
2021-02-15 23:59:22
やすさんへ

このところずっと激務が続き、いただいたコメントに気がつくのがとても遅れてしまっています。

ブログ記事を読ませていただきました。萌えました!グラフ電卓なのは先刻承知ですが、時節柄にぴったりの話題で、微分方程式を解かせて視覚化したわけですよね。素晴らしいです。
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