とね日記

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ファインマン物理学 I: 第15章 特殊相対性理論

2009年07月19日 23時28分22秒 | ファインマン物理学

第15章~第17章はアインシュタインの特殊相対性理論についての講義だ。

数式で相対性理論を理解するなんて難しいと思っている人も多いだろうが、これは半分本当で半分ウソである。難しいのは1916年に発表された一般相対性理論のほうであって、1905年発表の特殊相対性理論ならば高校レベルの数学知識さえあればなんとかなるのだ。でも実はこれも半分本当で半分ウソである。特殊相対性理論は「力学」の部分と「電磁気学」の部分が含まれているので、やさしい「力学」の部分だけならば高校レベルでも大丈夫だというのが本当のところ。

「力学」の部分と「電磁気学」の部分はエネルギーや運動量、光の速度という共通の要素を通じて特殊相対性理論の中で密接に結びついている。電磁気学を特殊相対論的に記述にすることついては「ファインマン物理学 IV: 電磁波と物性」の第4章で解説されている。

ファインマン物理学では力学の部分に限って特殊相対性理論を紹介しているのだ。第15章から第17章によって次のことなどが導かれ、理解できるようになる。これらが高校レベルの数学で記述されていることは驚くに値する。これらは第1巻の中で最もワクワクする章である。

- 運動によって空間や時間が伸び縮みすること。
- 空間や時間の伸び縮みは4次元時空の回転とみなせること。
- 質量とエネルギーは同等であること。
- 質量が物体の運動によって増えること。
- エネルギーと運動量が4元運動量に統一されること。
- 光子の質量がゼロであること。
- 空間と時間は混ざり合ったものとして存在し、どちらか一方だけでは存在できないこと。

ファインマン先生は特殊相対性理論の誕生がアインシュタインのひらめきだけでなかったことを強調する。アインシュタインがいなかったとしても、この理論は遅かれ早かれ他の物理学者によって導かれていたはずだ。それにもかかわらずアインシュタインが天才の中の天才と歴史に名を刻んだのは次の4つの理由による。

1)1916年に発表した一般相対性理論で質量と運動量が空間と時間を曲げることを定量的に計算するための運動方程式を導いたこと。
2)光が粒子として存在することを予測した光量子仮説の発表。これにより彼は量子論の父の一人とされた。
3)原子や分子のブラウン運動の基礎理論を確立させた。
4)相対性理論は空間や時間、光、重力という一般人でもイメージしやすい対象を扱った理論なので、大ニュースとしてあっという間に世間の注目を浴びた。


第15章:特殊相対性理論

200年以上もの間ニュートンの運動方程式は正確なものだと信じられてきたが、1905年にアインシュタインによって発表された特殊相対性理論によって修正を受けることになった。ニュートンが信じていた絶対空間や絶対時間というものはなく、空間と時間は物体の運動によって縮んだり伸びたりするものだということが明らかになった。その理論の背景には電磁波の基礎方程式である「マクスウェルの方程式」が真空中で光の速度が一定だと矛盾してくるという解決できない問題があった。

この時代において光は電磁波の一種であること、そして真空中の光の速度は一定の値 c になることがわかっていた。けれども速度 u で移動する物体から光を出したとき、光の速度が進行方向で c+u、進行方向と反対方向で c-u とすると、それを電磁波の方程式に代入すると方程式が形を変えてしまうのだ。これでは移動する物体に電磁気学の理論が別のものになってしまう。それはこれまで正しいと信じられてきたガリレイ変換に従った結果によるものだ。静止座標系 K (x,y,z,t) と等速移動する座標系K'(x',y',z',t') に次のような変換式を用いる。Kの世界とK'の世界でマックスウェルの方程式は形を変えてしまう。誤解のないように言っておくが、これはKとK'のパラレルワールドのことではない。同じものを2つの異なった視点から見るという意味のKとK'のことである。



そこで考えられたのがローレンツという数理物理学者による「ローレンツ変換」や「ローレンツ収縮」というものだ。静止座標系 K (x,y,z,t) と等速移動する座標系K'(x',y',z',t') に次のような変換式を用いる。



これが特殊相対性理論を顕著に示す変換式なのだが、その功績がローレンツではなくアインシュタインのものであるのはどうしてだろうか?それは「すべての物理法則は、ローレンツ変換をしたときに不変であるようなべきである。」という考え方を導入したからだ。そしてこの式から空間と時間が交じり合って4次元時空として存在することを想定したことによる。ころ時空間をミンコフスキー時空と呼ぶ。

ファインマン先生の講義ではこの後、有名な「マイケルソン- モーレイの実験」について述べられているが、ここでは詳しい説明は省かせていただく。光や電磁波を伝える媒質としての「エーテル」という宇宙全体を満たす仮想の物質を検出しようとするこの実験は不成功に終わった。光や電磁波が伝播するのに媒質は必要ないのだ。真空の空間を光や電磁波が伝わるというのは不思議な気がする。真空っていうのは「何もない」ということなのだから。

この科学史上有名な実験が不成功に終わったということは一定速度で運動する物体の長さはローレンツの変換式で示されるように収縮し、時間の進行そのものも同じ変換式で影響を受けるということを示す結果となったのだ。

ローレンツ変換の式から簡単な計算で以下の関係式を求めることができる。



これはローレンツ変換が4次元時空についての、つまり空間と時間についての回転であることを示している。回転した結果の空間成分、時間成分の変化が空間の縮みや時間の遅延をもたらしているわけだ。それは街燈に照らされた夜道を歩くときに自分の影が伸縮するのに似ている。街燈の下を歩くとき自分は街燈を中心とした円周上を移動しているのに近い状態だからである。

次にファインマン先生は運動量 p や質量 m もローレンツ変換により同じ変換を受け、次のようになることを示す。mの右下に0がついているのは「静止質量」を意味していて、質量 m さえも運動によって増加することを示しているのだ。





質量 m については次のようにテイラー展開を使って近似式を作ることができる。





両辺に c の2乗をかけることによって、次の式を得る。



右辺の第2項に運動エネルギーと同じ式が見られることから、この式全体はその物体のエネルギー E を表していることがわかる。そして右辺の第1項もエネルギーに寄与していることが大発見なのである。それは「静止した物体の質量そのものがエネルギーである。」ことを示しているからだ。そして運動している物体の全エネルギー E はよく知られた公式となる。質量がエネルギーに変換し得るという不思議な結論はこのようにシンプルな計算手順から導かれるのだ。



ところで、テイラー展開の部分は数式処理ソフト Maxima を使って実行することができる。vについて10次までで試してみたところ次のように表示された。(注意:数式入力の都合上、静止質量を m と表記している。)



つまり、上の展開式を詳しく表記すると次のようになるわけだ。



ところで、この「E=mc2」であるが、素粒子レベルのコンピュータ・シミュレーションによって昨年暮れに証明されたそうだ。その記事を紹介してしめくくることにする。

欧州物理学チーム,特殊相対性理論の「E=mc2」をついに証明
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2541360/3546071


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