とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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ファインマン物理学 I: 第6章、第7章

2009年06月28日 12時29分56秒 | ファインマン物理学

第6章:確率

古典力学の導入部分にあたるこの章でファインマン先生はなぜ確率を取り上げたのか。むしろそのほうに関心が向いた。統計力学や量子力学で確率論ということなら合点がいくのだが。

第5章「時間と距離」の章の最後で先生はごく短い長さの世界ではハイゼンベルクの不確定性原理を紹介している。有名大学であるカルテクの1年生にとって古典力学は易しすぎて興味を持ってもらえないかもしれない。

不思議な量子力学の世界をときどき取り上げることで、学生の知的好奇心をかきたてる工夫をしているのであろう。第5章からの流れで量子の存在位置が確率的にしか求められないということを紹介するために、確率論をはじめたのではないだろうか。僕はそのように納得した。

まず彼が取り上げるのがコインを投げて表が出る回数から得られる二項分布である。投げる回数が増すにつれてその分布はきれいな曲線に近づくわけだ。普通の授業ではその極限の形とパスカルの三角形を紹介して終わることが多い。

だがファインマン先生の手法は学生をそこで納得させておしまいにはしない。回数が少ないときに実際に出た表の回数が理想的な曲線とずれていることを強調する。これが「ゆらぎ」なのだと。

「ゆらぎ」の原因は何なのだろう?古典力学的現象であるコイン投げに見られる不確定性とは何なのだろう?アインシュタインだけでなく、もしニュートンに尋ねてもおそらく「神はサイコロを振らない。」と言ったはずなのに。学生に深く考える余地を残しておくのが良い授業なのだ。

次に先生はランダムウォークの説明をはじめる。x=0から出発してコインの表が出たら+1、裏が出たら-1進むというルール。2次元や3次元のランダムウォークを実際にグラフに描いて見せるのも魅力的だが、その原理の本質を語るには1次元で十分なのだ。ランダムウォークについては次のようなページをご覧になるとよいだろう。

モンテカルロ法-酔歩シミュレーション:
(こちらのページではデモを実行することができる。)
http://www.is.kochi-u.ac.jp/~honda/lecture/siml05/monte2/index.html

ランダムウォークをDirectXを利用して可視化してみる:
(多次元のランダムウォークを可視化している。)
http://www.natural-science.or.jp/laboratory/article/20090416202733.php


ファインマン先生が1次元のランダムウォークを取り上げたことはその後の数式を使った考察を容易にしている。n回コインを投げたとき出発点からどれくらいの距離 D(n) にいるのだろうか。彼は D(n) の期待値 が √n であることを簡潔に導いてみせる。この計算手順のわかりやすさにハッとさせられた学生もいたにちがいない。

次にこのランダムウォークの期待値 を利用してファインマン先生はコインの表が出る回数の期待値 と「ずれ」の期待値(Root Mean Square) を計算する。その結果 = D/2、「ずれ」の期待値 = 1/2 * √N を得る。

これらの結果を利用して、実際にコインを投げたときに出た回数を調べることによって、そのコインに偏りがあったり、試行が恣意的なものでないかを判定するというところまで考察を深めていくのだ。気体の分子のブラウン運動もランダムウォークであり1点からはじまる気体の分散はなだらかな山型の二項分布の曲線で近似されることが導かれるのだ。

そして最後に説明するのは確率分布や確率密度関数 p(x) や p(v) だ。試行の回数を増やすことにより、それまでΣを使った離散的な理論を∫と確率密度関数を使った連続関数の理論にすることができる。これらが後に統計力学や量子力学で重要な役割を果たし、この章の最後で再び紹介されるハイゼンベルクの不確定性原理、雲のように確率分布として表現される原子核をまわる水素原子の軌道について明らかにされるのはファインマン物理学の第5巻においてである。

余談であるが科学雑誌 Newton の今月号ではたまたま「確率」が特集されている。ランダムウォークも美しいグラフィックを添えて紹介してある。それによると1次元と2次元のランダムウォークは長い時間がたつと原点に戻ることもあるのだが、3次元になると必ずしも原点に戻らないこともあるのだそうだ。それはそれで不思議である。

つまり「酔っ払いは家に戻れるか?」という問題は確率論では「ランダムウォークの再帰確率、再帰時間」というテーマであり、次に紹介するIkuroさんのホームページで取り上げられている。このページの説明によると「確率論入門・1培風館」という本でも取り上げられているようだ。

格子上の確率論(その8)
http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/376_l8.htm

結論から言えば2次元までだと酔っ払いはそのうち家に戻れるが、3次元以上だといつまでたっても戻れないことがあるということになる。興味深いテーマであることには違いない。

参考:2次元ランダムウォーク(Wikipediaより転載)



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第7章:万有引力の理論

アイザック・ニュートンの万有引力の法則は次の式で与えられる。



質量のある2つの物体は距離の2乗に反比例し、それぞれの質量に比例した引力をお互いにおよぼすというのがその意味だ。

ニュートンがこの法則に到達するまでには歴史上の先人たちから受け継いだ貴重な知識が欠かせなかった。チコ・ブラーエによる惑星の天空上での軌跡の膨大な観測結果、その観測記録を元に計算したヨハネス・ケプラーによる惑星軌道の計算、それにより導かれたケプラーの3法則のことだ。

万有引力はその名が示すとおり、太陽系にとどまらず恒星間、銀河系、銀河団などその力は宇宙全体に及んでいる。英語原典で万有引力は Universal Gravitation(普遍重力、普遍引力)と表記されている。ニュートン自身はその力が一瞬のうちに伝わる「遠隔力」であると考えていた。しかしその力がどういうメカニズムで発生するのかということについては知らなかったのだ。万有引力の法則は2つの物体間に働く力と質量、距離の間の関係を示すものであるにすぎない。

けれども物体は本当ならば慣性の法則に従って真っ直ぐ動くはずである。その運動方向を万有引力による力が変えるのだという考えに至ったとき、そしてその力が加速度に比例することをニュートンは見つけた。よく知られるニュートン力学の基礎方程式 F=ma である。こうして静的な万有引力の法則は動的な運動方程式となった。万有引力の法則に従って動く太陽、地球、月の様子はこちらの記事で紹介しているシミュレーションでいろいろ条件を変えて実験することができるので試してみてほしい。

また万有引力の法則は2つの電荷の間に働くクーロン力の法則とも対比される。同じ形の公式が成り立っていることについては「逆2乗法則の不思議」という記事で紹介しておいた。



万有引力が距離 r の関数になっていることは、引力が空間のあらゆる方向に同じ強さで広がっていることを示している。(これを引力が等方的に広がっているという。)けれどもこれは物体が完全な球形をしているときに成り立つことで一般の形の物体だと正しくない。例えば地球が半月型の天体だった場合の引力の強さは「半地球の重力場を描いてみた」という記事で紹介している。引力(=重力)の強さが同心円状に広がっていないことがおわかりだろう。



万有引力の法則に含まれる「万有引力定数G」は1798年に行われたキャベンディッシュの実験によってもたらされる。この実験によって地球の質量がはじめて計算された。実験の詳細は次のページでお読みいただける。

キャベンディッシュの実験:
http://www.fnorio.com/0006Chavendish2/Chavendish.htm

この万有引力定数Gについてはディラックの「巨大数仮説」によると「定数」ではなく時間によって変化する「変数」であるという。この話題を提供することでファインマン先生は万有引力の法則でさえも、普遍の真理ではないことを学生に示したかったに違いない。さらにGが変化するような長い時間を待たずとも、1916年の一般相対性理論によってアインシュタインがニュートンの理論に修正を加えたという事実がもたらされたこと、その修正理論は引力が光と同様に有限の速度で伝わる「近接力」であることによってもたらされた質量による時空の歪みであることを紹介して授業を締めくくった。


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