とね日記

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ファインマン物理学 I: 第8章、第9章

2009年07月01日 21時44分21秒 | ファインマン物理学

第8章:運動

次の章でニュートンの運動方程式 F=ma を導入する前に、速度や加速度という量について明確にしておこうというのがこの章だ。

既に学んだ者にとって冒頭部分での説明はくどいかもしれない。スピード違反した女性と白バイ警官とのやりとりの部分。こういう屁理屈を言って抵抗する違反者は現実にもいることだろうけれど。

無限小時間あたりに変化する無限小距離というのが「速さ」の定義だ。それに方向の変化も含めてベクトル量にしたのが「速度」というわけで2つの言葉で使い分けている。ちなみに英語版とフランス語版でも、次のような言葉でこの2つは区別されている。フランス語の (f) は女性名詞という意味だ。(豆知識)



物理学とは関係ない日常会話ではというと「速さ」と「速度」の日本語の使用頻度は半々くらいだろう。けれども英語とフランス語については、たいていの場合「speed」や「vitesse」が使われ、もう一方の用語は耳にすることがほとんどない。これはおそらく「speed」や「vitesse」のほうが発音するのが楽で意味もわかりやすいからだろう。


位置 x、速度 v、加速度 a が時間 t による微分・積分の関係になることを2次元、3次元の例をとってファインマン先生は計算式を使いながら落体の放物運動を説明する。横方向の等速運動と鉛直方向の加速度運動が「独立」であることがポイントだ。速度や加速度は3次元座標の x, y, z 成分に分けて計算式をたてることができる。

話がそれてしまうが、日本の道路交通法では自転車の制限速度は自動車の制限速度と同じなのだ。免許が不要なので「減点」はなく、罰金だけという違反者に甘い状態になっていることをドライバーは心得ておいたほうがよい。時速30キロメートルという制限速度が課せられている原付バイクを自転車が時速60キロメートルで追い越しても構わないのだ。(長い下り坂なら可能だろう。)今日から発売されている3人乗り自転車だったらと思うと恐ろしいかぎりだ。

さらに言わせていただければ(車道ではない)公道を自分の足で人が時速100キロで全力疾走するのは自由だし、交通違反に問われることもない。たとえ酒を飲みながらであってもだ。いずれにせよ屁理屈で自分の身を守るのは最後の手段にすべきである。


第9章:ニュートンの力学法則

古典力学でいちばん重要なニュートンの力学法則は、やっと第9章で紹介される。

第1法則: 慣性の法則
第2法則: F = ma (ニュートンの運動方程式)
第3法則: 作用と反作用の法則

高校の物理でも習った当たり前とも思えるこれらの法則は、その単純さから想像できないくらいに応用範囲が広い。日常的な物理現象の多くがこれら3つの法則から説明できるのだ。つまり、力学の問題だけでなく熱や温度、圧力、気体の比熱、流体力学、気体分子の運動論、統計力学などである。だから気象庁のグラフィカルな数値予報もニュートン力学がベースである。また、アポロ11号を月に送った際の軌道計算はニュートン力学だけで用が足りていた。(1969年7月21日)古典力学をあなどってはいけない。

ファインマン先生の語り口はこの単純な力学法則について高校の授業とは比較にならないほど深い考察を与えてくれる。力や速度、加速度が3次元の座標成分に分けて考えられること。そしてそれらの成分ごとにこれら3法則が成り立っていること。その背景に3次元の「絶対空間」と無限の過去から無限の未来まで一様に流れる「絶対時間」があることなど。微積分の理論はこれら3法則にとって不可欠な演算規則を与えている。位置や時間、速度、加速度、そして質量や力はニュートンにとって「連続的で無限分割可能な量」である。

ファインマン物理学には書かれていないのだが、ニュートンの運動方程式 F=ma や次の章で導入される「運動量 mv」は量子力学の「エーレンフェストの定理」によって量子力学的な<期待値>として存在している事実がある。これはとても興味深いことだ。(その証明はこちらのページでお読みいただける。) シュレディンガーの波動方程式はニュートン力学の正しさを近似的に裏付けているわけだ。F=ma は <F>=m<a> だったのである。(<X>はXの期待値をあらわす。)

ニュートン力学に従うと未来は1通りに決まっていることになってしまう。そしてそれを修正した相対性理論においてさえも同じである。平らな地面に立てた真っ直ぐな棒はどの方向にも倒れず、パチンコ台で釘の真上から落ちてくる玉は左右に分かれずに、釘の上で何度か飛び跳ねた後に静止してしまうというのがニュートン力学の結論だ。それは空間的に完全に対称だという理由に基づいている。つまり理想化された世界観なのだ。このことについては「どうして未来は決まっていないのだろうか(その2)」という記事で以前紹介した。

けれども現実の世界では棒は倒れ、パチンコ玉は左右のどちらかに落ちる。確率の法則の根本原理だ。ではなぜそうなのか?その不確定性の1つの原因が量子力学的な不確定性なのである。Δxという位置の不確定性とΔmvという運動量の不確定性が棒やパチンコ玉の位置と速度の不確定性(Δv)をもたらしている。「丁か半かの不確定性」はこのようにして生まれる。また物理現象の不可逆性についても大ざっぱな理屈で言えば同じことだ。前回の記事で紹介したランダムウォークや気体分子のブラウン運動も不確定性原理による確率に支配されているので不可逆な物理現象である。

ちなみに「演習 現代の量子力学」という本の44ページに興味深い例題が掲載されている。長さ20cm、質量200gのアイスピックを先の尖ったほうを下にして「完全に」真っ直ぐに立てると、つりあいを保っていられる時間はせいぜい3秒であることがハイゼンベルクの不確定性原理を使って解法が見開き2ページで説明されている。つまりアイスピックの位置を完全に固定すると不確定な速度が生じるのだ。もちろんどの方向に倒れるかは「神のみぞ知る」であって計算方法はない。なお、この演習問題ではアイスピックの角度が1度傾いたら「バランスを崩した」とみなして計算している。

アイスピックがバランスを崩すまでの時間 t (秒)は、この演習書によると次の式で与えられる。長さ l と質量 M について t は増加関数になっていることがすぐわかる。



l:アイスピックの長さ(20 cm)
M:アイスピックの質量(200 g)
g:地表での重力加速度(980 cm/s^2)
hバー: ディラック定数(1.055 x 10^(-27) erg s)

量子力学を勉強してから古典力学(ニュートン力学)を学び直すと、このように味わい深い発見がいくつかあるのだ。

麻生総理や「ばらばらに結束している」自民党議員の言動はこのところ特に不確定性を増している。それにもかかわらずマクロな意味で総選挙に向けた国民の政党支持率は(内心では)大方のところ決まっているように僕は思う。量子力学と古典力学の政治情勢へのアナロジー(類推)である。

この章の後半でファインマン先生は運動方程式を数値的に計算する手順について2つの例を紹介している。計算物理学へ入門だ。1つ目はバネの振動がコサイン運動になること、2つ目は万有引力の法則から太陽をまわる地球の楕円軌道の運動である。

手で計算できる程度のステップで目で見てわかるようなコサインや楕円の曲線が得られるのは説得力がある。今だったらパソコンを使うこのような計算も、紙に書いて計算すると疑り深い学生も異論をはさむ余地が無くなるに違いない。パソコンはブラックボックスだしプログラミングにも間違いはつきものなのだから。


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