雑草の庭 ブログ出張版

イラストや模型の制作状況、雑記などちまちまやっていきます。
本家「雑草の庭」もよろしく!

宇宙よりも遠い場所 7話感想

2018-02-17 02:11:35 | 雑記
「感動という感情は、『意外な驚き』と『共感』が揃うと生じる」と以前どこかの記事で読んだ記憶がありますが、「宇宙よりも遠い場所」では毎回ラストで目からヘンな汁が出てきます。
特に7話はアカンかった。
そんなわけで初めて(多分)アニメの感想なるものを書いてみようかと思います。

視聴者の「共感」を集める作品を作ることは、「意外な驚き」を狙う作品よりも何倍も難しいのは、何かしらお話しを考えたことがある人ならわかると思いますが、「宇宙よりも遠い場所」は脚本と演出が練られているので惹きこまれる視聴者が多いようで。
とにかく無駄な要素がない。
なんでもないコメディな場面が後々意外な場面で効いてきて、あっと気づく。
今回はそんな気づき事項をまとめてみます。



いきなりアバンから強烈な対比。
期待とやる気にあふれ、取り囲む取材陣に理想を語った3年前。
今は関心を寄せる人もなく、ようやく得たスポンサーの意向か「しらせ」は「ペンギン饅頭号」なるしょっぱい船名に。
なによりも古くからの親友の姿がなく。
かなえ副隊長が変わっていないことに救われます。
どことなく宇宙戦艦ヤマトの1作目と2作目の発進シーンに重なります。



Aパートでは人前に出た時の報瀬のポンコツぶりがこれまでに続き描写されます。



マリがもってきたペンギンのぬいぐるみに目を輝かせる報瀬。
Bパートの回想シーンでは報瀬ママの脇に色違いのペンギンのぬいぐるみが映っています。
ドアの敷居を踏まないよう注意を受けているシーンがありますが、これは歪むとドアの開閉に支障をきたすからでしょうか。
和室でもそうですね。
座布団を踏んだりもしないこと。



高所恐怖症であることが明かされた結月。
実はOPでも2カットほど匂わせる描写があります。
この作品の恐ろしいところは無駄な描写が見当たらないほど脚本が練られているので、結月の弱点が後々でドラマになるだろうなという予感がします。



寂しい寄せ書きの中央にはユウくんからの激励が。
千秋船長は砕氷艦(しらせ?)の艦長を務めていたとのこと。
海自では大型艦の艦長は1佐(三)が任命され、さらにWikipediaによると歴代しらせ艦長はいずれも海幕防衛部という市ヶ谷の中枢に勤務してから任務につくらしく。
幹部自衛官は55歳くらいの定年までに普通は2佐には昇進するようで、できるエリートだったのでしょう。
民間の大企業ならだいたい課長級か。(1佐(一)はだいたい部長級)
たぶん定年退官後に民間南極観測隊の船長を引き受けたのかと思いますが、仮に中途退官していたならば、かなり熱いドラマがありそうです。
また劇中では語られていませんが、艦の運用(特に機関科)にはしらせ現役時代からの旧隊員が携わっているのではないかと推測されます。
いくら民間に払い下げられたとはいえ、中古車を運転するのとはわけが違うはずです。
新造船が就役する際も、ノウハウを習得した艤装員が初代乗組員になるわけで。
同じWikiによると、ウェザーニュース社が引き取った先代しらせは年間維持費が推定1億円かかるようですから、今回の旅も旧乗組員が変わらなければ習熟に要するコストを削減できるはずです。

隊長が語った今回の旅の理由は「昭和基地の復旧」。
副隊長は「宇宙(そら)を観るため」。
どうやら他にも凄い理由があるのではと勘繰る主人公たちですが、第三者たる視聴者はなんとなく報瀬ママ絡みではないかと思えてきます。
隊員たちの強い想いと、ベッドの星空に込められた想い、正式に含まれないものの多くの隊員がこだわる詳細不明な「計画」も、今後語られることでしょう。
謎の計画は主人公たちが引き継いでいくことになるのではと展開を予想。



通信容量を気にする結月と、日本に残したユウくんとの通話とメールに必死な地質学者の信恵さんの対比。
アメリカの戦略原潜も数か月の航海任務のたびに離婚者が1組発生するそうで(世界の潜水艦:文林堂)、他人からすると喜劇でも本人にとっては悲劇な深刻な問題です。



これまで数えるほどしか交わされなかった隊長と報瀬の、珍しく長く、そして重い会話。
いつも明るいかなえさんの驚愕の表情と、通信機(外部マイク?)に絶叫する普段は無口な吟さんが、否応なしにヤバイ場面なのだと伝わります。
雪上車から出たものの天候悪化で合流に失敗したか、戻ってこない報瀬ママを雪上車で探し回っているのかは不明。
3年前の時系列をセリフから整理すると、「報瀬ママ行方不明」→「(越冬隊を残して)隊長達帰国」→「スポンサー激減」→「越冬隊引き揚げ」。
つまり報瀬ママは南極の冬が過ぎても昭和基地に戻らなかったわけで、生存しているはずがないことがわかってしまいます。

吟隊長から語られる、集まった隊員たちの強い想い。
日向らは大人たちの意図を考えあぐねていましたが、どうやら大人たちも少年少女の頃の気持ちを原動力にしていたようで。

通信担当の敏夫が眉をひそめてPCを持ち上げている場面がありますが、わざわざ動画にしてまでの演出の意図はなんでしょう。
船内の電力事情があまりよろしくないのでしょうか??



出陣式の司会のかなえさんに大いに盛り上がり、気勢を上げる隊員たち。
ヘリ甲板上には屋台が並び、どうやら招待した地元の人達らしい姿も見えるのでレセプションも兼ねているようです。
珍しく真面目モードに切り替わったかなえさんのスピーチによると、「あの時」のメンバーは全員帰ってきたとのこと。
Aパートで人手不足がやたら強調されていたことに違和感を覚えます。
推測ですが、観測隊員は全員戻ってきたものの船の運用に携わる人が今回減ったのか、それとも3年前も人手不足だったのか。

話題が3年前に及んだとたん、痛々しいほど沈み込んでしまい、誰一人としてまともに報瀬の顔を見れない大人たち。
誰も報瀬ママのことを話題にしていないのに、皆の脳裏によぎったのは1つのようで。
報瀬と隊員たちの間には何ともいえない感情があったはずで、気持ちは言葉にしなければ伝わらないのに言葉を交わすこともお互いここまでなかったにも関わらず。
顔を上げた報瀬は、この一瞬で隊員たちの気持ちを気づいたのでしょう。

報瀬に報瀬ママが重なったであろう大人たちの落ち込様は見ていられないほどで。
彼らからしたらどう報瀬に接したらいいかわからないわけで。
そんな彼らの士気を一転させたのは、仲間達の支えと報瀬自身の勇気と彼女自身の気持ちでした。
彼らからしたら死なせたと負い目のある小淵沢の娘から罵倒されても仕方ないと思っていただろうに、泣き言一つ言わずにひたすらポジティブな報瀬に対して感銘を受けないわけがないでしょうと。
ポンコツなのにポンコツではない報瀬。
冒頭で述べた「意外な驚き」と「共感」の一点集中です。

このシーン、事情を知らない第三者からすればすれば、わけがわからない場面なんですよね。
肝心な言葉を何一つ交し合っていないのに、それでも互いの気持ちを感じあった彼ら。
最高のカタルシスです。

また、報瀬は南極行きをバカにする連中といった敵がいないとガッチガチに緊張するというのは物語開始序盤に語られていたことですが、乗組員らに対してはどう接していいかわからなかったわけで。
ところがフタを開けてみれば、報瀬をバカにする人はだれ一人いなかった、一緒に南極に行くぞと皆思っていることに気付いたわけなんですね。
1話でマリ、2話で日向、3話で結月とだんだん志を共にする仲間が増えていき、7話ラストでは一気に仲間が増えたわけで、そりゃ見ているこっちも涙腺がゆるくなるってもんです。
宝箱はとっくにそばにあったんや!



そしてこの心に響く7話クライマックスをもう少し掘り下げてみると、演出の深さに舌を巻きます。
まず、お互いに「愛している」と言葉を交わしてもすれ違うカップルの描写が、具体的な言葉を交わしていないのに一体となった彼らへの対比として隠し味になっています。
また、報瀬の背中を押したのは日向ですが(脚本も日向)、実は5話の何気ない場面が伏線になっていたのでは気づいて驚愕しました。
印象深くも後味の悪い5話でしたが、カラオケのご乱心エピソードがなければ今回の報瀬の勇気に繋がらなかった可能性もあると解釈できるのです。

報瀬は母がある意味で呪縛となってしまっているといると思っているのですが、「宇宙よりも遠い場所」は報瀬が母に別れを告げて前に歩み始める人生の旅を描いた物語でもあるのでしょう。