弁理士近藤充紀のちまちま中間手続67
拒絶理由 進歩性
請求項1
文献1には、サワー炭化水素留分を選択的水素化分解に引き続き酸化触媒、塩基性成分などでスイートニングすることが開示され、サワー炭化水素留分として分解ガソリンも想定している。
選択的水素化分解では硫化水素等が発生するから、文献1に記載された発明を具体化するにあたっては、ストリッピングなどにより脱ガスすることは周知慣用手段の付加の域を出るものではなく、当業者が容易に想到することである。
なお、本願各請求項では「安定化」を発明特定事項として含むが、後記の理由2にて指摘するように「安定化」の概念が不明であるため、本願明細書第【0028】欄等の記載から「安定化」とは「脱ガス」と仮に認定して進歩性などを判断している。
意見書
引用文献1には、選択的水素化およびこれに続く酸化的スイートニングを経て原料油を処理する方法が記載されており、この引用文献1の方法において、水素化は、25~300℃、約6.9~69バール、H2/Sメルカプタン比=0.1~10%モル(請求項6)、VIII族およびVIB族元素(請求項4)を含有する触媒の存在下で行われている。好ましい触媒は、Ru、Pt、Fe、PdおよびNiを有するものであり(第3頁右欄8~10行)、硫化される(第4頁左欄31~32行)。また、全実施例において、アルミナ粘土担体担持の硫化型Ni触媒が用いられている(第8頁左欄5行~同頁右欄7行)。
引用文献1の方法における選択的水素化工程は、H2が第三メルカプタンと反応するようにさせ、それらを除去可能なH2Sに変換するために行っており、第一または第二メルカプタンはそのままである(第4頁右欄12~19行)。
これに対して、本願請求項1の方法では、「仕込原料を、・・・工程」(以下、第一工程と称する)において、
(1)ジエンおよび/またはアセチレン系化合物のオレフィンへの水素化
(2)第一および第二オレフィンの第三オレフィンへの異性化、および
(3)メルカプタン含有量の低減
が行われており、引用文献1の水素化工程における「第三メルカプタンからH2Sへの変換」を行っているものではない。また、引用文献1では、硫化触媒を用いているが、第一工程では、「選択的水素化は、0.1~1重量%のパラジウムまたは1~20重量%のニッケルを不活性担体上に担持されて含有する触媒を用いて」と規定されているように、金属形態の触媒を用いている。これらの点で、引用文献1は本願請求項1とは全く異なっている。
なお、本願の方法でも上記(1)のように第一工程によってメルカプタン含有量が低減しているが、これは、メルカプタンがジオレフィンと反応(付加反応)して硫黄化合物を生じさせることによるものであり(明細書の段落[0011]の7~9行)、引用文献1のようなH2Sの形成は見られない。すなわち、第一工程では、スイートニング反応を伴っている。当然、ここでのH2Sの形成がないということは、形成が全くないことを意味するのではなく、非常に少量のH2Sが生じることをも含む。
本願請求項1の第一工程は、引用文献1の水素化工程とは異なり、H2Sは全く生じないか、生じ得たとしても非常低量である。引用文献1では、生じたH2Sはスイートニング工程を行う前に流出物から分離されなければならず、引用文献1ではこの目的のためにモレキュラーシーブを用いている。
これに対して、本願請求項1では、第一工程後の流出物に対して、未使用の残留水素の脱水素ガス化が行われている(以下、この工程を第二工程と称する)。したがって、本願請求項1の第二工程における脱水素ガス化は、引用文献1におけるモレキュラーシーブによるH2S分離とは全く異なっており類似もしていない。モレキュラーシーブは、H2を分離することができないからである。
以上に説明したように、本願請求項1の方法は、引用文献1の方法とは全く異なっており、引用文献1の方法に基づいて本願請求項1の方法に想到することもできない。
引用文献2には、0.1~1%Pdを不活性担体上に担持されて含有する触媒を用いる、4~25バールの圧力下、80~200℃、1~10h-1での接触分解法からのガソリンの選択的水素化の方法が記載されている。また、引用文献2には、第一および第二オレフィンの第三オレフィンへの異性化も記載されている。
しかしながら、上記のように、本願請求項1に記載された第一工程は、引用文献1の選択的水素化は全く異なるものであるので、引用文献2に記載された工程が本願請求項1の第一工程と同種の工程であるからといって、引用文献1の選択的水素化工程に代えて全く目的の異なる引用文献2の工程を組み合わせることの動機付けは生じない。
したがって、本願請求項1は、引用文献1および2に基づいても容易に想到することができないものである。
引用文献3には、触媒を用いる酸化的反応によるスイートニング方法が開示されている。
しかしながら、引用文献3には、本願の第一工程および第二工程に関する記載がない。
引用文献4には、熱分解ガソリンのスイートニング方法が開示されているが、熱分解ガソリンは、本願の処理対象のガソリンとは異なる組成を示し、特に、そのメルカプタン含有量は非常に低い。用いられる触媒は、VIII族元素を担体上に担持されて含有する周知のものである。しかしながら、Pd触媒は、熱分解ガソリンのメルカプタン含有量を低減させることができない。
したがって、引用文献4は、本願発明とは関連性のないものである。
次に、接触クラッキング・ガソリンの精製装置に係る本願請求項10と、各引用文献との相違点および効果について説明する。
引用文献1では、脱水素ガス化槽は開示されていない。選択的水素化処理後の流出物は、2つのフラクションに分割され、一方は再循環させられ、他方はさらに処理されることが記載されているだけであり、ガス部分を分離していない(第8頁右欄7~11行)。なお、引用文献1では、流出物の水素化反応器への再循環はなく、非脱ガス流出物の再循環が行われている。
また、引用文献1では、その実施例2、3、4においてモレキュラーシーブを開示するだけであり、これは、本願における脱水素ガス化槽とは同一ではなく類似もしていない。モレキュラーシーブは、H2Sを分離することができるとしても、H2を分離することができない。参考のため、このことは添付書類に詳細に説明している。
引用文献5には、ストリッピング帯域において水素化処理により生じた硫化水素を除去するための構造が開示されている。
しかしながら、本願請求項10の装置では、選択的水素化反応器において硫化水素は発生せず、脱水素ガス化槽は、未使用の水素を除くための構造であるので、引用文献5の水素化処理のための構造およびストリッピング帯域とは全く異なっている。
したがって、引用文献1と引用文献5とを組み合わせても本願請求項10に想到することはできない。
以上に説明したように、本願請求項1および10およびこれらに従属する他の請求項は、引用文献1~5に基づいて容易に想到することができないものであるので、本願発明は進歩性を有する。
拒絶理由
36条6項2号
補正・意見書
特許査定
拒絶理由書の指摘は必要以上に囚われず、理論構成はこちらベースとした。そのほうがすっきりしたものが書けるし、結果も良くなったような気がする。