カイとチャニョル

2015-02-20 | ordinary world

カイと同室になって驚いたのは、彼の寝起きの悪さだった。

目覚まし時計が鳴っても起きない。

耳元に置いてやっても布団にもぐってまだ寝てる。

そのうち音のうるささに、こちらが根負けして止めてやるのだ。

いよいよ起きなきゃまずい時間に布団を剥ぎ取ると、

こちらに向けて長い両腕を躊躇なく伸ばしてくる。

まるで 「起こしてくれ」 とでも言うように。

 

いくら俺の方が年が上でも、背が高くても、

この180cm 以上もある筋肉質の成人男性を起き上がらせるのは 結構キツイ。

なにしろ自分から起き上がる意思が全く感じられないし、

全体重を俺に投げ出してくるから始末が悪い。

それも毎日だからたまらない。

いつか腰を痛めるんじゃないかとハラハラする。

どれだけヒョンたちに甘やかされてきたのかと腹が立つ。

 

ある日、ギョンスに 「カイを起こすの大変じゃなかった?」 と訊いてみた。

ギョンスは大きな目を更に大きくして、「べつに」 とだけ答えた。

「どうやってあんなデカイ赤ん坊、起こしてたの?」

「どう、って…自分で起きてたよ」

今度は俺が目を大きくする番だった。

 

スホヒョンとチェンにも訊いてみた。

ここでも答えは同じ。

スホヒョンに至っては、「逆に起こしてもらうこともあったよ」 だそうだ…!

どういうことだ。 おかしいじゃないか。

俺と同室になってからこっち、一度だって自分で起きたためしがないのに。

 

そこで、俺は一つの仮説を立てた。

それを立証するためにベッキョンに、朝、起こしに来るよう頼んだ。

「やだよ。朝なんて、俺もねむいもん」

ごねるベッキョンに、今度好きなもん奢るから、と頼み込んで、

その日はドアの陰から様子を伺った。

 

「ほら、カイ、起きろ、朝だよ!」

「んー…、…あれ?ヒョン…。…チャニョリヒョンは?」

「ああ、腹痛いってトイレ。ほら、早く!」

するとどうだ!

カイは素直に自分からベッドを降りて、着替え出したじゃないか!

「よぉーっし、いい子だ!」

そう言ってカイの頭を威勢よく撫でる姿は、

まるで子犬が大型犬にじゃれてるようで可笑しかった。 

笑いをこらえてドアの外にいる俺と、すれ違い様、

「これで満足した?」

と、ちょっと口の端を上げて横目で俺を見やるベッキョンに、

感謝してます、というように手を合わせておいた。

 

ほんとはもっと他のメンバーでも試してみたかったけど。

タオになんか頼んで、グッチだクロムハーツだせがまれたら堪らないし。

きっと結果はだれでも同じだろう。

 

やつはきっと、自分で起きる。

 

おっかしいの。

甘えてんのか。

俺に。デカイ図体して。

確かに、ヒョンたちの中でやつよりデカイのはいないしな。

(タオをヒョンの括りに、やつが入れているかは甚だ疑問だし)

甘えたいなら素直にそう言えばいいのに。

いくらでも頭くらい撫でて、抱きしめてやるのに。

…わっかりずれぇ。

 

でも、いくらセンターだ、セクシー担当だって言われてたって、

マンネ・セフンと2ヶ月しか変わらないんだし。

やつはやつなりに、ヒョンたちには気を遣い、弟には気を張っているんだろうな。

 

次の日、相変わらず起きないやつの布団を剥ぎ取った瞬間、

ちらっと、片目でこちらを確認するので、堪えきれずに笑い出してしまった。

「なんで笑うの」

そう言いながらも、こちらに向けて両腕を差し出すので、

「姉ちゃんにだって、俺、こんなんして起こしてもらってたことないぜ?」

そう言って両腕を掴んで起こしてやる。

「俺もだし…」

目を三日月にして笑う、やつの笑顔を見ながら、

失いたくないな、と思う。

この、無条件に差し出された「信頼」という両腕を、掴みながらそう思う。

 

こいつだけでなく。

全員を。

友人でもない、家族でもない。

ましてや恋人でもない、自分で選んだわけでもない、

けれど、もう、かけがえのない存在となってしまった全員を。

 

 

 



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