天使なの？

今の仕事、向いてないのかもしれないなぁ。

そんなことを、日に何度も考える。

だからって、辞めてどうするのか、ビジョンはないし。


ただ、失敗するたび、心臓がきゅうっ、ってなって、ああ、この場から消えちゃいたい、って思う。


人と接することに、ものすごく負担を感じる。


誰もいない山奥へ行って、自給自足の生活がしたい。無理だけど。そんなこと出来ないくせに、そんなこと考える。


誰にも好かれていないんじゃないか。
私の言葉は誰にも届いていなくて、更に自分で気付かないところで、だれかを傷つけているのではないか。

そう考えだすと、もう迷路に迷いこんだように、抜けだせなくなる。

特に、こんな雨の日は。
部屋に一人でいると、自分なんて存在してもしなくてもいいような気持ちに、なる。



「…違うよ。」


低く、穏やかな声が聞こえた。


空耳かと思って、辺りを見渡すと、


黒髪の、大きな黒い瞳の、男の人が立っていた。

…驚くと、声って出ないものなのね…



「驚かせてごめんなさい。でも、これだけは伝えたくて。」

その人は、ゆっくりとした優しい口調でこう言った。


「いらない人なんて、神様はつくらなかったよ。」


…うそ。


「うそじゃないよ。ただ、人が、勝手にそう思い込むだけで。」


その人の声は雨音のように心地よかった。


「僕が言うのだから間違いないよ。いつも神様の近くであの方の言葉を聞いているんだから。」

…天使なの？

私がそう言うと、その人は頷いて、

「元気出して。」

と、笑顔を見せた。


あまりに優しい笑顔で、涙が出そうになった。

だって、ハートの形なんだもん、口が。



「ごはん、食べてね。」


唐突にその人が言う。


「なんでもいいから、自分で、自分のために作って食べてごらん。そうしたら、いろんなことに気づくよ。自分が生かされてるんだ、って思えるよ。
君の生きる場所はひとつじゃないから。
あまり自分を追いつめないでね。」


そう言って、私の手の中に何かを握らせて、その人は消えてしまった。


現実の出来事か判断しかねてた私の手の中に、白い、小さなおむすびが残った。



携帯が光る。


誰も私のことなんて気にかけてないと思っていたのに、「今日元気なかったけど、大丈夫？」って、同僚からのメッセージだった。


私は泣きながら、白い小さなおむすびを食べた。




私もいつか、誰かの『元気』になりたい。