飼い犬を散歩させてる時に出会ったその人の腕には、
翼があった。
小さな、小さな翼。
いつもの散歩コースでは、初めて見るひとだった。
とても背が高くて、目鼻立ちもハッキリしているのに、どこか、寂しそうな印象で…。
私は、意を決して声をかけてみた。
もしかして旅行者ですか、と声を掛けたのだ。
すると、その人は、とても柔らかく微笑んで、
「ええ、まぁ、そんなところです。」
と、答えた。
この辺はそんなに見て歩くような名所もないでしょう、と言うと、
「でも、公園が多いし、住んでいる人たちも穏やかで、良いところですね」
と答えた。
答えながら、その人の優しい眼差しは、私にではなく、私の飼い犬に注がれていた。
短髪で、長身のその人は、今まで私が会っただれよりも、優しい眼差しをしている。
他愛もない会話を少しだけ交わして、私たちは別れた。
ふと、振り返ると、
その人は、もう、どこにもいなかった。
あるいは、
天使だったのかもしれない。