優しさの向こう側・2 (カイスホstory2)

2014-09-30 | 優しさの向こう側

あれから、しばらくの間、ふてくされたように、こちらが話しかけても返事もしない。

 

あの日、カイが質問してきた日。

 

せっかく、本心を言ったのに。

「カイ、君を選ぶよ」って。

 

「その後、僕は他のみんなの後を追う」

って言ったのが、おもしろくなかったんだろ、きっと。

 

まぁ、仕方ないか。

その真意なんて、おまえはわかるはずもないし、わからなくていいよ。一生。

 

もし。

目の前に、メンバー全員が崖から落ちそうにぶら下がってたら。

 

そうだよ、僕は、迷わず、お前を選ぶよ。

お前の腕を掴んで、引っ張り上げる。

そして、他のみんなも助けるための最善を尽くす。

 

「ねえ」

と、久しぶりに、声を聞いた。その体躯に似合わない、小さな、少し高めの声。

夜、寝る前に、お茶でも飲もうかと、リビングに行くと、カイが追ってきて、Tシャツの裾を掴んできた。

「なに?」

「あのさ、この前の話の続きなんだけど」

…まだ考えていたのか。

「あのさ、質問が悪かったと、反省したんだ。あんな意地悪な質問…。

 崖から落ちそうな皆のうち、誰を助けるか、なんて…。

 ヒョンは、リーダーだもの、困る質問だったよね。だから、さ、」

「いや、答えは同じだよ、カイ。君を助ける。」

「でも、そして、あなたは、落ちてしまった他のメンバの後を追うんでしょ…

 そうしたら、オレ、ひとりぼっちじゃん。だからさ、他のメンバ、とかはやめる。

 オレが、落ちそうになってたら、にする。」

「もちろん、どんなことしても、おまえを助けるよ。」

ほんと、子どもみたいに、嬉しそうに笑うんだな、カイ。

「うん。オレも、助けるよ。オレも、もし、あなたが落ちそうになってたら、引っ張り上げる。

 あなたの腕を、離さない」

「…ありがとう。」

僕がお礼を言うと、顔をくしゃくしゃにして、笑顔になる。

ああ。この笑顔を守るためなら。

「でも、もし、僕の重みで、おまえの体ごと下に落ちそうになったら、」

「オレも一緒に落ちる」

…言うと思った。

それじゃ、だめなんだ。

それじゃ、意味がないんだよ。

「そうしたら、僕は、僕の腕を切り落とす。」

「…!」

ジョンインが息を呑む音が、聞こえた。

それくらい、彼の驚き具合が大きかった、とも、夜のリビングの中が深閑としていたともいえる。

「どうして…どうして、そんなヒドイこと、言うの。」

「ひどくなんかないよ。それが、唯一、君を助ける手段だったらね。僕は、本気だよ」

「たとえ話なのに…ひどいよ…。これじゃ、悲しくて、眠れない」

そう言って、泣きそうな顔でこちらを睨んで、部屋に行くジョンインは、まるで自分の価値をわかっていない子どものようで。

 

僕は、本気だよ、カイ。

お前は自分の価値を、少しもわかっていないんだね。

前にも言ったろ。

お前の踊りは、世界に通用する、って。

お前は、まだまだ先に行ける。

もちろん、僕らだって。

僕ら、みんなで、最後まで行きましょう、って、よくセフナが言ってた言葉だね。

僕も、本当に、それを望むよ。

できることなら。みんなで、世界を目指したいし、

世界の高みに行きたいと、そう思っている。

けれど、

おまえが、言い出したんだぞ。

「だれかひとり、えらべ」

って。

そうしたら、僕は、おまえを選ぶさ。カイ。

おまえの、その才能と、情熱と、それに見合った努力を、どれだけ側で見てきたと思う?

地下の練習室で流した血の混じった涙と汗の量を、僕は知っている。

でも、それだけじゃない。

おまえは、美しい。

おまえが、そのからだを揺らすだけで、世界がおまえに恋をする。

それだけのものを、持っていると、そう思うよ。

 

だから、どんなことをしても、もう、あの地下へ、戻らせはしない。

 

僕が、そんなこと、させない。

 

この腕を引きちぎっても、

おまえを、おまえだけは、

世界の高みへ、行かせてやる。

 

to be continue…



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