油屋種吉の独り言

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ながつきの頃は。

2023-09-08 16:40:26 | 日記
 台風13号が近づいている。
 テレビを観ると、どうも房総半島あたりにお住まいの方が
もっとも被害を受けていらっしゃることがわかる。

 九十代の女の方が、土砂で、腰から下がうまってしまった
と聞いた。
 助けられた。
 命には別条ないと聞いて、ほっとした。

 台風の速度はゆっくりだ。
 いまだに上陸していないようで、午後三時現在、その勢力
は996ヘクトパスカル、最大風速は30メートルくらい。

 あまり大きくないけれども、雨をたくさん降らせている。

 昔から長月はかように雨が多く、わたしなど永らく山間に
居住し、米作りに励んできた者の頭をなやませてきた。

 ちょうど実りの時期だからだ。
 べったり倒れた稲は、ながらく放置しているとモミが水を
吸い、芽を出してしまう。

 このふみつき、はづきはずっと日照りがつづいた。
 暑いなんてものじゃなかった。
 なんて表現したらいいか、じっくり、考えてみたいほどで
ある。

 減反中の田んぼがいくらかある。
 いろんな草が生え、まるで小さなジャングルのようになる
のに時間がかからなかった。

 まわりの田んぼには、水稲が植えられている。
 なりがわるくてしょうがないので、器械で刈り取ることに
した。 
 二度、三度と野良に出るたびに、この年老いた背中に、大
日如来さまのお光りがもろにあたった。

 農業にたずさわって、もう半世紀近くになる。
 かように太陽の光が熱を帯びていると感じるのは初めての
ことだった。

 自然の中で起きることには、すべて意味がある。
 人が認識できるものは、この科学の世でも、かず少ない。
 どういうわけか、しかと考えてみたい。
 慢心が人の世をほろぼしてしまうかもしれない。

 こんな荒れた海で……、いったいぜんたい、どうしたと
いうのだろう。
 海難事故が発生したらしい。

 二十代の女性ひとりと五十代の男性、水上バイクに乗っ
ていて行方不明と聞いた。
 海辺で暮らす方なら、ぜったい、そんな無謀なふるまい
はしない。

 捜索の結果、最寄りの岸壁下にある洞窟内で彼らの遺体
が上がった。
 遺族の方の嘆きはいかばかりか。

 常でもお盆過ぎの海は、時化やすい。
 小生が三十代の頃、三重県津市の浜辺で、若い女の方が
ふたり、土用波で、おぼれた。

 ひとりは浜まで泳いで来て助かったが、もうひとりの方
は波にのまれた。
 一分くらいは海水がのどに入って来るのを舌でもってさ
えぎっていられるようだ。
 決してあわてずにいられたら、逃れる道もあったろうが、
まことに無念なことだった。

 水着姿の彼女が発見されるのに長い時間がかかった。
 彼女の母が、波打ち際を、彼女の名を大声で呼びながら、
歩いておられる姿を、わたしはいまだに忘れることができ
ないでいる。

 隣の海なし県の山間部からおいでになっていた。
 お盆過ぎの海は荒れる。

 このことさえ知っておられたら、こんなことにはならな
かったのではなかろうか。

 ちょっとでいい。踏みとどまって、考えてみてほしいも
のである。
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1 コメント

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Unknown (sunnylake279)
2023-09-09 09:07:36
おはようございます。
台風の被害に遭われた方へお見舞い申し上げます。
早くに収まって良かったですよね。
お盆を過ぎたら海に入ったらだめと、昔母に言われました。
そのことを知らない人も多いのではと思います。
今日は、息子が愛知県まで車で遊びに行きました。
遠出するたびに心配になってしまいます。
安全運転でといつも思っています。

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