北関東から上越道へ。
この道をいくどか走ったことのある運転手
のМはおしゃべりしながら運転していく。
だが、高速運転はとても疲れる。
一般道路でも二時間が限度。高速道ならもっ
と短いのがいい。せいぜい一時間がいいとこ
ろだと、種吉は思う。
まるで計算問題をやるように、交代時期を
さぐった。
何事についても、浦島太郎ぎみの種吉でも
ある。
若い人話に、容易についていけず、Мの口
から飛び出す聞きなれない言葉に戸惑った。
しかし、それを表に出さない。
さも知っているかの如く、うんうんと首を
ふった。
「へえ、ジャンクションっていうんだ。そ
うだよな。聞いたことがあるような」
道が交叉して、上がり下がりしているとこ
ろに、車がさしかかったところで、種吉はふ
いのめまいにおそわれ、思わず、目を閉じて
しまう。
「うん?おやじ、急にだまっちゃって。いっ
たいどうしたんだい」
子どもだとばかり思っていた三男の野太い
声に、今更ながら種吉はぎょっとしてしまう。
「うんっ?あっなんでもない。ちょっとば
かり目が回っただけさ。あのな、あれだ。そ
うそう、おれ、ブランコが苦手でさ。大きく
振られると怖くってさ。ふわっと自分の魂が
どこかに飛んで行っていまいそうで…」
「けっ、そんなんで運転できるの。やんな
いほうがいいんじゃないの。失敗したな。こ
れじゃおれひとりでずっと運転しなくちゃな
んないや」
Мはしばし、だまりこむ。
ほかの家族のおしゃべりがふいにやんだ。
(まったくなんだっていうんだろ。一番下
のきょうだいがこうまで言ってるのに、あん
ちゃん連中がふたりとも……)
種吉はそっと目を閉じた。
新たな道に車が乗り入れると、平坦な道が
ずっとつづいていた。
種吉はため息をつき、子育てに加われなかっ
た自分をうらめしく感じた。
(おれの立場もあるが、仕事いちずであま
りかまってやれなかったのがわるかったんだ)
ああだこうだとマイナスばかりに目が行き
そうになったとき、
「わたしがやるから大丈夫よ」
かみさんが口を開いた。
「かあちゃんは、やんないでいい」
Мがはっきりと言った。
「どうしてよ。わたしだって父ちゃんより
キャリアは長いよ」
「だって、しょっちゅう、方向がわかんな
くなちゃうんだろ」
「うん、まあ」
兄ふたりは、こんな事態になっても、うつ
むいたまま。
「もう少ししたら、パーキングがあるから
ね。そこで休もう」
Мは自分を振り切るように言った。
「そうだ、そうだ。コーヒー飲んだり、お
いしいもの食べたりしたら元気がでるぞ。老
いたりとはいえ、おれはだってな、まだまだ
使える。ほら眩暈なんてもう治っちまった」
種吉が大声をだした。
この道をいくどか走ったことのある運転手
のМはおしゃべりしながら運転していく。
だが、高速運転はとても疲れる。
一般道路でも二時間が限度。高速道ならもっ
と短いのがいい。せいぜい一時間がいいとこ
ろだと、種吉は思う。
まるで計算問題をやるように、交代時期を
さぐった。
何事についても、浦島太郎ぎみの種吉でも
ある。
若い人話に、容易についていけず、Мの口
から飛び出す聞きなれない言葉に戸惑った。
しかし、それを表に出さない。
さも知っているかの如く、うんうんと首を
ふった。
「へえ、ジャンクションっていうんだ。そ
うだよな。聞いたことがあるような」
道が交叉して、上がり下がりしているとこ
ろに、車がさしかかったところで、種吉はふ
いのめまいにおそわれ、思わず、目を閉じて
しまう。
「うん?おやじ、急にだまっちゃって。いっ
たいどうしたんだい」
子どもだとばかり思っていた三男の野太い
声に、今更ながら種吉はぎょっとしてしまう。
「うんっ?あっなんでもない。ちょっとば
かり目が回っただけさ。あのな、あれだ。そ
うそう、おれ、ブランコが苦手でさ。大きく
振られると怖くってさ。ふわっと自分の魂が
どこかに飛んで行っていまいそうで…」
「けっ、そんなんで運転できるの。やんな
いほうがいいんじゃないの。失敗したな。こ
れじゃおれひとりでずっと運転しなくちゃな
んないや」
Мはしばし、だまりこむ。
ほかの家族のおしゃべりがふいにやんだ。
(まったくなんだっていうんだろ。一番下
のきょうだいがこうまで言ってるのに、あん
ちゃん連中がふたりとも……)
種吉はそっと目を閉じた。
新たな道に車が乗り入れると、平坦な道が
ずっとつづいていた。
種吉はため息をつき、子育てに加われなかっ
た自分をうらめしく感じた。
(おれの立場もあるが、仕事いちずであま
りかまってやれなかったのがわるかったんだ)
ああだこうだとマイナスばかりに目が行き
そうになったとき、
「わたしがやるから大丈夫よ」
かみさんが口を開いた。
「かあちゃんは、やんないでいい」
Мがはっきりと言った。
「どうしてよ。わたしだって父ちゃんより
キャリアは長いよ」
「だって、しょっちゅう、方向がわかんな
くなちゃうんだろ」
「うん、まあ」
兄ふたりは、こんな事態になっても、うつ
むいたまま。
「もう少ししたら、パーキングがあるから
ね。そこで休もう」
Мは自分を振り切るように言った。
「そうだ、そうだ。コーヒー飲んだり、お
いしいもの食べたりしたら元気がでるぞ。老
いたりとはいえ、おれはだってな、まだまだ
使える。ほら眩暈なんてもう治っちまった」
種吉が大声をだした。
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