Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

●第31回「加速されるグローバリゼーションのモードと情報の国籍」

2008-08-25 05:20:26 | ■カルチャからの解放

●第31回「加速されるグローバリゼーションのモード(形)と情報の国籍」


企業の経営資源の5要素(国内)は、ひと、モノ、カネ、情報、そして技術と言われています。

ひとは、人的資源管理(古くは人事労務管理)を指し、モノは、商品やサービスそのもの、カネは財務管理のことで、情報は、情報の流れやそのための手段となるコンピュータ/ネットワークの管理を意味し、技術は商品やサービスを生み出すシステムを示します。

さて、グローバリズムの経営資源の要素になるものを、この経営資源の5要素に当てはめて見ますと、

グローバル企業経営の要素は、

ひと=国際人的資源管理
モノ=商品自体や商品の売り方(グローバル・マーケティング)
カネ=国際会計
情報=取引情報の輸出入とインフラとしてのコンピュータ/ネットワーク
技術=グローバル商品開発や経営のオペーレーティング・システム

と言えるでしょう。

以下に各項目を簡単に説明しましょう。

◆ひと:
国際人的資源管理では、組織文化(組織風土)を以下の4つに分類する。エスノセントリック(EC:自国中心主義)、ポリセントリック(PC:ホスト=現地中心主義)、レジオセントリック(RC:地域中心主義)、そしてジオセントリック(GC:地球主義)の4つだ。

エスノセントリック(EC)は、日本企業に特に顕著に見られるもので、自国民(日本人)を中心に、海外子会社を組織化する企業組織だ。ポリセントリック(PC)とは、現地の従業員を中心に組織を形成する企業で、海外展開に成功している韓国企業の雇用戦略に見られるものだ。レジオセントリック(RC)は、社員がそれぞれの国を離れて、ある特定地域に移動する形だ。最後のジオセントリック(GC)は、多国籍企業に見られるように、世界規模で展開されるもので、社員の能力が中心で、国籍はあまり問題にされない。

また、国際企業の社員は、大別すると3種類ある。現地(ホスト)国社員(HCN)、本国出身社員(PCN)、そして第3国社員(TCN)だ。ホスト国社員とは、現地出身の社員のことで、第3国社員とは、ホスト国でも本国出身でもない第3国出身の社員のことだ。


◆モノ:
商品自体や商品の売り方、つまりグローバル・マーケティングのことで、世界を同じ商品で売る方法(コカコーラなど)や、国や文化によって商品のパッケージやイメージなどを変える「ローカリゼーション・マーケティング」(現地化、例えばカリフォルニアすしなど)の方法が、よく言われます。

また、日本発祥の文化/スポーツ(例えば、マンガやJudo)もグローバル商品と言えるでしょうし、その普及形態は、グローバル・マーケティングの対象となるでしょう。

◆カネ:
これは、円が海外での輸出入の基軸通貨になればいいのですが、今のところ、ドルやユーロなどがその位置を掴んでいるようです。従って、グローバルなカネの管理については、為替レート管理や現地国の税金、英文会計制度が中心になるでしょう。

税金関連では、法人税、知的財産権課税および移転価格(トランスファー・プライシング)の問題がある。

法人税については、企業の性格として、低い法人税率の国へとシフトしていくのは自然の流れだ。但し、タックスへイブン(軽課税国または地域、租税回避地)については、日本の租税特別措置法や法人税法では、法人税率が25%以下の海外の国・地域をタックスヘイブンとして、4つの適用除外基準を満足しない限り、タックスヘイブンにある子会社の利益を日本の親会社の利益と合算して課税することになっている。従って、相手国の法人税が低ければ低いほど良いというわけではなく、この点注意が必要だ。


◆情報:
情報の流れから言うと、情報の輸入と輸出、特に情報輸出時での表現方法が大事で、これは、日本語的なあいまいな表現ではなく、明示的な英語的表現、つまり、ホールの言う「ロー・コンテキスト社会」でのコミュニケーション方法に移行する必要がある。ロー・コンテキスト社会とは、アメリカ、ドイツ、スイス、北欧(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)が典型的な国で、大量の情報を、はっきりとした言葉で表現しようというものだ。
(参照:当ブログの第24回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その一)」)

更に、情報面で大事なのは、「情報の国籍」あるいは「情報のID」だ。これは、情報ソースを確認することで、その情報の信頼度(確実度)、鮮度、拠って立つところのバイアスを知っておくことが必要なためだ。特に、政治、経済、外交面での情報スクリーニング(情報選別)は、的確な意思決定を行うためには、大切な活動だ。

◆技術/システム:
経営のオペーレーティング・システムのことで、工業化社会においての企業戦略は、3S、つまり、規模の経済性(Economy of Scale)、範囲の経済性(Economy of Scope)、そしてスピードの経済性(Economy of Speed)などが言われている。実行の事業戦略レベルでは、それら経済性を実現するシステムとしての、例えばJIT(ジャストインタイム)などが含まれる。

メガトレンド面では、知識情報化社会の次に来る第4の波、「コンセプチュアル社会」(ダニエル・ピンク)では、活動の中心が、「組織」から「個人」へシフトするために、組織管理から個人のコンピテンシー(知識+スキル+態度)管理が主流になる。コンピテンシー管理では、以下の6つの感覚開発が重要になる。

1.デザイン能力、
2.情緒を育む物語能力(物語傾聴と物語創作)、
3.シンフォニー能力、つまり一見無関係なものを結びつける総合化・統合化能力
  (分析や特定の回答を与えるのではなくて)、
4.エンパシー能力(他人の感情や問題への理解能力、共感。シンパシー「同情」
  とは違う、EQやCQの問題になる)
5.プレイ(遊び。冗談や笑いの効用を重視する)
6.人生の意味を問う。

である。
(参照:当ブログ●第18回「第4の波『コンセプチュアル社会』とハリウッドの世界戦略~”右脳流出の時代へ?”」)

左脳に基づく第3の波(知識情報化社会)は、直線的、論理的、分析的な意味づけ(理由付け)が中心になっており、それに続く第4の波と言われるコンセプチュアル社会は、創造力、エンパシー(他人の感情や問題への理解能力)、直観力(第3の波で重宝された事実分析能力よりもむしろ感情に基づいた理解力や認識力)といった、右脳による能力を中心としている。

ここで見落とされやすいが、
非常に重要なことは、

西欧社会、特に、アメリカ社会が第3の波を主導し、直線的、論理的、分析的な意味づけ(理由付け)を中心に、(伝統的な)人材開発を行ってきたのに対し、日本社会では、特に、論理的な思考方法に慣れ親しんで来ていない、ということだ。日本を取り巻く諸外国が、日本経済の拡大に伴って、日本的経営のよさを十分に研究し、うまく取り込んできた(チームプレイの重要性など)間に、日本の組織では、西欧的な思考方法のよいところ、特に、クリティカル・シンキングの効果を取り入れてこなかったことだ。グローバルに展開し、意思疎通を図るには、このクリティカル・シンキングは基本中の基本だと思われる。
(参照:当ブログ「第23回『人間関係能力重視社会と専門能力優先社会~日本企業の慣習と社員の価値判断~』と第4回『批判するって、どういうこと?(健全なる批判精神のかたち)』)

最後に、
これら企業経営の要素の牽引役として、

「グローバル競争優位」が言われている。

グローバル競争優位には、

1.伝統的なM・ポーターの「ダイヤモンド理論」

2.イノベーション(革新)
がある。

M・ポーターの「ダイヤモンド理論」は、今なお有名かつ有効だ。

国や特定地域、立地の競争優位のことだ。つまり、国際競争力に影響を与える要因を分析したものだ。(冒頭の図を参照のこと)

これは、ベースボール場でのダイヤモンドと同じように、グローバルな競争力(投手)をダイヤモンドの中心に、それを取り巻き挟むように、競争力に影響を及ぼす4要因を分析したものだ。このダイヤモンド理論は、ある特定の地域(例えば、国)に根ざした企業が、なぜ、ある特定の分野で、継続してイノベーションやアップグレードを達成できるのかを説明する手助けになるからだ。それら4要因は、「要素(インプット)条件」が一つ、「需要条件」が二つ目、「企業の戦略・構造・競合企業」がその三、そして「関連サポート産業(クラスター、ネットワーク)」だ。また、ダイヤモンドを取り囲む4要因の張力がその強固さを示すことも忘れないようにしよう。この4要因を強力にサポートする「政府(自由放任、財政的援助)」と「機会(歴史的な事件)」の2要因が示されている。

次に、グローバル競争優位の重要な源泉である、イノベーション(革新)について検討しよう。

イノベーションについては、シュンペーターが詳しい。日本の産業界では、イノベーションの重要性を早くから認識していたが、これは、経済発展の理論やビジネス・サイクル(景気循環)理論を唱えていたシュンペーターの影響が強く感じられる。

シュンペーターは、イノベーションを「新しい組み合わせ(新結合、生産的結合)」という言葉で定義しているが、以下の5つがそうだ。

-新製品の導入
-既存製品の生産に新技術の投入
-既存製品の新市場開拓
-原材料の新しい供給源の獲得
-産業の再編成の実行(イノベーターの独占的地位の構築や打破による)

これらのイノベーションによる絶え間ない「創造的破壊」の繰り返しが、資本主義経済発展の本質的なものと捉えられている。


※写真は、P.コトラー<Kotler, P. (2000), Marketing Management, Millennium ed., Prentice Hall>(左)とM.ポーター<Porter, M.E. (1990), The Competitive Advantage of Nations, New York: Free Press>の表紙、およびPorter, M.E.(2000), Location, competition, and economic development: Local clusters in a global economy, Economic Development Quarterly 14 (1): p.20の図より


【参考】

●シュンペーターのイノベーション理論

最初、シュンペーターのイノベーションを調べはじめたとき、日本語の翻訳が、

新結合(イノベーション)とは何か。
1. 新しい財貨、(あるいは新しい品質の財貨の生産)
2. 新しい生産方法の導入
3. 新しい販路の開拓
4. 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5. 新しい組織の実現(たとえばトラストの形成や独占の打破)

となっていた。

ほとんどの引用が、どうも、岩波文庫版『経済発展の理論』塩野谷祐一, 中山伊知郎, 東畑精一訳, 1977(1912年ドイツ語原文からの翻訳)がソースになっているようだ。

しかし、財貨とは何か、新しい組織とは何か、がよく分からなかった。財貨とは、「貨幣または有価物、人間の欲望を満足させる物質(広辞苑第五版)」。
新しい組織とは、マトリックス組織やその他の組織構造を指すのかな、と想像しながら、シュンペーターの英訳本を調べたところ、上記のような翻訳に到達した。
下記の文献を参考にした。

Schumpeter, J.A. (1928), The Instability of Capitalism, The Economic Journal, 38(151), September, pp. 361-386

Schumpeter, J.A., Yntema, T.O., Chamberlin, E.H., Jaffé, W., Morrison, L.A. and Nichol A.J. (1934), Imperfect Competition, The American Economic Review, Vol. 24, No. 1, Supplement, Papers and Proceedings of the Forty-sixth Annual Meeting of the American Economic Association, March, pp. 21-32

Schumpeter, J.A. (1935), The Analysis of Economic Change, The Review of Economic Statistics, 17(4), May, pp. 2-10

Schumpeter, J.A. (1947), The Creative Response in Economic History, The Journal of Economic History, 7(2), Nov, pp. 149-159

Schumpeter, J.A. (2005), Development, Journal of Economic Literature, Vol. XLIII, March, pp. 108–120

Schumpeter, J.A. (1975), Creative Destruction, in Capitalism, Socialism and Democracy, New York: Harper, [orig. pub. 1942], pp. 82-85