◆第49回「続 グローバル化のメリット/デメリットとは?」
前回第37回「グローバル化のメリットとは?」では、欧米側の経営的視点から、国際経営学のテキストを元に議論を進めた。欧米のテキストは、日本のこの種のテキストと違い、現実のグローバル企業の実証研究を調査し、それを体系化するものが一般的だ。
さて、
今回の「続 グローバル化のメリット/デメリットとは?」では、
日本の調査報告書を元に、グローバル化をどうとらえているかを考えてみたい。
◇経済産業省の見たグローバル化の実態◇
経済産業省は、2008年の通商白書(世界経済の動向および内外経済政策を分析した60回目の報告書)で、日本を取巻くグローバル化の現状をマクロ経済的に分析している。
企業の観点から見た「グローバル展開でのメリット(デメリット)」および家庭(労働者および市民)の観点から見たグローバル化のメリット/デメリットである。
企業の観点からは、
海外での証券投資の収益が増加していること、現地国への直接投資の収益が増加していることが示されている。これら海外への投資の収益を「所得収支」といい、これまで、日本の経常収支を黒字にしてきた「貿易収支」(クルマなどモノの輸出))は横ばいのままである。この所得収支の黒字の増加が、経常収支黒字の増加につながり、対外純資産の増加につながっている。これが、更なる海外投資へと好循環の輪になっている。
一方、
企業の観点でのデメリットとしては、
企業の海外進出に伴う「国内産業の空洞化」により、国内生産の低下→雇用の減少(所得格差)と連なっていく。
更に、グローバル展開をすることは、これまでの国内だけの競合企業との闘いだけでなく、全世界の競合企業との競争になるため、より過酷な状況になると言えよう。現地の商習慣、現地の社会制度・労働法などとの違い、他文化の顧客への対応など、これまでにない違った分野が出てくることになる。
次に、
労働者/市民から見た、グローバル化のメリットは何だろう。
金融サービスの面から見れば、インターネットを使って、これまでは、日本国内の金融機関のみに限られていた取引が、瞬時に、海外の金融資産に投資が可能になったことだ。海外の金利の高い金融商品に投資をして、利益を得ることが可能になった。
また、為替差益の面では、円高になればなるほど、海外旅行で日本円のメリットを享受できるばかりでなく、円高による輸入品の低下も市民の視点から見ればメリットとなる。
一方、デメリットについて
当白書では以下の指摘がなされている。
労働者の賃金が減少すること(グローバル化による労働者の交渉力の低下とITなどによる産業資本や技術の集約化が要因となる)。
また、外国人株主の保有比率が高い業種ほど、株主重視、従業員軽視で、賃金の低下が認められるとの分析もある。
さらに、国内では、スキルのある労働者とスキルのない労働者間の格差が拡大する。
海外へ行く日本人労働者や一般市民の場合、
世界語としての英語の活用が一般的であるため、現地の人たちとのコミュニケーションの取り方が至難となることが考えられる。
また、海外では、
現地の文化、社会への対応が求められるため、これまでのような国内での考え方や過ごし方では、現地社会への適応が難しくなる。
(カルチャーショックの回復法や海外でのアイデンティ・クライシスについては、第42回「日本人の自律心を育むには」を参照)
以上、白書を元に、個人の見解を加えて、
メリットおよびデメリットを考えてみた。
グローバル化と言うと、
まず、企業組織のグローバル化が頭に浮かぶが、
企業活動に伴う製品/商品のグローバル化や
技術のグローバル化は進んでいても、
ひと(労働者)のグローバル化、
金融サービスのグローバル化は、
これからの日本の大きな挑戦になる。
【参考】
経済産業省「通商白書<2008>新たな市場創造に向けた通商国家日本の挑戦」
写真は、通商白書から使用した。