木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

【ホテル探偵ストライカー】

2012-12-05 22:38:23 | 日記


[世界の名探偵コレクション10]
【9ホテル探偵ストライカー】 コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)

ニューヨークのとあるホテル専属の探偵。
913号室での度重なる自殺に不審を抱いたストライカー。
自らその部屋に泊まるも…

事件も長いスパンで起きるので、解決も気なが。
時間をかけて執念の捜査。
トリックは、手が込んでる部類に入るかなぁ?
暇人の狂人と言ってしまえばそれまでだが。
(狂人に暇も忙しいもあるのか謎ですけど。
繁忙期の狂人、どっかにはおるやろ。)

ホテルにも関わらず、容疑者は少なめ。
怪しいけど、動機が無い。
1930年代のセキュリティののんびりさが可笑しい。
不気味な雰囲気もかもし出しているし。
最後はアクションもあって結構盛り上がる。

この探偵、気になってきたので他の活躍も読みたいな。
と思いきや、ウールリッチは、同じ登場人物を書かないとのこと。
んな、殺生な。。。
長いお付き合いは苦手らしい。
シリーズ無しってのもチョイ寂しい。


同時収録[裏窓]
ヒッチコック監督作が有名ですが。
原作はかなり雰囲気が違う。
美女も出てこないし、音楽家やらのちょっといい話も無い。
何故、窓際から動かずに居るのかが、オチになってたりする。
映画観て、知っちゃってるけど。
原作のオチはこれはこれで、心憎いオチだと思う。

映画は映画で楽しめる。
グレース・ケリーのため息もののエレガントさ。
お泊りセットとか出してくるグレースの可憐さに、
もう、泣いちゃうからっ。
好感度120%のジミー・スチュアートのショボショボ喋り。
セルマ・リッターの熟練の味わい。
他の住人の人生を垣間見せつつ、しゃれた会話も楽しめる。
最近の映画で、しゃれた会話を楽しもうとするとかなり難しいので。
クラシック作品は、やめられん。
美男美女が大人のしゃれた会話で楽しませてくれるなんて。
ええ時代やったのう。。。

最近では「ツーリスト」(2010年)が、クラシック映画を彷彿とさせてくれて
ちょっと嬉しかったな。

ウールリッチの他の収録作。
[ガラスの目玉][シンデレラとギャング]
それぞれ12歳の男の子が主人公の話と、16歳の女の子が主人公のお話。
こんなティーンエイジャー物、書いてたんだ。。。
意表をつかれつつ、
読んだらこれがまた、なかなかいい。
街の雰囲気、人物の魅力、サスペンス。
短編集にふさわしい二編。

充実した解説を読む。
ウールリッチはフィッツジェラルドのライバルとしてデビュー。
(若者の話も書けるはずだよ、あんた、と納得。)
ハリウッドで結婚するも、すぐに破局。
原因は、彼の同性愛。
日記には自らの結婚について‘傑作なシック・ジョーク’と記載。
(って、ひとでなし~。これは、酷い。)
しかし、これが転機となり、作風が変わったとか。
ニューヨークに戻り、ホテルで母と二人暮らし。
そして、ミステリを書き始める。

【幻の女】の原稿で一箇所文章の訂正を求められ逆上した彼は、
他の出版社に行き、違うペンネーム<ウィリアム・アイリッシュ>で発表。

こんな経緯でこのペンネームが生まれていたとは。。。
トホホ。ホホ。



“ギプス生活最後の週のオープニングナイトよ”
“キップの列なんて出来てなかったけど?”
“私が買い占めたの”
「裏窓」(1954年)より