木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

すべての季節の男─わが命つきるとも

2012-12-03 00:51:18 | 日記


【すべての季節の男─わが命つきるとも】ロバート・ボルト

SFか?と思わせるタイトル。
「ユートピア」を書いたトマス・モア卿を描いた戯曲。
ヘンリー八世+トマス・クロムウェルV.S.モア。

ヘンリー王とキャサリン王妃との婚姻無効を受け入れないモア。
どうにか認めさせようとする政府。

賢いモアは、考えを発言せず、家族にも打ち明けず、ひたすら黙秘。
何も言わない者に対しては、揚げ足も取れず、攻めようも無し。

クロムウェルが、あの手この手で攻めるも、
モアの方が一枚上手。

裁判でも、
黙秘する事自体、否定を意味すると責めるクロムウェル。
黙秘は承認である、と答えるモア。
(さすが弁護士でもあるモア卿)

結局は、業を煮やしたクロムウェルがせっこい手を使い
有罪にしてしまうが。

ここで映画版「わが命つきるとも」(1966年)
やたらアカデミー賞獲ってますけど。

ヘンリー八世役のロバート・ショウのはじけた笑い。
モアの妻役ウェンディ・ヒラーの迫力。
ウルジー枢機卿のオーソン・ウェルズの存在感。
スザンナ・ヨークの清楚で知的な美しさ。
チョイ出のヴァネッサ・レッドグレーヴの、ハッとするほどの輝き。
ジョン・ハートの若々しさ。
収穫の多い映画である。

特に、ロバート・ショウは素晴らしい。
いわゆる王様、天下とった殿様の笑い。
ほぼ、わざとらしくなるのがおち。
それをここまで上手いと思わせる。
殿の笑いってこれかぁ、と納得。
やり過ぎるとしらけてしまう気性の激しい役なのに。
お見事。

映画版は、どうしても字数制限のせいで要約が目立ち。
字幕でセリフを楽しむのが難しいのが残念。
こればっかりはどうしようも無いが。

原作戯曲を読むことでセリフを堪能。
幕ごとに平民が衣装を変えて違う役を演じる趣向も舞台ならでは。
こういう仕掛けが楽しい。


尊敬すべきモア卿に対し、クロムウェルは悪役。
たいてい印象の悪かったクロムウェル。
ヒラリー・マンテルが【ウルフ・ホール】でイメージを一新。
続編もブッカー賞を受賞。
どうなんだろ。
不審に思いつつ、やっぱり読んじゃいそう。