木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『クレアモントホテル』と《クレアモントホテル》

2013-05-20 01:13:11 | 日記


「クレアモントホテル」エリザベス・テイラー

映画を先に観て、の読書。
ソフトでかなり夢見がちな映画に対して。
あの、作家が?
まさか!!
だって、「エンジェル」書いた人でしょ?
忘れもしない、今だトラウマな短編「蠅取紙」。
容赦のない物語の、運び手である彼女。
それが、あんな優しき人々を描いたはずがないって!
との確信のもと、読み進める。

案の定~。
辛らつな描写が、あっちにもこっちにも。
でも、さすがにいい話な部分もちゃんと有った。
が、全体的には夢を見させない、現実的な展開。
映画の優しさを期待すると、萎れてしまいそう。

夫に先立たれたパルフリー夫人は、
自立すべく娘と離れて、長期滞在ホテルへチェックイン。
ホテルでは、同じく老後を過ごす長期滞在客が、今日もメニューに愚痴をこぼす。
お互いにそれぞれの性格にどうにか対応しながら、楽しみを見つけようとする人々。
そんなある日、パルフリー夫人は歩道で転んだところを青年に助けられる。
こうして作家志望のビンボーな若者との交流が始まるが…

余生をホテルで送る人々の孤独と人間関係。
これといって何も起こらない退屈さ。
食べて寝て、お喋りをする。
しかし、何かしら予定なり楽しみなりが無いと味気ない。

優しくされないから、優しくできない。
他人に厳しくなるばかり。
飲んで喋って紛らわせる派。
世間を非難するか、自慢話をするか。
色々な歳のとり方、ちゅーか人格形成の仕方。
どうにかして時間を潰す人たち。
シビアな展開をドライな文章で綴った一冊。


映画版は、
老婦人の胸キュンを中心に、
クセは有っても、どこか憎めない人達の群像劇。

主演のジョーン・プロウライトがすでに優しい雰囲気。
どう見ても、愛嬌ある人なつこいおばあ様。
そ~し~て~。
ルパート・フレンド。
どこの貴公子じゃ?
もう、片足、ファンタジーに突っ込んでます。
ロンドン中探しても、こんな若者居ないだろー。
ギターを爪弾きながら、懐メロ歌う姿のメルヘンぶり。
見てるこっちが赤面ですがな。
原作はさて置き、柔軟剤仕上げな映画。



『クレアモントホテル』(2005年米/英)
監督:ダン・アイアランド、原作:エリザベス・テイラー、脚本:ルース・サックス、音楽:スティーヴン・バートン
出演:ジョーン・プロウライト、ルパート・フレンド、アンナ・マッセイ、ロバート・ラング、ゾーイ・タッパー、クレア・ヒギンズ


『体験のあと』(穴)

2013-05-18 23:09:19 | 日記


「体験のあと」(穴)ガイ・バート

起こらなかったことと、起こったことの差がひじょーに激しい。
ワザ有りってとこか?
読後感は、まったくもって満たされませんが。
狙って書かれたんじゃあ、文句も言えんなぁ。
でも、このモワモワ感、なんとかして欲しーな。。。

モワモワに果敢に挑んだのが、あの映画化だったのか?
う~ん…記憶が薄い。
思いだせん!

学校の敷地にある、今は使われなくなった地下室。
5人の男女が食料持参で三日間閉じこもる事にするが…


読み終わったら、違う話になってた─。

というか、新たな話の始まりになってたというべきか。
だったら、続けて欲しいとこなんですけど。
上手いこと、切り上げられちゃってるし。
読者に周到に知らされる事実も、チラりだったり。
事務的な文書だったり…と、どこまでも作為的。
いやらしいな…。

ま、事実、いや~な話ではあるが。
それを感じさせずに読ませるのがスゴイと言えばスゴイ。
青春の1ページ(悲惨なほうの)といった感覚。
サイコスリラーって言うから、それぞれの心理だとばかり。
誰の心理劇なのかが問題。
ここらへん、やっぱ上手いな。

若気のいたり、サバイバル編。
~案の定、ティーンの悪ふざけは悪夢と化す~
回復するまでもう待てない!の巻。

『遠い声 遠い部屋』

2013-05-17 00:19:25 | 日記


「遠い声 遠い部屋」カポーティ

なんちゅー瑞々しさ。
朝露のごとく綴られる文章。
どこの朝市かと確認したくなる新鮮さ。
これを、あの巨体のおっさんが…?

ぶーちゃけてからの印象が余りに強いもんで、つい。
若かりし頃の写真見ると、少し疑いは晴れるが…


人生の残酷さと、生きることの瞬間的な美しさが充満する本。
中でも大人の身勝手さが、辛い。

13歳のジョエルは母の死によって、ど田舎の父の元に呼び寄せられる。
温かみのない義母、個性的な料理人、個性的で趣味人な義母のいとこ。
近所の悪童アイダベル。荒廃したホテルに住む呪い師?
寝たきりの父…

南部の田舎で孤独と倦怠に疲れ果てた人々。
ジョエルは聞きたくもない話を聴かされ、
知りたくもない事実を目の当たりにする。

十二分に面倒を見てもらい、安心して暮らせるはずの家になるはずが。
大人たちに振り回されるジョエル。
強気なアイダベルは、周囲にひたすら反抗する事で生きる。
ジョエルは自分が必要とされている事を理解し、受け入れる事で生きる。

情景も、それぞれの人生もロマンチックだったり、幻想的だったりするけれど。
繊細な感受性に裏付けられた残酷さの、恐ろしさを思い知る一冊。