木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『暗号名はフクロウ』

2013-04-16 18:00:49 | 日記


「暗号名はフクロウ」モーリス・ドニュジエール

暗闇でも目が見えるという─
明らかにX-メンには入れてもらえないよーな地味な能力を持つ男。
ニクタロープ(昼盲症)の才を買われ、
フランス軍防諜機関にスカウトされる。というか脅しを受ける。
任務地→バハマ=楽園
任務→冒険=ロマン
というお気楽、安直な連想によって引き受けることに。

現地で、これでもか!というほど再三命を狙われるも、
本人は、その深刻さに気づかないという鈍さ。
時に詩を口ずさみ、幸福にひたる能天気男。

物事を悪くとらない、
相手を疑わない、
という諜報機関に居るはずのない性格の持ち主。

相棒の空手チャンピオン、フランソワに白い目で見られつつ。
友情も育ち~の、任務もどうにかこなし~の。
食事も酒も女も楽しむという、器用さ。

鷹揚に構え過ぎな為、文章がなんとなく自慢口調。
そこが笑えるというか、ユーモラスな部分でもあるのは分かるが。
なかなか笑いまでは至らず。
のんびり読めるホラ話といったところか。

丁寧な文章なのが、ちと回りくどい。
そこがまた、ユーモアに繋がってるのは承知ですが。
これまた、なかなか微妙なとこ。

夢見がちな男の、ちょっと気取ったアドベンチャー。

オースティン・パワーズだって小説にしたら、
案外こんな感じになるのかもな。。。

『ヴィオルヌの犯罪』

2013-04-15 21:35:42 | 日記


「ヴィオルヌの犯罪」マルグリット・デュラス

1954年のフランスで実際に起こったバラバラ殺人事件。
デュラスが犯人に面談してまで追求した無動機殺人。
事件を基にはしていても、あくまでも、フィクションですが。
狂気をいかに描くか?にとことんこだわった作品。

インタビュー形式で綴られる事件の全貌。
録音という作業によって、独特の対話、沈黙が生まれる。
奇妙な緊張感。
また、録音の録音などの入れ子式のインタビューもあり、かなり複雑。
デュラスの試行錯誤が伺われる。

‘狂気’の壁にぶち当たった場合、
やはり理解など有り得ないのだと気づく。
思考回路が違うこと自体は必ずしも悪いことではないが。
殺人に至った回路が不明という異様さ。
‘狂気’においては‘こだわり’もまた異常。
繋がらない話、的を得ない語り。
聴いている者が、決して埋められない空白。
この恐ろしさが、ジワジワと伝わってくる本。



『マンハッタンの哀愁』

2013-04-11 16:14:56 | 日記


「マンハッタンの哀愁」ジョルジュ・シムノン

シムノンにハズレ無し。

つっても、全部(三百編!)読んでないけどさー。
そもそも翻訳されてなかろう。

メグレシリーズを含め、10冊前後は読んだはず。
心の襞、気持ちの機微を描く丁寧さ。
ちょっとした行動や、言葉で、突如身近に感じる登場人物たち。
人物に対する姿勢、距離感がじつにフェア。
巧みであるにも関わらず、読者に対してもフェア。
この率直さ、世界共通ー。
世界中で愛読されるゆえんか?


人生に疲れ、行き詰まった中年の男女。
ニューヨークのダイナーで偶然出会ったふたりは、
あてどなく彷徨い、時間を、空間を共有する。
孤独から逃れる為、誰でも良かったはずの偶然は、
いつしか必然へとなり、あらゆる感情の波が押し寄せるが…


相手に何かを見出し、自分の中の何かに気づく。
人生において、確信出来ることがいかに少ないか。

男と女は違う生き物である─。
少なくとも、この小説の二人は。
全く異なる心の旅路を辿り、ゴールも同時ではない。
人生に対する恐怖と恋愛に対する恐怖が折り重なり。
先を争うように、顔を出す。

羞恥と気遣い、疑問とイライラ。
愛情と不安、嫉妬と不快。
そして怒り。
修羅場を向かえ、
離れ離れになり。
そして─

雰囲気的には、死刑台のエレベーターを彷彿。
やはり、カラーではなくモノクロの感覚。
ラストは戯曲のような、空間的な余韻を残す。

不器用な男が
愛を確信するまでの、愛情経路。
二人の違いを巧みに大胆に、
時に赤裸々に描く。
滋味溢れる再出発賛歌。
うう~む、と唸らされるシムノン節。


 「あんた、わたしを追い越したと思っているんでしょ?
 わたしよりずっと先にいると思い込んでいるんでしょ?
 かわいそうな人、ずっと後方にいるのはあんたのほうなのよ」



『ロンドン・ブールヴァード』

2013-04-10 23:52:50 | 日記


「ロンドン・ブールヴァード」ケン・ブルーエン

ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(1950年アメリカ)
を下敷きに描くノワール小説。

アンドリュー・ロイド・ウェバーが『サンセット・ブールヴァード』としてミュージカル化してたり。
グロリア・スワンソンの怪演?熱演?あーっと凄みがフィルムに焼き付けられた映画。

(人によっては)トラウマも与えるが、インスピレーションも与え続ける名作映画。


出所したギャングのミッチェルが、とあるお屋敷に雑用係として雇われる。
カムバックを夢見る往年の舞台女優とその執事が暮らす閉鎖的な生活。
堅気になろうとするミッチェルに、ギャング仲間から仕事の誘いが…
どんどん深みにはまり、果ては報復合戦に。
愛憎渦巻く修羅場が繰り広げられる。

映画をとても忠実になぞってますが、
ギャング生活の部分が多めでバイオレンス盛りだくさん。
泥沼にはまると、あっちもこっちも血をみるという…
留まる所知らず、ノンストップで展開。

しつこ過ぎない暴力描写なのが、ありがたや。
本や映画からの引用があり、とにかく固有名詞が多い。
音楽に関しては、これでもか、とこだわりを発揮。
この場面では、この曲、とBGM状態。
明記されると、気になるもんで、やっぱググるハメに。
カントリーやフォークなどのしんみり、じんわり系の音楽が基本か?
出てくる固有名詞ぜんぶ調べてたら、二日はかかるぞ。
心して調べるべし。
気にならない人はスルーで読むべし。
そもそも、雑学、知識として知らな過ぎか?

ラストの鮮やかなハードボイルドぶりが嬉しい。
そして、“ほぼ”誰もいなくなった─
これでいいんです。

そういや映画版は公開当時観にいったな。。。
コリン・ファレルがスーツ似合ってはったのは覚えとりますが…
う~んと、サントラも雰囲気も良かった気がするが。
今思えば、原作とは似ても似つかない物になってた訳か。
映画は映画で、良いトコ有ったんだけどな。
ま、別もの、別もの。

今回の収穫。
ラルフ・マクテルの《ストリーツ・オブ・ロンドン》
レナード・コーエンの《フェイマス・ブルー・レインコート》
UNA PALOMA BLANCA (パロマ・ブランカ幸せの白い鳩)なる曲が存在する事実。
オランダのジン“ジュネヴァ”

『怠けものの話』

2013-04-09 00:56:27 | 日記


「怠けものの話」ちくま文学の森9


堀口大学による6行の愚話「蝉」で幕を開ける短編集

O・ヘンリー「警官と賛美歌」は優等生的な出来上がり。綺麗なまとめ方、というかオチ。

ドストエフスキー「正直な泥棒」は呑んだくれの厚かましさと小心さを描く。
短編でも罪の意識に興味を示す所は、さすがドストエフスキー。
玉葱にパン、キャベツのスープという食事風景、生活が泣ける。

魯迅「孔乙己(コンイーチー)」は、酒屋に来ると必ずからかわれるという落ちぶれた男の話。
しかし、この男のおかげで店内に快活な空気があふれるという不思議。
市井の人々の情感溢れ、光景が目に浮かぶような実に味わい深い一編。

モーパッサンの「ジュール叔父」は、アメリカで成功したはずの父の弟が、蒸気船の下働きに?
さすが短編の名手、父母の自慢ぶり、手の平を返したような狼狽ぶり、残酷さが滑稽で哀しい。
人生の辛苦、無常観を漂わせつつ、甥っ子の叔父に対する気持ちが救いになっているあたり、お見事。

モルナール「チョーカイさん」は不精な夫が妻に愛想をつかされるまでを皮肉たっぷりに描く。
どこか不気味さを感じさせる心理戦、不協和音が個性的な話。

サーバー「ビドウェル氏の私生活」は夫のくだらない思いつきが、妻をイライラさせる話。
息を止めてみたり、という他愛無い子供じみた振る舞いに過剰に反応する妻。
ナンセンスで、若干の不条理さをかもす短編。

W・アーヴィング「リップ・ヴァン・ウィンクル」は、アメリカ版浦島太郎。
女房の尻に敷かれた優しい男、愛犬もろともガミガミと責められ追い立てられる日々。
一ポンドのために働くよりは、一ペニーの持ち金で飢えているほうがいいという気ままな男。
ある日、山奥に迷い込み奇妙な老人達と出会い、酒を飲み眠り込んでしまうが…
誰しもこの名前は、聞いた事があるはず。
こんな話だったっけ?と思いつつもリップの人柄が丁寧に描写され恐妻物語としても涙。

上野英信「スカブラの話─黒い顔の寝太郎(ねたろう)」は、九州の炭鉱に居たという、通称スカブラと呼ばれる怠け者のお話。
さぼってばかりいる坑夫は、炭塵がふんわりと皮膚につもり、汗もかかないので、洗い流されず拭きとりもしないので、まんべんなく真っ黒になるという…。
なるほど。
また、首にかけた手拭いは、汗ですぐに真っ黒になるが、怠け者の手拭いだけは、いつまでも白いままという…
なるほど。
しかし、道化の如く喋りまくり、ダボラを吹きまくる怠け者は人気があったという。
‘なに一つ働かないのに、彼がいる日はどんどん仕事がはかどり、彼が休んだ日にはさっぱり能率があがらなかった。
 そして彼のいない日の職場は、八時間が倍にも三倍にも感じられた。’
興味深~い話であり、貴重な記録でもある一編。

ケッセル「懶惰(らんだ)の賦(ふ)」は、めんどくさがりに対する考察。
 ‘断固たる態度で、羞恥心も後悔もかなぐりすてて懶惰にならなければいけない’
 ‘世界中で一番不決断な国民、彼等の不決断は行為に関してではなくて、その行為の継続に関してなのだ’
 ‘身体の中に発動機を備えて、遮二無二にその馬力を消耗しようしているような国民’
世界を旅し、その国民性を観察するエッセイ。
舞台や話がコロコロ変わり、読みづらい部分もあるものの、鋭い人間観察が面白い。

P・モーラン「ものぐさ病」は、怠惰な美貌の女スパイの話。
ものぐさのおかげで、悪行が回避されているやもしれんという可笑しな説を披露。
‘いい気持で砂浜に寝ころんでいて、そのまま戸をこじあける時刻を過ごしてしまう泥棒’とか。

桂米朝演「不精の代参」は、代参を頼まれた不精者が、じゃまくさいを連発する落語。
‘ンー、もう頼まれたら断わるのんじゃまくさいさかい、行こか’
さすが、不精者!

幸田露伴「貧乏」は、金もなくふて寝する夫に、精一杯の心配りで朝酒を都合する世話女房。
悪口を言い合いつつも、お互いの惚れっぷりが心に響く短編。

金子光晴「変装狂」は、やたらと風体を変え、なりすますという趣味を持った男の話。
奇人変人にも、友達や知り合いがいて、世の中にそれなりに受け入れられていたわけか。

谷崎潤一郎「幇間(ほうかん)」相場師が太鼓持ちに弟子入りし、その才能を発揮する話。
生まれながらの愉快者。酒の席でかかせない男。愛嬌あるおひとよしの滑稽譚。
宴の様子や、芸者衆の姿が鮮やかに描かれる、得な男の損な生き様。

石川淳「井月(せいげつ)」実在した俳諧師の流浪の人生。
本物のさすらい人、風来坊は最後は、枯田の道で行きだおれたという。
怠け者とは言え、なんだか寂しさと壮絶さが色濃い一編。

山本周五郎「よじょう」
宮本武蔵の腕を試そうとした包丁人が、一刀で斬られ、その息子はやけを起こし蒲鉾小屋で乞食暮らし。
その場所がたまたま武蔵の通る道だった事から、仇を討つつもりだと勘違いされる話。
世間から鼻つまみものの若者が、ひょんな事からチヤホヤされるようになる可笑しさ。
本人はのらくらしてるが、世間もいい加減なもの。
ダメ息子がちゃっかりと身を立てるに至る、怠け者転じて福となす様が楽しく気持ちよく描かれる。
山本周五郎の文章は読みやすいのが有り難い。

太宰治「懶惰(らんだ)の歌留多(かるた)」
 私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰である。
という一文で始まるなまけぶりを吐露する一編。
どれだけ怠け者かというと、魚はとげがあるから面倒くさい、暑くても団扇をあおぐのが面倒くさい。
それがいつの間にか、作家としての懊悩、自分の力量、弱さを赤裸々に告白している。
つれづれなるままに反省する男、太宰治。

坂口安吾「ぐうたら戦記」
 私のように諦めよく、楽天的な人間というものは、およそタノモシサというものが微塵もないので、
 たよりないこと夥しく、つまり私は祖国と共にアッサリと亡びることを覚悟したが、死ぬまでは酒でも
 飲んで碁を打っている考えなので、祖国の急に馳せつけるなどという心掛けは全くなかった。
子供の時分からのサボりまくり人生。
 文学は話ではないよ。それは私自身で、私がそれを表現するか、さもなければゼロだ。
のらくら過ごした戦争と、彼自身の表現者としての内なる戦争を描く、酒のつまみ(板ワサ?)のような味のある作品。

武田麟太郎「大凶の籤」
潔癖と億劫さ故の不潔、行きつ戻りつするその不思議。
規律が僅かでも乱れると、徹底的に怠けだし一切を放擲したくなるという性質。
木賃宿で出会った自称‘高等乞食’と、狐を連れたおみくじ売りと過ごした大晦日を綴る。
怠けの虫に取り付かれ、というか倦怠に陥る様子や、理屈は分かっていても行動に移せないダメ~な感じ。
非常に良くわかります、その感覚。

富士正晴「坐っている」
坐って、考え書いている。坐って食べて呑んで喋っている。
もののこわれ年ならぬ人間のこわれ年があるとは?
ヒゲをはやせば、気分も性格も変わるのか?
独特のテンポの文章とユーモアにニヤニヤと楽しめる作品。

宇野浩二「屋根裏の法学士」
妙なめぐり合わせで法科を卒業したものの、一定の職もなく貧乏する男。
高慢でありながら、内気な男は何もする気がしなくなり、なまけ放題。
押入れの上の段を万年床にし、浮世を軽蔑し昨今の芸術に対して不満を持つ。
 しかし、要するに、この世に処して行くための最大の要素である根気と勇気と
 それから常識とが彼に欠けていた。何もかもが彼にはつまらなかった。
 何もかもが味気なく、何を見ても、何を聞いても、彼には、不快で、
 時には腹立たしくさえなった。
もっと身を入れていればなぁ、頑張らなきゃなぁ、という夢想にふける日々。
このダメさ加減、ピカイチ。

岡本かの子「老妓抄」
ある老妓の芸達者ぶりと、生き方、薀蓄ある言葉。
この芸妓が、発明家になりたいという若者を支援しだすが…という話。
半年は勤勉だったものの、何となくぼんやりしてきて、欲が出ない。
発明は投げ打ったきり、そのうち、出奔癖がつき度々脱走するようになる。
人生に求めるものとは?
奥深~い一編。
 「何も急いだり、焦ったりすることはいらないから、仕事なり恋なり、無駄をせず、
 一揆で心残りないものを射止めて欲しい」
 「そんな純粋なことは今どき出来もしなけりゃ、在るものでもない」
 「いつの時代だって、心懸けなきゃめったにないさ。だから、ゆっくり構えて、
 まあ、好きなら麦とろでも食べて、運の籤の性質をよく見定めなさいというのさ。」


久々に色々な日本語表現、個性ある文章に触れ刺激的な読書体験を満喫。
言葉の豊かさにしみじみと浸る。
怠け者の姿に、自分自身を見出す戦慄と、仲間意識に熱くなる思いを胸に。
言い訳を探す今日このごろ。
最終的には、怠惰なのは生まれつきです!宣言かー

《愛、アムール》

2013-04-06 15:21:46 | 日記


『愛、アムール』(2012年フランス/ドイツ/オーストリア)

静かに心臓が破裂する映画。

老いたふたりを、固唾を飲んで見守る緊張感。

教え子のピアニストの活躍を誇りに、老後を楽しむ音楽家夫婦。
のどかな日々は、アンヌの発作で終わりを告げる。
術後に半身不随になってしまった妻を介護する夫ジョルジュ。
病院に入院させないという約束を守り、高齢のジョルジュは懸命に付き添うが…

症状が、どんどん悪化していく恐怖。
事態が深刻になっていく残酷さ。
思うように動けない、ピアノが弾けないという絶望。
でも、本は読めるし自分で食べられるし話も出来る。
しかし、言葉の発音が難しくなり、思考が緩慢とし、動く事すら出来なくなる。
水に手を伸ばす事も不可能、流動食を飲み下すのがやっと。
出来ていた事が出来なくなるという憤り。
他の人に頼らなくては生きていけないという屈辱。

おそらく厳しく良いピアノの先生だったのだろう。
何事もきちんとこなしていた立派な妻であり、母だったのだろう。
動きを奪われ言葉を奪われ、かつての自分ではなくなっていく悔しさ。
本人も辛いが、見守る家族のショックも大きい。
目の前で刻々と、愛する者から何かが奪われていく。
優しい夫は、高齢な身で献身的に介護する。
冷静で思いやりがあり、我慢強い姿が泣ける。

全ての行動は愛情あってのものだと納得。
だからこそ、彼女も迎えに来てくれる。

生活の延長線上にある死を受け入れる事。
一つ一つのシーンとして瞬間が刻まれる映画。
人生はシーンであり、瞬間であり、全ては続いている。

とても言葉では言い表せないような気持ちを、
一本の映画を通して受け止める、という体験。

『愛、アムール』(2012年フランス/ドイツ/オーストリア)
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ、美術:ジャン=ヴァンサン・ピュゾ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール、
アレクサンドル・タロー、ウィリアム・シメル

『探偵ムーディー、営業中』

2013-04-05 13:25:10 | 日記


「探偵ムーディー、営業中」スティーヴ・オリヴァー


このタイトルの狙い、何ですかー?
そしてこの表紙…
何を期待すればいいんだ?
マイアミ・バイス?
というかドン・ジョンソンかマーク・ハーモンだな、と予想。
確認の為、購入。

戦争の後遺症により精神病院から退院したばかりのムーディー。
夜はタクシードライバーをしつつ、念願の探偵デビューも果たす。
失踪した夫の行方を探す依頼を受けるが…

設定は1978年。
“あいだの離れたグレーの目、角張った顎、何度も折られたような鼻。
人によってはハンサムだと言うが、荒々しい顔だ。”
(って、こらこら。
ハンサム自慢に、ちょっと引く。。。)

“「いつ探偵になりたいと思ったんだ?」
「病院に居るときに幻覚でハンフリー・ボガードとよく話をしてたときだ」”
(っておいおい。あまり聞かないねぇ、この理由…
ツッコんでいいんだか、聞き流すべきか?
とりあえず、更に引く。。。)

“俗物やいかがわしい人間の大勢いる不潔で敵意に満ちた地獄のような大都会だと、
私のようにすねた人間もその他大勢になってしまう。が、ここでならユニークでいられる。”
分かったよーな分からんような…
いじけてても、強気。やさぐれ系ハードボイルドか?

タクシーの乗客を通して見えてくる生活。
不動産業や弁護士、ヒッピー、元カノが登場。
全員、隠し事ありそうな雰囲気。
ムーディーの別れた妻と幼い娘の描写が温かいのがいい。
けど、かなりメソメソしてるムーディー。
探偵に向いてないな、お前、と言われる始末。
殺人はあるが、凄惨さは無し。
緊迫感はほどほど、どちらかというと事件よりも人物描写が中心。
底辺に生きる人々を描くのが上手く味わい深い。

独特のトーン、ニヒル度は低い。
思わずニヤリとさせられる、ユーモアを感じる文章。
“六時頃、関節炎にかかったプレッツェルにでもなったような気分で目が覚めた。”
“着ているのは、歩くとからだにぴったり張りつくタイトなラベンダー色のドレス。
悪趣味なのが私だけでないことがわかって安心した。”
“私は、でん粉が入った皿と同じくらい感じやすい”

その鼻どうしたの?と必ず聞かれるムーディー。
オーウェン・ウィルソンが適役か?
デヴィッド・ストラザーンの渋さをプラスすれば完璧なのだが…

原題:MOODY GETS THE BLUES

『曲芸師のハンドブック』

2013-04-01 00:18:52 | 日記


「曲芸師のハンドブック」クレイグ・クレヴェンジャー


他人になりすまし、生きる男。
人の名を騙り、筆跡を変え、ありとあらゆる証明書を偽造する。
運良く書類偽造の才に恵まれ、人格を創りあげる想像力と惜しみない努力によって、
生み出される人物たち。

で、なんでここまでするのか?
3日は続くという激しき偏頭痛のおかげで、錠剤がぶ飲み。
発見され次第の救急搬送→病院→カウンセリングという名の精神鑑定→施設行きor帰宅

この最後の施設行きを逃れる為に、毎回違う名前で担ぎ込まれる必要性が…
でもって、鑑定ではカウンセラーに、誤飲と納得してもらわねば!
という訳で、先生相手に涙ぐましい努力。
クリア過ぎる人生でもいかんし、鬱を怪しまれてもいかんし、他人と違い過ぎてもいかん。
落ち着き過ぎもダメなら感情を出し過ぎもいかんが、冷酷過ぎてもいかん。
が反省は見せねば。。。

現在形で進むカウンセリングで偽の人生と彼の過去が明らかに。
完全な嘘と、本当の人生、なりすましの生き様。
いつでも敵は、なにか大きな組織やらシステム。
チェックシートでしか人を判断しない、マニュアルでしか対応しない─
そういう世の中なら、それに合わせて生きてくしかないな。

悲惨なビンボー暮らしや、刑務所にて生き残る知恵?を学び。
薬や酒で現実逃避をしつつ、愛にさまよう。
しぶとく生きる男の、どこか哀しいさすらい人生。

作者の熱き反骨精神が貫かれた一冊。