甘裸哲学

哲学をするのに特別な知識は必要ありません。このブログはあなたの固定観念を破壊して、自由自在に考える力を育みます。

第二章【躊躇無き殺害】

2013-02-05 20:09:56 | 自作小説
 ドアを開けると、そこには数体のアレが見えた。
 弾は六発しかないし、ナイフすら持っていないのだ。僕は走って彼らの横を抜ける。
 ドアを開け、次の部屋に進む。あいつらがいっぱいいる。どうやら彼らは感覚が鈍く、大きな音でも立てない限りこちらに気づかないようだ。
 そう思った僕は、彼らの横を音を立てないようにゆっくりと歩いてみた。
 すると......アイツは突然動きだして、僕の片腕を掴んだ。慌てた僕は思わず銃の引き金を引く。
 大きな音がなった。アイツは音も立てずに倒れ込んだが、他のやつらがこちらに向かって歩き出した。
 僕は次のドアまで走り、急いでドアを開け、次の部屋へと向かった。
 この部屋は......談話室かな? 机と椅子があるが、次の部屋へのドアがない。
 よく見ると、向こうの方に人が倒れている。
 近づいてみる。男だ。胸にナイフが刺さっている。見た感じ自殺っぽい。
 僕は人の死体を見ても特に何も感じなかった。そんなことより、その死体のすぐ横に落ちている手帳が気になった。
 僕はそれを手に取り、パラパラとページをめくった。

 ――ある男の日記――
 7/7 今日は甘裸教団のオフ会があった。Twitterでしか会話したことのない沢山の教団員たちと出会えた。教祖である甘裸さんが、今の社会に対する痛烈な批判を語り、僕たちは、少なくとも僕はとても感銘を受けた。ファミレスで皆に食事をおごってくれるなんて、おまけに素晴らしい話を聞かせてくれるなんて。今日は本当に楽しかった。
 
 7/14 今日のオフ会では、甘裸教団の教義について教えてもらった。仏教の誤りは偶像崇拝であるとして、皆が無我の境地、悟りに到れるように、このような楽しい集会を定期的に開くべきだと語っていた。キリスト教敵側面と仏教的側面を併せ持った、真の幸せを追求するための教団だと語られた。本当に素晴らしいと思った。次回の集会が楽しみだ。
  
 7/21 今日はついに甘裸教会でのオフ会だ。最初建物を見たときにはあまりの不自然さにびっくりした。まさに異世界という感じだった。僕はとてもわくわくしながら中へと入った。まっすぐ進んだところにある扉を開けると、とても広々とした場所に出た。しばらくすると甘裸様の説教が始まった。人間が執着を捨てきれないのは、自分に対して何らかの期待を持っているからである、とか、天井の絵は菩薩が人々に救いを与える様子であり、偶像崇拝を避けるため、菩薩は黒く塗りつぶされるのだ、とか。とてもためになる話を沢山聞いたように思う。今日も本当に素晴らしい一日だった。甘裸様はなんて素晴らしいお方なんだろう。
 
 7/28 今日のオフ会は皆で注射を受けるようだ。誰でも悟れる薬というものが開発されたらしい。まだ、一般には出回っていないが、僕たち神聖なる甘裸教徒は、最初にこの注射によって悟りを開くことができる選ばれた人間なのだそうだ。速効性はなく、悟りまでにはしばらく時間がかかるようなので、僕たちはしばらくここで生活を送ることになった。食料などは全部甘裸様が用意してくれる。僕は悟りの日をわくわくしながら待つことにした。

 8/1 ......注射を受けた仲間の一人が何も喋れなくなってしまった。甘裸様によると、多少の副作用が起こるのは仕方がないことだそうだ。僕も喋れなくなるのかな......

 8/2 喋れなくなった。他の皆ももう喋れない。甘裸様は人々を悟りに導いた後で悟りを開く菩薩となるべきお方なのでまだ喋れる。甘裸様はこの薬によって全ての人間を悟りに導くことができるはずだと言ってた。本当にそうなのか? 悟りってそんなに大事なのか? 喋れなくなってでも悟るべきなのか? そんな疑問が生じた。
 
 8/3 仲間の一人が発狂して他の仲間を襲った。甘裸様はすぐにそれを銃で撃ち殺した。どうして銃を持っているんだろう。もしかして、彼がこうなることは最初からわかっていたんじゃ......? いや、教祖様を疑うのは良くない。甘裸様は、彼は注射恐怖症だったのに無理に注射してしまったからこんなことになったんだと説明している。信じよう。甘裸様はきっと僕たちを救ってくださると。

8/4 仲間が次々と発狂し、銃で撃ち殺されていく。こんなのどうかしている。僕は甘裸に説明を求める旨を書いた紙を突きつけた。甘裸は言った
「この薬によって君たちはどんどん劣化していく。喋れなくなり、敵と味方の区別がつかなくなり、最後には顔が醜くなるだろう。こんな残念な君たちに生きる意味などあるだろうか? 否、死ぬべきである。君たちは自我を失い醜いゾンビと化す。おめでとう。君は選ばれ、もうじき悟ることができるんだ。無我の境地に至った君たちの処理は私に任せてくれ。心配ない。君たちは苦しみを感じることなく死ねるはずだ。だって自我を失っているのだから。」
 僕は生きてるのが嫌になった。奴を殺したところでもう僕は助からない。僕にとってもう全ては無意味だ。これが悟りか? 僕は自ら死を選ぶことにした。まだ自我があるうちに、そう死ぬんだ。ナイフがある。どうしてこんなものを持っているのかは忘れてしまったがとにかくある。これで死のう。意味はないけど日記は最後まで書いた。これで安心して死ねる。ああ、これが悟りなのかな。
――――――日記はここで終わっている

 ......じゃあ俺がさっき殺した怪物って......。
 僕は躊躇なくアイツを殺せた。
 あいつの顔は醜く、襲われたら当然のように殺した。
 もしもあれが発狂した美少女だったらどうしていたんだろう......。
 結局見た目なのか、殺すときに可哀想だなどと思って躊躇うのは結局見た目の影響なのか。
 動物愛護団体はあるのに、ゴキブリ愛護団体なんてものは見たことがない。
 ゴキブリは躊躇わずに殺そうと思うのに、猫や犬だとちっとも殺せそうにない。
 大きさの問題ではないだろう。
 もしも人間並みに巨大なゴキブリが出たら躊躇なく殺そうと思うだうし、僕は人だった醜い何かを殺した。
 ......おっと、こんなところで考え込んでいる暇はない。これについては無事生還してからじっくり考えよう。
 探索を再開する。自殺に使われたであろうナイフはありがたく回収させてもらった......この部屋にはもう気になるものはない。
 さっきの部屋に戻るか......。僕はなんとなくドアを開けた。

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2 コメント

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Unknown (sui)
2013-02-08 01:57:28
自作小説、続き読みたいです。また見に来ます!
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Unknown (甘裸)
2013-02-08 02:00:04
ありがとうございます!
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