(16)各部門における生産力の拡大による純生産物の生成
一方の他方に対する各種の権利的支配力を持たない物財交換は、差額略取を許さない等価交換に転じる。しかし一方の他方に対する各種の権利的支配力を持たない物財交換は、必ずしも二部門間の物財交換で起きる必要も無い。交換過程から排除された差額略取は、労使関係における権利的優位によって労働力が生産する物財量と労働者が受け取る物財量の不等価交換の姿に一般化する。そして剰余価値とは、この一般化した特別剰余価値を言う。この生産過程において搾取者の扶養は必要経費の一つに数えられ、搾取者が負担すべき労働力を労働者が肩代わりする。このような剰余価値は、投下労働力に必要な消費財量部分を生産量から控除した残余部分であり、上記表において純生産物量で示した(v・x-L・c)として現れる。ところが上記表において各部分における純生産物量はゼロであり、一見すると搾取が現れない。この搾取の消失は、搾取者が必要労働力を偽装していることで発生している。実際の剰余価値搾取は、部門収支の内側に隠れている。この内包された搾取の構成内容を消費財部門と資本財部門の生産物財の内訳で描くと次のようになる。消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門人員の必要消費財量v1・x1と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。ただし資本財部門人員の必要消費財量v1・x1の内部は、さらに資本財部門労働力の必要消費財量L1・cとそれ以外の資本財部門搾取者の必要消費財量(v1・x1-L1・c)に分離している。
剰余価値は搾取者のための消費財量として部門搾取者全体に分与され、個々の搾取者にさらに分配される。もし個々の搾取者の受け取りが労働力と同様に人間生活の最低限の物財量で良いなら、搾取者の人数も剰余価値量を一労働力当たりの消費財量で頭割りすることで得られる。ただ支配者としての搾取者の受け取りは、もっぱら人間生活の最低限の物財量より多い。それゆえに以下で搾取者一人当たりの消費財量を、一労働力当たりの消費財量の1.5倍とみなし、表現もc+で表す。一方でもともと剰余価値は、投下物財量を超える物財生産量の残余である。剰余価値を生むために労働力は、投下物財量を超える物財生産量を実現する必要があり、その投下労働力に対する物財生産量の比率は、労働生産性として現れる。そこで各部門における労働生産性をdnで表現し、労働生産性に対応して剰余価値と剰余価値率mnおよび搾取者の人数を設定して上記表11を改変すると、次のような生産表になる。なおここでの追加変数は、次のものである。
c+ …搾取者一人当たりの消費財量
d1 …資本財部門における労働生産性
d2 …消費財部門における労働生産性
m1 …資本財一単位に対する剰余価値量、つまり資本財部門の剰余価値率
m2 …消費財一単位に対する剰余価値量、つまり消費財部門の剰余価値率
[物財生産工程における生産要素12(二部門モデルⅱ)] ※①~㉑は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例
上記要領で生産要素の相関を確定できれば、各種変数値の具体的数値設定により、上記表をエクセルシートなどの表計算ソフトで実現可能となる。
なお上記表では各部門の純生産物搾取はゼロになっており、部門をまたがった搾取は発生していない。
(17)剰余価値率の固定と生産価格論
もともと剰余価値は、投下物財量を超える物財生産量の残余である。しかし一度それが搾取者の生活として実体化すると、それは単なる残余ではなく固定した残余となり、生産過程における必要経費に転じる。このときに労働生産性は規定事実に成り下がり、労働生産性は剰余価値率に転じる。この場合に上記表における労働生産性は、むしろ剰余価値率から表現されることになる。この逆転は一方で労働力と賃金の等価交換を表現しながら、総労働力と総生産物の不等価交換を表現し、他方で個々の物財同士の等価交換を表現しながら、総体において不等価交換を実現する。その不等価ギャップを可能にするのは、労働力に必要な物財量を超える労働力が生産する物財量の数量ギャップである。当然ながら総体における不等価を個々の物財価格に均すと、個々の物財においても不等価交換が現れる。しかしこの不等価交換は、物財交換における差額略取に等しい。それゆえに市場における生産物競争は、一方で数量に占める無駄な物財量を排除し、他方で価格に占める無駄な必要経費の削減を要求する。そしてその要求は、長期的に無駄な搾取者を排除し、剰余価値率のゼロ化を目指すことになる。とは言え搾取者の生活として実体化した剰余価値は、自らの消滅に抗う。そこで剰余価値率は、同じ利害にある搾取者が共同して固定化し、平均利潤率へと収束する。それが表現するのは、物財交換における実質的な不等価交換の恒久化であり、等価交換の一時的な死である。ただしその等価交換の死は表面化することは無く、先の14)で示したように、搾取者が自らを経営労働力として労働者を装う形で等価交換の偽装が進行する。この物財価値の生産価格化に従い、上記の物財交換構成と生産表を改変すると次のようになる。消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門労働力の必要消費財量(1+m1)L1・c と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。
なお一見すると生産価格において商品価格が投下労働力量を超えることは、商品価格を投下労働力量に一致させる労働価値論に対立させる。しかしこの不一致は商品総量における不一致であり、単位あたりの商品における不一致ではない。それは総量における不一致を、商品一つ当たりに均すことで初めて現れるような不一致である。マルクスも資本論の冒頭に開陳した剰余価値論で、商品価値を必要労働力ではなく、必要労働力量+剰余労働力量で示している。その商品価値の構成は、必要商品にあらかじめ剰余商品を混ぜることで初めて現れるものである。このことは、マルクスが資本論の冒頭で既に生産価格論を想定しているのを示している。
[物財生産工程における生産要素13(二部門モデルⅲ)] ※①~㉑は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例
(18)価値単位増減の生産表への影響
先の8)の記述を繰り返すと上記の生産規模拡大は、搾取者が余剰生産物を消費する一方で、労働者が余剰生産物を消費するのも可能である。この場合の拡大再生産は、労働者の必要消費量増大により、その余剰生産物を消費する。そして労働者が余剰生産物を消費するので、それは剰余生産物として表面化しない。そして労働者が余剰生産物を消費することにより、生産と消費の総計一致が実現する。その労働者における人間生活の余裕は、価値単位cの増大として進行する。一方でその増大は、相対的に搾取者が取得する剰余生産物を減少させる。当然ながら搾取者の取得物財量の増大速度も相対的に減速する。ただしその相対的な減少は、剰余生産物量の絶対的減少ではない。搾取者は剰余生産物量の相対的減少の間でも、以前と同様かそれ以上の優雅な生活をできる。減少するのはせいぜい比率としての剰余価値率だけである。その同じ事情は、価値単位cの減少にも該当する。この場合に同一の剰余価値率は搾取者の剰余生産物量を減少させ、搾取者にも貧苦を強いるように見える。しかし実際にはそのようなことは無く、剰余価値率の増大が搾取者に以前と同様かそれ以上の優雅な生活を与える。いずれにおいても価値単位増減は、それだけで上記生産表の内容を変えない。つまり価値単位増減は、剰余価値率に影響する限りで上記生産表に影響するだけに留まる。したがって価値単位増減の剰余価値率への影響も、先の8)~10)の記載に準じる。
(2025/03/08)
続く⇒第四章(6)余剰資産対価としての地代 前の記事⇒第四章(4)二部門間の生産要素表
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移
(4)二部門間の生産要素表
(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
(6)余剰資産対価としての地代
(7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
(1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠
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