唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第二章:資本蓄積(1)生産財転換モデル)

2023-07-21 06:48:36 | 資本論の見直し

(1)財の直接生産と間接生産の消費財生産モデル

 前章(3d)が示したのは、余剰労働が部門外に有効な余剰労働力として自立する過程である。そこでの第一部門は第二部門を排出することで、自部門におけるその有効な余剰労働を喪失する。逆に第二部門は自らを第一部門から排出することで、もともと第一部門から提供されていた生活資材を喪失する。またこの生活資材からの遊離が、第二部門の労働力を純正の余剰労働力にしていた。この双方向の喪失は、両部門の消費財生産活動を困難にする。それゆえに両部門は、互いの生産財を交換し合うことにより、相互に補填し合う。この相互補填は、第一部門の生産物を第二部門が消費し、第二部門の生産物を第一部門が消費することで実現する。しかしこの場合に二つの部門のそれぞれの生産消費財は、異なる消費財である。もともと第二部門が従事するのは、第一部門消費財の直接生産から排除された余剰労働である。それは第一部門消費財の直接生産を補填する媒介的な間接労働である。そして当然ながらその生産消費財も、そのような媒介的な間接消費財である。それは第一部門における労働力が直接消費する直接消費財と区別される。それは直接労働を補填する物財として現れても良いし、直に直接労働を補填する間接労働力として現れても良い。それゆえに直接消費財を生産する第一部門が消費財部門として現れるのに対し、第二部門はその直接生産を媒介する間接消費財を生産する資本財部門として現れる。もちろんそれぞれの部門が生産する消費財も、第一部門の直接消費財を純正の消費財と表現する限り、第二部門の間接消費財は資本財として区別される。これらの点を明示して、先の表7を第一部門内の詳細を簡略し、第一部門と第二部門の全体を右列に追記して再度掲載すると以下の表になる。

≪表7a:一部門の一部の排出により変化する消費財生産数≫


上記表における消費財部門の労働力’(Lfb’)は、資本財部門の排出前のLfから(Lf-Lw)に減少する。それに対して消費財部門の合計労働力’(Lf’)は、資本財部門の排出前と同じLfで現れる。その内訳は自部門の労働力(Lf-Lw)と資本財部門の労働力Lwの合算値である。これは消費財部門が、資本財部門の部門労働力の追加を必要とし、それを追加労働力Lwとして資本財部門から受け取ることに従う。つまり資本財部門の排出前後に関わらずLfは、消費財部門の財生産に必要な総労働力量である。したがって消費財部門が資本財部門を排出して部門労働力を減じたにも関わらず、その消費財単位価値’(∮fp’)は変わらない。一方で資本財部門は、消費財部門と別に独自の部門労働力Lwと消費財生産量∮wを有する。ここでの資本財部門が生産する財は労働力としての∮wであり、それは消費財部門に提供されて消失する。資本財部門は、その提供した労働力の見返りに消費財部門と生産消費財を等価交換する。したがってその受け取る消費財の価値は、労働力Lwに相当する。資本財部門が生産する資本財すなわち労働力∮wと、その受け取るLw相当の消費財の等価は、資本財の単位価値を単位労働力の必要消費財Nmと等価にする。ただし労働力は物財として提供されないし、現物として残らない。その生産活動は、消費財部門から賃金を受け取り、それを生活のために使い尽くす。その財の蓄積が無い姿から言えば、ここでの資本財部門の生活は、資本財部門が消費財部門に内属していたときと何も変わらない。


(2)不変資本と可変資本

 消費財部門の合計労働力’(Lf’)の内訳は、自部門の労働力(Lf-Lw)と資本財部門の労働力(Lw)により構成される。これが表現するのは、消費財部門の資本の有機的構成である。さしあたりここでの労働力は、自部門が消費財生産に不可欠な固定部分であり、資本財部門の労働力はそれを補填する流動部分である。一方で労働力はその所属部門に関わらず、必要最低限の生活資材を入力にして、それより多くの生活資材を出力する。剰余価値とは、その出力と入力の差分を言う。したがって労働力が自部門の固定部分であろうと、他部門の流動部分であろうと、労働力の使用者は労働力から剰余価値を取得できる。しかし労働力の使用者にとって他部門の労働力は、自部門の労働力と違い、その労働力に相応する生活資材を引き渡す必要がある。それゆえに他部門の労働力を使用する消費財部門は、資本財部門の労働力から剰余価値を取得できない。その剰余価値を取得するのは、労働力を所有する資本財部門であり、その労働力を使用する消費財部門ではない。したがって消費財部門にとって他部門の労働力は、ただ単に使い勝手の良い物財に留まる。それは死んだ労働であり、労働力の姿をした道具である。消費財部門にとって他部門から取得する生産財の価値は、それが労働力の姿にあろうと、物財の姿にあろうと、その収得価値は固定している。このために消費財生産を補填する流動部分にすぎない資本財部門の労働力は、消費財部門の不変資本として現れる。これに対して消費財部門の労働力は、その不可欠な固定した在り方と逆に可変資本である。それと言うのもその剰余価値生成能力が、労働力を自ら余剰化させ、流動化させるからである。そして実際に消費財部門は、自部門の労働力をアウトソース化によりいつでも不要にし得る。したがって不変資本と可変資本は、どちらも固定資本と流動資本になり得る。実際に外部からの補填労働力としての不変資本は、それが例えば収穫期の季節労働であれば、消費財部門にとって必須でありながら流動的である。逆に部門内労働力としての可変資本も、それが部門内の財生産の中核を成す限り固定的である。特にここでは不変資本と可変資本の両方が労働力として現れる。それゆえに両者の区別は、自部門における剰余価値生産の可能性に従う。ちなみに実際には労働力の使用者も、他部門の労働力からも剰余価値を取得できる。ただしそれは特別剰余価値取得として取得する。これらの剰余価値取得については、資本循環の確認後に後述する。


(2a)死んだ労働力としての不変資本、および物財

 上記表7aにおいて資本財部門の生産財は消費財部門に対する追加労働力であり、その単位価値は労働力に相応する生活消費財である。しかしこれでは追加労働力の単位価値は、ただ単に労働力を労働力で除算した結果、すなわち1に留まる。この1が表現するのは、労働力の個体あたりの生活に必要な消費材Nmである。一方で消費財部門と資本財部門の相関は、追加労働力を物財の形で消費財部門に提供するのを目指す。形のある物財は、形の無い労働力に比べて、分割統合および蓄積などの貨幣式長所を持つ。この長所により労働力も、部門間における円滑な価値交換が可能になる。さらに資本財部門は、物財としての資本財の材料を消費財部門から仕入れる。それは資本財部門における不変資本である。同様に消費財部門も資本財を資本財部門から仕入れる。それは消費財部門における不変資本である。二つの不変資本は相互依存しているので、どちらが先行して優位にあるかは、鶏と卵の関係にある。ただどちらも他部門の生産財であり、労働が価値を与えただけの単なる物である。なお資本財部門の不変資本は、さしあたりそれが追加労働力を提供するだけの部門であるなら、労働力の肉体自体で現れる。しかしその肉体は同時に可変資本でもある。これに対して消費財部門の不変資本は、最初から他部門から受け取る外部資本である。したがって不変資本は資本財部門において肉体の形で生じるにしても、消費財部門で具体的に分離する。その価値に着目して言うと二部門間の生産財移動は、労働力の直接移動に等しい。しかし生産財への価値謬着は、生産財による価値支配を装う。経済運動を生産物の移動面から捉えるためにも、各部門が生産する財を物財として扱い、追加労働力La’を不変資本C’に換える必要がある。とは言えやはり不変資本が物財である必要はない。資本財部門は、労働力を不変資本にしたサービス部門として可能である。そしてその代表格は、やはり商業部門である。それゆえに次に商業部門を念頭にして、消費財部門と資本財部門の部門間における不変資本と可変資本の動きを確認する。資本財部門における不変資本と可変資本の動きは、その延長線上に現れる。


(2b)商業における生産財転換モデル1

 商業において消費財部門に現れる不変資本は、商業部門の労働力である。その労働力の維持には生活資材を要し、消費財部門が彼らに生活消費財を提供する。一方で消費財部門は彼らに生活消費財だけを提供するのでなく、商取引するための自部門の生産消費財を商業部門に託す。それは消費財部門が第三部門の生産財と交換するための消費財である。商業部門の労働力は、彼らに託された消費財を第三部門の生産財と交換し、消費財部門にその生産財を届ける。消費財部門において商業部門労働力に提供する生活資材は、消費財部門における不変資本を成し、同じ生活資材は商業部門にとって可変資本である。一方で消費財部門が商業部門に託す消費財は、商業部門にとって不変資本であるが、それは第三部門の生産財として消費財部門に還流されるので、商業部門の手元に残らない。消費財部門に還流された第三部門の生産財は、消費財部門の労働力の生活資材に使用される。したがってそれは始めにおいて不変資本であるとしても、その内実は消費財部門の可変資本である。ちなみにもしその生活資材に余剰が生じるのであれば、それは消費財部門における剰余価値を成す。それは消費財部門の労働力が、自らの労働力の維持以上に生産した消費財を体現する。ただしここでは剰余価値の生産について考慮しない。この消費財と資本財、および不変資本と可変資本の財の動きは次のようになる。

[商業における生産財転換モデル1] ※∮gfは価値形態の∮f


上記の生産財の流れでは、消費財部門は可変資本Vfを商業部門に渡し、商業部門は特段それを加工することもなく第三部門に不変資本Cwsとして渡す。第三部門はその不変資本を可変資本Vsとして消費し、代わりに不変資本Csを商業部門に渡し、商業部門は特段それを加工することもなく不変資本Cwfとして消費財部門に渡す。最上段の不変資本Cfは、商業部門に対する媒介手数料である。しかしこの媒介は無駄なものではなく、消費財部門が商業部門に生産物交換を委託した報酬である。したがって実際には商業部門は、消費財部門から渡された可変資本Vfを加工している。ただその加工内容は、単なる場所的変更(運搬)に留まる。


(2c)商業における生産財転換モデル2

 上記の生産財転換モデルは、商業部門が労働力を消費財部門に提供し、消費財部門と第三部門の間の生産財交換を仲介している。しかしこの商業部門の収益イメージは、どちらかと言うと仲介サービス、または委託物品の生産修理の収益イメージである。それはユーザーから労賃と材料の提供を受けて、生産した資本財をユーザーに渡す。その収益イメージは、消費財部門から多くの財を受け取り、消費財部門に少ない財を渡す差額略取である。そこでの商業部門は、生活資材を消費財部門から得る。ただしその差額略取は、生産財交換のための労働力に充当される。したがってそれは、正当な媒介報酬である。一方で商業部門の収益イメージは、このようなものではない。それは第三部門から多くの財を受け取り、第三部門に少ない財を渡す差額略取である。そこでの商業部門は、生活資材を第三部門から得る。ここでも商業部門の差額略取は、生産財交換のための労働力に充当される。したがってそれも正当な媒介報酬である。ただし一見するとその報酬の出自は、消費財部門ではない。このような差異を踏まえて、上記の生産財転換モデルを訂正すると次のようになる。

[商業における生産財転換モデル2] ※∮gXは価値形態の∮X


(2d)二つの生産財転換モデルの比較

 商業部門は、上記の生産財転換モデル1と2のどちらでも、自部門の労働力のために生活資材を取得できる。ただしここでの消費財部門と第三部門は、商業部門の他部門として同一であり、内実的に同じ消費財部門が商業部門の可変資本を用意する。差異があるとすれば、消費財部門と第三部門が完全に他部門である場合に限られる。結局この生産財転換モデル2が先の生産財転換モデル1と異なるのは、商業部門が可変資本を他部門から取得する順序である。おそらく商業部門は、消費財部門と第三部門の両方から財の差額略取を目指す。しかし消費財部門と第三部門の両方は、商業資本に対し、生産財交換のための労働力に見合う価値の不変資本だけを渡す。それゆえにその差額略取の試みは、どの組み合わせでも生産財交換の労働力とそれに見合う消費財の等価交換である。なお生産財転換モデル1の場合、消費財部門は第三部門との生産財交換に対して、先に商業部門に取得果実を与える。そしてそのことは消費財部門に対し、第三部門との生産財交換に失敗するときの損失を被らせる。これは生産財交換の前に供給者が手数料を支払う場合に起きる一般的に可能な供給側不利益である。これに対して生産財転換モデル2の場合、生産財交換の後に需要者が手数料を支払う。ここで第三部門との生産財交換に失敗するときに損失を被るのは、消費財部門ではなく商業部門である。ここには不利益を、消費財部門と商業部門のどちらが被るべきかの選択がある。ただここでの生産財交換は、消費財部門と商業部門の間、商業部門と第三部門の間で分離している。そして商業部門と第三部門の生産財交換は、消費財部門にとって既に他人事である。当然ながらそこでの生産財交換の失敗も、消費財部門にとって他人事である。そのように考えるなら、消費財部門がその損失を被る必要はもともと無い。それゆえに消費財部門は商業部門に対して、その不変資本の等価交換を優先させる。そしてこのことが商業部門における差額略取の仮象を、生産財転換モデル2の姿に落ち着かせる。この生産財転換モデル2において、消費財部門と商業部門の間、商業部門と第三部門の間の生産財交換は、別物の如く分離する。


(2e)商業モデルの資本財モデルへの純化

 上記の生産財転換モデル2において商業部門は、消費財部門の生産物に運搬労働の付加価値を加え、第三部門からその媒介報酬を得る。ただし上記イメージの商業部門だと、商業部門が消費財部門と第三部門の生産物交換と別に、その媒介報酬を得る。この等価交換と媒介報酬を分離したイメージは、商業部門の収益を明確にするために筆者が行ったものにすぎない。実際の商業部門はこのような分離イメージではなく、単に消費財部門に対して第三部門の生産財を渡し、第三部門に対して消費財部門の生産財を渡し、その差額略取で生活資材を得る。その生産財転換の運動は、内実的に次のようになっている。
・商業部門はまず消費財部門から不変資本を受け得り、手持ちの不変資本を切り崩す形で消費財部門にその相当分を返す。それは消費財部門の生活収入となる。
・商業部門は消費財部門から得た不変資本に自らの可変資本を加え、それを第三部門に渡す。それは第三部門の生活収入となる。
・生活収入を得た第三部門は、それに相応する不変資本を商業部門に返す。それは消費財部門の不変資本と商業部門の可変資本に相当する。
・商業部門は返された不変資本のうち、一方を最初に切り崩した不変資本の欠損に充填し、他方を自らの生活収入にする。

[商業における生産財転換モデル2’] ※∮gXは価値形態の∮X


この生産財転換モデルを生産財の入出力で見直すと次のようになる。
・まず消費財部門と商業部門で生産財が双方向に移動する。
 商業部門に消費財部門の生産財が滞留し、逆に商業部門から手持ちの不変資本が欠損する。
・次に商業部門と第三部門の生産財が双方向に移動する。
 この移動により商業部門は、消費財部門の生産財滞留を一掃する。それは第三部門から不変資本を還流させる。
 第三部門から還流した不変資本は、商業部門で最初に起きた手持ちの不変資本の欠損を解消する。

[商業における生産財転換モデル2’での生産財入出力]※▼:出力、△:入力、なお∮gXは価値形態の∮X


表記は財∮fと財∮gfの等価交換を実現し、この前提において財∮wと財∮gwの等価交換も実現する。表における▼と△の数は整合しており、全体の等価交換の実現を読み取れる。さらにこの記載をもう少し商取引式の表現を変えると次のようになる。
・商業部門は、まず消費財を消費財部門から買い取る。ただ商業部門はこの消費財代金を後で充当する。
・商業部門は、自らの労働力を資本財として消費財に付加する。そしてこの労働力を付加した消費財を第三部門に引き渡す。
・第三部門は商業部門に消費財と付加労働力に相当する代金を払う。
・商業部門は第三部門から得た代金の一部で先の消費財代金を充当し、代金の残りを自らの付加労働力の代金として得る。

[商業における生産財転換モデル2’での商取引]※▼:出力、△:入力、なお∮gXは価値形態の∮X


ここで商業が行う付加労働は、消費財部門の生産財の運搬である。この運搬労働は消費財に対し、その空間的位置の変更以外に特段な加工をしない。その最終成果物は、空間移動しただけの消費財部門の生産財である。もし第三部門が消費財部門と直接取引するなら、より安く消費財を取得できる。しかし自部門の運搬労働より商業部門の運搬労働を割安と捉えるなら、第三部門は商業部門の消費財に割高な代金を支払う。そうであるなら第三部門は商業部門が消費財に対し、運搬労働以外の別種の加工を加える場合でも、第三部門はその割高な代金を支払う。むしろそこで消費財に加わる加工は、単なる空間移動以上に特異な価値を消費財に付加する。そしてそのように商業部門が消費財に運搬以外の加工を加えることで、商業部門は資本財部門に転化する。
(2023/07/22)

続く⇒第二章(2)拡大再生産   前の記事⇒第一章(9)上記表の式変形の注記

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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