唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第一章:基本モデル(1)消費財生産モデル)

2023-04-02 18:04:30 | 資本論の見直し

(1)消費財生産モデル

 労働価値論において物品は、労働力が転じたものである。物品自体は物理的属性を持つが、価値は無い。例えば巷の石ころもそれなりに有益な物理的用途を持つ。しかしそれを運搬しければ価値を持たない。逆に何らかの用途のために運搬すべきなら、その石ころはその運搬に要する労働力に等しい価値を持つ。ここでは基本モデル設定にあたり、まず資本財と労働力の二分表示を後回しにする。またその全体像も、労働力だけで第三部門のための余剰が無く、第一部門と第二部門が切り離れていない経済運動モデルを確認する。その後にそれを二部門の分業を加えた経済運動モデルに転じる。したがってここで最初に各部門が生産するのは、抽象化された人間生活一般である。その必要消費財は労働力と等しい。またその消費財必要量と消費財生産量の間に、さしあたり差異も無い。その生産物は、いずれも個体あたりに必要な消費材となる。それは要するに生活単位である。また全体の必要消費財は、単純に生活単位と個体数の乗算値に等しい。逆に言えば生産消費財の単位価値は、全消費材の生産個数の除算値に等しい。ただしここでは生産消費財に個体あたりに必要な消費財を想定するので、結局その生産消費財の単位価値は生活単位に等しい。
このことを数理表現するにあたり、記号を以下に揃える。

  …人数:M、労働力量:L、消費財必要量:N、消費財生産量:∮

なお全体の人数Mtや労働力量Ltは、全体のそれらの所与値、すなわち期首賦存値である。また個体あたりの必要消費材Nmは、さしあたり個体あたりの労働力Lmである。それは生産消費財∮mでもある。そして部門全体の労働力量Ltも、単純に必要消費財Nの合算Ntに等しい。それは部門全体の消費財生産量∮tでもある。ちなみに消費財生産量と消費財単位価値に関数記号∮を使うのは、それらが人数と労働力(=消費財必要量)を入力にした出力値だからである。表記要領は以下となる。

≪表1:消費財生産数≫


(2)分業における消費財生産の変化

 分業が無い状態で二部門の並存を考えても、表面的に各部門の生産活動に差異は無い。そのような分業前の二部門の並存では、上記の消費財生産数の一覧は以下のようになる。なお表記の各枠は行と列に対応する値を表示するので、基本的にいちいちそれらにLfとか∮pwとか記載しない。すなわちL行f列が表すのは、第一部門労働力Lfである。

≪表2:分業前の消費財生産数≫


第一部門と第二部門がそれぞれ生産消費財の種類を分化して分業に入ると、生産消費財に各部門ごとに種的差異が生じる。ちなみにここではまだ二部門の並存において、一方を他方の道具生産部門に特化させた二部門モデルを採用しない。しかし部門分離する限り、各部門ごとの生産消費財の個数にばらつきが生じる。それは例えば第一部門は大根、第二部門はニンジンを生産するようなばらつきである。当然ながらそのばらつきは、生産物の総個数にも関わる。先の必要消費財Nは、生活単位Nmの人数M倍であった。それに対してここでの消費財生産量は、単純に生産物の個数に転じる。例えば第一部門の消費財生産量は大根本数、第二部門の消費財生産量はニンジン本数に転じる。しかしこのことは、部門全体の消費財生産量を単純な数的合算と違うものにする。そこで種別の消費財生産量を∮に転じて表現し、逆に必要消費財Nを労働力Lに一元化する。また消費財生産量∮tと消費財単位価値∮ptは、消費財種類が異なる場合に部門全体の記載が無意味となる。例えばニンジン100本とねじ100個を合算した200の値に意味は無い。したがってその合算値は価値表現を除いて≪≫で記載する。また表における価値表現と数量表現に差異が出る場合、等号の代わりに⇔を使用する。
なおここでは分業による生産性向上を無視して、相変わらず各部門における余剰が無いのを前提にする。したがってそれら生産消費財の総価値は、相変わらず生活単位の部門人数M倍に等しい。その生産消費財∮の単位価値は、各部門の総生活単位を生産個数で除算した値である。もし単純にNmを貨幣単位とみなし、かつ貨幣単位を円に例えると、生産消費財∮fの単位価格は(Mf/∮f)円であり、生産消費財∮wの単位価格は(Mw/∮w)円となる。それは労働力1単位に対して生産される消費財数の逆数である。ちなみに数理マルクス経済学では、この逆数を投入係数として表現している。それは分業に限らず、労働の間接的媒介がもたらす労働力増強比率である。それらはあくまで労働力と結合することで価値を増大させる。そしてその点を離れて投入係数を捉えるなら、それは消費財単位価値の由来を隠蔽し、消費財単位価値の固定化とその物神化をもたらす。これらの変化は、先の≪分業前の消費財生産数≫を次のようにする。

≪表3:分業以後の消費財生産数≫


(3)生産と消費の不均衡

 分業は部門全体の生産性を向上させる。その生産性向上は、その生産に関与する生産者の生活を豊かにする。またそうでなければ分業が発展する理由も無い。そもそも労働力は、その生活地域の違いにより生産消費財が異なる。分業は既にその生活地域の差異により用意されている。その生産性向上は一方で消費財の量増大、他方で消費財の質向上として現れる。ただここでは質向上を量増大に還元して扱う。したがって以下で述べられる生産性向上は、生産消費財の量増大を指す。部門全体の人数に変化が無く、生産性向上が消費財生産量を増大するなら、単純に考えると部門全体が裕福になる。しかしこの単純な裕福は、増大した消費財が分業前の自己消費可能な消費財であるのを前提する。ところが分業以後の生産消費財は、ニンジンや魚介類など、その生産部門だけで自己消費が困難な消費財である。仮に特定の物品の生産量だけが増えたところで、それが生産部門および部門全体に必要な消費量を超えてしまえば、その余剰分はただの廃材である。消費財生産量の増大は、そのまま部門全体の労働力に割り当てられる消費財を単純に増大させない。さしあたりこの単純な裕福は、各部門の消費財生産に要する消費財の量比率を限界にする。言い換えればその量比率は、消費財を構成する資源の有機的構成である。その量比率の妥当性は、生産量がさしあたり必要消費量を超えるまでの生産増、および生産量が必要消費量に収まるまでの生産減が対応する。ただ実際にはほかにも消費量が可能生産量が超えるまでの消費増、および消費量が可能生産量に収まるまでの消費減の4種の市場調整が、量比率の妥当性を実現する。しかし生産量の増減と違い、消費量の増減は生活単位の増減を要する。ここでは基本的に生産量の増減に注視し、以下にその市場調整の動きを確認する。

(2023/03/31)
続く⇒第一章(2)生産と消費の不均衡   前の記事⇒序論:労働価値論の原理(4)分業と階級分離

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル


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