唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第二章:資本蓄積(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大)

2023-07-23 18:13:27 | 資本論の見直し

(5e)不変資本による剰余価値生産の質的増大

 蓄積資本の可変資本への転化が実現するのは、既存の剰余価値生産の反復増大であり、単純な量的増大である。これに対して生産資本が導入する不変資本は、既存の剰余価値生産と異なる質的増大を実現する。そもそもその導入する不変資本は、簡単に言えばパッケージ化された協業である。その導入は導入部門における生産工程を自動化し、導入部門における生産工程を無駄の無い労働に純化する。その不変資本が実現する優位技術は、労働力にはできない24時間稼働と重労働を、道具や機械を通じて可能にする。当然ながらその純化は、生産工程における物財生産を強化し、剰余価値生産の絶対的増大または相対的増大を実現する。その剰余価値生産の増大の特異性は、先の(5b)に記載している。ただしそれが剰余価値生産の単なる絶対的増大または相対的増大と区別されるのは、次の点に従う。


・剰余価値生産の一時性

優位技術に立脚して増大する剰余価値は、特別剰余価値である。その増大した剰余価値生産は、同業他社が横並びに同じ不変資本を導入すると消失する。もちろん同じことは、単なる労働日延長や重労働化による剰余価値生産の増大にも該当する。しかしもともと単なる剰余価値生産の増大に不変資本は関与しないし、その剰余価値消失にも不変資本は関与しない。さらにそれは生成した剰余価値の一時性に対立しており、基礎的な剰余価値自体の生成とその固定化に役割を持つ。


・労働日延長と重労働化の恣意性

優位技術に立脚した剰余価値生産の増大は、その実施部門において必ずしも労働力の労働日延長と重労働を付随させない。それと言うのも、不変資本が実現する優位技術の有効性は、むしろ労働日延長や重労働を排除する省力化において試されるからである。とは言え強力な労働力と貧弱な労働力が共同作業する場合、貧弱な労働力は強力な労働力に歩調を合わせる。それと同様に強力な機械と労働者が共同作業する場合、労働者の労働環境は労働日延長や重労働などにより劣悪化する。結果的に不変資本の導入は一方で労働環境を改善し、他方で労働環境を劣悪にする。さしあたりここでの労働環境の改善と劣悪化の方向は、部門支配者と労働者の力関係が限定する。しかし最終的にその方向を限定するのは、部門の経済的収支である。つまり労働環境の改善と劣悪化は、労使の力関係だけで限定し得ない。とは言え不変資本が剰余価値生産を増大するなら、労働環境は改善されるべきである。ところが不変資本を所有するのは、労働者ではなく部門支配者である。端的に言うと労働環境の改善と劣悪化を限定するのは、部門支配者の恣意である。そして部門の経済的収支の改善は、もっぱら部門支配者の収益だけを増大させる。


・剰余価値の他部門収得

蓄積資本の充填対象が自部門の可変資本ではなく、他部門の不変資本である場合、その道具や機械を生産するのは、他部門の可変資本である。したがってその生産において生じる剰余価値は、不変資本を生産する他部門が取得する。これに対して不変資本の導入部門が得る利益は、特別剰余価値に留まる。しかもその不変資本の威力は、旧来の生産部門から生産工程の一部分を省略させる。もし不変資本が旧来の生産部門から生産工程の全てを省略するなら、旧来の生産部門は単なる運輸部門に転じる。しかもその特別剰余価値は、同業他社が同じ不変資本の導入に踏み切ると消失する。この点で不変資本の導入は、その当の導入部門における長期の恒常的な剰余価値取得に反する。つまり部門固有の生産工程を喪失した状態で特別剰余価値が喪失すると、旧来の生産部門は経営危機に直面する。


・生産部門の不変資本への依存

もともと上記(5b)までに示した旧来の生産部門は、原材料の不変資本と自部門の可変資本の二資本を結合し、最終的な不変資本を生産していた。しかし生産部門が新たに道具や機械の不変資本を導入すると、生産部門は旧来の原材料と自部門の労働力のほかに、他部門が提供する不変資本の三資本を結合し、最終的な不変資本を生産する。ここでの他部門が提供する不変資本は、既存の原材料と別物であるにせよ、既に新たな原材料である。そしてそのように新たな不変資本を捉えて言えば、旧来通りに生産部門は原材料と自部門の労働力の二資本を結合し、最終的な不変資本を生産しているだけである。しかし道具に過ぎなかった新たな不変資本は、今では原材料として必須資源に転じている。それゆえに不変資本の導入部門は、その不変資本の生産部門に依存せざるを得ない。それは上記した生産工程の簒奪と相俟って、既存の生産部門の存在意義を奪う。このような既存の生産部門は、自らを強力な中間搾取者として生き残らせることができなければ、不要な中間部門として消滅する。


(6)特別剰余価値の伝播と消滅

 労働価値論において生活単位は、それ自身が価値単位である。そしてこの生活単位は、同時に労働力の価値である。それゆえに生活単位の価値下落は、そのまま労働力の価値を下落させる。そして労働力は全ての物財の価値を限定するので、労働力の価値下落は物財全体の価値を一緒に下落させる。その労働力の価値下落は、まず生産部門の一部における可変資本減資により始まる。そしてしばらくの間は、先行して可変資本減資を実現した生産部門が特別剰余価値を獲得し、逆に可変資本減資を実現していない生産部門が特別損益を被る。しかし長期的にその特別利益と特別損益は、生産財価値を物財生産に必要な労働力価値へと収束して消滅する。その収束と消滅が一方で表現するのは、該当部門における不変資本増資と可変資本減資の普遍化である。そしてそれが他方に表現するのは、部門全体における生産財の価値下落である。この生産財の価値下落は、生活財の価値下落に連携しており、さらに生活単位の価値下落、および労働力の価値下落に連携する。この全体的な価値下落の連携は、以前だと一日の労働力で一日分の生活単位を生産していたものを、例えば半日の労働力で一日分の生活単位を生産するのを可能にする。以下の生産財転換モデルは、消費財部門における不変資本導入がもたらす可変資本の価値下落を1/tにしている。下記モデルでは4回の資本回転において、その価値下落が波の進行のように資本財部門から第三部門に順次伝播し、最終的に特別剰余価値を消滅させる。

[資本財交換における生産財転換モデル9] ※∮gXは価値形態の∮X。


[資本財交換における生産財転換モデルでの商取引9] ※▼:出力、△:入力、なお∮gXは価値形態の∮X

(2023/07/22)

続く⇒第二章(6)独占財の価値法則   前の記事⇒第二章(4)不変資本を媒介にした可変資本増強

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


唯物論者:記事一覧


コメントを投稿