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唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第五章:生産要素表(1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠)

2025-05-05 09:32:09 | 資本論の見直し

(1)前章(15)以降の生産要素表における変数の数理マルクス経済学表記への準拠

 これまでの記載の流れからすると判りにくくなるが、前章(15)で修飾表記を加えた変数表記a1・a2・b1・b2をそれぞれ数理マルクス経済学の表記に準じて、次のようにa21・a12・a11・a22に変える。

  a1→a21   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な消費財量
  a2→a12   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な資本財量
  b1→a11   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な資本財量
  b2→a22   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な消費財量
     v1   …資本財一単位に占める部門人員が消費する資本財量(=1-a11-a21
     v2   …消費財一単位に占める部門人員が消費する消費財量(=1-a12-a22
     L1   …資本財部門労働力数
     L2   …消費財部門労働力数

したがって前章(16)で示した部門間の物財交換も次の図柄になる。


(1a)前章(15)での生産要素表の追加修正

 前章生産表10aで不足していた生産要素として消費財部門の資本財部門向け物財生産量、および各部門の自部門向け物財生産量を加えた表が以下。なおここではまだ各部門における剰余価値搾取を想定していない。

[物財生産工程における生産要素11b(二部門モデルⅰ)] ※①~⑫は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(1a1)実行可能性条件


上記生産表の実行可能性条件は、賦存物財量合計が賦存物財総量に収まることである。それゆえに賦存労働力総数をLt、賦存物財総量をKとした場合、実行可能性条件は次の式で表現される。
(1.1)v1・x1+v2・x2 ≦Lt
(1.2)a21・x1+a22・x2+a11・x1+a12・x2 ≦K

もし(1.2)を資本財に限定し、賦存資本財総量をK1とした場合、実行可能性条件(1.2)は次の式に表現される。
(1.2.1)a11・x1+a12・x2 ≦K1

なお上記生産表はどちらの部門も純生産物量がゼロになる単純再生産表なので、純生産物量をプラスにする純生産可能条件が成立しない。


(1a2)純生産可能性条件


上記生産表の純生産可能条件は、純生産物量がマイナスにならないことである。しかし上記生産表は単純再生産表なので、純生産物量をプラスにする純生産可能条件が成立しない。ここで純生産物量をプラスにするためには、労働力数に対応する必要物財量を小さくして、剰余価値を捻出する必要がある。それゆえに資本財部門の純生産可能条件は、、次の式のように不等号を逆転して表現する。
(1.3)v1・x1-L1 <0
(1.4)v2・x2-L2 <0

一方でx1=a12・x2 /(1-a11) 、L1=v1・x1なので、次の式も純生産可能条件となる。

(1.5)v1・x1-L1 <0 ⇔ v1・a12・x2 /(1-a11)-v1・x1 <0
                  a12・x2 /(1-a11) -x1<0
                             x2 <(1-a11)x1/a12


(1b)前章(16)での生産要素表の追加修正

 前章生産表11aに労働生産性を加えて部門の余剰生産物が現れる表が以下。なお搾取者用価値単位の代わりに搾取者用必要物財比を使って搾取者の必要物財量を表現している。余剰生産物の登場で各部門における剰余価値搾取が可能となり、生産表にも剰余価値率が登場する。

[物財生産工程における生産要素12b(二部門モデルⅱ)] ※①~⑱は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(1b1)純生産物量

労働力数Ln=xn /dn から各部門の純生産物量は、次の式になる。
 vn・xn-Ln =(vn-1/dn)xn

純生産物量がプラスになるためには、式の右辺における物財生産量xnの係数がプラスになる必要があり、それは次の式に落ち着く。
  vn >1/dn
  vn・dn >1

nは生産物に占める労賃占有率である。上記式を見ると労賃占有率が低いとそれだけで純生産物量が少なくなる。純生産物量をプラスにするなら、少なくとも労働生産性の逆数1/dn は、この労賃占有率vnより小さくならなければいけない。つまり労賃占有率が減少しても、それをカバーして労働生産性が増大し、両者の積が1を超えるなら純生産物量はプラスになる。さらに労働生産性がこの条件を超えて増大するなら、当たり前のことだが、純生産物量は増大する。ただ労働生産性dnが増大しなくても、労賃占有率vnが増大しても、純生産物量は増大する。そして労賃占有率vn は、生産物に占める必要物財の占有率の残余比率(1-a1n-a2n)、すなわち(1-amn)である。つまり当たり前のことだが、必要物財占有率amn の減少で純生産物量は増大し、逆に必要物財占有率の増大で純生産物量は減少する。ただし後述することになるが、消費財部門における必要資本財占有率の増大は、資本財部門の純生産物量を増大させる。
  (1-amn)dn >1

一方で上記の労賃占有率vnと労働生産性dnに対応した純生産物の増大速度は、部門の物財生産量xnに比例する。消費財部門の物財生産量x1は労働生産性と労働力数の積d2・L2である。なので既出の労働生産性の増大を外して言うと、当たり前のことだが上記の純生産物量の発生条件が成立するなら、労働力数の増大が物財生産量および純生産物量を増大させる。これに対して資本財部門の物財生産量x1は以下の式になっている。
  x1 =a12・x2 /(1-a11)

この式では消費財生産量x2と必要資本財占有率a12、および資本財部門の必要資本財占有率a11 の増大は、資本財生産量を増大させる。当然ながら消費財生産量x2と必要資本財占有率a12 の増大は、資本財部門の純生産物量も増大させる。しかしこの純生産物の増大は、先行に示した必要物財占有率の増大が純生産物量を減少させる見通しに反する。この純生産物の増大は、ここでの必要物財占有率の増大が他部門に起きていることに従う。ただし資本財部門における必要資本財占有率a11 の増大は、資本財生産量を増大させるだけで、やはり純生産物量を減少させる。この事情は、資本財部門の純生産物量を整理した次の式から確認できる。
  v1・x1-L1 =a12・x2(1-(a21+1)/((1-a11)d1)

結果的に純生産物量の発生条件、および増大条件は次のようになっている。

 [純生産物量の発生条件]
  ・vn・dn >1

 [純生産物量の増大条件]
  ・労働生産性dnの増大
  ・労賃占有率vnの増大、必要物財占有率amnの減少
  ・消費財生産量x2の増大、消費財労働力数L2の増大


(1b2)純生産物量の傾き

上記表の各部門の純生産物量式に人員数式を代入して整理すると以下の式になる。右辺式は、左辺の純生産物量を実現する物財生産量である。なお純生産物量を∮nで表し、vn・dn-1>0とする。
  純生産物量:∮n =vn・xn-Ln =(vn・dn-1)xn/dn

上記式を変形して、左辺の物財生産量を実現する純生産物量の右辺式に変える。
  純生産物量’:xn=dn・∮n/(vn・dn-1)

この式を純生産物量∮n について微分すると、単位当たり純生産物量を実現する物財生産量の式が得られる。
  物財生産量’:xn’ =dn/(vn・dn-1)


(1c)前章(17)での生産要素表の追加修正

 前章生産表12aで確立した剰余価値率から逆に労働生産性が現れる表が以下。生産表における剰余価値搾取が固定することで、逆に労働生産性が低下する可能性も現れる。

[物財生産工程における生産要素13b(二部門モデルⅲ)] ※①~⑱は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(1d)前章(19e)での生産要素表の追加修正

 前章生産表13aで確立した資本主義的生産表に、地権者による地代収入を加えた表が以下。地代は労働生産性向上による収益の増大を吸収することで、剰余価値率の増大も抑止する。

[物財生産工程における生産要素14b(三部門モデル)] ※①~㉒は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例

(2025/04/29)

続く⇒第五章(2)   前の記事⇒第四章(7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
      (6)余剰資産対価としての地代
      (7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
  5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
      (1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠


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数理労働価値(第四章:生産要素表(7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化)

2025-04-29 16:12:31 | 資本論の見直し

(20)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化

 これまでの生産表の記載は、一人当たりの生活に必要な消費財量を基準にして各種必要物財量と生産量、剰余価値、地代を表現してきた。筆者は上記生産表におけるその必要消費財量を価値単位cとして表現し、現在の日本の平均的労働者の日当賃金に模した値としてその量を15,000に設定した。つまり価値単位cの15,000は、単純に平均的労働者一人当たりの必要賃金15,000円をなぞらえた値である。しかし本来なら必要消費財量の内訳は、食糧であり、衣料であり、住居であり、その他の生活必要財であり、教育や医療などの福利厚生サービスの生活必要サービスの全体である。しかしその内訳を15,000と言う量で表現するなら、その1単位が何を表現するのか、言い換えると1円が何を表現するのかが再び問われなければいけない。ところがこの1円は、平均的労働者一人当たりに必要な消費財量の内包量に過ぎない。つまり1円は、労働者の生活必要財を全体にした部分に留まる。またそれだからこそ1円は、それらの必要財を一般化した価値の抽象物として現れる。ただこのような貨幣単位が必要消費財量の何分の一に当たるべきかは、偶然な諸事情に左右される。もちろんそれが単位として細かすぎては不便であり、デノミを必要とする。逆に単位として大きすぎても諸計算が大雑把になり、概算だらけになる。この点で言うなら、生産表における価値単位cは日当賃金を模した15,000であるより、直接に労働力1単位を表現するのが妥当である。また既存の数理マルクス経済学の生産要素表が価値単位に労働力を使用しており、既存の数理マルクス経済学との比較の点からも、この価値単位の労働力への一元化は要請される。もちろんこの単位変化は、上記表における物財量を15,000で除するだけの表に変化させる。しかしこの価値単位の一元化は、労働力が内包する必要消費財量の大きさの変動を不明瞭にする問題を持つ。とは言え労働力への単位一元化は、1労働力を15,000円に単位変換させる無駄を省略できる利点を持つ。またそれは、そもそも価値単位は物財ではなく、労働力であることも明解にできる。どのみち前項(12)以後に展開した生産要素表は、必要消費財量を15,000の固定値で扱ってきた。そこで前項(12)以後に展開した生産要素表の価値単位を、必要消費財量の代わりに労働力に替えて、以下に再展開する。


(20a)前項(12)での生産要素表

 部門の区別の無い形で不変資本を導入した生産表の場合、部門全体の労働力数はそのまま部門全体の物財生産価値量と同値になる。ただ元の前提で労働力の必要消費財量を15,000円にして、その労働力数倍の30,000,000円にしていた物財生産量表記を、元の労働力数に戻すために15,000で除してやる必要がある。またこれと同じことは元の余剰生産物量40,000,000にも該当する。これにより一労働力当たりの消費物財量、すなわち価値単位cは恒常的に1となり、行表示として無駄な行に転じる。なので生産表7以下の生産表再展開でも人数と必要物財量の行を統合し、価値単位行を省略している。

[物財生産工程における生産要素3a(不変資本導入)]


 上記表3aを資本財部門が物財生産しない形で二部門化した表が以下。消費財部門の純生産物を資本財部門が消費するだけの表になっている。

[物財生産工程における生産要素7a(不変資本導入ⅰ)] ※①~⑥は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(20b)前項(13)での生産要素表

 上記表7aが消費財部門の物財生産量を余剰生産物量を含めた(a+1)xにしていたのを、xに正した表が以下。式が変わっただけであり、相変わらず消費財部門の純生産物を資本財部門が消費している。

[物財生産工程における生産要素8a(不変資本導入ⅱ)]  ※①~⑥は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(20c)前項(14)(14a)での生産要素表

 上記表8aを資本財部門の消費財部門向け物財生産量を加えた表が以下。消費財部門と資本財部門の収支がゼロとなり、両部門からの純生産物消失により、搾取も消失する。

[物財生産工程における生産要素9a(不変資本導入ⅲ)]  ※①~⑩は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


 以下は上記表9aの要素表記のうち、単位当たり投下物財量と物財生産量を部門ごとに識別するために修飾表記を加えただけの表。内容に変化は無い。

[物財生産工程における生産要素10a(不変資本導入ⅳ)]   ※①~⑩は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例。なおx1=a2・x2/(a2+1)


(20d)前項(15)での生産要素表

 上記表10aで不足していた生産要素として消費財部門の資本財部門向け物財生産量、および各部門の自部門向け物財生産量を加えた表が以下。ここではまだ各部門における剰余価値搾取を想定していない。

[物財生産工程における生産要素11a(二部門モデルⅰ)] ※①~⑫は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(20e)前項(16)での生産要素表

 上記表11aに労働生産性を加えて部門の余剰生産物が現れる表が以下。なお搾取者用価値単位の代わりに搾取者用必要物財比を使って搾取者の必要物財量を表現している。余剰生産物の登場で各部門における剰余価値搾取が可能となり、生産表にも剰余価値率が登場する。

[物財生産工程における生産要素12a(二部門モデルⅱ)] ※①~⑱は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(20f)前項(17)での生産要素表

 上記表12aで確立した剰余価値率から逆に労働生産性が現れる表が以下。生産表における剰余価値搾取が固定することで、逆に労働生産性が低下する可能性も現れる。

[物財生産工程における生産要素13a(二部門モデルⅲ)] ※①~⑱は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(20g)前項(19e)での生産要素表

  上記表13aで確立した資本主義的生産表に、地権者による地代収入を加えた表が以下。地代は労働生産性向上による収益の増大を吸収することで、剰余価値率の増大も抑止する。

[物財生産工程における生産要素14a(三部門モデル)] ※①~㉒は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例

(2025/04/29)

続く⇒第五章(1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠   前の記事⇒第四章(6)余剰資産対価としての地代

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
      (6)余剰資産対価としての地代
      (7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
  5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
      (1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠


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数理労働価値(第四章:生産要素表(6)余剰資産対価としての地代)

2025-04-20 11:35:59 | 資本論の見直し

(19a)特別剰余価値としての地代

 単純な労働価値論が地代に期待するのは、それが土地の開墾や整地に投じた労働力の量と等しいことである。そのような地代は、土地の有効化に投じた労働力に対する報酬となる。ところが一方にもともと開墾や整地の不必要な土地も存在する。その土地に期待される地代はゼロである。しかしその土地の地代はゼロにならない。リカードの差額地代論において、整地に労働力を投じた土地と、投じていない土地の両者の地代は同額である。それと言うのも、この二つの土地に差異が無いからかである。ただしここでの整地不要な土地の地代は、整地必要な土地の地代によって決定される。もし地代がゼロで現れようとするなら、二つの土地の地代が共にゼロとなる必要がある。そのための条件は、どちらの土地にも整地労働力が投じられていないことである。しかしそれは非現実であり、地代ゼロの土地は市場に現れない。なるほどこの差額地代論は、労働価値論を維持して地代を説明する。また少なくとも整地労働対価は、地代の一部を構成する。一方で整地地代が投下労働力に応じた価格なのに対し、不整地地代は投下労働力に応じた価格より大きい。それゆえにその不整地地代は不当価格であり、それで得られる利益も不当利益に現れる。しかし差額地代論は、その利益の不当性を問題にしない。他方でこのような価格の不当性は、不整地地代に限らず、市場価格から外れた差額略取の全てに該当する。基本的にその差額略取で得られる特殊利益の全ては、マルクス経済学における特別剰余価値から理解した方が納得しやすい。特別剰余価値とは、市場価格より安い元値の商品を市場価格で売却する際に得られる特殊利益を指す。本来なら商品価格は、その商品の再生産のために必要な投下労働力と同額である必要がある。もしその商品の再生産のために必要な投下労働力が、市場の同じ商品の再生産のために必要な投下労働力より小さいなら、その商品は市場価格より安値である必要がある。それにもかかわらずその商品価格が安値とならず市場価格で売却されるなら、その商品価格は不当価格であり、それで得られる利益も不当利益である。ところがその商品は市場商品と差異が無いので、その市場価格に等しい不当価格は正当な価格となり、その不当利益も正当な利益となる。この正当化した不当利益が、特別剰余価値である。なおマルクスが特別剰余価値の対象にしたのは、このように新規技術が安価な商品価格を可能にするケースである。ただしその特殊利益に必要なのは、新規技術よりむしろ生産者による技術独占である。それどころか独占それ自体があるなら、新規技術さえも不要である。したがって特別剰余価値は、市場価格より高い商品を市場価格で買い叩く際に得られる特殊利益としても現れる。つまり権利的独占が差額略取を可能にするなら、特別剰余価値も取得可能となる。当然ながら既存商品を正当に強奪して転売できるなら、その売却によってもゼロ価格に対する差額略取から特別剰余価値が生じる。どのみち独占が正当であるなら、どのように不当な価格や利益も、独占の正当性に従って正当な価格や利益に昇格する。上述の不整地地代により得られる特殊利益は、このような新規技術を必要としない特別剰余価値である。それが根拠にするのは、正当化された独占それ自体である。


(19b)余剰資産対価としての地代

 地代は特別剰余価値の一形態であるとしても、それが必要とするのは先進技術ではなく、土地の権利的独占である。このために地代で得られる特別剰余価値は、やはり先進技術を根拠にした特別剰余価値と区別される。先進技術を根拠にした特別剰余価値は、商品再生産のための削減労働力相当額として生じる。その超過利益を実現するのは、剰余価値搾取の相対的増大であると同時に他の生産者利益からの横取りである。先進技術生産者は、労働力からより多くの剰余価値を得るだけでなく、他の生産者から市場を奪うことで特別剰余価値をより多く捻出する。その超過利益が前提するのは、対象商品の再生産のために必要とされる既存の労働力量である。その労働力量との比較により先進技術が実現する削減労働力量が決まり、その相当額として特別剰余価値が生じる。ところがこの特別剰余価値の前提は、地代の場合に成立しない。なぜなら地代の場合、土地の再生産のために必要とされる労働力量は、整地と売買に関わる投下労働部分を除いて言えば、存在しないからである。もちろん土地売買を成立させるために莫大な労働力を要し、そのために地代が高騰すると説明するのも間違っていない。しかしそれでは需給関係が商品価格を決めるだけとなり、価格論が労働価値論以前の出発点に舞い戻ってしまう。また住むだけの家屋を建てるだけの目的で土地を考えるなら、労働者の購入対象にする土地の現実の地代は高すぎる。住宅用の土地を整地するだけの必要労働力は、一労働者の一生分の労働力よりはるかに小さい。またそもそも地代が前提するのは、対象商品の再生産のために必要とされる労働力量ではない。結論を先に言えば、地代は労働者の生活に必要な居住空間を単位とし、その一単位は一労働者に可能な残余資産を表現する。それゆえに労働者一人当たりの地代は、次の一般式で表現される。

  地代 = 労働力全体 -住居以外の消費に充当する労働力部分

上記一般式における地代を、一労働者が生涯に負担する地代総額として捉えるなら、その値は労働者の生涯に生産可能な労働力総量から、住居以外の消費に充当する労働力総量を控除した残余に等しくなる。

  生涯地代 = 生涯労働力全体 -住居以外の消費に充当する生涯労働力部分

それゆえに労働者が土地購入で地代を一括払いするなら、その土地価格はこの地代総額を上限にして既払いの地代を差し引いた未払いの地代総額として現れる。同様に労働者が土地購入なしに日額で地代を支払うなら、その日額の地代はこの地代総額の日割として現れる。

  日額地代 =労働力日額全体 -住居以外の消費に充当する労働力日額部分

地代が労働者の残余資産総額として現れるのは、そもそも土地が再生産可能な物財ではなく、なおかつ労働者の生活に不可欠な物財であることに従う。一方で地代がこのような余剰資産対価として規定されると、逆に開墾や整地、売買に関わる投下労働力部分は、地権者にとって地代における無駄な支出部分にすぎない。しかし居住可能な土地が限られている以上、開墾や整地、売買に関わる投下労働も必要であり、その投下労働に対して地代からその該当部分が控除されることになる。そこで上記一般式にその控除部分を追記すると、次の一般式が現れる。

  地代 = 労働力全体 -住居以外の消費に充当する労働力部分 -土地有効化のための労働力


(19c)地代の特殊性

 旧時代の無産者において日々の労働と日々の消費は等価であり、彼らにとって資産の確保は不可能であった。この状態の無産者にとって資本家と地権者は、自らの生産物を搾取する異なる相手に留まる。これに対して現代の労働者の場合、その日々の労働と日々の消費は必ずしも等価ではない。このような労働者は、その差分で得た余剰によって資産を確保できる。ここで労働者の生活消費に要請されるのは、子供の養育を含めた家族の衣食住である。ただしそれらに必要な物財は、労働者の日々の生活規模に応じて生産される。当然ながらそれらの物財価格も、その同じ必要労働力規模で規定される。それゆえに労働者は、日々の労働によって大概の生活消費財を購入できる。またそうでなければ労働者は生活できず、社会に餓死と強奪が蔓延する。一方で労働者とその家族は、居住空間なしに生活できない。しかし彼らが住むための土地は人類誕生以前から存在しており、労働力の投入によっても再生産できない。その価格は本来ならゼロである。もちろんその生活空間の一部は、宅地造成や高層建築、および移動手段の発達によって多層に増大できる。ここでも労働力投下が、その空間的増大を現実化する。しかしそこで生産できるのは、物理空間自体ではない。多層に増大する生活空間はそもそも自ら増大するための地表面積を必要とし、それは労働力の投下によっても再生産できない。ここで労働者に迫られている困難の正体は、この土地が持つ再生産不可能性に従う。この困難に対処するために労働者は、持てる資産の全てを地代に充填する。ここでの地代を規定するのが、労働者の余剰資産である。例えば労働者の住居賃料を決めるのは、労働者の平均的な月当りの余剰資産規模である。また住宅地価格を決めるのは、労働者の平均的な生涯当たりの余剰資産規模である。それゆえに労働者の余剰資産が増大するにつれて、地代も高騰する。結果的にこの項の始まりで見た現代労働者における日々の労働と日々の消費の不等価は、錯覚となる。労働者の生活をその生涯を通じて見直すと、旧時代と同様に、労働者は相変わらず余剰資産を持ち得ない。一方で地代が労働者の残余資産総額として現れることは、商品価格を再生産に必要な労働力量として扱う労働価値論をやはり浸食する。それと言うのも地代を規定するのが、土地再生産に必要な労働力量ではなく、土地取得に必要な労働力量だからである。ここでの土地は、金と同様の等価物商品であり、労働力版蓄電池に化している。このために土地に対して現れる価値論は、投下労働価値論であるよりは、支配労働価値論となる。土地がそのように労働力版蓄電池たり得ているのは、さしあたり土地が持つ不変不朽で均質な等価物属性に従う。ただそれよりも土地による労働力支配に重要なのは、上記の再生産不能な生活財としての特殊性である。なお労働力版蓄電池としての土地は、土地相続した子供の生涯から地代負担を取り除く。それは一方で有産者と無産者の区別を失くし、労働者子弟に可処分な余剰資産を与える。このような労働者子弟は、既に旧時代の労働者階級に属していない。他方で相変わらず余剰資産を地代に吸い取られる労働者は、同族の労働者との生活格差に直面する。ここでの新たな有産者と無産者の区別と対立は、資本主義社会を新次元の格差社会に導く。


(19d)地代を含めた生産要素表

 これまでに考察してきたのは、既存の生産環境における生産量と剰余価値率の変化に応じた物財生産の内訳である。ただしそこで確認したのは、物財生産が拡大するだけの経済運動である。そこでは物財生産の増大が純生産物を生成し、それに応じて搾取階級が登場する。そしてその一方で部門分割が進行して、また新たな搾取階級を生まれた。しかしその考察は、人員の必要物財量、他部門に供給する物財量、自部門生産に必要な物財量、さらに剰余価値率に応じた物財量について、物財生産に対する制約を与えていない。前項における二部門モデルにおける各部門の生産要素についても、単純に二部門の各生産者と搾取者それぞれの相関を示しただけである。その無制約な生産の拡大は、一方で搾取階級を増大させつつも、階級間対立が緩和した平穏な経済と社会秩序を可能にする。過渡的な過酷な搾取や不労所得の不平等を度外視して言えば、ここでの生産要素に消費と供給の不整合も現れない。さしあたりこの生産要素表の無制約性を維持するなら、土地所有を権利にした搾取者は先の生産要素表における搾取者と区別されない。したがって地代を含めた生産要素表を新たに用意する必要も無い。他方でこの階級社会の小康は、生産と消費の総計一致を前提する。もし必要消費量に対して生産量が少なければ、該当物財の再生産に必要な労働力の追加動員により、生産と消費の総計一致が企てられる。逆に必要消費量に対して生産量が多すぎれば、該当物財の消費増大により生産と消費の総計一致が企てられる。労働力の追加動員、物財の消費増大のいずれにおいても必要とされるのは、労働力における余剰資産である。余剰資産があってこそ労働者は長期の無給に耐え、生産拡大時の産業予備軍となる。ところが無産者の労働力は長期の無給に耐えられない。それゆえに生産拡大を可能にするマルクス・カテゴリーとしての産業予備軍も空語に留まった。そして無産者に押し留められる労働力は、消費増大の役割も果たせない。これに対して現代資本主義は、贅沢品部門への労働者生産の集中、および富裕者による消費を振り向けることで、生産と消費の不均衡を是正してきた。しかし消費不能な規模の富裕者への富の蓄積は、このような不均衡の是正措置を不可能にする。それが意味するのは、物財生産の拡大を阻害する経済障壁の実在である。そしてしばしば消費者を失った社会的な巨大投資が、周期的に社会に急激な経済収縮をもたらしてきた。ただしもともとその不均衡は、不労者による所有権に従う搾取に対する正当化に起因する。地代はこの合法的搾取の出発点であり、資本主義的搾取の理想像として合法的搾取の終着点になっている。それゆえに地代収支は、資本主義の未来を占う意味でも、また既に示した通りに労働者の生涯余剰資産の全てを収奪する点でも、社会的経済収支の重要な部門として現れる。地権者に分与される物財量を加える形で先の生産要素表を書き直すと、次のようになる。

[物財生産工程における生産要素11(三部門モデル)] ※①~㉕は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(19e)地代搾取の分離に現れる生産要素表の変様

 前項(12)に記載した最初の生産表は、消費財一単位に対して消費財部門が必要な資本財量aがそのまま消費財部門の労働生産性として現れ、同時に消費財部門の剰余価値率を表現していた。しかしその表現も資本財部門が正規の生産部門に転じると、前項(17)の生産表で消費財部門が必要な資本財量a2が剰余価値率m2と分離し、労働生産性も(1+m2)/v2に転じる。ただしそれは相変わらず労働者に余剰資産を与えない限りの労働生産性であり、労働生産性と剰余価値率は一体にあった。労働者にとって資本家と地権者に差異は無く、地代が生産表に現れる必要もとりあえず無かったし、そこでの労働者も無産者を超えなかった。ところが労働生産性が高まると、それは労働生産性と剰余価値率を分離させる。その分離は労働者における権利意識の高揚によって始まり、剰余価値率を超えた利益の労働者への還元に結実し、労働者における余剰資産を可能にする。ただしそのさしあたりの内実は、労働者を媒介にした資本家と別種の搾取者への剰余価値集積に留まる。それが表現するのは、もともと労働者にとって差異の無かった資本家と地権者の二種の搾取者の分離である。つまりここで現れた労働生産性と剰余価値率の分離は、資本家と地権者の二種の搾取者の分離にすぎない。そしてその生産表による表現が、上記生産表となっている。剰余価値の一部は資本家の手から労働者に還元されても、再び地権者に吸収される。その内実は一見すると、労働者を再び無産者にする。とは言え労働者に還元された剰余価値は、労働者の自由を基礎づける。また労働者が土地を一旦収得するなら、その後続する労働者は地代搾取から解放される。もちろん一方にまだ地権者により搾取される労働者は残されており、その労働者間の格差が新たな階級間対立の火種となる。それでも搾取の部分的緩和は、物体化させられてきた労働者全体の人間への復権に繋がる可能性を秘めている。それと言うのも地代無償化は、物体化した人間が本来の人間へと復権するための重要な構成要素だからである。
(2025/04/20)

続く⇒第五章(1)余剰資産対価としての地代   前の記事⇒第四章(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
      (6)余剰資産対価としての地代
      (7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
  5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
      (1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠


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数理労働価値(第四章:生産要素表(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取)

2025-03-08 09:30:44 | 資本論の見直し

(16)各部門における生産力の拡大による純生産物の生成

 一方の他方に対する各種の権利的支配力を持たない物財交換は、差額略取を許さない等価交換に転じる。しかし一方の他方に対する各種の権利的支配力を持たない物財交換は、必ずしも二部門間の物財交換で起きる必要も無い。交換過程から排除された差額略取は、労使関係における権利的優位によって労働力が生産する物財量と労働者が受け取る物財量の不等価交換の姿に一般化する。そして剰余価値とは、この一般化した特別剰余価値を言う。この生産過程において搾取者の扶養は必要経費の一つに数えられ、搾取者が負担すべき労働力を労働者が肩代わりする。このような剰余価値は、投下労働力に必要な消費財量部分を生産量から控除した残余部分であり、上記表において純生産物量で示した(v・x-L・c)として現れる。ところが上記表において各部分における純生産物量はゼロであり、一見すると搾取が現れない。この搾取の消失は、搾取者が必要労働力を偽装していることで発生している。実際の剰余価値搾取は、部門収支の内側に隠れている。この内包された搾取の構成内容を消費財部門と資本財部門の生産物財の内訳で描くと次のようになる。消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門人員の必要消費財量v1・x1と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。ただし資本財部門人員の必要消費財量v1・x1の内部は、さらに資本財部門労働力の必要消費財量L1・cとそれ以外の資本財部門搾取者の必要消費財量(v1・x1-L1・c)に分離している。



剰余価値は搾取者のための消費財量として部門搾取者全体に分与され、個々の搾取者にさらに分配される。もし個々の搾取者の受け取りが労働力と同様に人間生活の最低限の物財量で良いなら、搾取者の人数も剰余価値量を一労働力当たりの消費財量で頭割りすることで得られる。ただ支配者としての搾取者の受け取りは、もっぱら人間生活の最低限の物財量より多い。それゆえに以下で搾取者一人当たりの消費財量を、一労働力当たりの消費財量の1.5倍とみなし、表現もcで表す。一方でもともと剰余価値は、投下物財量を超える物財生産量の残余である。剰余価値を生むために労働力は、投下物財量を超える物財生産量を実現する必要があり、その投下労働力に対する物財生産量の比率は、労働生産性として現れる。そこで各部門における労働生産性をdnで表現し、労働生産性に対応して剰余価値と剰余価値率mnおよび搾取者の人数を設定して上記表11を改変すると、次のような生産表になる。なおここでの追加変数は、次のものである。
  c   …搾取者一人当たりの消費財量
  d1   …資本財部門における労働生産性
  d2   …消費財部門における労働生産性
  m1   …資本財一単位に対する剰余価値量、つまり資本財部門の剰余価値率
  m2   …消費財一単位に対する剰余価値量、つまり消費財部門の剰余価値率

[物財生産工程における生産要素12(二部門モデルⅱ)] ※①~㉑は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


上記要領で生産要素の相関を確定できれば、各種変数値の具体的数値設定により、上記表をエクセルシートなどの表計算ソフトで実現可能となる。
なお上記表では各部門の純生産物搾取はゼロになっており、部門をまたがった搾取は発生していない。


(17)剰余価値率の固定と生産価格論

 もともと剰余価値は、投下物財量を超える物財生産量の残余である。しかし一度それが搾取者の生活として実体化すると、それは単なる残余ではなく固定した残余となり、生産過程における必要経費に転じる。このときに労働生産性は規定事実に成り下がり、労働生産性は剰余価値率に転じる。この場合に上記表における労働生産性は、むしろ剰余価値率から表現されることになる。この逆転は一方で労働力と賃金の等価交換を表現しながら、総労働力と総生産物の不等価交換を表現し、他方で個々の物財同士の等価交換を表現しながら、総体において不等価交換を実現する。その不等価ギャップを可能にするのは、労働力に必要な物財量を超える労働力が生産する物財量の数量ギャップである。当然ながら総体における不等価を個々の物財価格に均すと、個々の物財においても不等価交換が現れる。しかしこの不等価交換は、物財交換における差額略取に等しい。それゆえに市場における生産物競争は、一方で数量に占める無駄な物財量を排除し、他方で価格に占める無駄な必要経費の削減を要求する。そしてその要求は、長期的に無駄な搾取者を排除し、剰余価値率のゼロ化を目指すことになる。とは言え搾取者の生活として実体化した剰余価値は、自らの消滅に抗う。そこで剰余価値率は、同じ利害にある搾取者が共同して固定化し、平均利潤率へと収束する。それが表現するのは、物財交換における実質的な不等価交換の恒久化であり、等価交換の一時的な死である。ただしその等価交換の死は表面化することは無く、先の14)で示したように、搾取者が自らを経営労働力として労働者を装う形で等価交換の偽装が進行する。この物財価値の生産価格化に従い、上記の物財交換構成と生産表を改変すると次のようになる。消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門労働力の必要消費財量(1+m1)L1・c と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。



なお一見すると生産価格において商品価格が投下労働力量を超えることは、商品価格を投下労働力量に一致させる労働価値論に対立させる。しかしこの不一致は商品総量における不一致であり、単位あたりの商品における不一致ではない。それは総量における不一致を、商品一つ当たりに均すことで初めて現れるような不一致である。マルクスも資本論の冒頭に開陳した剰余価値論で、商品価値を必要労働力ではなく、必要労働力量+剰余労働力量で示している。その商品価値の構成は、必要商品にあらかじめ剰余商品を混ぜることで初めて現れるものである。このことは、マルクスが資本論の冒頭で既に生産価格論を想定しているのを示している。

[物財生産工程における生産要素13(二部門モデルⅲ)]  ※①~㉑は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(18)価値単位増減の生産表への影響

 先の8)の記述を繰り返すと上記の生産規模拡大は、搾取者が余剰生産物を消費する一方で、労働者が余剰生産物を消費するのも可能である。この場合の拡大再生産は、労働者の必要消費量増大により、その余剰生産物を消費する。そして労働者が余剰生産物を消費するので、それは剰余生産物として表面化しない。そして労働者が余剰生産物を消費することにより、生産と消費の総計一致が実現する。その労働者における人間生活の余裕は、価値単位cの増大として進行する。一方でその増大は、相対的に搾取者が取得する剰余生産物を減少させる。当然ながら搾取者の取得物財量の増大速度も相対的に減速する。ただしその相対的な減少は、剰余生産物量の絶対的減少ではない。搾取者は剰余生産物量の相対的減少の間でも、以前と同様かそれ以上の優雅な生活をできる。減少するのはせいぜい比率としての剰余価値率だけである。その同じ事情は、価値単位cの減少にも該当する。この場合に同一の剰余価値率は搾取者の剰余生産物量を減少させ、搾取者にも貧苦を強いるように見える。しかし実際にはそのようなことは無く、剰余価値率の増大が搾取者に以前と同様かそれ以上の優雅な生活を与える。いずれにおいても価値単位増減は、それだけで上記生産表の内容を変えない。つまり価値単位増減は、剰余価値率に影響する限りで上記生産表に影響するだけに留まる。したがって価値単位増減の剰余価値率への影響も、先の8)~10)の記載に準じる。
(2025/03/08)

続く⇒第四章(6)余剰資産対価としての地代   前の記事⇒第四章(4)二部門間の生産要素表

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
      (6)余剰資産対価としての地代
      (7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
  5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
      (1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠


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数理労働価値(第四章:生産要素表(4)二部門間の生産要素表)

2025-03-08 00:11:29 | 資本論の見直し

(12)生産規模拡大における資本財部門の分離

 上記まで生産物を人間生活に必要な全物財として一般化し、その単一の物財と労働力の交換過程において各種生産要素の量的遷移を見て来た。その単一物財と労働力の交換過程は、まず不変資本の無い単純再生産を実現し、次に不変資本を追加した実質的な単純再生産を実現し、それから本来の拡大再生産を実現する。ここで現れる不変資本の実体は、先行する剰余生産物搾取を通じて出現した純生産物である。そしてこの純生産物は、さしあたり搾取者の人間生活を体現する。つまり物財生産工程における不変資本も、最初は搾取者それ自体を体現する。この比較で言うと、消費財生産に必要な道具などの固定資本生産も、消費財部門の一画にすぎない。このためにそこでの不変資本を追加した交換過程も、搾取者の生活を追加して増大させただけの単純再生産および拡大再生産として現れた。いずれにおいてもその交換過程は、まだ一部門内の出来事に留まる。同様にその不変資本も、部門内の物財生産工程における単一物財生産の枠内にある。しかも上記までの考察は、労働力数自体の変動にも配慮していない。そこで経済学が次に注目するのは、この全体としての物財生産工程と交換過程において、内部的な生活消費財と不変資本(資本財)に分離した部門相互の運動であり、分離した二部門における人間生活の分配と蓄積の運動である。さしあたりこの不変資本導入における一部門版の生産要素表は、次のようなものであった。

[物財生産工程における生産要素3(不変資本導入)]


上記表における不変資本は、賦存物財量axが該当する。それは先行生産工程の純生産物量rとして想定されたものだが、別に消費財部門からあらかじめ搾取した余剰生産物でも良い。その場合にこの不変資本は、搾取者の生活消費財の姿のままに表現された剰余価値にすぎない。さらに言えばこのような不変資本は、搾取者自身の人間生活に等しい。それは不変資本の姿をした搾取者であり、期始に部門から徴収される所場代である。一方で上記表だと、生産工程の終わりに純生産物rはゼロになる。一見するとこの生産工程において搾取が消失する。しかし上記表は、純生産物量から賦存物財量axを控除している。そして控除された賦存物財量axは、次の賦存物財量に充当される。つまりそれは、搾取者の人間生活に充当される。したがってここでもやはり搾取が実現している。その搾取者は既に得た剰余価値を貸与し、再びそれを剰余価値として受け取る。それゆえにこの不毛な不変資本は、生産工程における無駄な支出となる。ただし不毛であるとしても、その不変資本は生産工程の不可欠な一部を装い、生産工程に自らの居場所を強制する。結果的にこの不変資本は、この生産工程において不毛な資本財として現れる。このような資本財部門の分離は、搾取者を外部に放出しただけの不毛な生産工程に留まる。下記表は上記表の生産要素を各部門ごとに分離し、資本財部門を搾取者とみなして、その搾取者を表現するために、一部表現を労働力ではなく人員に変えた。また表3先頭行の単位当たり必要物財量の記載に替えて、人員数行を加えている。さらに一労働力当たりの消費物財量(価値単位)を固定値とみなして表の行から除外し、規定順序が優位になる人員の必要物財量を行の上位に移す形で物財生産量・賦存物財量の下位の行順序を変えた。これらの記載変更により賦存物財量として記載していた不変資本量axを、資本財部門の人員必要物財量に移動し、ここでは賦存物財量をゼロにした。それと言うのも人員必要物財は、それ自身が生産工程に前提される投下物財であり、賦存物財だからである。なおここでの資本財部門は物財生産をしていないので、資本財イメージも生活消費材のままにしている。

[物財生産工程における生産要素7(不変資本導入ⅰ)]


上記表7の部門全体列は、先の不変資本導入時の生産表3の値に該当する。ただし生産表3の必要物財量は、搾取者を加えない労働力だけの必要物財量xである。これに対して上記表7の必要物財量は、搾取者も加えた人員の必要物財量(a+1)x である。両者の必要物財量の差異は、生産表3が人員数増加を考慮していないことに従う。上記表7と比較して言うと、生産表3の必要物財量xは、搾取者のための必要物財量axが欠落しており、投下物財量(a+1)xと整合していない。また搾取者における物財生産量はゼロなので、搾取者の消費物財量axがそのまま資本財部門の純生産物量にaxの不足値で現れる。そこで搾取者はこの不足値axを、消費財部門の純生産物量axにより充填する。ちなみにここでは搾取者と労働者の消費生活を同一に想定しているので、搾取者を含めた一人当たりの消費物財量に変化は無く、また純生産物量もゼロのまま変わらない。とりあえずここでの搾取者は。不労所得で労働者並みの生活を享受する。もちろん余剰生産物が増加し、搾取者がその余剰生産物を取得するなら、搾取者は労働者以上の消費生活を享受できる。ただしその富裕度の表現は、例えばc>cとなる搾取者用価値単位cを別途用意する必要がある。なおそのcの増大方法は、取得剰余価値の増大手法としてマルクスの著作により既に巷に知られている。上記表7で搾取の有無を示すのは、賦存物財量または純生産物量である。純生産物量のマイナス値は生産する以上の消費を示し、逆に純生産物のプラス値は余剰生産物があるのを示す。そして全体での純生産物ゼロが、一方の余剰生産物を他方が消費しているのを表現する。


(13)剰余価値搾取の内包化

 上記表7において物財生産量は(a+1)xで現れ、物財の単位当たり投下物財量aも剰余価値率に転じる。ただここでの剰余価値率は、投下物財量に対する純生産物量の比率に等しく、(a+1)は投下物財量に対する物財生産量の増大比に等しい。この物財生産量は、既存の物財生産量xを(a+1)倍に拡大再生産したものであり、その増大分axを搾取者のために割り当てている。この割り当て方も、確かに搾取者による剰余価値搾取である。ところが剰余価値は既存の物財生産量xの外延ではなく、内訳に現れるのが正しい。この点で上記表における剰余価値は、本来の姿に無い。とは言え、拡大再生産による剰余生産物を恒常的に搾取者が消費するなら、その拡大再生産は搾取者を内包した単純再生産に転じる。この場合に上記表7における物財生産量は、(a+1)xではなくxに戻り、次のような生産表に転じる。結局のところ、差異が生じるのは表面的な計算式だけであり、値自体に差異が出ることも無い。なお表の①~⑩は、価値単位を起点にして規定順に上記表7の行を入れ替えた規定順序例である。

[物財生産工程における生産要素8(不変資本導入ⅱ)] ※①~⑩は被搾取部門の生産量を起点にした規定順序例


(14)資本財部門における搾取の消失

 上記表8の資本財部門が搾取者であったとしても、その搾取は消費財部門に対する債務の正当な償還を装う。ひいき目に捉えてもそこでの資本財部門は、生産手段を消費財部門に貸与しただけで何も労働をしていない。しかもその生産手段は、資本財部門が消費財部門から奪っただけの余剰物財である。それゆえにその債務の償還は単なる搾取として現れる。やはりその債務の償還は不当である。ところが実際に不変資本としての搾取者が生産工程の重要な構成要素であるなら、例えば生産現場の必要な統括作業を担うのなら、その搾取者は労働者となり、その搾取も正当な労働報酬となる。もちろん上記表8における賦存物財にそのような労働義務は課されない。またその賦存物財の由来についても度外視される。しかしその搾取が正当な労働報酬であるなら、上記表8における資本財部門の搾取も、消費財部門に対する債務の正当な償還に転じる。つまりこの生産工程において搾取が消失する。当然ながらその場合にここでの搾取者も、労働力の一部に転じる。ここでの消費財部門が生産した資本財部門用の消費財も、資本財部門が生産した資本財と等価交換されることになる。そしてそのように上記表8から搾取が消失するなら、資本財部門において労働力数も登場しなければならない。そしてこの搾取の消失が、資本財部門が提供する不変資本を、この生産工程における正規の資本財に転じる。したがって賦存物財量の位置づけも、上記表8と変わってくる。本来の賦存物財は、各部門が生産を実現するための資本財である。ところが上記表8の賦存物財量は、資本財部門が前生産工程で消費財部門から無償取得した消費財にすぎない。そしてこれまでの記述は、生産工程にそのような資本財を想定していなかった。ただし消費財部門が生産を実現するために資本財を要するなら、むしろ賦存物財を必要とするのは消費財部門である。それゆえに先の生産表8にあった賦存物財量は、そのまま消費財に側に移される。これらの変更は、上記表8を次のように変える。なお下記表では搾取が消失しているので、一部表現を人員ではなく労働力に戻している。

[物財生産工程における生産要素9(不変資本導入ⅲ)] ※①~⑪は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


(14a)部門ごとの生産要素の区分記載の追加

 上記までの表は、資本財イメージに生活消費材をそのまま踏襲している。そのために資本財でも生活消費財でも、物財単位数の配慮せずに生活消費財の生産量xを使っている。当然ながら生活消費財生産に対する必要資本財量も、生活消費財生産に必要な資本財の数量比率aを反映し、資本財の各数量もそのまま生活消費材の単純なa倍として現れた。しかし資本財と生活消費財は使用価値の異なる物財なので、その数量単位も異なる。また各財の生産に必要な労働力が変動する前提からしても、それらの数量も分けて表示すべきである。そこで消費財部門と資本財部門の各生産要素に目印を付与し、次のように表記し直して上記表9を書き直すと下記表10になる。ただしこの表は見栄えを変えただけで、上記表9と内容は変わらない。しかもこの資本財の単位表記の変更は、資本財の物財生産量が、単純に単位当たり消費財に必要な資本財の量比率a2に従うことを逆に不明瞭にする。なお数理計算式規則に従い、以下では乗算記号”×”の代わりに中点”・”を使用する。

  a2   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な資本財量。つまり単位当たり投下資本財量。
  x1   …資本財部門の物財生産量
  x2   …消費財部門の物財生産量(=消費財部門の必要物財量)

[物財生産工程における生産要素10(不変資本導入ⅳ)]  ※①~⑪は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例。なおx1=a2・x2/(a2+1)


(15)搾取者の無い二部門モデル

 上記表の消費財部門は資本財を不変資本として必要とする。しかし資本財部門も労働力の生活物資と別に、消費財を原料として必要とする。そのことは消費財部門にも該当し、消費財部門は労働力の生活物資と別に、自部門の消費財を自己消費する。同様に資本財部門も労働力の生活物資と別に、自部門の資本財を自己消費する。これらの都合から翻って上記までの資本財部門を見直すと、上記表の資本財部門はあまり資本財部門らしくない。それはむしろ消費財部門のための労働力サービス提供部門になっている。またこのことが、12)において資本財部門を単なる搾取部門に変えていた。これらの構成内容で消費財部門と資本財部門の生産物財の内訳を描くと次のようになる。なお消費財部門が必要な資本財a2・x2 は、資本財部門労働力の必要消費財量L1・c と部門の必要消費財量a1・x1 の合計と交換され、交換された物財はそれぞれの部門で消費される。



上記の内訳にも既に示しているが、内訳の詳細に追加すべき変数としてa1、b1、b2、L1、L2 があり、さらにv1、v2 を用意する。それらの追加変数の内容は、次のようになる。

  a1   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な消費財量
  a2   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な資本財量
  b1   …資本財一単位に対して資本財部門が必要な資本財量
  b2   …消費財一単位に対して消費財部門が必要な消費財量
  v1   …資本財一単位に占める部門人員が消費する資本財量(=1-a1-b1
  v2   …消費財一単位に占める部門人員が消費する消費財量(=1-a2-b2
  L1   …資本財部門労働力数
  L2   …消費財部門労働力数

1 は上記までの記述だと、単純にL2のa2倍になった。しかし変数a1、b1、b2 が登場すると、単純にL1=a2×L2 とならない。それゆえに消費財部門用の変数Lを部門ごとの変数L1、L2 に分ける。一方で各部門における労働力に必要な消費財量は、それぞれLn・cである。an、bnがそれぞれ部門に必要な他部門物財と自部門物財の内包比なので、Ln・cは部門の物財生産量xnの中で内包比(1-an-bn)で現れる。つまりLn・c=(1-an-bn)xnである。しかしこの内包比(1-an-bn)をそのまま使用するのは冗長なので、Ln・cに該当する物財一単位に占める労働対価物財量をvnで表現する。当然ながらそれは次の恒等式を表現する。
  vn=1-an-bn
  an+vn=1-bn  ※1-bn:自部門生産が含む外的物財量比
  an+bn=1-vn  ※1-vn:自部門生産に必要な賦存物財量比
またそれは搾取者が現れない限りで次の恒等式を表現する。
  Ln・c=vn・xn
  Ln=vn・xn/c
  vn=Ln・c/xn
  c=vn・xn/Ln
この点を改めてそれらの生産要素を追記した生産表を作成すると、次のようになる。なお価値単位行を除いた部門全体の値は、資本財部門と消費財部門の各列の値の合算値である。

[物財生産工程における生産要素11(二部門モデルⅰ)] ※①~⑮は消費財部門の生産量を起点にした規定順序例


価値単位cの部門間同一は、v1・x1/L1=v2・x2/L2 の数量比率として現れる。v1・x1とv2・x2はそれぞれ資本財部門と消費財部門の労働者が取得する物財量であり、その量比率が変わらなければ両部門の労働力L1とL2 の数比率も変わらない。仮にv1・x1に対して資本財部門労働力L1が相対的に増大すると、資本財部門の労働力当たりの消費財量が減少する。それは資本財部門の価値単位の減少であり、資本財部門労働者の生活を困難にする。しかもその影響は資本財部門だけに留まらず、消費財部門労働者の生活にも伝播する。例えばその伝播は、資本財部門から消費財部門への労働者の移動がもたらす労賃切り下げであり、資本財部門の様子に便乗した消費財部門経営者による労賃切り下げである。いずれにせよ一方の労働者の不幸は、他方の労働者に容易に伝播する。そしてそれが一般的な労働力の価値単位として確立すると、その貧困も一般的事象になる。もちろん中には別の労働者の労賃を受け取り富裕化するような搾取者の手下に徹した労働者も多い。しかし労働者全てが同じような搾取で富裕化することは不可能である。なお上記12)で示した資本財部門の分離は、あからさまな搾取者の分化として進行した。この資本財部門は消費財部門を支配し、その報酬を供物として得るだけの偽りの部門である。これに対して上記14)において分離した資本財部門は、消費財部門と対等な関係で物財を交換する。そしてその労働報酬の正当性が、搾取を消失させる。ここで現れる二つの資本財部門の差異は、消費財部門に対する支配力の有無に従う。それゆえに資本財部門は、12)の搾取者で始まり、14)の資本財生産者に転じることもできるし、その逆に14)の資本財生産者に始まり、12)の搾取者に転じることもできる。当然ながらそこには、搾取者と生産者の中間形態の資本財部門も現れる。その剰余価値搾取を含む資本財部門は、消費財部門との物財交換において、各種の権利的支配力を背景にして剰余価値を得る。その剰余価値は、資本財をその再生産に必要な消費財よりも多くの消費財と交換させる。あるいは同じことであるが、消費財をその再生産に必要な資本財よりも少ない資本財と交換させる。ただしそこで生じる差額利益は、生産者間の権利的格差が無ければ消失する一時利益であり、交換過程において生じる特別剰余価値に留まる。
(2025/03/08)

続く⇒第四章(5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取   前の記事⇒第四章(3)生産拡大における生産要素の遷移

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移
      (4)二部門間の生産要素表
      (5)二部門それぞれにおける剰余価値搾取
      (6)余剰資産対価としての地代
      (7)生産要素表における価値単位表記の労働力への一元化
  5章 生産要素表の数理マルクス経済学表記への準拠
      (1)生産要素表変数の数理マルクス経済学表記への準拠


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