大阪城公園や中之島公園方向にはよく歩いていくのだが、谷町界隈は綿密に歩くことがなくて、以前まで古い仕舞屋ふうの商家だった二階建てが取り壊され、思ったよりも広く、奥が深い敷地であったことが分かり、奥に立派な蔵があることが判明して、「このあたりは船場の外やけど、裕福な商人が住んでいたんやな」と思ったりしている。
夢の中にしか登場しない人物がいるということを友人に指摘された。
まさにそのとおり。おれの夢にそのような人物がいる。
その人は女性で、年齢はよくわからない。20代後半から中年域だろうか。
とてもよく動き、背は高くなく、髪もさほど長くはないが短髪でもない。
とにかく動き回るのが得意なのか、あれこれ人の世話をしている。
おれも、一昨日見た夢の中で、なぜか画材道具を預かってもらった。
おそらくどこかで打合せをすることになり、道具を持て余していたのだ。
それを彼女が「預かってあげるわよ」と引き取り、どこかに保管してくれた。
おれはその場から移動して、保育園か小学校の教室みたいなところへいく。
そこには人々が集まっていて、おれはその人たちに授業をするのか、
講演をするのかよくわからないが、ともかく彼らの前に立った。
そしてテキストを広げて、みんなでディスカッションを始めた。
内容はわからない。歴史や文化、あるいは絵画の鑑賞法みたいな話か。
そのレッスンが終わると、集まっていた人々が三々五々散っていく。
声を掛けられて、茶話会のような催しに参加するようにいわれるが、
おれは、預けた画材道具を取りに行かなければという気持ちがあり、
夢の中にしか登場しない彼女に迷惑を掛けられないと思っている。
だけど、道具を預かってもらった場所に行っても、彼女は不在なのだった。
ちょっと残念な思いをして、その場に突っ立っている。
思えば、彼女はいくつもの夢に、さまざまな役回りで登場するのだ。
具体的にどんな夢か憶えていないが、しばしば登場しておれは意識している。
恋愛感情というのではなく、パートナーというほど相手はこちらを意識せず、
でも、おれが何か困っていると助けてくれる。
おれには姉はいないが、もしかしたら生まれて来なかった姉かもしれない。
姉さん、いつもすみません。ありがとう。
朝起きた時、おいしいコーヒーが飲みたくて、だけど切らしていて、インスタントは遠慮して、どこかのカフェに行こうと決めて家を出た。
大阪城公園に入り、JR環状線の大阪城公園駅から京橋方向へ行くか、ぐるっと回って天満橋に行くか、あるいは森ノ宮へ行くというコースも考えられる。歩きながら足の向くまま進んだ。
外堀沿いに建つ六番櫓を眺めながら、なぜ関西人は家康が嫌いなのか考えた。おそらく、秀吉が亡くなり五奉行なる大名が秀頼を支えてきたが、家康は天下を取りたくて仕方がなく、何か騒動を起こせばよいと思いつき、五奉行の一人である前田利家を敵にしようとした。「前田家に謀反の動きあり」と、根も葉もないでっち上げを家康はぶち上げた。だが、利家の方が一枚上だった。利家は即座に自分の母親を江戸に人質に出した。これには家康も黙らざるを得ない。次に敵にされたのが上杉景勝である。会津という新しい領地の整備をしていた景勝に対し、家康は「謀反の準備をしておるぞ!」と騒ぎ立てた。告げ口外交みたいなものである。結局、上杉討伐に同意した武将たちを引き連れて家康は会津に向かう。その間に、反家康グループが動き出すのも家康は承知していた。その先鋒が石田三成である。そして小山評定があり、家康は三成と関ケ原で対峙することになるのだが、この家康のやり口に対して「どやねんこれ?」と思う関西人、いや、豊臣支持の者は多いし、家康のやり口に呆れてしまうだろう。「性格悪いんちゃうん家康って」という声が聞こえてきそうだ。
……とそんなことを考えながら、徳川家が整備した大阪城公園を歩いて、結局、森ノ宮に出た。そうだ、コーヒーだ。森ノ宮には知る人ぞ知るコーヒーの名店である「ばん珈琲店」がある。ここへ行こう。木の扉を開けるとお客さんは誰もいなくて、2人掛けの席に案内された。メニューを見て、「濃いのはどれでしょう?」と聞くと「ばんブラックです」というのでそれにした。待っている間、店内を見渡す。以前にぷよねこ氏と来て、それからもう一度来たが、ずいぶん前のことだ。お客が一人入ってきた。若い中性的な人で、性別はわからない。その人は、ストレートコーヒーのコロンビアと、チーズケーキを注文した。声がよく聞こえたのだ。やがて運ばれてきた「ばんブラック」は、30ccの持ち手のない陶器のカップで、すぐに口を付けたが熱くない。ちょうどいい温度だ。そして味は……ブラックというのはこういうことをいうのだな、と思える深さがあった。うまいのである。ひと口、ふた口、三口と飲んだ。途中、水を二度飲んで、最終的には八口くらいで飲み干した。およそ10分もいかないか所要時間は。だが、満足度は高かった。コーヒーを飲んだ、という実感があった。濃いコーヒーを飲みたいという欲求が満たされたのだった。
それから森ノ宮から南下して長堀通まで。清水谷高校の前を通って、上町筋を越え、久々の隆祥館書店へ。書店というより、誰かの書棚を覗いているような感覚になる書店。もちろんすべて新刊書である。セレクトされているから、その傾向にそぐわない人には合わないだろう。地酒を置いている店で大衆的な酒がないように、この書店は店の方向性を静かに打ち出している感じだ。決してポリティカルなものじゃない。30分ほど滞在し、普通の書店では売っていないと思われるブックレットを一冊購入する。そして、そのまま谷町筋の一本東の通り、起伏がある道を谷町四丁目まで戻ってきた。総歩数8000歩くらいか。