「読書の秋、おススメ本!其の壱」
11月6日(日曜)午後5時30分からの「サンデー・トワイライト」は、上野が最近読んだ本のお話をします。
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『イケズな東京~150年の良い遺産(レガシー)、ダメな遺産(レガシー)』というタイトルで、国際日本文化研究センター所長の井上章一さんと、建築家で東京藝術大学教授の青木淳さんの対談+リレーエッセイ本です。
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『イケズな東京~150年の良いレガシー、ダメなレガシー』は中公新書ラクレから出ている本なんですけど、井上章一さんというのは実に面白い人物です。
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井上章一:国際日本文化研究センター所長。専門は建築史・意匠論、日本文化や美人論、関西文化論など多岐に渡る研究をする学者で、阪神タイガースファンでもある。著書には『霊柩車の誕生』『つくられた桂離宮神話』『美人論』『南蛮幻想』、最近注目を集めた新書本として『京都ぎらい』などもある。
青木淳:建築家で、東京芸術大学教授。現在は京都市美術館館長を務めている。横浜生まれ。
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井上章一さんはこんなことをこの本で述べておられます。
新型コロナ禍で東京のオフィスから人が減った。リモートワークをする。会社がある都心部の高層ビルから人がいなくなり、田舎へ引っ込む会社も出ていた。おもにIT系の会社だ。この様子を井上は、江戸時代に入って天守閣が造られなくなった城を例に書いている。実用的な意味がなくなった天守閣。東京の高層ビルにどこか通底する。
この天守閣なるもの、江戸時代、商人の家には許されない高さだった。高みから武士を見下ろすな!という考え。しかし、その武士は商人から金を借りていた。三井や住友などである。この反動で、明治維新で武士階級が解体されると、商人は背の高い建物を建てた。これは現在も続いている。
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フランス文学者の桑原武夫氏は「身分制の廃止という点については、日本のほうがはるかに徹底している」と明治維新とフランス革命を比較している。
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文化庁の京都移転について井上氏はこんな見解である。
文化庁の職員たちの間に「都落ち」感が強い。東京で子育てをしていい学校に行かせたいのに、それができなくなる。京都みたいな田舎にいい学校はない。官僚たちにとって双六の上がりはどこの省庁も最終的に「東京」。しかし、文化庁だけが京都という田舎に来る。これが堪らなくイヤだと思っている。
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東京都というのは、「東の京都」という意味なのに、「西東京市」とか、高校野球で「東東京地区」なんて出てきている。「京」も「都」も「みやこ=中心地」という意味。東東京なんて麻雀用語「トントンキョウ」ではないかと、これは青木淳氏の指摘。
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青木淳氏はこう語る。
2020年の東京五輪の新国立競技場は、ザハ・ハディドさんの案が選ばれたのに、費用が掛かりすぎるということで却下された。そして、隈研吾の無難なデザインになってしまったわけだが、そうなると、以前の国立競技場を建て替える必要があったのかどうか?
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井上章一氏はまたこうも語る。
京都には景観規制、景観条例があるけど、ヨーロッパから比べたらかなり緩い。河原町四条から通りをみると、建物はもうてんでバラバラ。また、イギリスの建築家を道頓堀に連れて行ったら、「ここは、何をやってもいいところなのか!」と叫んだという。
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第二次世界大戦中の1943年7月19日、イタリアの首都ローマは連合軍から初めて空爆を受けた。その翌日にイタリア軍の参謀本部は「戦争をやめよう」と国王ヴィットリオ・エマヌエーレ3世に掛け合っている。ムッソリーニの逮捕と連合国への休戦申し込みを空爆の翌日に決断している。誰もローマに爆弾が落ちるとは思っていなかったのだ。コロッセオが、バチカンが燃えていいのか?そんなことは断じて許されない。フランスも、パリが燃えるのが許せなかった。
しかし、わが日本の参謀本部は、連合軍の東京空爆を3年4ケ月持ちこたえた。東京が焦土と化しても戦争を継続した。その結果、東京には江戸時代からの建物が残っていない。日本の政府は建築物などどうでもいいと考えていたのだろうか。
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井上氏はこうも指摘する。
『大改造!!劇的ビフォーアフター』という番組で、建築の達人や匠が家の床にビー玉を置いて、ビー玉が転がると「傾いています!シロアリがいるかも」「こんなふうに床が傾いていると三半規管に悪い影響を与えます」「頭が悪くなる!」とか発言する。しかし、ベネチアの建築家はその話を聞いて、「ベネチアの建物は床にビー玉を置いたら必ず転がる。しかし、三半規管に問題がある者はいない」という。「家が傾いていると勉強ができない子供になる」という説に対して、「斜めの方が頭は活性化する」という研究論文もある。垂直に立つということは、傾くのを補正しながら立つのであって、その方が頭は活性化するのだ。
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さらに井上氏は、神戸女学院のことも述べている。
ここはヴォーリズが校舎を設計し、配置した美しいキャンパスだが、あるシンクタンクのスタッフが2000年頃、こんな発言をした。「こんな築60年の建物なんか、維持管理するだけで、ドブに金を捨てるようなものです」。
……この本を読んで感じたことをお話しします。お楽しみに。