2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

八.入社(2)

2012-04-03 11:00:00 | 小説
 入社式が終わり席に戻ると、向井は人事部のみなを会議室に呼んだ。

 「みんなはもう顔見知りと思うが、今日から人事部に来てもらった上村加奈君だ。上村君、一応自己紹介をお願いするよ」と上村を促した。
 「上村です。人事の仕事は初めでですが、神部課長からあらましのオリエンテーションを受けましたので大丈夫だと思います。よろしくお願いいたします」
 「頼もしい即戦力に来てもらったね。徳村君からの引継ぎは終わったの?」
 「はい。先週徳村さんからいただいたファイルは目を通しました。また、磯村さんからも昨日ネットで詳しい状況をお聞きしました」
 「そうか」と向井は目を細めた。

 「ところで本年度の採用枠だが、今年同様200人規模に決まったよ。内訳はこうなる」と言って、会議室のモニターに数字を映し出した。みんなは、各々のタブレットに数字を写し取った。
 「今年は、販売系の採用が多いですね」と神部が言った。
 「去年は技術系の専門職を集中的に採用したから、バランスを考えた結果だ。特にメディカル系の海外営業部門から採用の要請が多いな」
 各部門が募集する採用条件が細かに書かれている。人事部は、それらの採用条件に見合った人材を確保するのが仕事である。最初に腐心するのは、それぞれの条件に見合った人材をどのように処遇するかである。処遇条件は、会社の人件費に直結するので気を抜くことができない。

 「今から、採用条件に応じたスキルマップを作って、処遇条件を決めることにしよう」
 向井の指示で、みなはタブレットに向き合った。

 社会的な生産性を高めるには、より優秀な人材を適材適所に配分することであるが、そうした適性は一旦就業した後に見いだされるケースもある。そのために、政府はキャリア制度と雇用流動化政策を強力に推進した。
 キャリア制度とは、就業実績が本人のキャリアとして登録される仕組みであり、ボランティアも含めあらゆる職場経験が本人のキャリアに通じる。
 雇用流動化政策は、キャリア制度と対をなすものであり、本人の持つキャリアを採用の基準にすべきと言う考え方である。そのためには、従来から長く続いていた終身雇用や年功序列といった職場慣習を改める必要があったため、導入には少々時間がかかった。

 雇用の流動化政策の結果、それまで新卒者に偏っていた採用も、キャリア重視に変わっていた。そのため、中途採用者が増えると同時に、学校を卒業した後で職業訓練を受けたり、ボランティアやアルバイトなどを経験した者も、そうした経歴をハローワークに登録すればそれはキャリアとして認められた。

 さらに、新卒者のみを採用の基準とする会社はかなり少数になり、本人の持つキャリアを選考基準とする会社が一般的になっている。
キャリアを積んだ人は、それに応じた処遇を持って迎える必要がある。向井たちが検討しているのは、そうした処遇を決めるための作業である。

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