2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

【雑感-1】番号制度と市民生活

2012-02-03 13:10:53 | 日記
本編で取り上げた確定申告や出産時の手続き、総合診療医と専門医との間の診療情報の交換などは、すべて国民番号が重要な役割を果たしています。
また、後半で描く予定にしている転居(引っ越し)、雇用問題、介護・福祉、入社・退職、選挙などでも、国民番号の存在が大きく影響することになります。

2022年の世界では国民番号はすでに過去から存在している前提で描きましたので、ことさら番号の持つ意味や、市民生活にどのように関わっているかについて言及はしていません。むしろ将来では、番号は水や空気のように当たり前に存在していて、特に意識しないでもその効果を享受できる時代になっていることが望ましいと思っています。

2012年の今日では、まさに番号導入に向けた動きが活発化しようとしています。
2009年の年初には社会経済生産性本部情報化推進国民会議が「Japan-ID」を提唱しました。2010年には日本経済団体連合会も「豊かな国民生活の基盤としての番号制度の早期実現を求める」という提言を発表し、その年の暮れには「番号制度に関するシンポジウム~豊かな国民生活の実現に向けて~」と題するシンポジウムを開いております。

こうした民間・財界の動きに呼応するように、2011年8月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が「電子行政推進に関する基本方針」を決定し、ここでも国民IDが果たす重要な役割について強く言及しています。
また、これに先立って「社会保障・税番号大綱」が2011年6月に公表されています。大綱を策定するための検討会議は、民主党による税制改正プロジェクトチームの社会保障・税番号検討小委員会をはじめ、内閣官房が事務局を務める個人情報保護ワーキンググループや情報連携基盤技術ワーキンググループなど、様々な検討チームが有識者を招いて精力的に行われてきました。

さて、このように番号制度の成立に向けて政財界の精力的な動きに対して、国民はどのような意識を持っているのでしょうか?
内閣府大臣官房政府広報室より「社会保障・税の番号制度に関する世論調査」と題する興味深い資料が公表されました。
その調査によると、社会保障と税の番号制度を「内容まで知っている」と答えた人の割合が16.7%、「内容は知らないが、言葉は聞いたことがある」と答えた人が41.8%、逆に「知らない」と答えた人の割合が41.5%となっている、とのことです。つまり、言葉の認識度では約6割、内容の認識度では約1.5割に過ぎないという結果でした。
また、言葉を知っていると答えた人がどの経路で知ったかを聞いた結果、「テレビ」を挙げた人の割合が78.1%と最も高く、以下「新聞」(59.0%)、「家族,友人,職場などでの会話」(14.4%)といった順になっていると報告されています。こうした結果は、テレビや新聞と言ったマスコミで報じられている範囲では知っているものの、生活実感として話題にするほどは感じられていないということを表しているように思えます。

筆者は、決してテレビや新聞と言ったマスコミの報道を否定するつもりはありませんが、こうしたマスコミで取り上げられる内容の多くは情報の上澄みでしかないと思っています。
世の中で情報は溢れかえっていますので、そうした情報をピックアップして限られた時間や紙面で紹介するには、当然ながら限界があります。情報を生活や仕事の上で身近なものとしてとらえるには、若干の想像力と人との会話が欠かせないコミュニケーションツールだと思います。そのためには、ニュースに対する関心や興味が前提になります。
上記調査で「家族,友人,職場などでの会話」が14.4%に過ぎなかったことを考え合わせると、番号制度は未だ国民の興味や関心を引き付けるには至っていないと考えざるを得ないように思われます。

国民の興味や関心を引き付けていない理由を私なりに考えてみたのですが、どうもその原因は、番号の制度や仕組みの議論が先行する反面、我々の暮らしの何がどのように変わるのかといったビジョンが提示されていない、もしくは我々が実感できるほどの説明がなされていないことになるように思えます。

私も政府の番号制度の検討会議に何度か出席しましたが、そこで議論された内容の多くは制度論や仕組み論が中心でした。ようやく最近になって、番号を導入することで何がどのように変わるのか、どのような効果が期待できるのかについての検討が行われていますが、本来はこうした検討が基本にあって、そのための制度や仕組みを考えるのが筋のような気がします。
つまり、目的と手段が入れ替わってしまっているように思えるのです。

10年前にe-Japan戦略というものが発表されました。「我が国を5年以内に世界最先端のIT国家にする」という大変意欲的な戦略で、海外からも注目されました。事実、私も韓国や中国などに招かれたおりにe-Japan 戦略について講演などで熱く語った経験を持っています。
当時の韓国は、国造りの基本政策として日本のe-Japan戦略を真剣に学び、それを政策として実行しました。その結果、国連が毎年行っている電子政府ランキング調査で世界第一位の地位を獲得しました。対するお膝元の日本は、19位という先進国では最下位に近い地位に甘んじています。
このような違いが生じた原因は様々言われていますが、国民が実感できる具体的なビジョンの違いによるものが大きいように思えます。
当時の金大中政権は、IT政策に関係した31項目の政策ビジョンを掲げ、将来の国のあり様を具体的に提示しました。つまり、政策の目的を国民に分かり易く提起したのです。
それに対して日本は、「すべての行政手続きをオンラインで行えるようにする」などといった、言うなれば手段を目的のように掲げ、その構築に邁進しました。その結果、一向に使われないオンライン申請が1万3千以上も出現し、せっかく作られたオンライン申請の多くは捨てられる結果になったのです。(パスポートのオンライン取得などは、その代表的な例です)
今日の韓国と日本の違いは、こうした目的意識の違いによるところが大きいように思えます。

また、もう一つの要因が国民番号制度にあると思っています。
韓国では古くから住民登録番号制度があり、市民生活に根付いています。
番号による個人の特定が可能な環境でしたので、例えば申請などを行う際に求められる住民票や印鑑証明といった本人を証明する書類の提示は不要になりました。つまり、行政の間をオンラインで情報をやり取りするだけで本人の証明は可能になったのです。
また、税務申告などもその人の所得や控除に関する情報が事前に分かるために、課税庁から提示された申告内容を確認するだけで申請が終了する仕組みが作られています。

こうした番号制度は、世界の先進国の多くは導入しており、行政サービスを中心に様々な分野で活用されています。
国や自治体が行う助成金や補助金などの情報も、「あなたは○○の助成を受けられますよ」といった具合に本人の生活環境に見合って提供されるため、申請漏れによる損失を極力失くすことができるサービスが定着しています。

もちろん、番号を導入することで自分のプライバシーが侵害されるのではないかという懸念も当然あると思います。
その人にとって便利なサービスを提供するには、多少立ち行ってその人のことを知る必要があるわけで、利便性とプライバシー問題はある意味で永遠の課題なのかも知れません。
プライバシー保護のための政策は各国とも様々に行われていますが、(その取組みの詳細は後日機会があれば述べるとして)最も大事なことは、政府と国民の間の信頼関係ではないかと思います。
つまり、政府が国民のために何をしてくれるのか、国民生活の質を向上されるためにどのような施策を講じようとしているのか、そうしたものが明確に示されない限り国民の理解は得られないと思います。

去年の6月に出された「社会保障・税番号大綱」をお読みになれた方は感じられたと思いますが、一言で言って極めて難解な内容です。私も番号制度に関心を持ち、それなりに提言などもしてきましたが、一読しただけでは到底頭に入ってこない内容でした。
番号を導入することで行政への申請がどう変わるのかという記述もありますが、さほど実感が湧いてきませんでした。
なによりも、社会保障・税番号を導入して日本をどう変えていくのか、我々の生活がどう変わるのか、といった肝心の記述に比べて、制度や仕組み、さらには罰則規定などの記述が中心になっており、「番号導入を目的にした番号制度」のような気さえしました。
余談ですが、これは社会保障・税の一体改革や、消費税率引き上げの議論でも共通しているような気がします。つまり、「このような社会を実現する。そのために・・・」という目的が不明確なのです。

番号制度は、IT社会における重要な社会インフラであると考えています。
それゆえに、番号制度を導入することでどのような社会を実現するのか、そうした将来ビジョンを是非国民の前に提示してほしいと思います。
国民が「家族,友人,職場などでの会話」で話題にできるような情報の提供が必要ではないでしょうか。

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2 コメント

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Unknown (まさやん)
2012-02-04 09:23:56
はじめまして。

まさやんと申します。

あなた様のブログそして近未来小説、興味深く読ませてもらいました。
まだ「番号制度と市民生活」だけですが、とても勉強されているな~と思いました。
読んでいて勉強になります。
全ページこれから読ませてもらいます。

実は私もブログに2020年という記事を書きました。
あなた様のブログを見てとても親近感を感じました。
私は難しい政治・経済はわかりません。
頭も悪いです。
勉強も嫌い・・・
取り柄のない私ですが今の日本の現状を見て、いてもたってもいられなくなりブログを始めました。
私の2020年は作文のような恥ずかしい内容です。
あなた様のブログ記事、勉強のため、これからも読ませてもらいます。
今後とも宜しくお願い致します。

突然のコメント大変失礼しました。
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コメント有難うございます (筆者)
2012-02-05 10:56:25
まやさんさま
コメント頂き有難うございます。

あなた様のブログも拝見させていただきました。
今の政治や社会に対する危機感や閉塞感など、私と共通する問題意識を述べておられ、大変興味深く拝読させていただきました。
貴小説では本田宗一郎氏が登場されていましたが、いまこそあの方のようなリーダーが必要なのでしょうね。
今後も定期的に拝読させていただきます。

「今の日本の現状を見て、いてもたってもいられない」人は多いと思います。あなた様がブログを通じてご意見を発信されたように、多くの方が建設的な意見をどしどし発信されることがまず必要だと思っています。

同時に、世直しに向けた議論を活発に行うことも重要だと思います。私も、そうした議論のためのたたき台のつもりでブログに拙文をアップしております。
どうぞ、忌憚ないご意見、ご批判などお書きいただければ嬉しく思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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