2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

【雑感-8】マイナンバー法案先送りの損失

2012-08-23 19:21:38 | 日記

今朝、「低所得者対策に影響も 共通番号先送りへ」という日経の記事が飛び込んできた。

記事によると、マイナンバーは「給付付き税額控除」のためにあり、自民・公明両党が提唱している食料品などの生活必需品の税率を抑える「軽減税率」の考え方と相いれず、方針が決まらないままマイナンバーを導入するのは時期尚早ということが自民党・公明党が反対に転じた理由のようだ。

一見もっともに聞こえる理由のようだが、早期解散を求める野党の政局への本音が見え見えである。つまり、「近いうちに衆院解散」という言質?を取り付けて消費税増税法案を通したものの、解散を実現しない限り自民党執行部が持たなくなるので反対に転じた、ということが本当のところだろう。
手段を選ばず、遮二無二解散に持ち込もうとする自民党の姿勢は、国家ビジョンを忘れた醜い政治屋以外の何物でもない。

多少物事を理解している人なら誰でも分かることだが、マイナンバーは給付付き税額控除のためのみにあるのではない。年金、医療、社会保険といった社会保障を確実に維持していくために必要不可欠な社会的基盤である。
もちろん税の透明化にも大きく寄与し、クロヨン(964)とかトーゴーサン(1053)と言われている税の捕捉率を向上させるための切り札でもある。

年金や社会保険もその財源が大きな社会問題になっているが、年金の場合も対象者を番号によって確実にフォローすることで、例えば退職などに伴う種別変更に対しても、該当者に行政から変更手続きを働きかけることができ、年金未加入による年金受給時の損失を未然に防ぐことが可能になる。
医療や社会保険でも、(医師会などは反発しているが)個人の診療記録と連動させることで、適正な診療報酬に向けた評価も可能になる。
また、病気や怪我などで緊急外来に来院した患者を、本人の既往症や投薬情報などを確実に把握することで命を救う場面も増えると考えられる。

今回大きな被害を出した大震災に向け、復興支援制度が各行政や自治体から出されているが、多くの被災者はその存在や、適応の可否を判断できないでいると聞いている。
番号制度さえあれば、本人や家族の属性情報が簡単にトレースでき、行政のほうから「あなたは〇〇支援金を受け取る権利がありますよ」とアドバイスも可能になる。
いや、それ以前に地震や津波で失われた生活にかかわる基本情報なども、番号さえあれば即座に再発行することが可能になる。

さらに番号制度の導入で期待できることが、行政手続きの簡素化である。
現在は戸籍簿や住民票といった個人を証明する書類がバラバラに管理されているため、何か手続きを行うごとに役所の窓口で証明書の交付が求められるが、番号が導入されれば個人の証明書は行政間で確認することができ、複数の窓口を往復させられることがなくなる。

以上述べたようなことは、他の先進国ではごく当たり前に行われており、実際に韓国などでは税の捕捉率が急激に高まったことで税収が大幅に伸びており、スウェーデンやデンマークでも社会保障の向上に大きく寄与している。
また、行政もスリム化され、日本のように役所の窓口で待たされることもなくなったばかりでなく、窓口そのものをなくしている国も現れている。窓口に座っていた行政官は、国民や市民活動に直接寄与できる現場に異動させることで、市民サービスが向上した事例も報告されている。番号制度の導入により、行政改革そのものが実現したといっても過言ではない。

自民党茂木政調会長は、講演でマイナンバー法案について「何のために必要か。『給付付き税額控除』をやるためだ。」と断じているようだが、勉強不足も甚だしい。
政治家に求められる最も重要な資質は、10年後、20年後の日本をどのようにリードしていくか、震災で受けたダメージをいかに再建に向けていくか、といった国家ビジョンであることは言を待たない。
番号制度は、今後のIT社会を建設する上での重要なインフラとしての役割を持っている。茂木政調会長の発言は、復興に向けた将来の可能性の芽を自ら摘んでいることにお気づきではないのだろうか?

憲法第三章には「国民の権利と義務」が謳われており、第11条に「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 」と書かれているが、こうした基本的人権を保障するのが国家であり、政治はその国家をあるべき姿に導いていく義務がある。
今の自民党の動きを見ていると、弱体化した民主党の足元を見て自分たちに有利な方向に誘導しているように見えてならない。2009年の政権交代からたったの3年を経て、野党慣れしたのか単なる利権優先の圧力集団と堕した自民党をみるにつけ、これが日本の経済成長期に長期政権を支えてきた党なのかと呆然とする思いである。
かつてグリーンカード法案の成立に尽力した大平正芳氏の時代の自民党は、すでに跡形もなくなっているようだ。迷走する政局の中で解散総選挙が刻々と近づいているようだが、有権者の一人としてどのような判断が可能なのか悩んでいるのは果たして私だけであろうか?