2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

【雑感-9】e-Japan戦略の精神はどこに行った?

2012-12-08 04:00:06 | 日記

 今日、10年以上電子政府や公共IT化の推進を行ってきた某社の友人と会い、しみじみ語りあったことは「この10年間いろいろ努力してきたけど、結局何も前に進まなかったね」ということだった。

 廃案となったが、マイナンバー法も国民が便利と感じる活用分野の議論が一向に進展しないなかで、自民党の某幹部はあたかも給付付き税額控除のための道具であるかのような発言をする始末で、くだんの某幹部氏がIT担当大臣経験者であったことを思うと、霞が関や永田町のITリテラシーの低さには暗澹たる思いに襲われる。(このことは【雑感-8】でも書かせていただいた)

 韓国出身のY氏が「韓国では大手ベンダーは韓国公共機関のIT調達には参加できなくした」と書かれていたが、推測するに韓国の公共分野のIT化はすでに一巡しており、メンテナンスフェーズに入ったのではないかと思う。以前、韓国の貿易統合システムを調査したことがあるが、SOAの考え方を全面的に取り入れベンダーロックインを完全に排除可能なシステム構造になっていたのが印象的だった。おそらく、中小ベンダーに後工程を任せても何ら問題がない構造になっているのだろう。

 それにしても注目すべきは、韓国政府のIT戦略が見事に体系だっていることだ。

 韓国では以下のステップでIT戦略が進められてきた。

1.金大中政権で電子政府重点11大課題の整備に着手し、同時にIT化に適した行政府のBPRを徹底的に実施

2.盧武鉉政権で掲げたu-Korea戦略でさらに電子政府構築計画を加速(課題を31分野に拡大)

3.国連が隔年で行っている電子政府ランキング調査を徹底的に分析し、世界一になるための要件整備に注力。 その結果、見事電子政府第一位の地位を確保

4.その実績を掲げ、公共分野のIT技術を海外に展開することで海外への戦略商品に育てた。(ちなみに日本のODAを始めとする海外展開は「箱もの」中心のため短期的な一発販売で終わるが、韓国が進めるITを中心とした海外展開はメンテナンスが伴うため息が長い)

5.大手ベンダーを国内市場から海外市場に強制的に向けることで、韓国の国際戦略が一層強化されることになる

 なんと将来を見据えた戦略的なIT展開ではないだろうか。

 グローバルな競争原理の上では、国内の実績は大きなセールスポイントにつながり、結果的に息の長い戦略商品に育て上げることができ、国力の向上に大きく寄与する。

 霞が関や永田町からは、所詮ITの世界では韓国に大きく水をあけられているから、といった声が聞こえてきそうだが、12年前にe-Japan戦略を打ち出した頃は、構想の上で韓国の先を行っていた。事実、韓国は日本のIT戦略を集中的に分析したと言われている。

 e-Japan戦略の目標は「5年以内に世界最先端のIT国家になる」ということだった。もはや大方の方は念頭から消え去っていると思われるが、この精神はいったいどこに消えたのだろう。

 マイナンバー法が廃案になった結果、少なくとも当初の計画はさらに大きく遅れることになろう。マイナンバーはIT社会のインフラであると以前書いたが、この遅れが日本の国際的地位にどのような影を落とすかまで考えが及ぶ政治家や官僚は、一体どの程度おられるのだろうか。

 このようなことを考えていくと、IT化に限らず、今日の日本の国際競争力の低下は政治や行政の不作為が大きな原因になっていると考えざるを得ない。目先の効果ばかりに目がいって、長期的戦略眼と遂行力の欠如が結果的に失われた20数年を招いたとも考えられる。

 くだんの友人が言っていたが、かつて某省が行ったワンストップ行政のシステム実験に多くのITベンダーが赤字覚悟で取り組んだとのことである。それは、いよいよ本格的な電子政府に向けた施策が動きだしたとの期待感の表れでもあったようだ。しかし、結果はコアになる部局の存在の重要性を立証するための単なる実験に過ぎず、官僚の作文のための道具にされたと憤慨していた。

おそらく、この10数年間でこうしたことが繰り返されてきたのであろう。その結果、世界一巨額の税金を投じたにも拘らず、一向に先進国としての評価がなされないIT国家が出来上がった、それが実態ではないだろうか。

 「政府を相手にしても結局何も進まないのでは?」といった考えが頭をよぎり、無力感と空しさを覚えつつ帰途についた次第です。



コメントを投稿