【論風】介護報酬引き下げ問題 ~ 黒字経営のための制度改正を

2014-11-21 00:12:58 | 日記
昨日付け FujiSankei Business i. の【論風】欄で拙稿「介護報酬引き下げ問題 ~ 黒字経営のための制度改正を」が掲載されました。全文は次の通り。

【論風】介護報酬引き下げ問題 ~ 黒字経営のための制度改正を

 高齢者介護の小規模デイサービスや訪問介護、居宅介護支援事業所などを全国展開している株式会社日本介護福祉グループの藤田英明会長と話をした。その際、介護報酬引き下げ(歳出削減効果6000億円)という政府の来年度予算編成方針に関して藤田氏から興味深い問題提起があった。いわく「介護報酬について、同一時間・同一賃金を検討してみるべきではないか」
 少子高齢化の進展により年間1兆円の自然増が見込まれる社会保障費。来年度は介護報酬が改定されるが、その全体を引き下げる方針が示されている。

◆民間の参入意欲そぐ
 介護は社会福祉法人、株式会社、NPOなど多様な法人形態によって担われている。だが、株式会社に比べて税制優遇されている社会福祉法人は、いわゆる“内部留保問題”を抱える。内部留保は特別養護老人ホームで1施設当たり平均3億1373万円、1床当たり平均381万円に上っている(2011年度)。全国での総額は「2兆円規模」。特養を経営する社会福祉法人の収益率は中小企業に比べて約6%も高く、介護報酬を6%引き下げれば6000億円の歳出削減になると試算される。
 特養の内部留保問題に対しては、出過ぎた利益を還元させるだけでなく、今後の介護報酬を引き下げることで利益が出にくいようにするように見える。しかし、これを特養の運営主体である社会福祉法人だけでなく、株式会社やNPO法人など他の事業形態にまで広げるとなると、民間事業者の介護産業への参入意欲を著しく低下させてしまうのではなかろうか。藤田氏は、こうした“ディスインセンティブ手法”ではなく、介護保険サービスの『時間当たり共通単価』を作ってはどうかと提案する。すなわち、「同一時間・同一賃金」だ。
 介護保険サービスに係る介護職は、まさに介護報酬で規定された範疇(はんちゅう)で給与が支給される。介護保険サービスの種類は、あまりにも多くの細目ごとに事細かに決められている。介護保険サービスの種類によって単価が異なる。これでは、介護職を雇う介護事業経営者からしてみると、事業面で創意工夫をしようというインセンティブは湧きにくい。
 そこで、介護報酬システムの根本的な部分に焦点を当て、介護事業経営者の賃金面での創意工夫を誘発すべきだとの発想だ。介護報酬全体は引き下げるが、その中の介護職に関する部分は報酬を引き上げるということは十分あり得る。

◆産業平均の3分の2の給与
 介護人材を確保していく観点から、介護職の報酬を引き上げることは非常に有用であろう。その原資として、特養に積み上がった内部留保を活用すべきだとの考え方も多分にある。
 介護職の給与水準が全産業平均の3分の2程度でしかない。だから、公的資金の追加投入による介護報酬引き上げを検討する前に、介護産業界内で所要資金を捻出すべきだとの思考になるのは当然のことだ。
 しかし、現存する特養の内部留保を全て現金化して介護職に還元することになっても、それ自体には持続性はない。特養は他に類なき税制優遇措置を施されている社会福祉法人の運営。制約条件はあるが、株式会社やNPOに比べて資金的には相当の余裕が発生する仕組み。現にそうなっている。
 特養の内部留保問題に端を発した社会福祉法人改革は重要だが、より本質的な課題は、介護職に対する処遇の改善と向上だ。せめて、全産業平均の賃金水準を目指していくべきだ。これは特養問題を解決するだけでは到底追い付かない。社会福祉法人、株式会社、NPOなど事業形態にかかわらず、介護職への資金循環量を増やす制度に改正していくべきだ。それはつまり、介護サービス事業を『普通の黒字経営』にするための制度改正が必要だということに他ならない。