(2024/6/13)
『ウクライナとロシアは情報戦をどう戦っているか』
誰もが情報戦の戦闘員
樋口敬祐 並木書房 2024/2/7
・ロシア・ウクライナ戦争開戦から2年――軍隊以外に、民間軍事会社、戦争PR会社、フェイクニュース製造工場、ハッカーなどが戦場の内外で多様で熾烈な戦いを行なっている。防衛省情報本部主任分析官を長く務めた情報分析のプロが、目に見えない情報をめぐる戦いに迫る。
<はじめに>
・なぜ、このような判断ミスが起きたのでしょうか?それは、関係者のあいだに「現状維持バイアス」があったことがいちばんの要因だと思います。「現状維持バイアス」とは、警戒を示す兆候があっても、何も変わらないで欲しいと思い込みたがる、人間の心理に根ざした認識の偏りです。特に過去の事例などをよく知っている専門家ゆえに陥りやすいバイアスといわれています。
・「情報戦」とは、心理戦、電子戦などを含む古くからある概念ですが、1990年代半ば頃から米国防総省においてその重要性が再認識されるようになりました。
・当時の米国防大学のテキストでは、「情報戦は戦争を遂行するうえでのいくつかの技術の総称であり、指揮統制戦、電子戦、心理戦、サイバー戦、経済情報戦などを含む」としています。
・ファクトチェック関連サイトも日本には5つしかなく、最も多い米国の78サイト、インドの27サイト、韓国の13サイトに比べれば非常に少ないといえます。
・今後、AIのさらなる進化により、極めて巧妙なフェイクニュースや、リアルな画像・動画を容易に作ることができ、真偽の見極めがますます難しくなると予想されます。
<米ロ情報機関の戦い>
<なぜ米国は機密情報を公表したか?>
【情報機関と戦争研究所の見解の違い】
・この米情報機関と戦争研究所の見解の違いをどのように捉えればいいでしょうか。実は後述するように米情報機関はロシア・ウクライナ戦争についての機密情報は、意図的にシンクタンクなどにも流しているとされているからです。
【大統領直轄の専門家集団「タイガーチーム」の役割】
・しかし、これらのロシアの活動や発表に対し米国は、ロシアはむしろ国境付近では兵力を増強しており、それは偽情報であり、「偽旗作戦」だと大統領や国務長官などが会見で主張しました。
米国で今回このようなかたちでロシアの情報戦に対抗しているのは、2021年秋に編成された「タイガーチーム」だとされています。
【9・11テロで失敗した情報戦の教訓】
・実はこの情報共有が困難な一因である縦割り(ストーブパイプ)問題は、9・11テロ時の米情報機関の集合体であり、いわゆる米インテリジェンス・コミュニティーにおける問題の一つでした。
【インテリジェンス・インフォメーションとは?】
・ですからインテリジェンス・インフォメーションには、そのような極めて秘匿度の高いヒューミントも含まれている可能性があるということを認識したうえで、報道を見る必要があります。
【ヒューミントのもたらす重要性】
・今回のウクライナ情勢で、米国がロシアの軍事侵攻に関してかなり正確な見通しを示したことを考えれば、テキントだけではない情報、つまりヒューミントを継続的に入手できている可能性が高いと筆者は考えます。
【スパイ獲得に活用されるSNS】
・このように今やスパイ獲得工作においてもSNSがフル活用されていることがうかがえます。
【情報開示の効果】
・現在もその鉄則は守られています。つまり、米国の情報機関は“手の内”をさらしていないのです。
・ロシア・ウクライナ情勢の一連の情報開示では、ロシアが偽情報を平気で流す一方で、米インテリジェンス機関の情報が正しかったことが立証されました。
【機密情報をあえて公表する意味】
・つまり、米情報機関によるシンクタンクやマスコミなどの情報操作もやろうと思えばできるということです。この点は、常に意識しておく必要があります。
【見解の違いはなぜ起こるのか?】
・しかし、各情報機関の意見を取りまとめる過程でロシアの侵攻が遅れるほうに集約されていったと考えられます。
<プーチンの粛清を恐れたロシア情報機関>
【ウクライナ保安庁(SBU)と米中央情報局(CIA)の協調】
・しかし、SBU内から完全に親ロ派がいなくなったわけでも、ウクライナ国内におけるロシアのスパイ網がなくなったわけでもありません。ロシアはウクライナ侵攻がスムーズにいくように、侵攻のかなり前からウクライナにスパイ網を築いていたとされます。
【ロシア連邦保安庁(FSB)とSBUの争い】
・それら、エージェントから収集した情報に基づきFSBは「ウクライナは政治的に不安定で反権力の機運があり、モスクワが新権力者を(キーウで)任命した場合、多数のウクライナ人が受け入れるだろう」との分析をプーチン大統領に報告したとされます。
【ロシア「FSB」内部分裂の兆候】
・ロシアのウクライナ侵攻前、FSB内には侵攻に懐疑的な見方もあったようです。しかしFSB第5局の局長セルゲイ・ベセダ准将は、プーチン大統領の機嫌を損ねることを恐れて「ウクライナは弱く、攻撃された場合は簡単に諦めるだろう」など、ロシアの侵攻に都合のいい情報を報告していたとされます。
・筆者には、この内部告発が、正しいのか、これがロシアの情報機関による巧妙な偽情報かを判断する材料は今のところありません。しかし、FSB第5局長の逮捕や、職員の追放などと併せれば、このような事象は、FSB内部で何らかの亀裂や対立があった兆候であることは推測できます。
<誰もが情報戦争の戦闘員>
<「いいね戦争」と「ナラティブの戦い」>
【さらに進化するSNS上の「いいね戦争」】
・インターネットは新たな戦場と化し、そこで拡散する情報は敵対者を攻撃する重要な手段となりました。誰もが情報戦争の戦闘員になり得ます。そして、その「いいね!」や「シェア」が破壊や殺戮を引き起こすのです。
【世論を味方につける「ナラティブの戦い」】
・SNSの発信においては「ナラティブの戦い」も併せて行なわれています。ナラティブとは、「物語」と訳されることが多いですが、安全保障の枠組みでは、「人々に強い感情・共感を生み出す、真偽や価値判断が織り交ざった伝搬性の強い通俗的な物語」のことです。その特徴は、「シンプルさ」「共鳴」「目新しさ」です。そのため、状況や相手に応じて柔軟に変化するのも特徴です。
ロシア・ウクライナ戦争では、ロシア側は「ネオナチにウクライナが支配されている」「ロシア人が迫害されている」そのため「抑圧されるロシア系住民を救出するための特別軍事作戦」を実施すると世界に発信しました。
これらのナラティブはロシア国内やウクライナのドンバス地域の住民など東部の一部の人には受け入れられたものの、世界的には受け入れられませんでした。
・ウクライナ側が語るナラティブも、必ずしも正しいわけではありません。
<ウクライナとロシアのSNS運用の違い>
【ウクライナのSNS活用】
・SNSによるウクライナ側の情報の発信は、ナラティブを世界に伝え、国際世論を味方にするうえでも大きな役割を果たしています。
・ただし、このような市民による行為は、ロシア側にとっては、いわばスパイ行為であり、このことが、ロシア側が地域住民を逮捕して拷問などを行なっている行為につながっている可能性もあります。
【SNS投稿を全面禁止したロシア軍】
・ウクライナ側がSNSを多用する一方で、侵攻したロシア軍の兵士からと思われるSNSへの投稿はあまり見られません。兵士の投稿を厳しく規制しているからです。
・2019年2月には、その制限がさらに厳しくなり、兵士の軍務中におけるスマートフォンやタブレットの使用禁止、軍に関する話題をSNSへ投稿したり軍の話題をジャーナリストに話したりすることなどが禁止される法律が策定されました。
【悪意のないフェイク動画の拡散】
・SNSの中でも特に世界に10億人超のユーザーがいるティックトックはニセの動画拡散にも大きな役割を果たしています。
・ウクライナにおける拡散行為について、ウクライナにおける激しい戦況を前に人々はもどかしさを募らせており、無力感をやわらげたい心理行為が拡散行為に拍車をかけているのだと分析しています。
<サイバー戦における攻防>
<ロシアのサイバー戦能力は低下したのか?>
【破壊的で容赦ないロシアのサイバー攻撃】
・従来、ロシアはサイバー大国としてその攻撃能力で世界のトップクラスだと評されてきました。
2014年のクリミア併合に際しても実際の軍事侵攻に先駆けてサイバー攻撃を行ない、その7年も前から本格的なサイバー攻撃に備えて準備をしていました。
・ロシアのサイバー攻撃に関して、米マイクロソフト社が2022年4月と6月に報告書を公表しました。そこには「ロシアのウクライナに対するサイバー攻撃は破壊的で容赦がない」と評しています。そして、今回のウクライナ侵攻のかなり前から準備し、少なくとも1年前からサイバー攻撃を始めていたとしています。
【ロシアのサイバー組織はピラミッド構造】
・ロシアのサイバー組織は、大きく3段のピラミッド構造になっています。最上部には政府の情報機関に属するサイバー部隊、中央部は金銭目的などのサイバー犯罪集団、その下にはハッカー集団や個人レベルのハッカーが存在しています。
・ロシアは、ウクライナ以外の42か国、128の組織にも情報窃取などを狙う攻撃を仕掛けたとされます。
・開戦以降ロシアのサイバー攻撃による侵入成功確率は控えめに判定して29パーセントで、侵入に成功したうちの25パーセントで組織のデータ流失が確認されているといいます。
<ロシア・ウクライナ戦争にみるサイバー攻撃>
【ロシアのサイバー攻撃の手口】
- マルウェアを仕掛ける
- 侵攻直前に活動開始、侵攻後は軍事行動と連携
・サイバー活動とロシア軍の軍事活動は密接に調整されているとまではいかないものの、全体としては両者が連携してウクライナを弱体化させる方向に作用していました。
【DDoS攻撃が世界的に急増】
・DDoSは「分散型サービス妨害」の略称で、多数のパソコンやサーバーを乗っ取り、そこから標的となるインターネット上のサイトを管理するサーバーに処理能力を超える大量のデータを送りつけ、サイトを表示できなくしたり、閲覧しにくくしたりする攻撃です。
DDoS攻撃は単純なものなら複数人で一斉にサイトにアクセスすれば実行できるため、20年以上前から使われる古典的な手法です。ただ単純であるがゆえにいろいろなPCを経由して大量の通信が送られた場合の障害は防ぎづらいとされています。
・これらのことからいえることは、2022年9月末がターニングポイントとなり、10月以降、サイバー戦の焦点(攻撃対象)がウクライナからNATO諸国へシフトし、NATOとロシアのサイバー領域での戦いが激しくなっていることがうかがえます。
・つまりロシアの攻撃対象が変わっただけであり、サイバー攻撃の数や能力が低下したというわけではないということがわかります。
【ロシアはウクライナを支援する東欧諸国に狙いを変えた】
・2014年、ロシアはサイバー攻撃でウクライナ南部クリミア半島の通信や電力を遮断し、半島への侵攻を成功させました。
・親ロシア系のハッカーはサイバー攻撃を通じてウクライナを支援する東欧諸国の経済や社会を混乱させるなどの揺さぶりをかけ、親ウクライナ系東欧諸国のロシアへの対抗姿勢を挫く狙いもあるものとみられます。
【「キルネット」による日本へのサイバー攻撃】
・ロシアのウクライナ侵攻後、サイバー犯罪集団などの活動も活発化しています。
・また、ハクティビストと呼ばれるハッカー集団「キルネット」も、ロシアのウクライナ侵攻を支持する姿勢を示し、西側諸国の企業やルーマニアやイタリアの政府機関に相次いで攻撃を仕掛けています。
【ロシアのサイバーインフルエンス工作】
・マイクロソフトの2022年6月の報告書では、ロシアはサイバー活動と連携して、戦争を支援するために世界的なサイバーインフルエンス工作を実施していることが明らかにされています。KGBが数十年にわたって開発してきた工作手法をテクノロジーやインターネットと組み合わせることで、より迅速で広範に効率的に影響力を行使しようというものです。
<ウクライナ政府によるサイバー防衛>
【米軍流サイバー防衛「アクティブディフェンス」】
・ウクライナ軍もサイバー戦において、米国や英国のアクティブディフェンス(積極的防御)を採り入れているようです。
アクティブディフェンスとは、不審なアクセスをしてくる相手のネットワークやシステムの内部まで侵入して、必要に応じて相手のデータやファイルなどを破壊して攻撃を未然に防ぐことです。特にワイパー攻撃のような、データ破壊型攻撃に対しては、攻撃されてから対処するという受動的な防御では手遅れになると考えられています。
【侵攻前に運び出された「重要データ」】
・重要なデータを自前のシステム以外に避難させたことも、ウクライナのサイバー攻撃への対処能力を高めたことの一つだと考えられます。ウクライナ政府は、ロシアの侵攻のリスクが高まっていた2022年2月中旬、政府の重要データを自前のシステム以外で保管することを禁止していた法律を改正しました。
【アクティブディフェンスの重要性】
・以上みてきたように、ロシア・ウクライナ戦争において、ロシアのサイバー攻撃能力が低調だったわけではありません。米国や英国などの支援、またその他のNATO諸国と連携したウクライナ政府の官民を挙げた戦争前および戦争中の取り組みにより、ロシアに対抗してきたということです。
・今やデータ破壊型のマルウェア攻撃には、アクティブディフェンスでなければ対応できないというのが欧米の考え方です。
<ロシアによる積極工作>
<ロシアによる偽情報の特徴>
【フェイクニュースの3つの区分】
・積極工作は、ソ連で伝統的に行なわれています。積極工作とは、他国の政策に影響を与えることを目的として、伝統的外交活動と表裏一体で推進されている公然・非公然の諸工作のことです。その工作には、偽情報(ディスインフォメーション)といった非暴力的なものから暗殺のような暴力をともなう活動まで含まれています。
【嘘も百回言えば本当になる】
・ロシアから発せられる情報は、時として“真っ赤な嘘”であり、支離滅裂に見えます。したがってロシアからの発信は最初に嘘ではないかと疑いの目で見られるのでプロパガンダとしても効果がないと思われがちです。
しかし、必ずしもそうではありません。「ロシアの“虚偽の消防ホース”プロパガンダモデル」とする米ランド研究所の報告書があります。
・第一の特徴は、多様な媒体を通じた大量の情報発信です。
・このように、情報に接する頻度をとにかく高め、正しい情報に思わせるやり方です。いわゆる嘘も百回言えば本当になるという戦術です。
【偽情報を信じてしまう「スリーパー効果」】
・第二の特徴は、中途半端な事実や明らかな嘘を恥じらいなく広める姿勢です。実際に存在する専門家の名前を騙って勝手な主張を展開するなどは、常套手段です。このような姿勢で簡単に大量の情報が日々流された結果、それらの情報に接する人々は、真偽をいちいち確認する余裕がありません。
そうして記憶に刷り込まれた情報は、当初こそ疑わしく思えても時間とともに違和感が薄らいでいくのです。この心理現象を「スリーパー効果」と呼びます。
・ロシアのディスインフォメーションが米国においても一定の支持を得るのも、こうした理由だと考えられます。ウクライナと米国が生物兵器を開発しているとのディスインフォメーションは「新型コロナウィルスは生物兵器だった」との誤情報に絡むかたちで広がり、トランプ前米大統領を熱烈に支持した米国内の極右勢力やQアノンの間でも浸透しています。
・鳥海不二夫教授が2022年1月1日~3月5日、日本語で「ウクライナ」「ロシア」「プーチン」などの語句が使われたツイート約30万件を抽出し、分析したところ、「ウクライナ政府はネオナチ」という投稿は228件あり、約1万900のアカウントが3万回以上リツイートしていました。これらのアカウントの過去の投稿を調べたところ、87.8パーセントが新型コロナウィルスワクチンに否定的な内容を、そして46.9パーセントが「Qアノン」に関連する主張を拡散していたとされます。
わが国においても、ロシアのディスインフォメーションが確実に浸透してきているのです。
【危険なロシアの国営放送】
・このように、欧米ではRT(Russia Today)や国営ラジオ・ニュースサイト「スプートニク」の報道が制限されたり、情報源についての注意喚起がなされていますが、わが国においてはスプートニクの情報はなんら制限がなく報道されています。
【見破られたゼレンスキー大統領の偽動画】
・今回は映像の画質が悪く、ロシア側の作戦は失敗に終わりました。
しかし、今日のAI技術の進歩を見れば、今後より巧妙な動画が作られ、素人が映像だけで判断できる可能性はますます低くなっていくでしょう。
<ロシアによるウクライナの弾圧と迫害の歴史>
【大戦中、最大の犠牲者を出した民族】
・ロシア軍によるウクライナ民間人の虐殺がしばしば報道されています。
・歴史を遡ると、ロシアはウクライナを支配し、ウクライナ人を長い間迫害していました。
・ロシア帝国時代(1721~1917年)は、ロシア人はウクライナ人を隷属民として取り扱い、多くのウクライナ人が農奴として搾取され、差別されていました。ウクライナ人は、ウクライナ語の使用を禁止され、さらに監視され行動を制限されていました。
・レーニンの死後、スターリンが独裁を強めるようになると、ウクライナ支配はより強化されていきます。1932~33年にかけて、スターリンは強制的な農業集団化政策により、ウクライナ農民の土地を没収し、強制労働に従事させます。穀倉地帯といわれるウクライナにおいて、そこで採れる作物はほとんどが輸出にあてられ、ウクライナの人々の食糧は制限されていました。推定で400万人から1000万人のウクライナ人が餓死したとされています。輸出用の食糧が目の前にあるにもかかわらずです。
第2次世界大戦が始まると、ドイツ軍のソ連への侵攻によりウクライナは独ソ戦の舞台になります。ウクライナ人の死者数は兵士、民間人あわせて800万人から1400万人と推定され、大戦中、最大の犠牲者を出した民族とされています。
【残虐性はロシア軍の伝統か】
・戦争初期段階のロシア軍撤退後のキーウ近郊ブチャでの虐殺の映像は、世界に衝撃を走らせました。しかし、CNNニュースによればロシア軍によるウクライナにおける戦時の残虐行為は歴史的に例外ではないという指摘があります。
・ロシア軍としては、ウクライナ国民が皆パルチザンだと思って対応せざるを得ないからです。
<ロシア情報機関による工作の疑い>
【相次ぐオリガルヒの不審死】
・2022年1月下旬から7月までに少なくとも8人のエネルギー企業の重役やオリガルヒ(富豪)が以下のように不審な死に方をしています。
【ドニエプル川のダムの破壊】
・しかし、2023年6月5日夜から6日未明にかけてダムが崩壊しました。8日の時点で、ヘルソン州の知事は同州の約600平方キロメートル(東京23区と同規模)が水没したと明らかにしました。
<ウクライナも得意とする積極工作>
<ウクライナで最も成功したプロパガンダ>
【ソ連の流れを組むウクライナの情報機関とその改革】
・ウクライナの情報機関は、元々はソ連の情報機関の一部として活動していました。
・CIAはGUR(ウクライナ国防省情報総局の一部)に対しスペツナズ(特殊部隊)のための新しいビルやシギント活動を担当する局の創設にも資金提供しています。GURの元高官によれば、ロシア軍や情報機関による「1日で25~30万件の通信を傍受」し、そのデータはCIAを通じてNSAに送られていたとしています。
<ウクライナのパルチザン活動>
<カラシニコフの代わりにスマホで戦う>
【パルチザン活動と教科書】
・また、ロシア侵攻を受けるとすぐにウクライナ国防省は「国民レジスタンスセンター」というサイトを開設して、市民による抵抗運動のやり方、パルチザンへの参加を積極的に奨励しています。サイトには「ロシアのドローンを見つけた時の対処法」「ロシアの戦車を盗む方法」「小火器の使用法」「家庭で煙幕弾を製造する方法」なども掲載されているようです。
さらに、ウクライナのパルチザンには、戦いのための教科書もありました。約300ページもある『抵抗活動コンセプト』です。
<ウクライナのサボタージュ活動>
【ロシアのパルチザン狩り】
・2023年6月のウクライナの反抗作戦以降、ロシアのパルチザン狩りも活発化しています。早朝に大勢の警察や親衛隊が小さな町を包囲し、パルチザン狩りが行なわれるといいます。こうしてロシア刑務所に送られたパルチザンは1500人と推定されています。
<ロシアとウクライナのガス紛争>
<ノルドストリーム爆破の経緯>
【パイプラインの損傷は計3か所】
・このように、ガス漏れ直後は事故ではなく爆破された可能性が高いとされましたが、誰が破壊したかなどについては明らかになっていません。
<誰がノルドストリームを破壊したか?>
【可能性の高い「親ウクライナグループ」による工作活動説】
・以上のように、ノルドストリームの破壊の実行犯についての有力な情報は、2023年になって少しずつ開示されてきましたが、どれも情報源が曖昧であり決定的な証拠に欠けています。
<テクノロジーが変える従来型の戦争>
<マッチングアプリによる戦い>
【ウクライナが開発した「大砲のウーバー」】
・戦争で使われているそのシステムは、通称「大砲のウーバー」や「戦場のウーバー」といわれています。各種情報収集手段で得られた目標情報は、大砲のウーバーシステムに組み込まれます。
・ロシアがクリミアを併合した2014年頃からウクライナ軍で使われ始め、すでに砲兵部隊では広く普及しているようです。
【米英情報機関がウクライナをサポート】
・このように選択的であるものの、NATO軍などから得た情報とウクライナ軍自らドローンや偵察部隊を運用して得た細部の情報をもとに目標情報を得ているようです。
少なくとも戦争初期の2022年5月の時点で、ウクライナ軍は偵察用のドローンを6000機以上運用しているとされます。その後も西側の支援によりその数は維持または増加しているはずです。
【マッチングアプリで素早く火力を集中】
・同氏は「米軍は指令から発射まで、第2次世界大戦では5分、ベトナム戦争では15分、現在では1時間を要している」「いや、書き間違いではない」と述べています。
その理由は、米軍では友軍への誤射防止などのため上層部への確認手続きに時間を要するようになったからだとしています。
・マッチングアプリと侮ってはいけません。いざとなれば何でも柔軟に活用する態勢だからこそ、そのような運用ができるのでしょう。巨大で硬直化した組織にはなかなかできない発想です。
<ウクライナの携帯電話傍受による攻撃>
【携帯電話の発信から場所を特定する方法】
・それ以降、ロシアはもちろんウクライナも携帯電話の発信源を攻撃するための、より効果的な方法を洗練させてきました。その具体的方法は当然秘密にされています。
【携帯電話の使用制限】
・このように携帯電話の使用が、自らの危機を招くことは両軍も当然承知しているはずです。ロシア軍では、戦場への携帯電話の持ち込みや使用は、厳しく禁止されていますし、現場の指揮官が兵士の携帯を取り上げたなどの報道もあります。
ウクライナでも使用は制限されているようです。
【なぜ前線で携帯電話の使用はなくならないのか?】
・両軍とも戦場における携帯電話の使用禁止や制限があるのに、なぜ前線付近での携帯電話の使用がなくならないのでしょう。これには、技術的問題、心理的問題があるように思います。
<ロシア軍の高級将校の高い戦死率>
【高級指揮官が前線に出る理由】
・ロシア軍の高級指揮官の戦死が異常に多いといわれています。ロシア軍では、高級指揮官が前線に出ざるを得ないため、そこを狙い撃ちされ戦死する指揮官が多いというのです。
【ロシア軍の指揮統制システムの弱点を突いたウクライナ】
・しかしながら、ロシア軍の将兵は、ソ連時代から士官教育を受けた尉官級の士官にも、現場での判断権を与えない、「上からの命令に下を盲従させる」スタイルのようです。つまり、指揮系統が硬直しており、上級の指揮官からの命令がなければ動かないシステムだとされています。
【スペースXによる通信インフラのサポート】
・ウクライナのこのような指揮官を殺害する作戦を成立させるためには、より細かでリアルタイムの目標情報が重要になってきます。前述のとおり、「大砲のウーバー」システムにより目標情報を収集し、高級指揮官や司令部を「狙い撃ち」していると思われます。
<ドローンの活用>
【ドローンによる攻撃】
・ロシアもウクライナもドローンを活用していますが、特にウクライナ側は、民生品のドローンを改良するなど柔軟に活用しています。
【ドローンで敵兵を降伏させる】
・2023年5月9日、ウクライナ軍第92独立機械化旅団は無人機を使ってロシア兵に降伏するようメッセージを伝え、1人を投降させたと発表しました。
<戦争PR会社と情報戦>
<進化する戦争PR会社の戦略>
【国家がPR会社を雇って世論を誘導】
・PRとは、組織などが大衆に対してイメージや事業について伝播したり理解を得たりする活動を指します。
広報とは、広く報じるという意味であり、組織などが社会に対して情報発信することです。
・言葉の定義的には、プロパガンダは国家が行ない、PRは企業や組織が行なうようになっていますが、今や国家がPR会社を雇ってそのノウハウを用いてプロパガンダを行なっています。
<戦争プロパガンダの10の法則>
・第1次世界大戦中に英政府が行なった戦争におけるプロパガンダの手法を分析して、政治家アーサー・ポンソンビー卿が『戦時の嘘』においてプロパガンダの10の法則として次のようにまとめました。
- 我々は戦争をしたくない
- しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
- 敵の指導者は悪魔のような人間だ
- 我々は領土や覇権のためでなく、偉大な使命のために戦う
- 我々も意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
- 敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
- 我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
- 芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
- 我々の大義は神聖なものである
- この正義に疑問を投げかける者は裏切りである
そして、2015年に出版された『戦争プロパガンダ10の法則』において、著者のアンヌ・モレリは、この法則が第2次世界大戦でも、またその後の戦争でも繰り返されてきたとします。
【ボスニア紛争で果たした戦争PR会社の役割】
・その際に使用されたキーワードが「民族浄化」という造語です。そしてその強烈なキーワードを活用し、次第に「セルビア=悪」という国際世論を醸成していきました。
1995年7月、セレブレニツァでのセルビア人部隊によるムスリム住民に対する大量虐殺行為は民族浄化と捉えられ、人道に反する事件として国際的な非難を浴びました。
<ウクライナ情報戦争と戦争PR会社>
【ウクライナのプロパガンダ組織と戦略】
・ウクライナのゼレンスキー大統領は、コメディアン出身ということもあり、SNSやテレビ、ビデオなどの媒体を介して動画で訴えることが得意です。その裏には優秀なスピ―チライターなどもいるのでしょうが、それらの広報戦略を考えているのはPR会社だと考えられています。
PR会社の戦いでは、その数や資金面などでウクライナがロシアを圧倒しているようです。ロシアの軍事侵攻直後からウクライナ政府は、ウクライナのPR会社バンダ・エージェンシーに広告を依頼しています。
・バンダのPR戦略が。まさに欧米各国の背中を押す効果があったと専門家は見ています。
【PR会社がウクライナを支持する理由】
・ウクライナ政府は、ウクライナのバンダ・エージェントや米国のカーブ・コミュニケーションズといったPR会社以外にも多くの米国のロビー企業やPR会社に支援を依頼しています。
・さらに、ウクライナのために働くPR会社は世界中に拡大しており、それらのPR会社によってウクライナ・コミュニケーション・サポート・ネットワークが設立され、300以上の企業が参加してウクライナが発信するメッセージの拡散を手伝っているとされます。
・しかし、そのことは、裏を返せばウクライナに対する各国の国民の支持が低下すれば、企業もメリットがなくなり、ウクライナへの軍事的・経済的支援があっという間に激減してしまうことを意味します。
【戦争広告に対する認識の違い】
・わが国では、一般的には「戦争=悪」と捉えられており、戦争広告代理店や戦争PR会社という存在は、戦争を助長する悪いイメージがあります。
しかし、欧米では戦争におけるPRも普通のビジネス活動と同様に捉えられているようです。
【「世界の半分以上はウクライナを支持していない」】
・これらの結果をみると、PR会社によるウクライナの広報戦略は効果があり、ウクライナへの軍事・経済支援を引き出すことには成功していますが、それはグローバルノースを対象としたPRによるものです。グローバルサウスには何ら効果がみられません。
・以上のことからマスコミが「ウクライナ侵攻から1年、世界の半分以上はウクライナを支持していない」というタイトルをつけても過言ではないのでしょう。
<フェイクニュースを見破る>
<ニューメディア時代の情報戦>
【受け手側が圧倒的に不利】
・一方、情報の受け手はあまりにも無防備です。そもそも情報が正しいかフェイクかどうかわからないのですから、受け手は圧倒的に不利です。
・そこで、インテリジェンス機関では、情報を収集し分析する際にそのようなバイアスや集団思考に陥らないような工夫を行なっています。その一つが「インテリジェンスサイクル」と呼ばれる恒常的な業務手順です。
【若者のインターネット利用の実態】
・テレビや新聞などのメディアはオールドメディアと呼ばれ、SNSなどに代表されるメディアはニューメディアと呼称されています。ニューメディアはオールドメディアと違って、ジャーナリストのような専門的訓練を経験していない人でも情報発信できるため、誤情報が多いのが特徴です。
【仲間内だけで自分たちの主張を強化】
・米英のNGOのデジタルヘイト対策センターによれば、新型コロナウイルスのワクチンに関するデマを流した集団がウクライナ関連の誤情報を積極的に拡散した傾向がみられるといいます。
<インテリジェンスサイクル>
【情報を格付けする】
・インテリジェンスサイクルとは、情報要求に基づき、情報を収集・処理し、分析・統合されてその結果としてプロダクトが作成され配布される一連の過程のことです。
【誤情報は正しい情報より早く伝わる】
・インテリジェンスコミュニティーのメンバーは、仕事を通じて、いわゆるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で具体的な要領を学びます。
【クロノロジーを作成する】
・クロノロジーの作成はたいへん手間がかかりますが、その作業自体が、その後の分析に大いに役立ちます。
<おわりに>
・調べているうちに、戦いでは軍隊だけでなく、民間の軍事会社、情報調査会社、衛星通信会社、衛星画像情報会社、フェイクニュース製造工場、戦争PR会社などが大きな役割を占めていることがわかりました。
・現在、インターネットやSNSなどの発達により、フェイクニュースの拡散は正しい情報よりも6倍も早いといわれています。にもかかわらず、それに対抗する明確な考え方や術はありません。
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