珈琲ひらり

熱い珈琲、もしくは冷珈なんかを飲む片手間に読めるようなそんな文章をお楽しみください。

手袋を買いに。

2007年11月25日 | 短編

 狐さんが居ました。
 まだまだ幼い狐さんです。
 その狐さんはまだ変化の術もろくに扱えない未熟者でした。
 でも最近、
 その狐さんのお友達がすごーくハードな試練を乗り越えやがったのです。
 なんと、
 事もあろうに、
 信じられないのですが、
 そのお友達の狐さんは、変化の術もろくに使えないのに、人間のお店で手袋を買ってきたのです。
 それはとても温かな手袋でした。
 すごーく、
 すごーく、
 すごーく、
 その狐さんは悔しかったのです。
「うぅぅぅ、あたしも手袋を買いに行きたい!」
 狐さんはお母さん狐に何度も言いました。
 けれども、
「ダメよ。あなたにはまだ早いわ」
 って、反対されるばかり。
 何が早いのでしょう?
 狐さんは不満で一杯でした。
 その温かそうな手袋を見るたびに、悔しい気持ちで胸が張り裂けそうでした。
 だから、
 狐さんは、一生懸命山で落ちているのを拾って集めたお金という物を持って、山を降りました。
 うぅー、ドキドキする。
 狐さんは、何度も周りを見ては深く深呼吸をするのです。
 尻尾の付け根の辺りがちりちりとするのは緊張のためでしょう。
「早く手袋を買って、帰ろう」
 狐さんは自分に言い聞かせるように呟きました。



 おばあさんは町で独りで住んでいました。
 部屋のランプはおばあさんの目が悪いためにとても薄暗い光しか放ってはおりませんでした。
 前はおばあさんは町一番の手編みの達人でしたが、しかし今はもう、大好きな手編みをする事もかないません。
 けれども、
 それでおばあさんは構いませんでした。
 いえ、頑張れば、前のようには行かなくても、それなりの物は編めたはずです。
 でも、そんな気力さえ起きないのは、
 おばあさんがとても大事にしていた孫娘が病気で他界してしまったからです。
 今日はその娘の誕生日で、
 そして、それはとても不恰好だけれども、それでもその孫娘の為に心を込めて編んだ手袋を渡すはずでした。
 けれども・・・
 それは、
 もう・・・。




 狐さんは、とぼとぼと歩いていました。
 お金が足りなかったのです。
 葉っぱでお金を作るのは、お母さんに怒られるので、できなくて・・・。
 だから、
 泣く泣く・・・。
 と、
 狐さんの耳がぴくぴくと動きました。
 誰かが泣いています。
 泣いているのは誰?
 狐さんは小首を傾げました。
 窓から薄暗い部屋を覗き込むと、おばあさんが泣いていました。
 狐さんもおばあさんの泣き声を聞いているうちに泣きたくなってしまって、
 泣いてしまいました。


「あらあら、泣いているのは誰?」
 おばあさんは外に出ました。
 泣いているのは独りの女の子でした。
 それも、
(あら、あれは尻尾? まあ、この娘、狐だわ)
 おばあさんは悲しみも忘れて驚きました。
 そして、
(とても優しい狐さんね)
 その狐が自分の為に泣いてくれているのがわかったのです。

 おばあさんは狐さんを招き入れて、とても温かい蜂蜜酒をご馳走しました。
 狐さんが化けている女の子はとても嬉しそうに微笑みながらそれを飲んでくれて、おばあさんもとても嬉しくなりました。
「こんな夜更けにあなたはどうして外に居たの?」
「うんとね、手袋を買いに来たの」
「手袋?」
 おばあさんは少女のように小首をかしげ、
 それから狐さんの手を見ました。
 小さな小さな紅葉のような手を。
 その手は・・・
「待っていて」
 おばあさんは立ち上がって、
 それで、
「これをプレゼントするわ」
 狐さんに手編みの手袋をプレゼントしました。
 狐さんが化けた女の子はとても喜び、
 おばあさんも素敵な想いで一杯になりました。
 それからというもの、おばあさんの家には時折山からのプレゼントが届くようになり、
 それを持ってやってきてくれる狐さんとのお茶会が、ものすごく楽しみになりました。

 【お終い】



 きっと、ここは見られてはいないのでしょうが、東京怪談で依頼していただけた、手袋に魂が乗り移ったお嬢さんで書かせて頂いたお話を思い出しました。
 このPCさんのPLさんに初めて頂いた依頼での私信もすごく嬉しかったんですよね。
 うん。
 そのPCさんも本当に可愛くって書いてて楽しかったですし。
 また書きたいなー、ってすごく思います。私でよかったら。
 たくさん、また書かせて頂きたいな、っていうPCさんは本当にたくさん居ますし、
 感謝しているPLさまも本当にたくさん。
 こう、本当にOMCもやって良かったな、って思います。
 逆ノミネートで、クリエーターの方から書きたいPCさんに営業できる様になればよいのになー。そしたら書きたい物語がたくさんあるのに。



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