シャワーの音が激しく降る雨のように浴室に響き渡っている。
素肌を撫でるのは熱いシャワーを出しっぱなしにしているにも関わらずに冷やりと冷たい空気。
普段は自慢の長い黒髪も、こういう時は鬱陶しい。髪の毛を洗う時間、たったひとりで裸で瞼を閉じているこの時間が彼女は嫌いだった。
嫌な本を読んだ。雨の日に殺された少女。
それ以降は同じ雨の日に、そこで彼女の事を想うと、彼女が現れて、連れて行かれる。
嫌だなぁー。どうしてあんな本を読んでしまったのだろう。うぅ。。。。
彼女は怖がりだ。そのくせホラー小説や、雑誌やテレビの怪談特集、そういうのを好んで見てしまう。
そして夜は電気をつけて寝てしまうのだ。お母さん、すごく怒るけど。
だけど今日は怒られる心配は無い。家には誰も居ない。電気はつけて寝られる。ラジオもかけっ放しにしとくか。小森まなみから始まって、電撃大賞まではずっと大好きなラジオ番組が続く。
ちなみに電撃大賞でも今はラジオドラマでホラーモノの話をしているけど、それは怖くはない。というか涙溢れるような優しい話の方が多い。優しくって、切ないホラー小説。キーリのラジオ番組。いつかあたしもこういう話を書きたいというのが夢。怖がりだけど、彼女が書くのはそういう話だった。だから勉強のために怪談の情報を集めている。だけど………
それ以降は同じ雨の日に、そこで彼女の事を想うと、彼女が現れて、連れて行かれる―――
そればかりが頭の中にリピートされる。
そうだ。これはとある霊能者が言っていた言葉。怪奇スポットなどにはいかなくとも。霊は想われる事で呼ばれる。
もしもあなたが心霊話を話したり、思い出している時に、空気が冷やりとしたら、鳥肌が立って、誰かが後ろに居る気配がしたら、そこを見てはいけない。
絶対に想われる事で、呼ばれたと想った霊が、そこに居るから―――
わぁー、嫌だ。あたしの馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。
彼女はもう自慢の髪の手入れもそこそこに出しっぱなしにしていたシャワーを頭にかけた。早くシャワーと止めて、風呂からも出て、電気が煌煌とした部屋に戻りたかった。
そうだ。兵長の事を考えよう。同じ幽霊でも、兵長だったら大歓迎だ。あんな父親はあこがれだもの。
8月10日に出るキーリの9巻では、兵長が大ピンチらしいけど、なんとか治って欲しいと想う。でもキーリがかわいそう。大事なモノがどんどん………
彼女は一生懸命大好きな小説の事を考える。
熱い湯が頭から首筋、乳房、背中、腹、お尻、太もも、足首を伝って、指からタイルに流れ落ちて、排水溝へと流れて行く。
ふと、その流れを見ていた彼女はぞくっとした。
排水溝に流れ着いている大量の髪。
長い髪。でもそれは彼女のモノじゃない。赤茶色の髪は家族の誰にも居ない。
シャワーの音が、音が、音が、雨のように響く。
どくん。
心臓が大きく跳ね上がった。
空気が変わっている。
全身に鳥肌が立つ。
誰かが、誰かが、誰かが………後ろに居る。
もしもあなたが心霊話を話したり、思い出している時に、空気が冷やりとしたら、鳥肌が立って、誰かが後ろに居る気配がしたら、そこを見てはいけない。絶対に想われる事で、呼ばれたと想った霊が、そこに居るから―――
誰も居ない浴室に、ただシャワーの湯が流れる音だけが響いていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
真っ暗な部屋。
寝苦しい。
網戸にしてある窓からは風は入ってはこない。
寝苦しい夜。
彼女は一階に降りて、何か冷たいモノでも飲もうかと、ベッドから立ち上がろうとして、だけど自分以外には誰も居ないはずの部屋で、足をつかまれて、頭からベッドから落ちて、
そしてベッドの下に隙間に白髪の老婆の顔を見た。
にたりと笑う、お歯黒の老婆に彼女は悲鳴を上げた。
―――――――――――――――――――
すぐそこにあるお墓から線香の臭いがしてくるような、そんな夜。
彼女は大学夏休みの宿題であるレポートを書くためにパソコンの電源を入れて、それからコンポの再生ボタンを押した。
BGMは先月自殺した歌手のCDだ。好きだっただけに彼女は残念に想う。
だけど結局は歌手なんて次から次へと出てくるし、前は好きだったけど今はもう見向きもしない歌手だって居るのだから、まあ、ね。
それでもこの歌手のCDはしばらくはとっておこうか。ファン倶楽部限定で買ったレア物の非売品CDなんかは値がつくかもしれない。そんな事を考えていると、ふいにCDが音飛びした。
彼女は眉根を寄せる。まさかコンポが壊れた?
そう思いながらコンポに近づくと、コンポのスピーカーから、なんだか擦れた声がした。まるで喉を何かで絞めているようなそんな声で。
ワスレナイデ………
それは間違いなく、自殺した歌手の声だった・・・。
―――――――――――――――――
暇だからDVDを見た。
それから流れ出たのはまったく関係無い、女の悲鳴だった。
そういえばこのアパートの部屋では、女が殺されたそうだ・・・。
――――――――――――――――――
深夜の学校。
柔道部のキャプテンを務める彼は、柔剣室の扉の鍵を持っているので、そこから学校に忍び込んだ。
肝試し。柔道部の皆と、テニス部の女子で。
皆は南館三階の姿見の前に立った。学校七不思議。その前に立つと、自分の死ぬ時の姿が見える。
鏡に映ったのは何気ない皆の顔。皆で失笑して。髪型や服装なんかを正す。
―――そんな事をしていたら、突然にそこに映る皆の顔が血塗れとなって、
それで皆はパニックになって、走り出して、学校の前で全員ダンプカーにひかれて、死んだ。
皆の顔は血塗れのひどい顔だった。
――――――――――――
彼女は自分のアパートに帰ってきた。
部屋の空気はなんだか違っていた。
そして見上げると、そこにいくつもの顔が浮かんでいて、苦悶の表情で自分を見ていた。
―――――――――――
隠れん坊をしていた。
子どもの頃。
見ず知らずの子と。
その子は死んだ。池にはまって。
そんな事は忘れて、何気ない大学生活を送っていたあたし。
アパートの部屋で寝ていると、ふいに誰かがあたしの胸の上に乗った。
怖くって瞼が開けない。
胸の重みが消える。
おそるおそる瞼を開いて、見た天井。
ほっと息を吐く。
そしたら脇から死んだあの子が顔を出してきて、言った。
「みぃーつけた」
――――――――――――――
大学のすぐ近くのバス停。
あたしはそこに居ました。
雨が降っていました。
そこに居るのはあたしと彼女だけです。
あたしは動けません。口も利けません。
何故なら彼女はレイプされたのがまるわかりの酷い恰好で、口の片端から血を流しながら、泣いていました。
そしてバスが来て、そこからは誰も降りなくって、バスの運転手さんは動かないあたしを睨んで、バスを発進させました。
彼女を乗せて。
そうして後から聞いた話ですが、あたしが通う大学の女子学生が、このバス停でバスを待っていたら、数人の男にバス停の裏にある林に連れ込まれて、レイプされて、殺されたそうなんです。
彼女は今も、あのバス停に居て、バスに乗っているのでしょうか?
――――――――――――――――――――
鏡を上に向けて置いておいてはいけない。
―――――――――――――――――――
あわせ鏡をしてはいけない。
―――――――――――――――――――
紫鏡。20歳までその言葉を覚えていると呪われて死ぬ。
―――――――――――――――――――
携帯電話が鳴ったんです。
液晶が面を見ると、表示されてはいませんでした。
だから出なかったんです。
そしたら留守番登録センターに伝言が入っていました。。
待ってて。今、会いに行きますから。
その声が入った直後に携帯電話が壊れて、あたしは怖くなって、携帯電話を解約して、それから違う会社と契約しました。
でも甘かったんです。解約の手続きが電話によって破棄されていたんです。
そうして、壊れたと想った携帯電話がいつの間にか使えるようになっていて、着信履歴には、1分置きにあの声から電話がかかってきていました。
そして今、あたしの部屋のドアはノックされています。
・・・・・・・・。
―――――――――――――――――――――
大学帰ってきて、部屋の空気の入れ替えのためにアパートの部屋の窓を開けようと、カーテンを開けたら、窓の向こうに見知らぬ男が立っていた。首に縄をつけた。
・・・・。
――――――――――――――――――――
葬儀会社のAさんは、遺体を運ぶために霊安室に入りました。
そしたら死んだおじいさんが、ベッドの上の自分の顔を覗き込んでいました。
――――――――――――――――――――
ねえ、ひとつ、言わせて。
絶対に後ろを振り向いちゃ、ダメだよ?
あなたの後ろに、居るから・・・・・
本当だよ。
素肌を撫でるのは熱いシャワーを出しっぱなしにしているにも関わらずに冷やりと冷たい空気。
普段は自慢の長い黒髪も、こういう時は鬱陶しい。髪の毛を洗う時間、たったひとりで裸で瞼を閉じているこの時間が彼女は嫌いだった。
嫌な本を読んだ。雨の日に殺された少女。
それ以降は同じ雨の日に、そこで彼女の事を想うと、彼女が現れて、連れて行かれる。
嫌だなぁー。どうしてあんな本を読んでしまったのだろう。うぅ。。。。
彼女は怖がりだ。そのくせホラー小説や、雑誌やテレビの怪談特集、そういうのを好んで見てしまう。
そして夜は電気をつけて寝てしまうのだ。お母さん、すごく怒るけど。
だけど今日は怒られる心配は無い。家には誰も居ない。電気はつけて寝られる。ラジオもかけっ放しにしとくか。小森まなみから始まって、電撃大賞まではずっと大好きなラジオ番組が続く。
ちなみに電撃大賞でも今はラジオドラマでホラーモノの話をしているけど、それは怖くはない。というか涙溢れるような優しい話の方が多い。優しくって、切ないホラー小説。キーリのラジオ番組。いつかあたしもこういう話を書きたいというのが夢。怖がりだけど、彼女が書くのはそういう話だった。だから勉強のために怪談の情報を集めている。だけど………
それ以降は同じ雨の日に、そこで彼女の事を想うと、彼女が現れて、連れて行かれる―――
そればかりが頭の中にリピートされる。
そうだ。これはとある霊能者が言っていた言葉。怪奇スポットなどにはいかなくとも。霊は想われる事で呼ばれる。
もしもあなたが心霊話を話したり、思い出している時に、空気が冷やりとしたら、鳥肌が立って、誰かが後ろに居る気配がしたら、そこを見てはいけない。
絶対に想われる事で、呼ばれたと想った霊が、そこに居るから―――
わぁー、嫌だ。あたしの馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。
彼女はもう自慢の髪の手入れもそこそこに出しっぱなしにしていたシャワーを頭にかけた。早くシャワーと止めて、風呂からも出て、電気が煌煌とした部屋に戻りたかった。
そうだ。兵長の事を考えよう。同じ幽霊でも、兵長だったら大歓迎だ。あんな父親はあこがれだもの。
8月10日に出るキーリの9巻では、兵長が大ピンチらしいけど、なんとか治って欲しいと想う。でもキーリがかわいそう。大事なモノがどんどん………
彼女は一生懸命大好きな小説の事を考える。
熱い湯が頭から首筋、乳房、背中、腹、お尻、太もも、足首を伝って、指からタイルに流れ落ちて、排水溝へと流れて行く。
ふと、その流れを見ていた彼女はぞくっとした。
排水溝に流れ着いている大量の髪。
長い髪。でもそれは彼女のモノじゃない。赤茶色の髪は家族の誰にも居ない。
シャワーの音が、音が、音が、雨のように響く。
どくん。
心臓が大きく跳ね上がった。
空気が変わっている。
全身に鳥肌が立つ。
誰かが、誰かが、誰かが………後ろに居る。
もしもあなたが心霊話を話したり、思い出している時に、空気が冷やりとしたら、鳥肌が立って、誰かが後ろに居る気配がしたら、そこを見てはいけない。絶対に想われる事で、呼ばれたと想った霊が、そこに居るから―――
誰も居ない浴室に、ただシャワーの湯が流れる音だけが響いていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
真っ暗な部屋。
寝苦しい。
網戸にしてある窓からは風は入ってはこない。
寝苦しい夜。
彼女は一階に降りて、何か冷たいモノでも飲もうかと、ベッドから立ち上がろうとして、だけど自分以外には誰も居ないはずの部屋で、足をつかまれて、頭からベッドから落ちて、
そしてベッドの下に隙間に白髪の老婆の顔を見た。
にたりと笑う、お歯黒の老婆に彼女は悲鳴を上げた。
―――――――――――――――――――
すぐそこにあるお墓から線香の臭いがしてくるような、そんな夜。
彼女は大学夏休みの宿題であるレポートを書くためにパソコンの電源を入れて、それからコンポの再生ボタンを押した。
BGMは先月自殺した歌手のCDだ。好きだっただけに彼女は残念に想う。
だけど結局は歌手なんて次から次へと出てくるし、前は好きだったけど今はもう見向きもしない歌手だって居るのだから、まあ、ね。
それでもこの歌手のCDはしばらくはとっておこうか。ファン倶楽部限定で買ったレア物の非売品CDなんかは値がつくかもしれない。そんな事を考えていると、ふいにCDが音飛びした。
彼女は眉根を寄せる。まさかコンポが壊れた?
そう思いながらコンポに近づくと、コンポのスピーカーから、なんだか擦れた声がした。まるで喉を何かで絞めているようなそんな声で。
ワスレナイデ………
それは間違いなく、自殺した歌手の声だった・・・。
―――――――――――――――――
暇だからDVDを見た。
それから流れ出たのはまったく関係無い、女の悲鳴だった。
そういえばこのアパートの部屋では、女が殺されたそうだ・・・。
――――――――――――――――――
深夜の学校。
柔道部のキャプテンを務める彼は、柔剣室の扉の鍵を持っているので、そこから学校に忍び込んだ。
肝試し。柔道部の皆と、テニス部の女子で。
皆は南館三階の姿見の前に立った。学校七不思議。その前に立つと、自分の死ぬ時の姿が見える。
鏡に映ったのは何気ない皆の顔。皆で失笑して。髪型や服装なんかを正す。
―――そんな事をしていたら、突然にそこに映る皆の顔が血塗れとなって、
それで皆はパニックになって、走り出して、学校の前で全員ダンプカーにひかれて、死んだ。
皆の顔は血塗れのひどい顔だった。
――――――――――――
彼女は自分のアパートに帰ってきた。
部屋の空気はなんだか違っていた。
そして見上げると、そこにいくつもの顔が浮かんでいて、苦悶の表情で自分を見ていた。
―――――――――――
隠れん坊をしていた。
子どもの頃。
見ず知らずの子と。
その子は死んだ。池にはまって。
そんな事は忘れて、何気ない大学生活を送っていたあたし。
アパートの部屋で寝ていると、ふいに誰かがあたしの胸の上に乗った。
怖くって瞼が開けない。
胸の重みが消える。
おそるおそる瞼を開いて、見た天井。
ほっと息を吐く。
そしたら脇から死んだあの子が顔を出してきて、言った。
「みぃーつけた」
――――――――――――――
大学のすぐ近くのバス停。
あたしはそこに居ました。
雨が降っていました。
そこに居るのはあたしと彼女だけです。
あたしは動けません。口も利けません。
何故なら彼女はレイプされたのがまるわかりの酷い恰好で、口の片端から血を流しながら、泣いていました。
そしてバスが来て、そこからは誰も降りなくって、バスの運転手さんは動かないあたしを睨んで、バスを発進させました。
彼女を乗せて。
そうして後から聞いた話ですが、あたしが通う大学の女子学生が、このバス停でバスを待っていたら、数人の男にバス停の裏にある林に連れ込まれて、レイプされて、殺されたそうなんです。
彼女は今も、あのバス停に居て、バスに乗っているのでしょうか?
――――――――――――――――――――
鏡を上に向けて置いておいてはいけない。
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あわせ鏡をしてはいけない。
―――――――――――――――――――
紫鏡。20歳までその言葉を覚えていると呪われて死ぬ。
―――――――――――――――――――
携帯電話が鳴ったんです。
液晶が面を見ると、表示されてはいませんでした。
だから出なかったんです。
そしたら留守番登録センターに伝言が入っていました。。
待ってて。今、会いに行きますから。
その声が入った直後に携帯電話が壊れて、あたしは怖くなって、携帯電話を解約して、それから違う会社と契約しました。
でも甘かったんです。解約の手続きが電話によって破棄されていたんです。
そうして、壊れたと想った携帯電話がいつの間にか使えるようになっていて、着信履歴には、1分置きにあの声から電話がかかってきていました。
そして今、あたしの部屋のドアはノックされています。
・・・・・・・・。
―――――――――――――――――――――
大学帰ってきて、部屋の空気の入れ替えのためにアパートの部屋の窓を開けようと、カーテンを開けたら、窓の向こうに見知らぬ男が立っていた。首に縄をつけた。
・・・・。
――――――――――――――――――――
葬儀会社のAさんは、遺体を運ぶために霊安室に入りました。
そしたら死んだおじいさんが、ベッドの上の自分の顔を覗き込んでいました。
――――――――――――――――――――
ねえ、ひとつ、言わせて。
絶対に後ろを振り向いちゃ、ダメだよ?
あなたの後ろに、居るから・・・・・
本当だよ。
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