珈琲ひらり

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赤朽葉家の伝説の伝説 読了

2007年01月28日 | 読書


 『赤朽葉家の伝説』
 桜庭一樹 著


 ネタバレ~~~



 下にも書きましたがすっごく面白かったです。
 物語は、物語の語り部を務める赤朽葉瞳子の祖母 万葉(第一部)、母 毛毬(第二部)、瞳子(第三部)で構成されていて、
 万葉の物語は本当にもう今は失われた昔の風景が繊細に、精緻に描写されていて、その時代の男と女の生き方がこの時代を生きる私にとってはすごく眩しく思えて、同時に羨ましく思えました。
 出てくる職工の穂積豊寿が本当に職人気質でカッコよくって、こう、男とはこうあるべき、って、もう本当に男が惚れるような人情と義理と男気に溢れる人で、本当に良くって、万葉と豊寿は読者から見てもお互いに恋しあっているのだけど、万葉はもはや人妻で、二人とも不倫などできる人では無いので、その想いをそっと胸に仕舞って、二人生きている姿がちょっと切なかったです。
 万葉は千里眼の力を持っていて、それは万葉を村の人たちに赤朽葉の千厘眼奥様と怖れ敬わせますが、しかしどうしようもなく彼女を不幸にします。
 長男の泪を産む時に、彼女はその千厘眼の力で彼の生涯を見てしまうのです。
 泪は同性愛者である事、母親の自分をとても慕ってくれる事、そして若くして死んでしまう事を。
 万葉の千厘眼の力は確かに義父の幽霊と会い、オイルショックの事を知らされ、その事を義父に言われたとおりに夫の曜司に伝え、それによって赤朽葉家は救われるのですが、彼女は独り、息子の若い死、旦那の死、自分の死、そういうモノを見てしまい、それに苦しみ続けるのですね。
 そして第三部で明かされる最大の悲劇もあるのです。
 曜司も曜司で、浮気をして、妾腹の子どもを万葉に育てさせたりして、ちょっとあーぁ、っていう部分は有りますが、私は好きですね。
 万葉の結婚はそこに彼女の意志は無い、ただただ赤朽葉という家だけを守るべきものでありましたが、彼女は確かに豊寿と曜司の二人の男に愛されていたのです。


 そして第二部 毛毬。
 万葉の子どもは全てタツが名づけたのですが、長男 泪は千厘眼で彼の人生を知ってしまった万葉が泣いていたから、泪。
 長女 毛毬は毛深くって、生れ落ちた時に毬のように弾んだりしたから、毛毬。
 次女 鞄は、夫婦が温泉に行っているときに生まれて、曜司が慌てふためいて、生まれた娘を鞄に入れて帰ってきたから、鞄。
 次男 孤独は、この子はこういう運命だから、と。名前が運命を変えるのではなく、運命がその名前を呼ぶのだ、という言葉には私もちょっと納得しました。
 ちなみに毛毬の娘 瞳子も実はタツが付けた名前があって、それが自由。瞳子がこれに対して不服な感じが凄く面白かったです。

 毛毬は丙午の生れで、その丙午の女らしい人生を歩みます。
 万葉の人生はただただ、昔の女の生き方で、それがすごくしっとりとしていながらも、だけどだからこその女の強さを感じたのですが、
 毛毬には毛毬の強さがあって、凄かったです。
 彼女はレディースで、めさめさ不良で、悪食(男の顔の趣味が悪い)で、しかし死人との戦いに関しては分が悪くって、って、
 曜司の妾腹 百夜(万葉から曜司を寝取った100の夜で身篭ったという皮肉な名前)という妹に毛毬は男をいつも寝取られていて、
 でも、百夜は毛毬に憧れていて、
 だけど毛毬には何故か百夜が見えなくって(本人談)、
 そういう関係の姉妹の生き様が描かれているんですね。
 毛毬はレディースで喧嘩をしたり、バイクを走らせたりして、男と付き合って、
 百夜は毛毬に憧れて、憧れるから毛毬の男を寝取って、って。


 そして毛毬は自分のチームのマスコット的だった穂積蝶子(彼女はチョーコと呼ばれていて、瞳子は、自分の名前がタツの自由ではなく、チョーコへの母の想いで、トーコ、瞳子と名づけられたのだ、って、そういう感じで拗ねてたりしたのですね。彼女は本文中でも母への恨み言を言っているシーンがあります。)が、知能犯として自身が通う進学校の女子たちのストレスにつけこみ、操り、売春をさせて、その罪で逮捕されて、少年院で死んでしまい、
 それを悲しみ、それによって自分の青春は終わった、と知り、
 中国地方のトップとなると共に自身のチーム 製鉄天使のヘッドの座を譲り、不良引退して(この際の赤朽葉家の風景はとても笑えました。^^)、
 そして抜け殻になったような彼女はしかし、引退したその一年後、漫画家になるのです。
 漫画家になる切欠は仲の良い弟の孤独が愛読する少女漫画を彼女も一緒になって読んでいて、読者の投稿コーナーがある事を知った彼女は一年間投稿を続けて、蘇峰という編集者に見出されて漫画家となったのです。
 彼女が蘇峰のアドバイスを受けて描いたのは、自身の青春でした。少女漫画の週刊誌で『あいあん天使!』を描き、トップの少女漫画家となったのです。
 矢沢あい先生と『マリンブルーの風に抱かれて』をちょっと読んでるときに連想しました。ちなみに矢沢先生は『うすべにの嵐』が一番好きですね。『NANA』はちょっとあばずれで、嫌。
 ですが、ちょうどこの頃に万葉が千里眼で見た通りに息子の泪が死に、
 曜司は万葉を問いただして、泪が死ぬ事も知っていて、また自分もそうは遠くない未来に死ぬ事を万葉から聞きだし、故に赤朽葉の家を守るために毛毬に婿を取らせます。そしてその婿も百夜に寝取られた。
 しかしこれまでどれだけ百夜に男を寝取られても百夜という女を視認できなかった毛毬はそれを無視していますが、不倫した男を寝取られた時にキレて、
 怒り狂った毛毬に追いかけられた百夜は、自殺します。
 そして売れっ子作家の毛毬もまた、『あいあん天使!』最終話を娘の瞳子と完成させたその夜に、瞳子に「チョーコがきたから、わたし、もう行くヨ?」と、言って、そしてそのまま過労死してしまいます。



 第三部 瞳子の話は、もう冒頭部分で万葉が殺したの、と、瞳子に言ったのは、その部分までに読者に知らされていた言葉の欠片から、豊寿の事であると、簡単に推理できたので、ちょっとだけ読むのが退屈なのでしたが、しかし途中でひょっとしたら毛毬が生きている可能性が示唆されて、おぉー、これは入れ替わりトリックで、万葉は娘の毛毬を愛し、憐れむばかりに彼女の存在を殺した、という意味で言ったのかな? と思ったのですが、やっぱり豊司の事で、万葉が彼に恋をするが故に、彼女は豊司に文字が読めない事を言えず、ずっと自分が遥か遠く昔に千里眼で見た豊司の姿の真の意味を悟り、嘆き苦しんでいて、それで死ぬ寸前に万葉は瞳子に懺悔するように、人を殺した、と言ったのです。
 すごく万葉と豊司の好きあっていながらも、その恋する想いを胸に隠しながら二人生きた時間を思って、切なかったです。
「受け止めて」「おう」、と木から飛び降りる万葉を、豊司が受け止めるシーンは本当に切なくって、素敵だったです。


 でも全体を通して、やっぱりこれは万葉と豊司の二人の恋物語を書いた物語だなー、と思いました。



 思いっきりネタばらしちゃってますが、それでも面白いと思うので、機会があったら読んで下さいませませ。^^



 でも人間を描くとはこういう事で、なんだろう、私が描きたいのはこっちの方にあるのでは、と、ちょっと頭の中でプロットを描いたりしています。
 今書いているのをファミ通に送ったら、書いて、新潮社とかに送ってみようかなー、とか、なんとか。

 



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