泣いていいんだよ。
君はあたしを海岸に連れてくるとそう笑って、後はあたしの手をただ黙って握ってくれていた。
あたしの手に触れている君の体温。それはまるで暖かい春の陽だまりの中のようで、
その温もりが頑なに閉ざしていたあたしの心を氷解させる。
泣くもんか。
泣くもんか。
泣くもんか。
絶対に、あたし、泣かないんだから。
そう頑なに想ったのは、あたし自身が知っていたから。
あたしはとても弱くって意気地無しだから、一度泣いてしまったらもう絶対に立ち上がれないって。
折れてしまった心じゃもう絶対に立ち上がれないって。
でも、君の温もりはあたしの心を氷解させたのと同時に、
とても大切なモノであたしの心に添え木をしてくれたんだ。
とても涙がしょっぱいんだ。
あたしは照れ隠しに君にそう言った。
そしたら君は笑ってこう言ったね。
それが青春の香辛料だよって。
そんな香辛料をたっぷりとふりかけた君との青春時代という時間があるから、今のあたしはある。
あたしは、隣で眠っている君の愛しい寝顔を見ながらもう60年も前のそんなふたりの若かしり頃を思い出してしまったよ。
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