まずは功労賞。この賞に重友梨佐を選ばなくてはいけないところに、今の日本女子マラソン界の低迷ぶりが表われている。1月の大阪国際女子マラソンで5年ぶりに優勝。27位に終わったとは言え夏の世界陸上にも代表入り。そんなランナーに、引退した元日本代表ランナーが対象の功労賞を授けなければならないのは残念至極。
男子新人賞は設楽悠太。東京マラソンでの積極果敢な走りっぷりは日本人トップの井上大仁よりも高く評価する声も少なくなかった(日本のマラソン関係者はフロント・ランナーが好きなのだ。)くらいだ。ベルリンでは一週館前にハーフに出場して日本記録更新という無茶をやったが、この「無茶ぶり」も個性のうちだ。女子の新人賞は東京マラソンで4位の藤本を選んだ。(実は、2016年のおきなわマラソンに優勝していた。)佐藤敦之監督就任以来、京セラ陸上部が着実に伸びてきていると感じる。日本女子マラソンを再生させるのは、薩摩の地で女子ランナーを指導する会津出身の監督かもしれない。
審査員特別新人賞。選考者の独断と偏見で選ぶ賞なので、これまで無かった賞もいくらでも設置できる。共に今年の愛媛マラソンで2位入賞したランナーで鈴木は新居浜西高出身の早稲田大学生、松田は松山大学。学生時代に愛媛マラソンを走り、後に五輪代表になったのは采谷義秋さんと土佐礼子さんだが、彼らに続いて欲しいとの願いから選出した。松田は京セラでプリンセス駅伝のアンカーで好走してチームのクイーンズ駅伝出場権獲得に貢献。鈴木は愛三工業で最長区間を走ることが決定している。ちなみに、愛三工業陸上部の南智浩マネージャーも國學院大時代に愛媛マラソンに出場し、優勝している。
7月のゴールドコーストマラソン。近年は日本のトップランナーも好記録でゴールしているが野口拓也は本年度ランキング3位となる2時間8分59秒で優勝、前年優勝者で妻の竹中理沙も3位入賞で夫婦揃って表彰台に昇る快挙。しかしながら翌日の新聞報道は夫妻の事は無視して、世界陸上を控えて出場した川内優輝のことばかり書いていた。なんじゃこれは?日本のスポーツマスコミは夫婦別姓に反対なのかと思ってしまった。
かくなる上は夫婦揃って東京五輪のマラソン代表を目指して欲しい、まあ実現したらあの大会組織委員長が「何で夫婦なのに姓が別なのか?」と余計な事を口にして物議を醸しそうだと思ったら竹中も引退を表明。なんか、小島和恵さんや宮原美佐子さんが次々と引退表明した1990年頃の如き状況になってきたな。
カムバック賞には松村康平。2014年のアジア大会銀メダルの彼を、2015年の北京世界陸上の代表に選出しなかったのは選考ミスだと思ってきただけに以後低迷していた彼がびわ湖での5位入賞は嬉しい。チームの後輩で山梨学院大の後輩でもある井上の活躍を刺激にして、更なる活躍を期待する。
審査員特別賞の糟谷悟。「がん保険のCMに出演する現役マラソン・ランナー」という前代未聞のランナーである。現役復帰までの努力と、それを支えた周囲の方々、そして彼を「戦力外」にしなかった所属企業のトヨタ紡織の関係者に敬意を表したい。
ブライテストホープ賞には、北海道マラソン優勝コンビを挙げた。村澤は初マラソンのびわ湖では失速したが北海道で汚名返上、次は高速マラソンを見たい。前田は「北海道経由で世界へ」の天満屋陸上部の伝統を見事に体現した。
ベスト市民ランナー賞、「市民ランナー」の定義が曖昧になっているが、高知でランニング指導の傍ら競技を続け、マラソン情報サイト「レッツ・ラン」の編集者として最新の海外マラソンの情報を発信している山崎さんを選出した。なお、この賞は「選考者と面識のある人」が対象である(笑)。
優秀外国人賞は東京の大会レコードを記録した男女の優勝者と、欧州最高記録で福岡を制したモーエンに。これは真偽不明な話だが、グレテ・ワイツが初めて女子ランナーとして2時間26分を切った際、「2時間26分以内」が参加資格タイムだった福岡国際マラソンへの出場を希望するも、その年から大会要項の出場資格に「男性」の文字が加えられたために断念せざるを得なかったという。その話を僕に教えてくれた友人の話では、
「だからワイツは日本嫌いになって、全盛期に日本のレースを走らなかった。」
というのだが、それは疑わしい。9年連続してニューヨークシティ・マラソンを走る契約をしていたので、東京も大阪も走れなかっただけだとは思うが。
前置きが長くなったが、ワイツの一件が事実とすれば、彼女の故国ノルウェーのランナーが福岡優勝というのも因縁めいている。2000年代にスイスのビクトル・ロスリンが台頭してきた際にスポーツライター武田薫氏が書いた言葉を思い出す。
「やはり、欧州は侮れない。」
努力賞。東京で自己ベスト更新の山本、延岡二連覇の松尾、さいたま5位の岩出、ナゴヤウイメンズ3位の清田を選んだ。野口に山本、大物ルーキーを迎えたコニカミノルタだが、むしろ彼ら中堅ランナーの奮起が目立った。かつてのコニカミノルタはコニカ時代から「30kmロードのコニカ」と言いたくなるほど、青梅や熊日などの30kmの大会には強いのにマラソンは今一つだったのがどうしてどうして、マラソンも強くなってきた。箱根駅伝のスター軍団と化した旭化成の中で、駅伝メンバーに選ばれず、こつこつとマラソンを走り続ける松尾。ある意味で「旭化成らしい」ランナーだ。所属企業を飛び出し、心機一転を図った岩出。早く「マラソン界のレイア姫」との呼称が広まるような活躍を見せて欲しい。実業団連合未登録のクラブチームであるスズキ浜松。やり投げや10種競技等では五輪代表を輩出しているが、ようやく長距離部門もブレイクしてきた。
敢闘賞。びわ湖で上位入賞したリオ五輪代表の佐々木と石川を選んだ。好記録続出の東京の後で割を食った感のある今年のびわ湖だが、両者ともリオ五輪代表選出はフロックではないというところは見せたと思う。(「マラソンにフロックなどない。」というのが僕の持論だが。)
殊勲賞。福岡国際で一般参加で入賞し、五輪選考レースMGCの出場資格を得た上門と竹ノ内。地味ながら世界で戦った実績を持つ指導者の下での好記録である。
「実業団は駅伝ばかり。」とこの数年何かと批判されたが、HondaやMHPSや大塚製薬やNTT西日本勢のマラソンでの活躍は「実業団も捨てたもんじゃない。」と思わせた。
中本健太郎、これまで五輪や世界陸上に3度出場して全てトップ10でゴール。この実績に対する評価があまりにも低いと思う。別大での優勝は嬉しかった。東京マラソンで自己ベストを更新した井上。「マラソン部」が正式名称のМHPS初の世界陸上代表となった。世界陸上本番では経験不足が出た感じだが、今後の期待度は大。
優秀選手として、川内優輝を選んだが、これは「世界陸上9位」という結果よりも愛媛マラソンでサブテンに対しての授与である。一時は僕も彼が市民マラソン大会で更新不可能な大会記録を出し続けることに批判的なスタンスだった。練習のための参加なら、優勝は地元の市民ランナーに譲り、ペースメイカーに徹するとか順位のつかないオープン参加で出るべきだろうと思ったが、我が地元愛媛でのサブテンにはもう、ここまでやってくれたら「あっぱれ」としか言いようがない。南海放送ラジオの番組でも紹介されたが、来年の愛媛マラソンにも川内に出場を依頼したところ、
「次回は地元の駅伝と日程が重なるので出られません。」
と言うお断りと、
「愛媛マラソン、今後もおもてなしを売り物にするだけでなく、四国の実業団ランナーと学生ランナーが優勝を争う大会としても、盛り上げてください。」
という大会への要望をしたためた直筆の大会を事務局に送ってきたのだという。
来年も愛媛マラソン、早稲田大学のランナーが招待されるという。
実業団女子駅伝に参戦しないスズキ浜松から清田とともにブレイクした安藤。かつての中国のマラソン界のエース、孫英傑を彷彿とさせる「忍者走り」も話題になった。世界陸上では実力を出し切れなかったが、山梨学院大OBである里内コーチが退任していたとの事で、今後が心配。
世界陸上イヤーに、代表選手以外をマラソン大賞に選出するのはある意味残念だが、大迫傑以外に選びようがない。初マラソンのボストンで、2006年の土佐礼子さん以来12年ぶりに表彰台に立ったと思ったら福岡で2時間7分13秒の自己新更新。海外に拠点を持つ「プロランナー」の大ブレイクは今後の若いランナーの進路にも影響を与えそうだ。更に、学生時代に結婚していて子供もいた、というのにも驚かされた。本当、「ファラーやラップと同じ場所でトレーニングする日本人」というのは、日本人メジャーリーガーや、ブンデス・リーガやプレミアム・リーグで活躍する日本人フットポーラーと同等だと思う。
ちなみに、今年の福岡国際マラソン。優勝タイムが2時間5分台で2位が五輪金メダリストでありながらトップ10にケニアとエチオピアの選手が一人もいない。
(本稿は2018年11月16日に書き上げましたが、あくまでも2017年12月31日の視点で書きました。)
男子新人賞は設楽悠太。東京マラソンでの積極果敢な走りっぷりは日本人トップの井上大仁よりも高く評価する声も少なくなかった(日本のマラソン関係者はフロント・ランナーが好きなのだ。)くらいだ。ベルリンでは一週館前にハーフに出場して日本記録更新という無茶をやったが、この「無茶ぶり」も個性のうちだ。女子の新人賞は東京マラソンで4位の藤本を選んだ。(実は、2016年のおきなわマラソンに優勝していた。)佐藤敦之監督就任以来、京セラ陸上部が着実に伸びてきていると感じる。日本女子マラソンを再生させるのは、薩摩の地で女子ランナーを指導する会津出身の監督かもしれない。
審査員特別新人賞。選考者の独断と偏見で選ぶ賞なので、これまで無かった賞もいくらでも設置できる。共に今年の愛媛マラソンで2位入賞したランナーで鈴木は新居浜西高出身の早稲田大学生、松田は松山大学。学生時代に愛媛マラソンを走り、後に五輪代表になったのは采谷義秋さんと土佐礼子さんだが、彼らに続いて欲しいとの願いから選出した。松田は京セラでプリンセス駅伝のアンカーで好走してチームのクイーンズ駅伝出場権獲得に貢献。鈴木は愛三工業で最長区間を走ることが決定している。ちなみに、愛三工業陸上部の南智浩マネージャーも國學院大時代に愛媛マラソンに出場し、優勝している。
7月のゴールドコーストマラソン。近年は日本のトップランナーも好記録でゴールしているが野口拓也は本年度ランキング3位となる2時間8分59秒で優勝、前年優勝者で妻の竹中理沙も3位入賞で夫婦揃って表彰台に昇る快挙。しかしながら翌日の新聞報道は夫妻の事は無視して、世界陸上を控えて出場した川内優輝のことばかり書いていた。なんじゃこれは?日本のスポーツマスコミは夫婦別姓に反対なのかと思ってしまった。
かくなる上は夫婦揃って東京五輪のマラソン代表を目指して欲しい、まあ実現したらあの大会組織委員長が「何で夫婦なのに姓が別なのか?」と余計な事を口にして物議を醸しそうだと思ったら竹中も引退を表明。なんか、小島和恵さんや宮原美佐子さんが次々と引退表明した1990年頃の如き状況になってきたな。
カムバック賞には松村康平。2014年のアジア大会銀メダルの彼を、2015年の北京世界陸上の代表に選出しなかったのは選考ミスだと思ってきただけに以後低迷していた彼がびわ湖での5位入賞は嬉しい。チームの後輩で山梨学院大の後輩でもある井上の活躍を刺激にして、更なる活躍を期待する。
審査員特別賞の糟谷悟。「がん保険のCMに出演する現役マラソン・ランナー」という前代未聞のランナーである。現役復帰までの努力と、それを支えた周囲の方々、そして彼を「戦力外」にしなかった所属企業のトヨタ紡織の関係者に敬意を表したい。
ブライテストホープ賞には、北海道マラソン優勝コンビを挙げた。村澤は初マラソンのびわ湖では失速したが北海道で汚名返上、次は高速マラソンを見たい。前田は「北海道経由で世界へ」の天満屋陸上部の伝統を見事に体現した。
ベスト市民ランナー賞、「市民ランナー」の定義が曖昧になっているが、高知でランニング指導の傍ら競技を続け、マラソン情報サイト「レッツ・ラン」の編集者として最新の海外マラソンの情報を発信している山崎さんを選出した。なお、この賞は「選考者と面識のある人」が対象である(笑)。
優秀外国人賞は東京の大会レコードを記録した男女の優勝者と、欧州最高記録で福岡を制したモーエンに。これは真偽不明な話だが、グレテ・ワイツが初めて女子ランナーとして2時間26分を切った際、「2時間26分以内」が参加資格タイムだった福岡国際マラソンへの出場を希望するも、その年から大会要項の出場資格に「男性」の文字が加えられたために断念せざるを得なかったという。その話を僕に教えてくれた友人の話では、
「だからワイツは日本嫌いになって、全盛期に日本のレースを走らなかった。」
というのだが、それは疑わしい。9年連続してニューヨークシティ・マラソンを走る契約をしていたので、東京も大阪も走れなかっただけだとは思うが。
前置きが長くなったが、ワイツの一件が事実とすれば、彼女の故国ノルウェーのランナーが福岡優勝というのも因縁めいている。2000年代にスイスのビクトル・ロスリンが台頭してきた際にスポーツライター武田薫氏が書いた言葉を思い出す。
「やはり、欧州は侮れない。」
努力賞。東京で自己ベスト更新の山本、延岡二連覇の松尾、さいたま5位の岩出、ナゴヤウイメンズ3位の清田を選んだ。野口に山本、大物ルーキーを迎えたコニカミノルタだが、むしろ彼ら中堅ランナーの奮起が目立った。かつてのコニカミノルタはコニカ時代から「30kmロードのコニカ」と言いたくなるほど、青梅や熊日などの30kmの大会には強いのにマラソンは今一つだったのがどうしてどうして、マラソンも強くなってきた。箱根駅伝のスター軍団と化した旭化成の中で、駅伝メンバーに選ばれず、こつこつとマラソンを走り続ける松尾。ある意味で「旭化成らしい」ランナーだ。所属企業を飛び出し、心機一転を図った岩出。早く「マラソン界のレイア姫」との呼称が広まるような活躍を見せて欲しい。実業団連合未登録のクラブチームであるスズキ浜松。やり投げや10種競技等では五輪代表を輩出しているが、ようやく長距離部門もブレイクしてきた。
敢闘賞。びわ湖で上位入賞したリオ五輪代表の佐々木と石川を選んだ。好記録続出の東京の後で割を食った感のある今年のびわ湖だが、両者ともリオ五輪代表選出はフロックではないというところは見せたと思う。(「マラソンにフロックなどない。」というのが僕の持論だが。)
殊勲賞。福岡国際で一般参加で入賞し、五輪選考レースMGCの出場資格を得た上門と竹ノ内。地味ながら世界で戦った実績を持つ指導者の下での好記録である。
「実業団は駅伝ばかり。」とこの数年何かと批判されたが、HondaやMHPSや大塚製薬やNTT西日本勢のマラソンでの活躍は「実業団も捨てたもんじゃない。」と思わせた。
中本健太郎、これまで五輪や世界陸上に3度出場して全てトップ10でゴール。この実績に対する評価があまりにも低いと思う。別大での優勝は嬉しかった。東京マラソンで自己ベストを更新した井上。「マラソン部」が正式名称のМHPS初の世界陸上代表となった。世界陸上本番では経験不足が出た感じだが、今後の期待度は大。
優秀選手として、川内優輝を選んだが、これは「世界陸上9位」という結果よりも愛媛マラソンでサブテンに対しての授与である。一時は僕も彼が市民マラソン大会で更新不可能な大会記録を出し続けることに批判的なスタンスだった。練習のための参加なら、優勝は地元の市民ランナーに譲り、ペースメイカーに徹するとか順位のつかないオープン参加で出るべきだろうと思ったが、我が地元愛媛でのサブテンにはもう、ここまでやってくれたら「あっぱれ」としか言いようがない。南海放送ラジオの番組でも紹介されたが、来年の愛媛マラソンにも川内に出場を依頼したところ、
「次回は地元の駅伝と日程が重なるので出られません。」
と言うお断りと、
「愛媛マラソン、今後もおもてなしを売り物にするだけでなく、四国の実業団ランナーと学生ランナーが優勝を争う大会としても、盛り上げてください。」
という大会への要望をしたためた直筆の大会を事務局に送ってきたのだという。
来年も愛媛マラソン、早稲田大学のランナーが招待されるという。
実業団女子駅伝に参戦しないスズキ浜松から清田とともにブレイクした安藤。かつての中国のマラソン界のエース、孫英傑を彷彿とさせる「忍者走り」も話題になった。世界陸上では実力を出し切れなかったが、山梨学院大OBである里内コーチが退任していたとの事で、今後が心配。
世界陸上イヤーに、代表選手以外をマラソン大賞に選出するのはある意味残念だが、大迫傑以外に選びようがない。初マラソンのボストンで、2006年の土佐礼子さん以来12年ぶりに表彰台に立ったと思ったら福岡で2時間7分13秒の自己新更新。海外に拠点を持つ「プロランナー」の大ブレイクは今後の若いランナーの進路にも影響を与えそうだ。更に、学生時代に結婚していて子供もいた、というのにも驚かされた。本当、「ファラーやラップと同じ場所でトレーニングする日本人」というのは、日本人メジャーリーガーや、ブンデス・リーガやプレミアム・リーグで活躍する日本人フットポーラーと同等だと思う。
ちなみに、今年の福岡国際マラソン。優勝タイムが2時間5分台で2位が五輪金メダリストでありながらトップ10にケニアとエチオピアの選手が一人もいない。
(本稿は2018年11月16日に書き上げましたが、あくまでも2017年12月31日の視点で書きました。)
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