イラスト・AERA dot. より転載
▼大須賀 覚(がん研究者 米国エモリー大学ウィンシップ癌研究者)ブログ記事より
余命宣告というのは、ドラマなどでこのシーンが良く登場することなどから、一般の人にとっては進行がんの治療において必須のもののように思われています。
しかし、実際には余命宣告は必須ではなく、また医師と患者の間で様々な誤解を生む、要注意な事象の1つでもあります。
しかし、そのことはあまり一般の方には知られていません。
今回はそんな余命宣告について私なりに解説して、どのようなことが問題で、本来はどうあるべきかを考えてみたいと思います。
一般の人が考える余命宣告
一般の方の理解としては、余命宣告は同じ病状にあるがん患者が平均的に生きられる時間、つまり、あとどのくらいの期間を生きられるかの予想と考えていると思います。
この余命宣告はかなり正確で、例えば3年と言われたら、その前後数ヵ月の短い期間でほとんどの人が亡くなるものと思っている人も多いようです。
また、最も問題なのは、余命宣告されたら生き残る可能性がほとんどない、と勘違いしてしまうことも多く、この点が医師が思っている余命と相違があり、
大きな勘違いを生む根源となっています。また、余命宣告という言葉はあまりに重い言葉であって、これが与える精神的なダメージも大きな問題となります。
余命宣告という言葉はあまりに重く、精神的なダメージも大きな問題となります。
余命宣告はどのように行われているか
実際の医療において、余命宣告はどのようにされているでしょうか? 実は、余命宣告にはこうしなさいという明確なルールがあるわけではなく、
医師が行っている方法も様々です。
中には、誤解を生むため好ましくないという考えから、そもそも余命宣告しない医師もいます。
それに対して、治療の厳しさを理解してもらうために、必ず伝えている医師もいたりします。
また、8ヵ月などの1つの数字をいう医師もいれば、2〜3年などとかなり幅をもたせて伝える医師もいます。
医師側が告知する目的は、患者側に情報を提供するのみでなく、患者側が期待していた予後よりも早くに亡くなり、
治療が悪かったのではとトラブルになるのを防ぎたいという意図もあります。
医師側の問題点としては、全ての医師が完全に患者側の余命に対する理解の程度や、受け取り方を把握していないことで、
時に余命宣告することで医師患者関係が悪くなるケースも実際に見受けられます。
どうやって余命を推定するのか?
さきほど言ったように決まったルールがないので、余命を推定する方法も様々です。
一般的には、同じ治療を数百人に行った論文のデータなどや、自施設のデータをもとにして、
生存曲線の中央値(50%の方が亡くなられる時期)をあげて説明するのが一つの方法です。
他には、医師自身の臨床経験から大体の期間を言われる方もいます。しかし、医師自身もこの余命としてあげた期間が正確とは思っていません。
あくまで大体の目安だと考えています。
正確な余命宣告はそもそも困難
余命宣告というのは正確ではありません。
それは医師が技量不足・知識不足だからではなく、本来のがん治療というのはとても複雑で、将来を単純に予想できるものではないからです。
同じがんに対して同じ治療をしたとしても、生存できる期間には大きな開きがあります。
なぜ、そうなるのかといえば、そもそも患者それぞれの身体的特徴(体力・年齢・持病など)が違い、治療の反応が異なるからです。
さらに、がん治療を同じ治療レシピで行う場合でも、手術でどのぐらい取りきれるのか、化学療法をどこまで完遂できるのか、治療の反応はどのぐらいか、
転移がどこに起こるか、再発に対して再手術できるか、再度の化学療法ができるかなど、治療が変化する要素はあまりに多くあります。
治療には様々なイベント・分岐点が時空間的に存在していて、それがどちらになるかは予測できないため、はっきり言えば予想不可能です。
実際の予後とはどのようなものか?
では、同じ病気と診断された人には、どのくらいの予後の開きがあるのでしょうか? ここに1つの例を出して解説したいと思います。
ここに示したグラフは、メラノーマという皮膚のがんの患者データです。これは新しい治療群(青線)と偽薬群(赤線)の予後を比較した試験の結果です。
グラフの見方ですが、縦軸が生存されている患者さんの割合を示しています。それに対して横軸は月数です。
最初の0ヵ月の時点では100%の患者さんが生存されています。
月が経つにつれて徐々に線が下に落ちているのは、この時点で亡くなられた人がいることを意味しています。