一陽来復(いちようらいふく) あわてず・あせらず・あきらめず

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米国で使われなくなった「効果の疑わしい抗がん剤」の一部が日本では保険適用のまま

2024-08-27 16:53:26 | がん闘病

  PRESIDENT Onlin記事より転用

   ※ファリーダック(パナビノスタト)については2024年3月から販売が中止されました。

 

日本で用いられている抗がん剤の一部に、効果が疑わしいとして米国で承認撤回されたものが存在しているという研究結果が発表された。

米国臨床薬理学会の国際誌Clinical and Translational Science誌に掲載されている。

研究に携わったエバーハルト・カール大学テュービンゲン研究員の秤谷隼世さんは「がん治療においては『迅速承認制度』という特別な医薬品承認の枠組みがある。

日本には、この制度で承認された医薬品を撤退する仕組みがないことが問題だ」という――。

 

「迅速承認制度」という医薬品承認の枠組み

読者のみなさん、はじめまして。ドイツでRNA創薬研究に従事する秤谷隼世と申します。

突然ですが、日本で用いられている抗がん剤の一部に、効果が不十分ですでに米国で承認撤回されているものが存在していると聞いたら驚くのではないでしょうか。

今回紹介する研究は、アイルランド王立外科医学院、医療ガバナンス研究所、ルンド大学との共同研究で行われたものです。

その成果は、米国臨床薬理学会の国際誌Clinical and Translational Science誌に

” Continued cancer drug approvals in Japan and Europe after market withdrawal in the United States: A comparative study of accelerated approvals”という

論文名で掲載(2024年7月11日公開)されました。※ https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cts.13879

 

一般に、がん治療においては、科学的に頑健な有効性の指標である全生存期間(Overall Survival, OS)を用いて臨床試験で有効性を評価することが推奨されます。

しかし、全生存期間での評価には、疾患によっては複数年単位の評価が必要となります。

何年もかかる試験の結果を待っているようでは、重篤ながんを抱えている患者さんなど、救えるかもしれない命が手遅れになりかねません。

また、製薬企業はあえて強調しませんが、臨床試験のコストが嵩んでしまうという問題もあります。

そこで、日・米・欧の各国、地域では、通常の薬事承認とは別に「迅速承認制度」という特別な医薬品承認の枠組みが設けられています。

 

日本には「承認を受けた医薬品」が撤退できる仕組みがない

迅速承認制度が通常の薬事承認と異なる点は、エビデンスが十分に確立されていない状態でも、候補となる物質が医薬品として承認されることがあるということです。

米国で迅速承認を受けた医薬品は、製薬会社による市販後調査(確認試験)が義務付けられています。

確認試験の失敗や遅延を認めた場合は、米国食品医薬品局(FDA)はその医薬品を市場から撤回することができるようになっています。

実際近年、FDAは「効果の疑わしい抗がん剤」が市場に長々と引き留められているような現状を改善すべく、

迅速承認から市場撤退までの速度を速めているといった現状も私たちは以前、別の医学雑誌に報告しております(H. Hakariya et al., QJM, 2024)。

※ https://academic.oup.com/qjmed/advance-article-abstract/doi/10.1093/qjmed/hcae115/7691984?redirectedFrom=fulltext&login=false

欧州でも同様に撤回の仕組みが存在しますが、日本では、一度当局から承認を受けた医薬品が撤退できる仕組みは存在しません。

 

そこで私たちは、世界の医薬品市場の大部分を占める米国・日本・欧州に着目して、抗がん剤の迅速承認制度の承認・規制状況を比較しました。

具体的には、2023年4月30日時点で米国において撤退が報告されている抗がん剤23品目に注目し、

これらの日本・欧州での承認状況を各国・地域の規制当局が発表するデータベースや製薬会社による発表資料などに基づいて精査しました。

 

「効果の疑わしい抗がん剤」が日本や欧州では保険適用されたまま

その結果、23品目のうち15品目については、製薬会社が日本および/または欧州でも承認申請をしており、

さらに12品目については今も日本または欧州のいずれかで承認されている事実を明らかにしました。

日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)には、製薬会社から合計7品目の承認申請があり、

2023年4月30日時点でPMDAはその全てを承認していました。その適応の内訳は図表1に示すように種々の癌腫にわたっており、

古くに承認された順から、マイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン)、イレッサ(ゲフィチニブ)、アバスチン(ベバシズマブ)、フルダラ(フルダラビンリン酸)、

イストダックス(ロミデプシン)、ファリーダック(パノビノスタット)、テセントリク(アテゾリズマブ)でした。

さらに、乳がんに対する治療薬である2例は、乳癌診療ガイドラインで推奨されてしまっている始末です。

テセントリク(アテゾリズマブ)については強く推奨・アバスチン(ベバシズマブ)が推奨という状況です(2022年版ガイドライン)。

 

一方、欧州の規制当局であるEuropean Medical Agency(以下、EMA)は13品目の申請を受け、12品目を受理し、1品目を拒否しました。

承認を一度受けた12品目のうち、2品目については撤退があったものの、残る10品目については2023年4月30日時点で承認が維持されていました。

 

長いものでは「11.5年」も市場に残っている

続いて私たちは、これら日本・欧州で承認が維持されていた医薬品が、どのくらいの間市場に出回り続けてしまっているのかを計算しました。

すなわち、米国市場からの撤退をスタートとして、各国・地域における「効果の疑わしい医薬品」の市場残存期間を算出しました。

すると驚くべきことに、1医薬品あたり欧州では0.2年から11.5年(中央値1.3年)、日本では1.1年から11.5年(中央値3.2年)という期間の範囲で、

これらの医薬品が市場に残り続けていることが明らかとなりました。

さらに、欧州で承認されたままとなっている10品目の市場残存期間を合計すると、26.8年であったのに対し、

日本では7品目しか承認されたままになっていないにもかかわらず、その市場残存期間の合計は、36.2年間でした。

これらの期間はさらに延長する可能性があります。

 

本来の医薬品承認よりも有効性の基準が「緩い」

さて、それではどうしてこのような事態が起こってしまったのでしょうか。

もともと迅速承認制度は、有効性の期待される医薬品候補を患者さんの元へ迅速に届けるべく、米国(1992~)・日本(2017~)・欧州(2006~)で確立されました。

このシステムは、ほとんど抗がん剤に対して適用されます。

そして本制度では、より短期間で有効性を評価するために、全奏効割合(Overall Response Rate, ORR)や無増悪生存期間(Progression Free Survival, PFS)といった

代用指標(代用エンドポイント)を用います。

その結果、医薬品の有効性が「推定」されれば承認を受け、その物質は保険適用の受けた医薬品となります。

有効性が「推定」されればいいということは、誤解を恐れずに言うと、本来の医薬品承認で求められる有効性よりも、その基準が「緩い」ということです。

 

肝心な「撤退の仕組み」が存在していない

そのためか、迅速承認制度で承認を受ける医薬品の多くは、

①臨床試験に組み込まれる患者さんの総数が少なかったり、②特定の患者集団での研究が不足していたり、

③単一非ランダム化試験に基づいた科学的な頑健性の弱いデータで承認を受けていたりと、科学的に検証が不十分な点が残ることが多くなります。

つまり、迅速承認の時点では、「臨床的な利益」が必ずしも証明されていないのに承認を受けてしまう欠点があり、これが問題となるのです。

むやみやたらに承認してしまうようでは、「効果の疑わしい医薬品」まで承認してしまい、

「国民医療費を無駄にしながら患者さんに全くベネフィットのない医薬品を投与する」といった状況が生じかねないので、安易に承認を与えてしまうことは危険です。

こうした状況が生じている時間を最小限にするためにも、米国では撤退の仕組みが存在します。

ところが日本の場合、「迅速に承認する」という入口の仕組みだけが導入されてしまっており、肝心な撤退の仕組みが存在しないのです。

 

抗がん剤の承認制度に求められる「国際的な規制の調和」

本研究で私たちは、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」23品⽬について精査しました。

結果、それらの承認状況は国・地域によって異なっており、日本または欧州のいずれか(または両方)において、

一部の抗がん剤が承認されたままとなっている状況を明らかにしました。

この事実は、①撤退を受けて、米国のがん患者さんが有効であるはずの医薬品にアクセスできなくなってしまっているか、

②日本または欧州の患者さんが、臨床的なベネフィットのない医薬品を処方されてしまっているか、いずれかを示唆します。

米国の規制当局が、市販後の確認試験を執り行ったうえで撤退を判断していることを考えると、②のシナリオの方がより事実を反映していると考えられます。

こうした地域による差を解消するためにも、抗がん剤の承認制度については、国際的な規制の調和が必要とされるでしょう。

 

「臨床的な利益が証明されていない医薬品」が使われ続けている

では、日本の医師や当局はこうした事実をどのように受け止め、どのような対策をとっていくことができるでしょうか。

今回、⽇本では特に、「FDAによって迅速承認を受けたが、後に⽶国で撤回された抗がん剤」、すなわち効果の疑わしい抗がん剤が、

⻑期間にわたって承認維持されている傾向があり、さらに⼀度承認された適応が撤回されたといった事例はありませんでした。

この結果を少し悲観的に解釈すると、⽇本では、臨床的な利益が証明されていない医薬品が使⽤され続けていることになります(同様のことが欧州でも言えます)。

したがって、⽇本や欧州の規制当局には、臨床的な利益が不明な医薬品の再評価と撤回を検討する余地があると考えられるでしょう。

少なくとも、当局は国や地域によって異なる承認状況となっている根拠をより明確に説明する必要があります。

 

治療薬ガイドラインのアップデートも重要

また、現場の医師をはじめとした医療従事者は、日本で承認されている抗がん剤だからといって、安易に製薬会社のMRさんに勧められるまま処方するのではなく、

最新の国際的なエビデンスをきちんとアップデートしながら日常の診療に従事するといった姿勢が求められてくるのではないでしょうか。

もちろん、日常診療に忙殺されてこうした情報を逐次アップデートするのは医師にとって簡単ではないでしょう。

そこで、学会の出す治療薬ガイドラインも、最新の臨床試験の情報を常にアップデートした指針を示していくことが重要です。

 

末筆ですが、私自身は日々研究室の中で創薬研究に従事しています。承認を受けて市場に出回るのは、我々が一生をかけて見つけ出せるかどうかの新薬です。

患者さんたちのためにも、しっかりと臨床的なベネフィットを明らかにしたうえで、患者さんの利益になるようなお薬が届けられるような世の中であってほしいと願います。

著者:秤谷 隼世(はかりや・はやせ)

エバーハルト・カール大学テュービンゲン 研究員
1993年生まれ。慶應義塾大学薬学部を卒業。京都大学大学院医学系研究科にて博士号を取得。日本学術振興会 海外特別研究員を兼任。
核酸医薬・核酸化学・遺伝子工学・を専門としたRNA創薬研究に従事。
社会と医薬品の関係性について洞察を深めるため、任意団体 薬と社会健康科学研究所を創設・主催。研究・アドボカシー・講演・執筆などの活動を展開している。
 
※ PRESIDENT Onlin記事より転載

米臨床腫瘍学会が提示する「抗がん剤の使用をやめるべき」5つのタイミング

2024-08-20 12:59:52 | サポート便り

   

     [図表1]抗がん剤をやめる基準出典:『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より抜粋
     出典:米国臨床腫瘍学会(ASCO)の「やってはいけないリスト」より

 

がん治療の方法のひとつである抗がん剤。実は抗がん剤にもやめどきがあり、過剰な投与はかえって命を縮めることになってしまうそうです。

では、「抗がん剤をやめるべきタイミング」とはいったいいつなのか、

医師である勝俣範之氏の著書『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より、詳しくみていきましょう。

 

過剰な使用はかえって危険…抗がん剤をやめるタイミングとは

【登場人物】

■教える人……勝俣範之先生  あらゆる部位のがんを診られる腫瘍内科医として日々診療にあたっている。
■教わる人……編集者 身近にがんに罹患する人が増えて、わからないことだらけで心配になっている。
 
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勝俣範之先生:抗がん剤について知っておいてほしいことは、使う状況によって目的が違うということです

進行がんや再発がんでは、できるだけがんの進行を抑え、症状を和らげるために使います。

編集者:つまり、進行がんでは、がんとより良く共存していくために抗がん剤治療を行うということですね。

勝俣:そうです。患者さんやご家族にも、過剰な抗がん剤の使用は避けたほうがいいことをご理解いただきたいですね。

中には、抗がん剤を使えば奇跡が起こって、進行がんが治癒するのではないかと考える方もいらっしゃいます。

だから、どんなにつらくても我慢して、最後の最後まで抗がん剤治療を続けたいとおっしゃる場合も多いのですが、それは決して適切ではないのです。

編集者:やめる基準のようなものはあるのですか?

勝俣:がん細胞は遺伝子変異を繰り返しますから、抗がん剤がだんだん効かなくなってくるのです。やりすぎはむしろ命を縮めることもあります。

抗がん剤はいちばん治療効果が高いものから使い、それをファーストラインといいますが、セカンドライン、サードラインと抗がん剤を替え、

今はフォースラインぐらいまでで限界です。

ですから、ある時点で、抗がん剤はやめるべきです

個人によって違いはありますが、アメリカの臨床腫瘍学会がガイドラインとして出しているものが上の表です。

 

“うまく付き合っていく”ことが大切

編集者:進行がんや再発、転移が見られるがんの患者さんで、「もう、できる治療はない」とお医者さんから告げられ、

絶望してしまったという話を聞くことがあります。

勝俣:ひどい言い方です。治療がないなんて、そんなことはないですよ

たしかに進行がんの場合、標準治療と呼ばれる積極的治療は意外と早く終わってしまいます。抗がん剤などを使った積極的治療には限界がありますが、

だからといって諦めるという意味ではないのです。緩和的治療(緩和ケア)は最期までできる治療です。

編集者:治療が終わる、限界があるというだけで患者さんには厳しいことだと思います。

もっとやれることがあるのではないかと思ってしまうのではないでしょうか?

勝俣:その通りです。私もそういう言い方はよろしくないと思います。

そもそも、抗がん剤をやめたからといってすぐにがんが悪化するものではありませんし、治療自体はなくなりませんよ。

編集者:標準治療は終わってしまうんですよね?

勝俣:積極的治療には限界があるということです。しかし、すでにお伝えしたように、緩和ケアも立派な標準治療です延命効果も実証されています

だから諦めないでほしいと思います。人生において、何が起きるかはわかりません。

しかも、がんの治療は日進月歩で進化しています。

逆転満塁ホームランを期待できる抗がん剤として、免疫チェックポイント阻害剤なども登場してきています。

保険適用になる新しい放射線治療なども出てきています。ですからがんの治療では「最善を期待して、最悪に備える」、これが何よりも大事なんですよ。

 

  

  [図表2]終末期に積極的治療を受けていた患者さんの割合出典:『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より抜粋
  出典:『がん患者白書2016』がん遺族200人の声「人生の最終段階における緩和ケア」調査結果報告書より

 

編集者:期待は持っていてもいいんですね。「がんサバイバー」という言葉があるくらいですから、たしかにそうですね。

勝俣:その言葉が広がっていること自体、「がん=死」ではないということの表れです。全国で500万人以上いらっしゃいます。

そのためには、むやみに「がんを克服する」とか、「がんに打ち勝つ」とか、マスコミが好んで使うような言葉に惑わされることなく、

がんとうまく付き合っていってほしいのです。

この感覚はとても大事だと思います。

編集者:そのために必要なことは何でしょうか?

勝俣:これは緩和ケアのところでもお話ししましたが、やはりご自身のQOLをいちばんに考えるということです。

がんがある、ないにかかわらず、生活の質や人生の質が上がることは、その人にとって幸せなことではないでしょうか。

がんの治療を諦めない、というより人生を諦めない、ということが大切と思います

人生を諦めないとは、自分が大切にしていること、好きなことを諦めないということです。

ですからステージ4でも、再発や転移があっても、どうかご自身の人生を大切にしてほしいと思います。
 

勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長

 ※「THE GOLD ONLINE」記事より転載

 


糖質はがん細胞のエサ? ② ー がん治療中は充分なエネルギー摂取が重要

2024-08-07 12:00:31 | 食養生

国立がん研究センター  「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」転用

 

がん治療中は十分なエネルギー摂取が重要

――がんの種類や進行の度合いは人それぞれですが、あえて食でがん患者が気をつけるとしたら、どんなことでしょうか。

大津 しっかりエネルギー(カロリー)を取って、痩せすぎないようにするのが最重要だと思います。

特にがんが進行すると、がん自体による食欲不振、治療も影響する吐き気や口内炎などによる食べにくさから摂取不足になるだけでなく、

食べたものを十分に取り込めなくなる代謝障害が起きます。

二重にエネルギーを摂取するのが難しくなるので、是が非でも総エネルギー量は死守してもらいたいのです。

糖質制限食は総エネルギー量を変えずに糖質を減らそうというものですが、脂質やタンパク質でカロリーを稼ぐのは案外難しくて、

結局は総エネルギーが減ってしまっているケースが多く、栄養摂取に二重の障害が起きているがん患者さんには危険です。

痩せて体力が落ちると、抗がん剤の副作用が強く出ることもあり、治療が続けられなくなってしまうこともあります。

 

――「免疫力アップ」ではなく、「体力キープ」が重要なのですね。

大津 そうです。抗がん剤の影響で味覚が変わって食欲が落ちた時などは、しっかりした味なら食べられることもあるので、

ファストフードやスナック菓子でも「おいしい」「食べられる」と思われたなら、遠慮せず食べて十分なエネルギーをとり、

体力をキープしていただきたいですね。

副作用や症状によって吐き気が強い時期には、食べ物のにおいが刺激になって温かい料理や肉類を受け付けなくなることもありますが、

においの少ない冷たいアイスクリームやゼリー、味のはっきりしているチョコレートなどは食べやすく、すばやくエネルギーを摂取できます。

糖質は、苦境の時ほど命綱にもなる大事なエネルギー源なのです。

コンビニやスーパーで手軽に買えるもの、運動時の栄養補給と謳われている栄養補助食品なども安心して活用してもらいたいと思います。

 

終末期にも味覚が変わることがよくあり、今まで好きだったものが食べられなくなって、これまで手を出さなかった食べ物にはまる人もいます。

ある肺がん末期の患者さんは、亡くなる前の2カ月くらいカップ麺にはまっておられました。

普通なら塩分や脂質が多いので控えた方がいいものですが、この患者さんは味覚が低下してほとんど食べられなくなっている時に、

カップ麺のはっきりした味やにおいに食欲をそそられたのでしょう。

嬉しそうに「おいしい、おいしい」と食べて、ご家族も「食べられるものがあって良かった」と見守っておられましたね。

一般的には健康に悪いとされているものでも、その患者さんのQOLを上げ、食事の量を最期まで保ってくれて、命を繋ぐものになることがあります。

 

「ストイック」ではなく、「ちやほや」しよう

――がんに罹患すると、インターネットで情報を探す人が多いですが、記事や体験談にはストイックな取り組みが多いなと感じます。

大津 確かに、がんの療養をしている患者さん本人も周りの人も、ストイックさを求める方が多い気がしますね。

発信される情報や体験記などは「こんなにがんばりました」「その成果で今がある」という心情もあるでしょうし、

「ストイックな闘病」はインパクトがあって、ウケもいいのでしょう。

しかし、実際には医学的な治療の効果も独自の取り組みも、行きつ戻りつで、良い状態になることもあれば、うまくいかないこともあります。

また経験談の多くは良くも悪くもバイアスがかかっていたり、抽出されたりしていることが多いものです。

いい部分やできそうなことは参考にして取り入れてもいいですが、試してだめだったら、手を引いても修正しても大丈夫ですし、

できない自分や患者さんを責めないようにして下さい。

 

――普段通りの食生活をし、甘いものを食べながら治療を受ける患者やサバイバーも多くいるわけですしね。

大津 標準治療を受けながら特別なことをせずに寛解に至ったサバイバーさんたちは多いはずですし、中にはギリギリのところから生還された人もおられるでしょう。

世間の目はそういった患者やサバイバーさんに対して「じゃあ、大したことなかったんだね」となりがちですが、

実際はそれぞれに苦労して、がんばって生きておられる人たちです。

ストイックな取り組みは「強く美しい療養や闘病」としてがんばっている、とても努力をしたという根拠にする表現なのかもしれません。

けれども、くれぐれも「ストイックな食生活で切り抜けた人がいるのだから、自分もそうせねば」と思い詰めないようにしていただきたいです。

がんに全集中して闘うんだ! となってしまう方は多いですが、長続きできる生活のほうがいいので、私はストイックでない方がいいと思います。

がんという病気を抱えながら生きている私はえらい、それだけですごいとご自分を褒めて、がんばれるように甘いものなど、

好きなものを食べてご自分をいたわって下さい。

 

――患者さんは、もっと自分をちやほやして治療に取り組まれた方がいいのですね。

大津 食事も生活ももっと大目に見て、心地よいことを優先する方がいいと思いますよ。もちろん、患者さんの時期や状態にもよるので、

医療者とよくコミュニケーションを取ってもらいたいです。

食事など生活を支える家族や関係者も、時間が許せば診察に付き添って、一緒に話を聞いてもらえたらと思います。

自分の感じることや疑問を伝え、共有することで、安心にもつながります。

 

治療は苦しまなければならないものではありません。緩和ケア医としては、つらいことはつらい、痛いものは痛いと言ってもらいたいです。

今は、ごく初期のがんでも治療に入ったばかりでも、患者さんが感じる苦痛はできるだけ取り除いて治療を続けようという時代です。

今はがんでない人も「がまんと忍耐は治療においては美徳ではない」と覚えておいていただきたいです。

 

          大津秀一:緩和医療医師・作家。早期緩和ケア大津秀一クリニック院長

 

(参考)
国立がん研究センター・がん情報サービス「食生活とがん」
https://ganjoho.jp/public/support/dietarylife/index.html

がん病態栄養専門管理栄養士
https://www.dietitian.or.jp/career/certifiedspecialist/cancer/

※ JBpress「明日の医療」より転載

 

 

 


糖質はがん細胞のエサ? ① ー 治療中に「食べていけないもの」はありません

2024-08-01 16:17:42 | 食養生

    国立がん研究センター  科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」転用

 

がんに罹患した時には治療を受けながらどんな生活を送ればいいのか、やってはいけないことは何だろうかと不安を抱えながら、

治癒に向けて少しでもプラスになることをしたいと思うものだ。

中でも食事は日常のことなので、何か効果的な食事療法があれば・・・と考える人は多い。

「肉をやめて玄米食にしたほうがいいですか」と聞かれたり、「糖分ががんを大きくするから食べさせたくない」と相談される。

「よかれと思って実践した食事療法が、かえって苦痛をもたらしたりQOL(生活の質)を下げたり、治療にマイナスの効果をもたらすこともあります」と

緩和ケア医の大津秀一氏は言う。では、どんなことに気をつければいいのか、多くのがん患者を診てきた大津氏に聞いた。

 

大津秀一(以下、大津) 肥満や糖尿病ががんに罹患するリスクになるという情報から飛躍して、糖質を筆頭に「悪そうなもの」を

制限すると考えがちになるのではないかと思います。

しかし、一般的に「健康的」とされる食事と、病気治療中の体に適している食事は必ずしも一致しません。

病気でない時は肥満にならないように糖質を控えるのはいいことですが、それががん治療にも同じようにプラスになるわけではないのです。

「糖質はがんのエサになる」という説はよく見聞きしますが、科学的な根拠はありません。

ワールブルグ効果やPET検査の仕組みを根拠にする人もいますが、誤解です。

きっとがん細胞が糖をパクパク食べるイメージがあるのでしょうが、現在のところ「糖がもっぱらがんの栄養となり、その進行を早める」とは

確認されておらず、糖質制限などの食事療法ががん治療にプラスになるという臨床的な効果も、まだ見つかっていません。

 
大津秀一:緩和医療医師・作家。早期緩和ケア大津秀一クリニック院長

 

体の中ではがん細胞だけでなく、正常な細胞も糖をエネルギー源としています。極端な糖質制限をすると正常な細胞も活動するエネルギーが足りなくなって、

補充のために筋肉をアミノ酸に分解して糖を作り出さなくてはならなくなります。

そうなると筋肉の量が減少し、痩せて体力を奪ってしまってがん治療にとっては逆効果になるかもしれず、慎重にするべきという論調が多いですね。

 

――実際のところ、すでに出来てしまったがんを大きくさせたり、悪化させたりする食べ物というのはあるのでしょうか。

大津 「これが経過を悪くする」というようなものは無いと考えて大丈夫です。

服用中の薬との相性は確認していただきたいですが、治療中に食べてはいけないものは基本的にありません。

そもそも、がんは特定の原因でできるものではないからです。ストレスや生活習慣が原因だと思っている方が多いのですが、

多様な原因が組み合わさったもので、食事ががんの発生や死の要因となる割合はかなり低いのです。

ですから、食べ物が原因で寿命が縮まるということもありえません。

おまんじゅうやケーキを食べた分だけ、がんが大きくなって寿命が縮まることはないのです。

むしろ、しっかりエネルギーを摂取し、おいしく食べてよい気分になった方が治療にもしっかり取り組めて、プラスになるでしょう。

 

――なぜか「治療のプラスになる食事」と言われるものは、糖質制限や菜食といったストイックなものになりがちな印象があります。

大津 多くのがん患者さんやそのご家族を診てきた中で、ストイックな考え方に傾倒してしまう時期というのは確かに見受けられます。

現場の感覚では、治療が順調な時はあまりそうならず、患者さんが痩せてきた、再発した、転移が広がったというような順調でない時に

起死回生の策として取り組まれる印象がありますね。怪しい治療やサプリメントに頼りたくなる時期でもあります。

しかし、状態がよくない時は体力が落ちていることが多いので、自己流の食事療法で状態の悪さに拍車をかけてしまい、

QOLを落とすだけでなく命にも影響しかねません。

一般的にも「免疫力がアップし、すべてが健康になる糖質制限」のような単純な図式が流行っていますが、

合う人合わない人がいるはずですし、患者さんにも個体差やがんの種類、進行の度合いなど違いがあります。

すべての病気が治るような真理は存在しないと受け止めつつ、ご自身に合っているのかを自己判断せずに、専門家に相談して下さい。

相談場所は今かかっている科だけでなく、緩和ケア外来や各がん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センター、

がん情報サービスサポートセンター(国立がん研究センターがん情報サービス)などもあります。

(参考)
国立がん研究センター・がん情報サービス「食生活とがん」
https://ganjoho.jp/public/support/dietarylife/index.html

がん病態栄養専門管理栄養士
https://www.dietitian.or.jp/career/certifiedspecialist/cancer/

 

※ JBpress「明日の医療」より転載

※ " ②ー がん治療中は充分なエネルギー摂取が重要 ” に続く