最近の小天体接近事件:2019年7月25日直径130mの小惑星2019OKが地球から7万2000km(月地球距離の1/5)を時速8万7000kmで通過した。ブラジルと米国の研究チームが気付いたのは通過の数日前で、このことは公表されなかった。衝突による大被害が想定される接近天体はcity killerとも呼ばれる。
DART2021:NASAの探査機DART(二重小惑星方向転換試験機Double Asteroid Redirection Test、550kg)が米国空軍バンデンバーグ基地から2021年11月24日に打ち上げられた。2022年9月末~10月初に二重小惑星ディディモス(径780m、地球から1100万km)の衛星ディモルフォス(径160m)へ秒速6.6kmで衝突する予定で、史上初の本格的惑星防御の実証試験である。衝突前にDARTから分離されるキューブサット、LICACube(リシアキューブ)を送り込んで近くから観察し、宇宙の山にアタックするところのデータと大衆受けするビデオを記録する。ディモルフォスの正確な質量、組成や内部の構造、DART衝突によるクレーターの形状などの情報は、後発のESAのHera探査機(欧州宇宙機関ESA制作、日本は熱赤外線カメラと科学検討で参加)で得る計画である。地上からの二重小惑星の輝度・レーダー記録から再現された天体画像は大小2天体が識別できる程度である。計画では公転周期変化は地上から捉える。
チェラビンスクの小惑星落下2013:現在6500万年前の恐竜絶滅原因は径10~15kmの天体衝突説が有力である。近年では、モスクワの東方1500km(ロシア・カザフスタン国境から100km)の人口110万都市で2013年2月15日に発生した小惑星落下事件がある。隕石落下分裂による史上初の衝撃波による大規模な人的被害(負傷1500人)の災害(TNT換算約500キロトン:NASA推定)であった。
地球近接小惑星:地球との衝突確率がゼロでないとされている天体リストは、例えば欧州宇宙機関のリスクリスト(https://neo.ssa.esa.int/risk-list)に、天体識別名、径、接近期間、衝突速度、衝突確率などが更新されている。現在表示されている近接天体数は1268個である。接近可能性のある天体の50%程度が把握されていると見なされる。径140m以上の小惑星の今後100年以内地球衝突はないと今のところはされている。
衝突天体の軌道変更方法:短時間型:小惑星衝突機(Kinetic Impactor; KI)のような短時間作用タイプと、長時間型:衝突前に「キーホール」(鍵穴)という地球近接空間の特別な領域を接近天体が通過すると次の最接近時に衝突確率が増大することが分かっているので、天体に時間を掛けて力を作用させるタイプが考えられる。
長時間型天体軌道変更技術:重力トラクタ、例えば,衝突の20年前に発見された直径200 mの小惑星を重力トラクタによって回避する場合に牽引の期間を小惑星の発見直後から1年間とした場合,必要な宇宙機の質量は約20トンと見積もられる( Lu E. T. et al. 2005, Nature 438, 177)そうである。そのほか、小天体から岩片を発出させるマスドライバー、イオンビームを小天体に照射するイオンビームシェパードや、核爆発利用などを山口(京大)が天文月報2017年2月号に概説している。
我が国の現状:我が国では、日本スペースガード協会が活動を行っているほか,JAXA(宇宙航空研究開発機構)でNEOに関する国際対応を行っている。我が国は世界に先駆けた小惑星への接近・サンプルリターンで、はやぶさ・はやぶさ2の実績を誇る。東京大学木曽観測所の口径1mシュミット望遠鏡と最新観測装置トモエゴゼンの連携で星空の動画解析を行って急速移動する天体を監視している。進行中の技術開発には、DARTのような直接的な大規模技術対応は行われていない現状である。DART発射を機に現状を調べた。