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終末期の処置で迷い 「今、即答できない」・・・家族の迷い

2016年09月07日 | ニュース(介護)
終末期の処置で迷い 「今、即答できない」 「私たちの最期は」「認知症に寄り添って」
2016年9月7日 (水)配信共同通信社

 千葉県松戸市の有料老人ホームの自室で後藤美枝子(ごとう・みえこ)(仮名)は2015年1月、95歳の誕生日を迎えた。入居から8年余り。認知症が進んだ美枝子は、一人息子の武史(たけふみ)(64)=仮名=のほかに家族の記憶は既になく、一緒に見舞いに訪れる武史の妻(61)が誰かも認識できないようだった。食欲も落ちる一方だ。

 職員による食事介助を拒み、水分も特定の容器に入った飲み物以外は受け付けない。「毒が入っていると思っているのではないか」。武史は美枝子の気持ちを解きほぐそうと、持参したイチゴやまんじゅうを「試食」してみせる。美枝子は、武史が食べているのを見て安心し、ようやく食べ物や飲み物に手を伸ばす。

 しかし、お菓子やジュースだけでは、生命を維持するのに必要な食事量や水分にはほど遠い。15年秋、ホームの主治医は脱水予防のため点滴を始めた。武史と妻は今後の医療的処置について医師からの説明を聞くため、ホームを訪ねた。

 課題は二つあった。

 一つ目は不足しがちな栄養をどう補うか。現実的な選択肢は腹部に穴を開け、チューブを通して胃に栄養剤を流し込む「胃ろう」だったが、武史の考えは決まっていた。

 体に穴を開ける手術は、95歳の母にとっては負担が大きいのではないか。美枝子はわずかながらも「食への欲求」は残っている。適切な栄養が安定的に体内に供給されることで、かえって母から「自ら生きようとする力」を奪ってしまうかもしれない。武史は主治医に「胃ろうは希望しません」と伝えた。

 二つ目の課題は、水分を送る点滴が血管に入らなくなった場合に「自然な成り行きに任せるかどうか」だ。美枝子の血管はもともと細い上に、高齢で相当傷んでいる。口から一切食べず、点滴での水分補給をしなければ、一般的には1週間程度で亡くなるとされる。

 「今、即答できません」。答えながら、武史は思った。「もう駄目かもしれない」と医師や看護師に言われながらも、そのたびに母は回復してきた。「おふくろは、また食べられるようになるんじゃないか」。そう信じる武史にとって、全ての医療的処置をあきらめる決断を下し、息子である自分が母の人生にピリオドを打つというのは、考えられないことだった。(敬称略)