特養に「お帰り」 家庭の延長でみとる 「私たちの最期は」「旅立ちの介護」
2017年2月27日 (月)配信共同通信社
春の陽光が差し込む4階の個室ベッドに、栗川治子(くりかわ・はるこ)=当時(94)、仮名=を寝かせた。3日前、肺炎で入院したが、帰って来られることになった。ただし、みとりのための「帰宅」だ。
2016年4月初旬、福岡県飯塚市の特別養護老人ホーム(特養)「天空の杜(もり)」。職員で准看護師の押川政子(おしかわ・まさこ)(56)は「お帰り」と声を掛けた。
病院では眉間にしわを寄せていた治子が満面の笑みを返す。「良かった。やっぱりここに帰りたかったんだ」と押川。「命は救えない。けれど『救えた』」と感じた。
体のまひや軽い認知症で要介護5の治子は、この特養に入って7年目。体調不良で受診した病院で、のみ込む力が衰えたことによる誤嚥性(ごえんせい)肺炎と診断された。医師は付き添いの家族に対し、今後も再発を繰り返す恐れがあるため、口からの食事はやめて鼻から栄養を送るチューブを通し、みとりも想定に入れた入院を提案した。
だが、治子は慣れない環境に「違う。違う」と訴えた。同行していた押川は「帰りましょうか。うちはみとりもできますよ」とその場で家族の背中を押した。症状が安定したらすぐ退院し、なじみの職員や入居者がいる場所で最期を迎える計画が動きだした。亡くなる約1カ月前のことだ。
天空の杜のような特養は、介護の必要性が高い人に食事や排せつ、入浴などの介助を提供する施設。全国に約9700カ所あり、利用料も比較的安く「ついのすみか」として期待される。
だが全国の特養を退居する人のうち、特養での死亡は47%。残りは病院での死亡や、入院への移行が多い。みとり期の人をケアする特養は増えているが、必ずしも亡くなるまで引き受けてくれるとは限らない。十分な対応ができず病院へ搬送する場合も少なくない。
みとりに取り組む上で特養が抱える課題の一つは、病院に比べ医師や看護師の配置が手薄なことだ。天空の杜も24時間態勢の医療提供はできない。それでも定員70人で年15人程度の臨終に立ち会う。開設当初から勤める生活相談員の種延孝治(たねのぶ・こうじ)(44)は言う。「医師がいないのは家庭と一緒。うちのみとりは『おうち』の延長」(敬称略)
× ×
多死社会で介護現場の役割は大きくなる。高齢者の終末期を支える特養やサービス付き高齢者向け住宅の実践を見つめる。
2017年2月27日 (月)配信共同通信社
春の陽光が差し込む4階の個室ベッドに、栗川治子(くりかわ・はるこ)=当時(94)、仮名=を寝かせた。3日前、肺炎で入院したが、帰って来られることになった。ただし、みとりのための「帰宅」だ。
2016年4月初旬、福岡県飯塚市の特別養護老人ホーム(特養)「天空の杜(もり)」。職員で准看護師の押川政子(おしかわ・まさこ)(56)は「お帰り」と声を掛けた。
病院では眉間にしわを寄せていた治子が満面の笑みを返す。「良かった。やっぱりここに帰りたかったんだ」と押川。「命は救えない。けれど『救えた』」と感じた。
体のまひや軽い認知症で要介護5の治子は、この特養に入って7年目。体調不良で受診した病院で、のみ込む力が衰えたことによる誤嚥性(ごえんせい)肺炎と診断された。医師は付き添いの家族に対し、今後も再発を繰り返す恐れがあるため、口からの食事はやめて鼻から栄養を送るチューブを通し、みとりも想定に入れた入院を提案した。
だが、治子は慣れない環境に「違う。違う」と訴えた。同行していた押川は「帰りましょうか。うちはみとりもできますよ」とその場で家族の背中を押した。症状が安定したらすぐ退院し、なじみの職員や入居者がいる場所で最期を迎える計画が動きだした。亡くなる約1カ月前のことだ。
天空の杜のような特養は、介護の必要性が高い人に食事や排せつ、入浴などの介助を提供する施設。全国に約9700カ所あり、利用料も比較的安く「ついのすみか」として期待される。
だが全国の特養を退居する人のうち、特養での死亡は47%。残りは病院での死亡や、入院への移行が多い。みとり期の人をケアする特養は増えているが、必ずしも亡くなるまで引き受けてくれるとは限らない。十分な対応ができず病院へ搬送する場合も少なくない。
みとりに取り組む上で特養が抱える課題の一つは、病院に比べ医師や看護師の配置が手薄なことだ。天空の杜も24時間態勢の医療提供はできない。それでも定員70人で年15人程度の臨終に立ち会う。開設当初から勤める生活相談員の種延孝治(たねのぶ・こうじ)(44)は言う。「医師がいないのは家庭と一緒。うちのみとりは『おうち』の延長」(敬称略)
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多死社会で介護現場の役割は大きくなる。高齢者の終末期を支える特養やサービス付き高齢者向け住宅の実践を見つめる。