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鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる』許成準・彩図社

2014年06月28日 | 社会・経済
 高校のときの先生に「社会に出て働くのならマルクスの『資本論』を読んでおいたほうがいいよ」と言われてはやン十年。いまだに読めていない。


 だってさー、『資本論』といえばドイツ語の原文で2600ページにもなる大作の論文で、しかも数式やらを使って科学的に資本主義社会の仕組みを著してるんでしょ? 岩波文庫版でも九巻にも及ぶ大作で、しかもそれだけじゃない。第一部はマルクス(あのお腹をこわしたライオンみたいな顔のおっさん)自身が著し、二部と三部は友人のエンゲルスさんだっけかが書き、さらには別のひとの別タイトル(著作権の都合らしい)で第四部も刊行されているわけでして、もうさ、一体どれだけの量があるのよ? もうすごすぎて手がつけられないじゃないっすか。ねぇ?


 そんなわけで本書。


超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる価格:¥ 1,296(税込)発売日:2014-06-16
『資本論』は我々を取り巻く世界、つまり資本主義社会の構造を解き明かした本だ。筆者は「社会主義者」や「共産主義者」という言葉は聞いたことがあるが、「資本主義者」と名乗る人に会ったことがない。それだけ我々は、自分を取り巻くシステムを意識することなく生活している。これはまるで、水の中に住んでいる魚のようだ。魚は水について理解していなくても、問題なく生きていけるかもしれない。しかし、水がどこから来るのか、水が汚染されているとしたら、その原因は何かを理解していれば、いざという時にどうすれば生き残れるのか、もっと良い水の中で生きるためにはどうすれば良いのか、対策を立てることができる。
 とかく「共産主義の本だ」とか「革命のバイブル」とかいわれがちな『資本論』だけれど、そんなことはぜんぜんない。 実際の『資本論』は、「資本主義とはどういう仕組みで動いているのか」を科学的に解明した本なんだ。


 本書『超訳 資本論』は、難解な『資本論』の要所を抜き出して見開き二ページでわかりやすく解説してくれる。
 見開きは右ページにマルクスの『資本論』からの超訳を載せ、左ページにはその超訳への解説を載せるつくりだ。

 ためしに一項目を引用してみる。
 まずは見開き右ページに『資本論』より超訳。
労働の結果は資本家のもの【第1巻7章1節】労働の結果は、それを生産した労働者ではなく、資本家の所有になる。労働者が職場に入ってから、彼の労働力の使用価値は資本家の所有になる。従って、彼の労働力の使用、つまり労働は資本家の所有になる。資本家の観点からは、労働のプロセスはただ、彼が買った商品、つまり労働力と原材料の相互作用に過ぎない。まるで酵母がブドウを発酵させてワインを作るように、資本家が買った物同士の相互作用で商品は作られる。そして、資本家の所有物になる
 これをふまえ、左ページで有名ゲーム『パックマン』の例をあげて解説をする。

『パックマン』は誰でも知っているだろう。実際、もっとも成功したゲームとしてギネスブックにも載っている。しかし開発者の岩谷徹氏は売上げに対する報酬をもらっていないと発言している。
 なぜか。
 これは彼が雇用契約を結んだ労働者だったからだ。


 僕なんかこの解説を読みながら思わず「なんでやねん」とつぶやいてしまったのだけれど、資本主義の本質とはまさにこれなんだそうだ。

 資本家は労働者の「労働力」を給料として買ったわけで、労働の結果を買ったわけじゃない。だから「労働力ぶんの給料」を払えばそれで良い。
 そりゃ世界的ヒットをしたんだからポンとボーナスくらいあげてもいいだろうと思う。思うけれどそれは道義上の問題であってべつに義務じゃない。

 もしも岩谷氏が『パックマン』の報酬をもらおうと思ったら、会社に勤めず??つまり労働契約を結ばず??最初から自分ひとりで開発していればよかった。ならすべての売上げは岩谷氏のものだっただろう。
 でも『パックマン』を開発するためには機材や施設、人脈や人的資源やノウハウの蓄積なんかも必要だったろうし、いざ売るとなると広告も必要だし小売店への流通網も必要になる。そこまで考えて一人で同じ結果が出せたかというと、正直って無理だったはずだ。

 ……なんか考えれば考えるほど僕ら悲しきプロレタリアは資本家と契約をするしか道はないわけで……はぁ。


『超訳 資本論』ではこのあとも、資本主義の実際をズバズバ教えてくれる。

 あなたは、時給や月給のほんとうのところを知っているだろうか?
 サービス残業をしなくても、つねに仕事量よりも安く給料を支払われていることを知っているだろうか?
 ぶっちゃけていうなら、いままさに合法的に搾取されていることを知っているだろうか?

 きちんと理解した上で雇用契約を結ぶのならばそれでいい。
 そこは僕たちも大人だもんね。メリットとデメリットを秤にかけて生きていけれるだけのお給料が手に入るのならそれでいい。


 でも。
 知らないでいると、資本主義って本当に怖いものなんだよ。

 僕は本書を読めば読むほど「すごい社会に住んでるんだな、僕たちは」と思ってぞっとした。


 このマルクスの『資本論』をきっかけにして、この怖い資本主義の代替案として共産主義が生まれて運用されたけれど失敗したのは歴史が示すとおりだ。
 本書を読んだいまなら、共産主義が目指した「資本主義はこのままじゃ駄目だ。なにかほかの案を!」という気持ちはよくわかるなぁ。


 本書でもうちょっと勉強してみたら本家の『資本論』に挑戦してみようかな?



 とても読みやすいのでぜひご一読あれ。


超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる価格:¥ 1,296(税込)発売日:2014-06-16


追伸:
「どこかで見たようなつくりだな」と思ったら、以前に紹介した『超訳 アランの幸福論』と同じ作者&出版社だった。
 なるほどね。どうりでわかりやすいはずだ。

 アランの幸福論はこっち。
超訳 アランの幸福論超訳 アランの幸福論価格:¥ 1,296(税込)発売日:2013-06-26

もくじ
はじめに

1章 そもそも富とは何なのか?
商品は富の基本単位
商品の2つの側面
商品の使用価値と交換価値
商品の交換価値はどう決める?
抽象的労働とは
商品に含まれる労働

【豆知識】現代のお金とは何か?

2章 価値の交換がお金を動かす
労働の量を測るには
労働と使用価値と交換価値の関係
価値を生み出す有用労働商品生産は分業で行なう
違う種類の労働商品の価値
物神崇拝交換と貨幣貨幣の役割

【豆知識】お金はどこから来るか

3章 資本、それはお金を稼ぐお金
資本とは?
流通の目的と原動力増えていく
資本工業も商業と同じ
流通は価値を生まない

【豆知識】『資本論』は経済学か

4章 労働力は労働者が売る商品である
労働という商品
商品としての労働
1商品としての労働
2労働力の価値労働力と労働

【豆知識】主流経済学とマルクス経済学

5章 資本主義システムでの労働の構造

労働と道具
結果であり製品でもある原材料
資本家の目的は剰余価値
コットンから糸を生産する事例
1日の労働労働が持つ2つの性質剰余価値
在庫管理も生産活動の一部
運送も生産活動の一部

【豆知識】資本主義システム下の労働

6章 人はどうして資本の奴隷になるか
不変資本と可変資本
剰余価値率
剰余労働と必要労働と資本蓄積
協業の仕組み
部分労働
分業と隷属
労働者の役割は剰余価値の生産
社会の剰余価値
可変資本の循環を社会的に考察する

【豆知識】個人の隷属は社会の利益

7章 なぜ人は金持ちになれないのか

労働の結果は資本家のもの
賃金
1 労働力に対する報酬賃金
2 有給労働と無給
労働
時間
賃金
出来高
賃金
無給
労働による資本の蓄積所有と労働の分離

【豆知識】誰かは必ず失敗する理由

8章 技術の発達が人を幸せにしない理由
生産性の向上と価値の下落
絶対的剰余価値と相対的剰余価値
資本家と機械労働力と剰余価値
相対的過剰人口または産業予備軍
資本の蓄積は悲劇の蓄積

【豆知識】21世紀を支配するのは技術ではなくお金

9章 資本が雪だるま式に増える理由
現在の資本は過去の労働蓄積による
労働生産性の増大
資本の大規模の集中
資本家の競争と資本の集中
最初に蓄積された資本の謎
イギリスの最初の蓄積利潤率の低下と大規模資本

【豆知識】企業間の分業と巨大資本の登場

10章 資本が巨大になるメカニズム
単純再生産
2つの消費
個人的消費労働者は自ら資本に繋がれる
資本の蓄積
貨幣資本の循環
生産資本の循環

【豆知識】資本主義の暴走と弁証法

11章 資本主義は恐慌から逃れられない
競争と信用制度
生産部門によって生じる乖離
生活必需品と贅沢品
恐慌
資本主義的生産の動機は蓄積
恐慌は矛盾に対する回答
資本の障壁は資本それ自体
資本主義的生産の限界金融

おわりに


超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる価格:¥ 1,296(税込)発売日:2014-06-16


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