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海外報道紹介☆英国における二大政党制の終焉の意味するもの(上)

2010年05月17日 13時20分27秒 | 英字新聞と英語の雑誌から(~2010年)

 


先日、2010年5月6日に行われた英国の総選挙の結果、第一次世界大戦前後のロイド・ジョージ内閣、大恐慌前後のマクドナルドの挙国一致内閣、そして、これまた第二次世界大戦前後のチャーチルの挙国一致内閣等、英国の政治史においては極めて例外的な「連立政権」が誕生しました。本稿はこの歴史的事態を伝えるTimes の第一報の紹介です。

英国における、しかも、平時における連立政権の成立は真に画期的事態です。1707年のイングランドとスコットランドを統合する「連合法:Acts of Union」の制定・批准に伴い「英国:the United Kingdom」で「議院内閣制:Parliamentary System」が成立して303年。また、「首相は下院に対して責任を負う=下院の支持を失えば辞任する」という議院内閣制の最初の運用例。すなわち、実質的な英国の初代首相・ロバート・ウォルポールが、総選挙の敗北の結果、国王ジョージ2世の慰留にもかかわらず1742年に首相(第一大蔵卿)を辞任した先例からでも268年。日本で言えば、それぞれ徳川5代将軍綱吉公と8代将軍吉宗公の時代以来、上で述べた僅かの例を除けば連立政権は彼の地では見られなかったのですから。    

また、今回の総選挙ではここ数回の総選挙で見られていた傾向、すなわち、所謂「二大政党制:Two-Party System」の終焉の傾向、要は、継続的に第三極が国民・有権者の20%を越える支持を獲得する状況が完全に定着した観があります。蓋し、

過去に第一党が「下院:House of Commons」の過半数を単独で占めることができなかった事例は、上に述べた連立政権や挙国一致内閣の幾つかを含め、第二次世界大戦後でも、前回のハング・パラメント(hung parliament)の際、すなわち、1974年の2月の総選挙と10月の総選挙の間の第2次ウィルソン内閣の事例がありますが、第三極が二つの大政党(the two large parties)に支持率で継続的に迫る事態は、過去に、当時の二大政党の一翼を担っていた自由党(the Whigs)が労働党にその座を奪われた1920年代以来の出来事なのです。

けれども、逆の意味ではこの事態は歴史的必然とも言えましょう。畢竟、2010年、今回の選挙結果は(候補者の一人が選挙期間中に死亡して選挙が延期された1選挙区を除き、確定総議席649議席中)、保守党306、労働党258、自由民主党57であり、得票率は、保守党36%、労働党29%、自由民主党が23%でした。而して、自由民主党は前回2005年の総選挙では得票率22.1%で議席数は62。また、1988年のその正式合併以前、旧自由党と旧社会民主党が実質的に連合して総選挙に始めて臨んだ1983年には、大量の死票に埋もれて議席数こそ23に止まりましたが、叩き出したその得票率25.4%は労働党の27.6%に迫るものでした。よって、ある意味、得票率の面では英国は四半世紀前から三大政党制の国になっていたと言っても満更間違いではないのです。   

ことほど左様に、而して、今回は1920年代とは異なり、保守党(the Toryies)も労働党(Labour Party)も自由民主党(Liberal Democrats:Lib Dems)も各々少なくとも20%以上の国民・有権者の支持を保持しており、三政党のいずれも、例えば、我が国の社民党の如き泡沫政党の馬群に沈む気配は見られず、今般の「キャメロン首相-クレッグ副首相」の保守・自民連立政権の成立は英国における二大政党制の終わりの始まりと言えるの、鴨。


畢竟、1989年-1991年、社会主義が崩壊する随分前から、社会主義と資本主義の両体制が漸次接近する「収斂化」が見られるという考え方(Convergence Theory)がありました。蓋し、これは生産手段の私有を認めるかどうか、その裏面としての計画経済を放棄するか否か、あるいは、経済の計画と一党独裁的な前衛党を担う中央集権的官僚の存在を認めるかどうかとい<漸近線>を跨ぐことはなかったとしても(だからこそ、結局、政治以外の面では社会主義を放棄した支那を除けば、ほとんどの社会主義諸国は崩壊したのでしょうから)、この「収斂理論:Convergence Theory」は、昭和金融恐慌と大恐慌以来の、就中、1973年オイルショック以降の財政と金融のマクロ経済政策、すなわち、ケインズ政策を採用した資本主義諸国と社会主義諸国の比較においてはかなり成功したモデルではないかと思います。

ならば、グローバル化の昂進著しい、大衆民主主義下の福祉国家を与件とするとき、保守政党であろうとリベラル政党であろうと左翼政党であろうと、実は、その政党がキルヒマンの言う意味での「包括政党」、すなわち、国民全体の利害を代表する国民政党を目指す限り(パラドキシカルですが、現実の選挙においては国民・有権者の一部(part)の支持を受けたにすぎない政党(party)が、国民を代表して国家権力を行使するということは、建前にせよその政党は「包括政党」であることを自任しているということでしょう)、どの政党の政策も「収斂化」せざるを得なくなる。要は、所定・定番の行政サーヴィスの遂行に政権のほとんどの能力を割かざるを得なくなる。よって、国の安全保障、そして、伝統と慣習を顕揚涵養することによる国民統合・社会統合の重要さを知らない我が国の民主党政権のような「悲劇的-喜劇的」例外は置いておくとしても、今回、英国で保守党と自民党の連立政権が誕生したことは単なる権力の甘い汁の分け前に与ろうとする不埒な野合ではない、繰り返しになりますが、英国政治史の必然でさえあるの、鴨。

保守主義の立場に立つ者として、個別日本の現下の政治状況において連立政権が、よって、比例代表制や中選挙区の選挙制度が好ましいとは必ずしも私は考えていませんが、英国に関してはそう言えると思います。尚、私の考える保守主義の意味については下記拙稿をご一読いただければ嬉しいです。

・保守主義の再定義(上)(下)
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11145893374.html

 





以下、Timesの記事を紹介します。出典は、”Nick Clegg and David Cameron hail “seismic shift” in British politics” 「英国政界に「地震級の変革」を投げかけるニック・クレッグとデビッド・キャメロンの両氏」(May 12, 2010)。但し、記事を紹介する前にもう一つ注意を喚起しておきたいことがある。それは、英国では(と言いますかその事情はアメリカでも同じなのですが)、有力なマスメディアは自社が支持する政党を明言しているということです。このことを確認するために国内報道を一つ引用しておきます。


◎英総選挙:有力2紙 労働党支持からくら替え

英国の有力な全国紙であるタイムズとガーディアンの両紙は1日付の社説で総選挙の支持政党を打ち出し、ともに従来の労働党支持を転換した。伝統的に労働党を支持してきたガーディアン紙は第3党の自由民主党にくら替えし、タイムズ紙は18年ぶりに保守党支持へ回った。厳しい戦いを強いられているブラウン首相の労働党にはさらなる打撃となる。

タイムズ紙は、英国は「歴史的に極めて困難な時」にあると指摘。財政再建より景気回復を優先するブラウン首相を「危険」だと批判する一方、保守党のキャメロン党首は「財政再建への一貫した意思を示している」と評価し、「再び保守党に投票する時がきた」と結論付けている。

(毎日新聞・2010年5月1日)    



米国メディアは、例えば、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが民主党のオバマ候補の支持を表明する等、毎回、大統領選挙や中間選挙の際には社説を通じて自社の支持政党と支持する大統領候補者を明らかにしています。これを鑑みるに、政治的にも論理的にも不可能な「不偏不党-公平中立」などという、而して、誰も信用しないお題目を唱え続けている日本のマスメディアと欧米のマスメディアとではその健全さ真摯さ誠実さの点で遥かに欧米のそれが優っている。上に述べた支持政党の表明はこのことの証左ではないでしょうか。蓋し、「権力の監視がマスメディアの使命」であるとしても、その使命と「ある政権の施策をあるマスメディアが支持すること」とは両立すると私は考えます。尚、このイシューに関しては下記拙稿を参照いただければ嬉しいです。

・マスメディアと政治の適正な関係を実現するための覚書
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/7bf02431711271a19128e803676a585e






Britain had its first taste of coalition government for 65 years today when David Cameron and Nick Clegg took to the garden of 10 Downing Street to seal their unlikely union in the full glare of the television cameras.

The two men broke off from the work of naming the first Lib-Con Cabinet for a joint press conference to present what Mr Cameron called an “historic and seismic shift” in the political landscape.

“It will be an administration united behind three key principles: freedom, fairness and responsibility,” he said. “And it will be an administration united behind one key purpose and that is to give our country the strong and stable and determined leadership that we need for the long term.”


英国は65年ぶりに連立政権を経験する。デビッド・キャメロンとニック・クレッグの両氏がTVカメラの放列の中、世の想像を絶する連合政権の締結を公に確認すべくダウニング街10番地の【首相官邸の】裏庭に歩みだした時に連立政権は現実のものとなったのだ。

両党首は、史上初めてとなる自民党と保守党の連立内閣の組閣作業を中断して合同記者会見に臨んだ。而して、キャメロン氏が語ったことは彼が政治の世界における「歴史的かつ地震級の変革」と呼ぶ事柄だった。

「我々が作る政権は三つの鍵となる原則を前提にする連立政権です。その原則とは自由・公正・責任に他なりません」と。キャメロン氏は述べた。「そして、我々が作る政権は一つの重要な目的を希求するために形成された連立政権なのです。その目的とは、すなわち、我々が長らく希求してきた、強く安定した、かつ、決断のできる指導力を我が国に与えることなのです」とも。    



As the two men spoke, a seven-page document was published spelling out the exact terms of the coalition — and laying out the legislative platform in extraordinary detail.

The agreement includes an emergency Budget in 50 days that will begin a ”significantly accelerated reduction” in the structural deficit and take the first steps towards the key Lib Dem policy of raising the minimum tax income threshold to £10,000.

The two parties agreed that the tax plan should take priority over other tax cuts, including cuts to inheritance tax. Lib Dem MPs will also be allowed to abstain on Tory plans to introduce new tax allowances for married couples.

There are detailed plans for banking reform, including tackling “unacceptable” City bonuses, which will be handed to Vince Cable. An independent commission will be set up to examine the separation of retail banking operations from high risk investment banking.


保守・自民の両党首の合同記者会見では、この連立政権の詳細な指針を明確な言葉で、すなわち、尋常ならざる詳しさで連立政権が希求する立法政策の枠組みと段取りを記した7頁の文書が公表された。

この連立協定には、構造的な財政赤字の「抜本的解消を加速する」ための嚆矢となる緊急予算の50日以内の制定、そして、自由民主党の政策の目玉である所得税課税最低限の10,000ポンドへの引き上げを睨んだ最初の施策が含まれている。

両党はこれらの税制改革が相続税引き下げ等の他の減税策に優先して実行されるべきことも合意した。他方、自民党の国会議員は、保守党が計画している婚姻関係にある男女の所帯への減税措置に棄権・反対の立場を取ることができることも了承された。

銀行業界の改革に関しても詳細に亘る協定が結ばれた。ロンドンの金融セクターの「とほうもない」役員報酬も見直しの対象に含まれることになり、これらの施策はビンス・ケーブル氏【自民党】の手腕に委ねられる。更に、リテールバンキングとハイリスクハイリターンの投資の分離【銀行と証券会社の棲み分け】を検討する【政府と各業界から】独立した委員会が設置されることになる。   

【連立政権の主な経済政策】
・今後5年間で財政赤字削減を加速させる
・今年度の歳出を60億ポンド削減
・2011年4月から所得税課税最低限の引き上げ
・株式譲渡収益課税の拡大強化
・新たな銀行課税導入
・中央銀行による金融機関の監督権限の復活
・年金受給年齢の引き上げ    






The most radical measures, however, are on political reform and will come directly under Mr Clegg’s portfolio as Deputy Prime Minister.

The plan provides for five-year fixed term parliaments to be introduced via primary legislation in the first days of the new Parliament — which means that the next election would be on the first Thursday in May, 2015, unless 55 per cent of MPs vote for dissolution before then.

The parties will also bring forward a referendum on the introduction of the Alternative Vote system, although the Conservatives will be able to campaign against it before the popular vote.

There will also be legislation allowing voters to “recall” MPs and force a by-election where an MP is found to have engaged in serious wrongdoing. There are also plans to bring forward an elected House of Lords, using proportional representation.


連立政権の最も劇的な施策は、しかし、なんと言っても政治改革の分野だ。而して、この領域は副首相としてのクレッグ氏の管轄下に配されることになる。

連立の協定では、新しい国会の初日にいの一番に法律を制定することで5年間の固定した国会の存在を法律で定めることになっている。すなわち、それ以前に下院議員の55%が解散を求めない限り、次の総選挙は2015年5月の第一木曜日【2015年5月7日】に行なわれるということだ。

連立与党を形成する両党は、また、現行の制度に替わる新しい選挙制度の導入の是非を問う国民投票を下院に提案することになる。しかし、保守党議員はこの国民投票に反対する権利が連立協定によって認められている。

而して、【民主党の小澤一郎幹事長の如き】極めて不埒な悪行三昧に耽っていることが明るみに出た下院議員を「失職させる」かどうか、補充選挙を実施するかどうかを有権者の判断に委ねる制度もまた導入される見込みである。更に、比例代表制に基づく選挙によって貴族院【House of Lords】を構成する施策も連立与党は提案することになる。    






<続く>





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